遺産分割の専門知識
遺産分割協議書
2026.07.03
被相続人が亡くなり、相続人が複数存在する場合には、相続財産をどのように分けるかを決定する必要があります。この話し合いを「遺産分割協議」といい、その結果を書面にまとめたものが「遺産分割協議書」です。
遺産分割協議書は、不動産の相続登記や預貯金の払戻しなどの相続手続において必要となることが多く、相続実務において重要な役割を果たします。また、相続人全員の合意内容を明確にすることにより、後日の紛争を予防するという機能も有しています。
もっとも、遺産分割協議書は単に形式的な書類を作成すれば足りるものではありません。財産の内容や相続人の構成によっては、記載方法や分割方法について慎重な検討が必要となる場合もあります。
本ページでは、遺産分割協議書の意義、必要となる場面、作成方法、記載事項及び作成時の留意点についてご説明いたします。
(1)遺産分割協議書とは
ア.遺産分割協議書の意義
遺産分割協議書とは、相続人全員が遺産分割協議によって合意した内容を記載した書面をいいます。
被相続人が死亡すると、その財産は相続人に承継されます。しかし、相続人が複数いる場合には、各相続人がどの財産を取得するのかを決定しなければなりません。
遺言書によって財産の承継方法が定められていない場合には、相続人全員による遺産分割協議を行い、その協議結果に基づいて財産を分配することになります。
遺産分割協議書は、この協議結果を明確に記録するための書面です。
民法上、遺産分割協議書の作成自体が義務付けられているわけではありません。しかし、実際には不動産の相続登記や金融機関における相続手続等において提出を求められることが多く、遺産分割協議書を作成することが一般的です。
また、相続人間でどのような合意が成立したのかを書面として残すことにより、後日の認識の相違や紛争の発生を防止する効果も期待できます。
イ.遺言書との関係
遺産分割協議書と混同されやすいものとして、遺言書があります。
遺言書は被相続人が生前に作成するものであり、自身の財産をどのように承継させるかという意思を示すものです。
これに対し、遺産分割協議書は、相続開始後に相続人全員が協議を行い、その結果をまとめた書面です。
有効な遺言書が存在し、遺言によって全ての財産の承継方法が定められている場合には、遺産分割協議を行う必要がないこともあります。
もっとも、遺言書に記載されていない財産が存在する場合や、相続人全員が合意した場合には、遺産分割協議が行われることがあります。
相続手続を進める際には、まず遺言書の有無を確認し、その内容を踏まえて必要な手続を検討することが重要です。
(2)遺産分割協議書が必要になるケース
遺産分割協議書は、相続人間の合意内容を明確にするための書面ですが、実際には各種相続手続において提出を求められることが少なくありません。
もっとも、全ての相続において必ず作成しなければならないものではなく、相続財産の内容や手続の種類によって必要性は異なります。
ここでは、遺産分割協議書が必要となる主なケースについてご説明いたします。
ア.不動産の相続登記を行う場合
相続財産に不動産が含まれている場合には、被相続人名義から相続人名義への変更登記(相続登記)を行う必要があります。
法務局に対して相続登記を申請する際には、相続関係を証明する戸籍関係書類等に加え、遺産分割協議書の提出が求められることがあります。
特に、法定相続分とは異なる割合で不動産を取得する場合には、その内容を証明する資料として遺産分割協議書が必要となります。
イ.預貯金の払戻しを行う場合
金融機関において預貯金の解約や払戻しを行う場合にも、遺産分割協議書の提出を求められることがあります。
被相続人名義の預貯金は、相続開始後は相続人に承継されますが、実際の払戻手続にあたっては、金融機関ごとに定められた書類を提出する必要があります。
遺産分割協議書を作成しておくことにより、誰が預貯金を取得するのかを明確に示すことができ、手続を円滑に進めやすくなります。
もっとも、必要書類や手続の内容は金融機関によって異なるため、事前に確認しておくことが重要です。
ウ.株式その他の有価証券を承継する場合
被相続人が上場株式や投資信託等を保有していた場合には、証券会社等に対して名義変更や移管手続を行う必要があります。
その際にも、相続人間の合意内容を示す資料として遺産分割協議書の提出を求められることがあります。
特に、非上場株式が相続財産に含まれる場合には、単なる名義変更の問題にとどまらず、会社経営や議決権の帰属にも影響を及ぼすことがあります。
