死因贈与と遺贈の違い
1 死因贈与と遺贈――そもそも何が違うのか
死因贈与と遺贈は、いずれも財産を渡す人が死亡したときに効力が生じる点で共通しており、相続対策や財産承継の場面で利用される制度です。そのため、両者は混同されることも少なくありません。
しかし、死因贈与と遺贈は、成立の仕組みや方式、撤回の可否などに重要な違いがあります。
死因贈与とは、贈与者が死亡したときに効力が生じる贈与契約をいいます。契約である以上、贈与者が財産を与える意思を示すだけでは足りず、受贈者がこれを承諾することによって成立します。また、死因贈与については、「その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する」とされています(民法554条)。
これに対し、遺贈とは、遺言によって財産を譲り渡すことをいいます。遺贈は遺言者の一方的な意思表示によって成立するものであり、受遺者の承諾を必要としません。また、遺言として効力を生じるためには、法律で定められた方式を満たす必要があります。
このように、両者は「死亡によって財産を承継させる」という点では共通していますが、死因贈与は契約、遺贈は遺言による単独行為であるという点が最も大きな違いです。この違いは、その後の手続や撤回の可否、紛争が生じた場合の判断にも影響します。
主な違いは、次のとおりです。
| 比較項目 | 死因贈与 | 遺贈 |
|---|---|---|
| 法的性質 | 契約 | 遺言による単独行為 |
| 成立方法 | 贈与者と受贈者の合意が必要 | 遺言者の意思表示のみで成立 |
| 方式 | 原則として自由(口頭でも成立し得る) | 法律で定める遺言方式が必要 |
| 効力が生じる時期 | 贈与者の死亡時 | 遺言者の死亡時 |
| 撤回 | 制限される場合がある | 原則自由 |
もっとも、実際には「どちらを利用すべきか」は、承継する財産の種類や家族構成、将来想定される紛争などによって異なります。特に、不動産や非上場株式など評価や承継方法が複雑な財産を含む場合には、制度の違いがその後の手続や相続人間の調整に影響することも少なくありません。そのため、それぞれの制度の特徴を理解した上で、個別の事情に応じた方法を選択することが重要です。
2 死因贈与と遺贈の違いを6つの観点で比較する
死因贈与と遺贈は、いずれも財産を承継させる制度ですが、成立方法や撤回の可否、税務上の取扱いなどには違いがあります。
これらの違いを理解しておくことは、ご自身の希望に沿った財産承継を実現するためだけでなく、相続開始後の紛争を予防する上でも重要です。
ここでは、死因贈与と遺贈の主な違いを6つの観点からご説明します。
⑴ 成立要件―死因贈与は「契約」、遺贈は「遺言」
最も大きな違いは、死因贈与は契約であり、遺贈は遺言による単独行為であるという点です。
死因贈与は契約であるため、贈与者が財産を与える意思を表示するだけでは成立せず、受贈者がこれを承諾することが必要です。したがって、当事者双方の意思が一致して初めて契約が成立します。
一方、遺贈は遺言者が遺言によって財産を承継させる制度であり、受遺者の承諾は不要です。遺言者が法律で定められた方式に従って遺言を作成すれば、その内容に従って効力が生じます。
このような違いから、生前に受贈者との合意を形成したうえで財産承継を予定したい場合には死因贈与が、将来の事情の変化を踏まえながら自らの意思で財産の承継方法を決めたい場合には遺贈が利用されることがあります。
⑵ 書面の要否―遺贈は方式が厳格、死因贈与も契約書の作成が望ましい
遺贈は遺言によって行われるため、自筆証書遺言や公正証書遺言など、民法で定められた方式を満たさなければ無効となります。
これに対し、死因贈与には遺言のような方式はありません。そのため、理論上は口頭でも成立し得ます。
もっとも、死因贈与は贈与者の死亡後に効力が生じるため、当事者の一方である贈与者から契約内容を確認することができません。その結果、契約の有無や内容をめぐって相続人との間で争いになることもあります。
このような紛争を防止するためには、死因贈与契約書を作成し、契約内容を明確にしておくことが望ましいといえます。
⑶ 撤回の可否―遺贈は原則として自由、死因贈与は制限される場合がある
遺言は、遺言者が生存している限り、原則としていつでも撤回又は変更することができます。
一方、死因贈与は契約であるため、一度成立した契約については遺言と同様に自由に撤回できるとは限りません。
もっとも、死因贈与については、その内容や契約の性質などによって判断が異なる場合があります。特に負担付死因贈与などでは、受贈者が一定の義務を履行していることもあり、撤回の可否が問題となることがあります。
