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相続紛争予防の急所

相続紛争の予防と解決マニュアル

第2

相続紛争の予防と解決の急所

集合写真
1

相続紛争予防の急所

(1)

相続紛争の実情と原因

(イ)
相続紛争の実情
第二次世界大戦後、 新民法により家督相続制度が廃止され、 配偶者相続権と諸子 均分相続の制度が発足しました。これにより、 相続においては共同相続制が原則と なったわけです。
昭和 30 年代以降、 我国経済の高度成長のもと、 日本社会は都市化、 産業化が急 激に進み、 家族生活においても核家族化が顕著となりました。 これに加えて、 大都 市及び大都市周辺地域の地価は高騰し、 国民の権利意識も急速に高まりました。
このような状況の中で、 近年、 遺産に関する紛争が増加し、 家庭裁判所における 遺産分割事件、 地方裁判所における相続関係訴訟事件数も増加して来ました。
さらに、 昭和55年1月1日から施行された 「民法及び家事審判法の一部改正」 に より、 いくつかの改正がなされました。 例えば、 配偶者の相続分の引き上げ、 代襲 相続人の範囲の制限、 寄与分制度の創設、 審判前の保全処分への執行力付与などで す。 これらの改正は、 相続に関する法律をより実情に沿うものとしようとするもの ですが、 一面、 これにより、 相続に関する紛争の火種が増える結果となっています。 加えて、 高齢化社会を迎え、 自筆証書、 公正証書による遺言書作成のケースが増 えており、 次第に欧米に近似した遺言慣行が広まりつつあります。 これに伴い、 遺 言の効力、 遺言の解釈、 遺言の執行、 遺留分侵害額請求をめぐる紛争も多くなって きています。
(ロ)
相続紛争の原因
(a)
均等相続制度と実態とのギャップ
現行の相続制度は、 共同相続制を基本としています。 したがって、 複数の相続 人が登場するというのが通常の事態であり、 しかも同順位の共同相続人は、 基本 的には均等の相続分を有するという建前となっています。
したがって、 例えば、 長男も他の兄弟姉妹も同じく被相続人の子であり平等に 扱われます。 しかし、 被相続人世代の意識では、 長子相続の意識が根強く残って おり、 長男が父親の生前、 父親から何度も 「お前は長男だから自分の亡くなったときは、 この家はお前のものだ」 とか 「お前には大変な苦労をかけたから、 この 家を相続してもらう」 などと言われていることがよくあります。 しかしその場合 でも、 そのことが正式な遺言書に書いてない限りは、 父親の言葉には法的な効力 はありません。
この場合、 法的には、 父親の言葉や意思に反し、 兄弟姉妹の相続分は均等とな ってしまいます。 このように、 関係当事者の意思や経過事情が、 法律上、 当然に は相続分に反映されないという事態が生じます。 これが相続紛争の原因の一つで あると言えます。
(b)
戸籍制度と実態とのギャップ
相続が起こった場合に、 誰が法定相続人になるかは、 相続発生時点における戸籍の記載で決まります。
そのこと自体は、 法的画一性、 法的安定性の観点からは望ましいことであり、むしろ当然のことと言えますが、 少し異常な事態が加わると、 この当然のことが 紛争の原因となってきます。
例えば、 当事者に無断で養子縁組届がなされた場合、 真の親子でないのに戸籍 上親子となっている場合等、 「異常な事態」 は、 必ずしも少なくありません。 こ のような戸籍の記載と実態とのギャップは、 相続が発生しますと、 相続人たる地 位の有無をめぐる紛争という形で一挙に噴出してきます。
(c)
相続財産の不明瞭
例えば、 被相続人が、 生前、 自己の財産(特に無記名債券や現金等)の内容を誰にも教えなかった場合は、 いざ相続が発生しますと、 相続人は相続財産の内容が 判りませんので、 自分たちで調査しなければなりません。 しかし、 調査そのもの が困難ですし、 仮に一人の相続人による調査の結果、 一応相続財産が判明しても、 他の相続人がそれで十分であるとは納得しない場合があります。
このように、 相続財産の全容を完全に把握することは、 実は大変困難なことで あり、 このことが相続紛争の大きな原因となっているケースが多いといえます。
さらに、 相続発生当時、 ある特定の相続人名義の不動産や預金がある場合に、 それが本当にその名義人の所有物なのか、 それとも実際には相続財産であるのか ということが争点となるケースもあります。
(2)