エ.相続税申告との関係
相続税の申告が必要となる場合には、遺産分割協議書が利用されることがあります。
例えば、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の適用にあたっては、遺産分割の内容が関係する場合があります。
そのため、遺産分割協議が成立している場合には、その内容を明らかにする資料として遺産分割協議書が用いられることがあります。
もっとも、相続税に関する取扱いは個別の事案によって異なるため、必要に応じて税務上の観点も踏まえた検討が必要となる場合があります。
オ.遺産分割協議書が不要となる場合
有効な遺言書によって全ての財産の承継方法が定められている場合には、遺産分割協議を行う必要がないことがあります。
また、相続人が一人しか存在しない場合には、そもそも遺産分割協議を行う余地がありません。
もっとも、具体的な手続において必要となる書類は事案によって異なりますので、個別の状況に応じた確認が必要です。
(3)遺産分割協議書の作成方法
遺産分割協議書を作成するためには、まず相続人及び相続財産の内容を正確に把握し、そのうえで相続人全員による協議を行う必要があります。
以下では、一般的な作成の流れについてご説明いたします。
ア.相続人を調査・確定する
遺産分割協議は、相続人全員で行わなければなりません。
そのため、まず被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等を収集し、誰が相続人となるのかを確認する必要があります。
相続人が一人でも漏れた状態で遺産分割協議を行った場合には、その協議は無効となる可能性があります。
また、代襲相続が発生している場合や認知された子が存在する場合など、戸籍調査を進める中で初めて判明する事情もあります。
そのため、相続人の確定は遺産分割協議の前提となる重要な手続といえます。
イ.相続財産を調査する
次に、被相続人が所有していた財産を調査します。
預貯金、不動産、有価証券だけではなく、貸付金や会員権なども相続財産に含まれる場合があります。
また、借入金や保証債務などの負債についても確認が必要です。
財産調査が不十分なまま遺産分割を行うと、後になって新たな財産や債務が判明し、改めて協議が必要となることがあります。
そのため、できる限り正確に財産内容を把握したうえで協議を進めることが望まれます。
ウ.相続人全員で遺産分割協議を行う
相続人及び相続財産が確定した後は、相続人全員で遺産分割協議を行います。
協議の方法に法律上の制限はなく、対面で行うこともあれば、電話や書面等を利用して進められることもあります。
もっとも、遺産分割協議は相続人全員の合意が必要であり、一部の相続人だけで成立させることはできません。
エ.遺産分割協議書を作成する
協議内容について合意が成立した場合には、その内容を遺産分割協議書として文書化します。
遺産分割協議書には、被相続人の氏名や死亡日、各相続人が取得する財産の内容等を記載します。
また、通常は相続人全員が署名し、実印を押印したうえで印鑑証明書を添付します。
記載内容に不備や曖昧な表現があると、手続に支障が生じたり、後日の紛争につながったりする可能性があります。
そのため、財産の表示や分割内容については、できる限り具体的かつ明確に記載することが重要です。
(4)遺産分割協議書の主な記載事項
遺産分割協議書に法律上定められた様式はありません。
もっとも、相続手続において利用される書面であるため、必要な事項を漏れなく記載することが重要です。
一般的には、次のような事項が記載されます。
ア.被相続人に関する事項
被相続人の氏名及び死亡日等を記載します。
誰についての遺産分割協議であるかを明確にするための基本的な情報となります。
イ.相続人に関する事項
遺産分割協議に参加した相続人の氏名及び住所等を記載します。
遺産分割協議は相続人全員の合意によって成立するため、参加した相続人を明らかにすることが重要です。
ウ.相続財産及び取得者に関する事項
どの相続人がどの財産を取得するのかを具体的に記載します。
不動産については登記事項証明書に従った表示を行い、預貯金については金融機関名や口座番号等を記載することが一般的です。
エ.作成日及び署名押印
遺産分割協議書には作成日を記載し、通常は相続人全員が署名のうえ実印を押印します。
また、手続に利用するため、印鑑証明書の提出が求められることが一般的です。
遺産分割協議書は相続手続の基礎となる重要な書面であるため、記載内容に誤りや漏れがないか十分に確認することが望まれます。