そのため、死因贈与契約を締結する際には、将来の事情変更も見据えた内容となっているか十分に検討することが重要です。
⑷ 遺留分との関係―いずれも遺留分侵害額請求の対象となることがある
死因贈与も遺贈も、内容によっては他の相続人の遺留分を侵害することがあります。
その場合には、遺留分を有する相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
したがって、「死因贈与であれば遺留分の問題は生じない」「遺贈だから自由に財産を処分できる」というわけではありません。
特に、不動産や非上場株式など高額な財産を一人の相続人や第三者へ承継させる場合には、遺留分との関係を十分に検討した上で制度を選択することが重要です。
⑸ 税務上の取扱い―不動産取得税や登録免許税に違いが生じる場合がある
死因贈与と遺贈は、いずれも相続税の課税対象となる点では共通しています。
もっとも、不動産を承継する場合には、不動産取得税や登録免許税の取扱いに違いが生じることがあります。
したがって、承継する財産が不動産である場合には、税務面も踏まえて制度を選択することが望ましいといえます。
なお、税制は改正されることもあるため、具体的な税負担については、個別の事案に応じた確認が必要です。
⑹ 財産承継全体への影響―財産の内容に応じて適した制度は異なる
死因贈与と遺贈のいずれが適しているかは、一概に決められるものではありません。
例えば、複数の不動産や非上場株式など、評価や承継方法が複雑な財産を有している場合には、契約による死因贈与が適する場面もあれば、遺言による遺贈を中心として財産承継全体を設計した方が望ましい場面もあります。
また、家族構成や他の相続人との関係、将来想定される紛争などによっても、適切な方法は異なります。
そのため、制度の違いだけで判断するのではなく、承継する財産やご家族の状況を踏まえて、総合的に検討することが重要です。
3 死因贈与と遺贈はどちらを選ぶべきか
死因贈与と遺贈には、それぞれ特徴やメリット・デメリットがあります。
どちらが優れているというものではなく、承継したい財産の種類や家族構成、将来想定される紛争の有無などによって、適した制度は異なります。
ここでは、一般的に死因贈与が適している場合と、遺贈が適している場合をご説明します。
⑴ 死因贈与が適している場合
死因贈与は、受贈者との間で契約を締結する制度であるため、生前に当事者双方の意思を確認したうえで財産を承継させたい場合に適しています。
例えば、特定の親族や長年生活を支えてくれた方へ、一定の財産を確実に承継させたい場合や、受贈者に一定の義務を負担してもらうことを予定している場合には、死因贈与が利用されることがあります。
また、不動産などの財産については、契約内容によっては生前に一定の権利関係を明確にしておくことができる場合もあります。
もっとも、死因贈与は契約である以上、一度締結すると、その後の事情変更があっても自由に内容を変更できるとは限りません。
そのため、契約締結に当たっては、将来の生活状況や家族関係の変化も考慮した上で慎重に検討することが重要です。
⑵ 遺贈が適している場合
遺贈は、遺言によって財産を承継させる制度です。
そのため、生前の状況変化に応じて内容を見直したい場合や、財産全体の承継方法を総合的に決めたい場合には、遺贈が適していることがあります。
例えば、
- 不動産・預貯金・有価証券など複数の財産を総合的に承継させたい場合
- 相続人ごとの取得割合を調整したい場合
- 遺言執行者を指定し、円滑な相続手続を実現したい場合
などでは、遺言全体の中で財産承継を設計できる遺贈が有効な選択肢となります。
また、遺言は原則としていつでも撤回又は変更することができるため、家族構成や財産内容の変化にも対応しやすいという特徴があります。
⑶ 財産の内容や家族構成によって適切な方法は異なる
実際には、死因贈与と遺贈のいずれか一方のみを利用するとは限りません。
例えば、特定の不動産については死因贈与契約を締結し、それ以外の財産については遺言によって承継方法を定めるなど、複数の制度を組み合わせることもあります。
また、相続財産に賃貸不動産や事業用資産、非上場株式などが含まれる場合には、承継方法によって相続後の管理や他の相続人との関係にも影響が生じることがあります。
そのため、「死因贈与と遺贈のどちらが有利か」という観点だけで判断するのではなく、財産全体の構成やご家族の状況、将来想定されるリスクも踏まえ、総合的に検討することが重要です。