遺言

被相続人が法律上有効な遺言書を作成しないまま死亡し、 様々な遺産を残した場合、民法で定まっている法定相続人が一つ一つの遺産につき共有持分を有している状態、 す なわち 「遺産共有状態」 が出現します。 この状態は、 基本的には、 相続人全員による遺 産分割協議が成立しない限り解消されません。 それまでは、 相続人全員の合意がない限 り、 事実上遺産の一部を処分できませんし、 個々の遺産についての最終的な権利の帰属 が決まらないという大変厄介な状態が続くわけです。
これに対し、 被相続人が生前に適式に遺言書を作成しておきますと、 このような問題 は生じません。 遺言による遺産分割は、 相続人の協議による遺産分割に優先します。 し たがって、 明確な内容の遺言書を適式に作成しておけば、 個々の遺産についての最終的 な権利の帰属が一義的に決定することになります。
これは、 「遺言による遺産分割方法の指定」 といわれるもので、 これをしておけば、 相続開始後、 相続人間で遺産分割協議をする必要もなく、 また、 当該財産の帰属や評価 額等をめぐる紛争が生じる余地は、 基本的にはないと言えます。
さらに、 被相続人が遺言を行う場合、 自ずと自己の財産の全体を把握し、 意識的に財 産を整理、 一覧化していくのが通例です。 被相続人がこの作業を経ることにより、 相続 人は、 遺産の内容を明確に認識することができ、 遺産の範囲をめぐる無用の紛争の防止 につながります。
このように、 遺言は、 相続紛争を予防するための最善手ということができます。 ただ し、 遺言書そのものの有効性が問題となったり、 遺言書の内容が不明瞭で、 かえって紛 争を惹き起こす場合もあります。 したがって、 相続紛争予防の目的で遺言書を作成する 以上は、 法律上、 適式、 有効でかつその内容が明確なものでなければなりません。
(3)

遺留分対策

ある特定の相続人の相続分をゼロとする遺言も、 原則として法律上有効ですが、 民法は、 遺言によっても剥奪することのできない権利として、 兄弟姉妹以外の法定相続人に 遺留分を認めています。 もし、 この遺留分を侵害するような遺言がなされると、 後日、 相続人間で遺留分侵害額請求紛争が生じる可能性が残ります。
遺留分侵害額請求紛争を予防する方法としては、 次のものが考えられます。
(イ)
遺留分の放棄
遺留分は、 相続発生後はもちろん、 相続発生前でも自由に放棄することができます。 ただし、 相続発生前に遺留分を放棄するには、 家庭裁判所の許可を要します (民法 1049 条1項)。
遺留分侵害額請求紛争が生じる可能性のある場合、 この遺留分の生前放棄の措置 をとっておけば、 後日、 相続人が遺留分侵害額請求紛争で苦しまずに済むことにな ります。
(ロ)
遺留分を侵害しない遺言
各相続人の遺留分を尊重し、 これを侵害しないようにすれば、 もはや遺留分紛争の生じる余地はありません。 しかし、 これは、 厳密な意味では遺留分対策と呼べる ものではなく、 また、 必ずしも遺言者の真の意図に沿うものではないという点に注 意しなければなりません。
(ハ)
弁償額の確保
遺言によってある一定の相続財産をもらい受ける相続人は、 他の相続人の被侵害遺留分に相当する金銭を支払う義務があります(民法 1046 条 1 項)。
したがって、 その金銭を確保しておいてあげれば、 万一、 遺留分紛争が起こって も、 すぐに鎮静化することができます。 その金銭を特定の相続人に保有させる方法 としては、 侵害額弁償に足るだけの現金や金融資産を遺言により相続させたり、 当該相続人を受取人とする一定金額以上の生命保険に加入するなどの方法があります。
(4)

生前協定

ある高齢の資産家が、 遺言書を作成する以前に事故や精神疾患により事理の弁識能力 を欠き、 有効な意思表示が不可能となっていたという事態を想定します。 このような事 態では、 被相続人による生前贈与も遺言書の作成も不可能です。 この場合、推定相続人 は、 相続紛争予防のために何らかの対策を行えないものでしょうか。
生前協定と呼ばれる相続人間の協定は、 このような現実の要請から時々行われるもの です。 生前協定は、 いわば相続発生前に、 推定相続人間で行う事実上の遺産分割協議で す。 相続発生前の遺産分割協議は、 法律上は無効です。 なぜなら、 相続発生前は、 そも そも誰が相続人となるか確定していませんし、 相続財産も変動する可能性があるからで す。 しかし、 生前協定は、 事実上、 相続紛争を抑制する効果があるのは事実です。 高齢の父親が脳溢血で心神喪失の状態となっていた場合に、 推定相続人全員が協議し遺産分 割協議書に類する協定書を作成した事例があります。 この事例では、 生前協定書の作成 に弁護士が関与していたという事情もあってか、 相続発生後、 相続人は生前協定の趣旨 を尊重し、 相続発生後間もなく、 これに沿った遺産分割協議が成立しました。
のように、 生前協定は、 相続紛争の予防に一定の効果があると言えます。