(5)遺産分割協議書作成における留意点
遺産分割協議書は、相続人全員の合意内容を記録する重要な書面です。そのため、単に誰がどの財産を取得するかを記載するだけではなく、将来的な紛争や手続上の支障が生じないように作成することが重要となります。
以下では、遺産分割協議書を作成する際の主な留意点についてご説明いたします。
ア.財産の内容を正確に特定する
遺産分割協議書には、相続人が取得する財産を具体的かつ正確に記載する必要があります。
例えば、不動産であれば登記事項証明書の記載に従って所在、地番、家屋番号等を記載することが一般的です。また、預貯金についても金融機関名、支店名、口座番号等を明確に記載することが望まれます。
財産の表示が不十分である場合には、相続登記や金融機関での手続に支障が生じる可能性があります。
また、「自宅不動産一式」や「預金全部」といった抽象的な表現は、後日の解釈を巡る争いにつながるおそれもあるため、できる限り具体的な記載を心掛けることが重要です。
イ.後日判明した財産の取扱いを定める
遺産分割協議の時点では把握できていなかった財産が後日発見されることがあります。
例えば、長期間利用していなかった預金口座や有価証券、貸付金等が後になって判明するケースも少なくありません。
このような場合に備え、「本協議書に記載のない財産が後日発見された場合には、○○が取得する」あるいは「相続人全員で改めて協議する」といった条項を設けることがあります。
事案によって適切な内容は異なりますが、将来的な紛争を予防する観点からは、後発財産への対応をあらかじめ検討しておくことが有益な場合があります。
ウ.不動産の共有は慎重な検討が必要な場合がある
相続人間の公平を図るため、不動産を共有とする遺産分割が選択されることがあります。
もっとも、不動産を共有とした場合には、将来的な管理や処分において様々な問題が生じることがあります。
例えば、不動産の売却や建替え等を行う際には、共有者間での調整が必要となることがあります。また、共有者の一人が死亡すると、その持分はさらに相続の対象となるため、時間の経過とともに権利関係が複雑化することもあります。
そのため、不動産の共有を選択する場合には、現在の公平性だけではなく、将来的な管理や承継のあり方も踏まえて検討することが望ましい場合があります。
エ.代償分割を行う場合には内容を明確にする
不動産や事業用資産など分割が困難な財産については、一部の相続人が財産を取得し、その代わりに他の相続人へ金銭を支払う「代償分割」が行われることがあります。
代償分割を採用する場合には、
- 誰が代償金を支払うのか
- いくら支払うのか
- いつまでに支払うのか
を明確に定めることが重要です。
これらの事項が曖昧なままでは、後に代償金の支払を巡る紛争が生じる可能性があります。
オ.相続人全員の意思確認を行う
遺産分割協議は相続人全員の合意によって成立します。
そのため、内容について十分な理解がないまま署名押印が行われることは望ましくありません。
特に相続人が多数存在する場合や遠方に居住している場合には、協議内容について相続人全員の認識を共有しておくことが重要です。
遺産分割協議書は長期間にわたって効力を有する書面であるため、作成時には慎重な確認が求められます。
(6)遺産分割協議書の作成にあたり検討を要するケース
ア.収益不動産を含む相続
賃貸マンションや賃貸アパート、商業用不動産等の収益不動産が相続財産に含まれる場合には、単に不動産の価値だけではなく、将来の収益や管理負担についても考慮する必要があります。
また、共有とした場合には賃料収入の管理や修繕費の負担を巡って問題が生じることもあります。
そのため、相続後の管理体制や承継方法も含めて検討することが望ましいといえます。
イ.非上場株式を含む相続
被相続人が会社経営者であった場合には、非上場株式が重要な相続財産となることがあります。
非上場株式は市場価格が存在しないため評価が容易ではなく、また議決権の帰属が会社経営に影響を及ぼすこともあります。
そのため、単なる財産分配の問題としてではなく、事業承継という観点も踏まえて検討されることが少なくありません。
ウ.相続人が多数に及ぶ場合
相続人が多数存在する場合には、意見調整そのものが困難になることがあります。
また、相続人全員の署名押印を取得するまでに相当の時間を要することもあります。
さらに、協議が長期化すると、その間に新たな相続が発生し、権利関係がより複雑になる可能性もあります。
エ.前婚の子がいる場合