4 死因贈与契約と遺言書が両方ある場合はどうなるか
被相続人が生前に死因贈与契約を締結していた一方で、その後に遺言書も作成していたというケースがあります。
このような場合、「どちらの内容が優先されるのか」が問題となることがあります。
もっとも、この問題は一律に判断できるものではなく、死因贈与契約や遺言の内容、作成時期、両者が抵触しているかどうかなど、個別の事情を踏まえて判断されます。
そのため、死因贈与契約と遺言書が併存している場合には、まず両者の内容を正確に確認することが重要です。
⑴ 契約内容と遺言内容が抵触しているかを確認する
まず確認すべきなのは、死因贈与契約と遺言書の内容が実際に矛盾しているかどうかです。
例えば、
- 死因贈与契約ではA土地を長男へ贈与するとされている
- 遺言書では預貯金を次男へ遺贈するとされている
というように、対象となる財産が異なる場合には、両者は抵触せず、それぞれ効力を生じることがあります。
一方で、
- 死因贈与契約ではA土地を長男へ贈与する
- 遺言書では同じA土地を三男へ遺贈する
というように、同じ財産について異なる承継方法が定められている場合には、どのように考えるべきかが問題となります。
⑵ 遺言書が作成されたからといって、直ちに死因贈与契約が無効になるわけではない
死因贈与は契約であり、遺贈は遺言による単独行為です。
そのため、死因贈与契約を締結した後に遺言書が作成されたという事情だけで、当然に死因贈与契約が無効となるわけではありません。
もっとも、契約内容と遺言内容が抵触している場合には、遺言によって契約を撤回する趣旨であったのか、あるいは契約自体に影響が及ぶのかなどが問題となり、具体的な事案ごとに判断されます。
実際の紛争では、契約締結の経緯や契約内容、遺言書の記載内容などを総合的に検討して判断されることになります。
⑶ 相続人間で争いになる前に専門家へ相談することが重要
死因贈与契約と遺言書が併存している事案では、
- 契約書の有効性
- 遺言書の有効性
- 両者の優先関係
- 遺留分への影響
など、複数の法律問題が同時に生じることがあります。
また、不動産や非上場株式など高額な財産が含まれている場合には、承継方法によって他の相続人の権利関係にも大きな影響を及ぼすことがあります。
そのため、「どちらが優先するのか」という一点だけではなく、財産全体の承継方法や相続人間の利害関係も踏まえた検討が必要です。
契約書や遺言書の内容によって結論が異なることも少なくありませんので、相続開始後に疑問が生じた場合には、できるだけ早い段階で相続案件を専門的に取り扱う弁護士へ相談することをおすすめします。
5 死因贈与と遺贈を利用する際の注意点
死因贈与契約は、契約書が存在するからといって必ず有効となるわけではありません。
例えば、
- 贈与者に十分な意思能力があったか
- 契約内容が明確であるか
- 詐欺や強迫がなかったか
などが争点となることがあります。
また、遺言書との関係や遺留分との関係が問題となることも少なくありません。
死因贈与契約が無効となるケースについては、「贈与、死因贈与の効力が否定される類型」で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
なお、死因贈与契約や遺言をめぐる問題では、時間の経過によって契約締結時の状況を示す資料の収集が難しくなることがあります。また、主張する内容によって適用される法律や期間も異なるため、一概に「いつまで大丈夫」とはいえません。疑問が生じた場合には、できるだけ早い段階で専門家へ相談し、事案に応じた対応方針を検討することが重要です。
6 まとめ
死因贈与と遺贈は、いずれも死亡後に財産を承継させる制度ですが、死因贈与は契約、遺贈は遺言による単独行為であるという大きな違いがあります。また、成立方法や撤回の可否、税務上の取扱いなどにも違いがあり、それぞれに特徴があります。
どちらの制度が適しているかは一律には決められず、承継する財産の種類や家族構成、将来の承継方針などを踏まえて検討することが重要です。特に、賃貸不動産や非上場株式など、評価や承継方法が複雑な財産を有する場合には、制度の選択が相続後の権利関係や手続にも影響を及ぼすことがあります。
また、死因贈与契約と遺言書が併存している場合や、契約の有効性が問題となる場合には、個別の事情に応じた法的な検討が必要となります。
そのため、財産承継の方法についてお悩みの方や、死因贈与契約や遺言の内容について疑問がある方は、相続案件を専門的に取り扱う弁護士へ早めに相談することをおすすめします。