被相続人に前婚の子がいる場合には、現在の配偶者やその子との間で利害関係が異なることがあります。
法律上は同順位の相続人であっても、これまでの生活環境や被相続人との関係性の違いから、協議が難航することもあります。
そのため、感情的な対立が生じないよう慎重な対応が求められる場合があります。
オ.相続人が海外に居住している場合
相続人が海外に居住している場合には、必要書類の取得や署名手続に通常より時間を要することがあります。
また、日本国内の印鑑証明制度を利用できないため、代替書類の準備が必要となることもあります。
このような事案では、早い段階から必要書類や手続の流れを確認しておくことが重要です。
(7)遺産分割協議成立後の変更について
遺産分割協議は、相続人全員の合意によって成立する法律行為です。
そのため、一度有効に成立した遺産分割協議を変更することは容易ではありません。
ア.遺産分割協議のやり直しはできるか
既に成立した遺産分割協議についても、相続人全員が改めて合意した場合には、再度遺産分割協議を行うことができるとされています。
もっとも、相続登記や預貯金の払戻し等の手続が既に完了している場合には、新たな権利関係の整理や追加の手続が必要となることがあります。
また、相続税の申告との関係で問題が生じる場合もあるため、遺産分割協議のやり直しを検討する際には慎重な対応が求められます。
イ.遺産分割協議が無効又は取り消される場合
遺産分割協議は、相続人全員の有効な意思表示によって成立する必要があります。
そのため、
- 相続人の一部が参加していなかった場合
- 重大な錯誤があった場合
- 詐欺や強迫によって合意した場合
などには、協議の効力が争われることがあります。
もっとも、実際に無効や取消しが認められるかどうかは個別具体的な事情によって判断されます。
協議成立後に問題が生じた場合には、早期に専門家へ相談することが望ましいといえます。
(8)遺産分割協議を長期間行わない場合の問題点
相続開始後、遺産分割協議を行わないまま長期間経過するケースもみられます。
しかし、遺産分割を長期間放置すれば権利関係が複雑化し、将来的な手続が困難になることがあります。
ア.相続人が増加する可能性がある
遺産分割協議が行われないまま相続人の一人が亡くなった場合、その相続人の相続人が新たに権利者となります。
このような状態が繰り返されると、関係者が多数に及び、遺産分割協議の実施自体が困難になることがあります。
いわゆる「数次相続」が発生すると、戸籍調査や関係者との連絡調整に多くの時間と労力を要することになります。
イ.不動産の管理や処分が困難になる
遺産分割が行われない場合、不動産は相続人全員の共有状態となります。
共有不動産について売却や大規模修繕等を行う際には、共有者間での調整が必要となることが少なくありません。
また、時間の経過とともに共有者が増加すると、管理や意思決定がさらに困難になることがあります。
ウ.財産の把握が難しくなる
相続開始から長期間が経過すると、預貯金や有価証券等の資料が散逸し、財産の内容を正確に把握することが難しくなる場合があります。
また、相続人自身の記憶も薄れ、当時の事情を確認することが困難になることもあります。
円滑な遺産分割を実現するためには、相続開始後できるだけ早い段階で財産調査及び相続人調査を行うことが望ましいといえます。
エ.相続税との関係
相続税の申告が必要となる事案では、遺産分割の状況によって適用できる制度が異なる場合があります。
また、一定期間内に遺産分割が成立していない場合には、特例の適用に影響が生じることもあります。
そのため、相続税の申告が見込まれる事案では、税務上の観点も踏まえて対応を検討することが重要です。
(9)まとめ
遺産分割協議書は、相続人全員が合意した遺産分割の内容を記録する重要な書面です。
不動産の相続登記や預貯金の払戻しなどの各種相続手続において利用されるだけでなく、相続人間の合意内容を明確化し、後日の紛争を予防する役割も有しています。
遺産分割協議書を作成する際には、相続人及び相続財産を正確に把握したうえで、財産の表示や分割内容を具体的かつ明確に記載することが重要です。
また、収益不動産や非上場株式を含む事案、相続人が多数に及ぶ事案などでは、相続手続だけではなく、将来的な財産管理や資産承継の観点からも慎重な検討が必要となる場合があります。
朝日中央綜合法律事務所では、遺産分割に関するご相談を承っております。遺産分割協議書の作成や遺産分割協議の進め方についてお悩みの場合には、お気軽にご相談ください。




