相続による共有の性質
判例は、 相続財産の 「共有」 は、 民法 249 条以下に規定する 「共有」 とその性質を異 にするものではないとしています。
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相続紛争の予防と解決マニュアル
相続開始から遺産分割まで、遺産は共同相続人全員の共有に属します【民法第898条】。遺産の共有は管理・処分のルールについては、一般の共有の規定が準用され【民法第249条以下】、各人は持分に応じた権利を有しますが、その目的は遺産の共同管理と最終的な帰属確定となります。遺産の共有はあくまで分割までの暫定状態で、分割成立により単独所有や新たな共有へ移行します。
(ア)総説
数人の相続人がいるときは、遺産は分割が終わるまで共同で承継され、共同で管理するのが原則です【民法第898条】。したがって各相続人は管理義務を分担しますが、民法は共同相続人相互の内部関係(誰が何をどの程度行うか)を詳細には定めていません。実務では、相続人の一部が遠方在住・高齢・病気などで関与しにくい場合や、管理方針について全員一致が得られない場合が少なくなく、その調整が紛争の発端になりがちです。
(イ)準用される基本枠組み
この空隙を埋めるため、共有物の管理および組合財産の管理に関する規定を適宜準用して処理するのが判例・実務の基本線です。以下、典型場面ごとに要点を示します。
a.使用・収益
各相続人は、遺産全体について使用・収益することができます【民法第249条】。そのため、共同相続人の一人が相続不動産を占有している場合、他の相続人が持分で多数派であっても、直ちに「単独占有だから明け渡せ」とは請求できません。明渡しを求めるには、管理・使用方法の変更に当たる合意や手続が必要となります。
b.保存行為(単独可)
保存行為は各相続人が単独でできます【民法第252条ただし書】。裁判例上、①相続を原因とする保存登記・移転登記の申請、②不真正登記の抹消(更正を含む)、③不法占有者に対する妨害排除請求などが保存に含まれます。例えば、家屋の日常修繕や期限到来債務の弁済も、目的物の滅失・価値減少の防止という観点から保存行為とされる取扱いが一般的です。
c.管理行為(過半数決)
利用・改良などの「管理行為」は、相続分(持分)に応じた過半数で決します【民法第252条本文】。管理行為に該当するとされた例として、借地借家関係での建物買取請求権の行使【借地借家法第13条】、詐欺を理由とする意思表示の取消し、【民法第602条】の期間(短期賃貸借)を超えない賃貸借の設定、借地借家法の適用がない賃貸借の締結、使用貸借契約の解除、賃貸借契約の解除などが挙げられます。これらは「処分」ほど重大ではないが、共有物の利用方法を定める行為として、過半数の同意で足りると整理されます。なお、管理に要した費用は、原則として相続財産の負担とされます【民法第885条】。
d.少数者の保護と実務上の工夫
過半数で決められるとはいえ、少数相続人の利益保護も重要です。多数決の運用が信義則に反する場合には無効・取消しが問題となり得ますし、対立が深まると遺産分割前に管理処分の仮処分・仮の管理人選任等を検討する場面もあります。実務では、(1)費用分担と精算方法、(2)使用者の占有料相当の金銭(いわゆる使用料)をどう扱うか、(3)重要行為は原則全員合意とする、といった合意メモを作成し、紛争予防を図ることが推奨されます。
(ア)相続分の処分
各共同相続人は、遺産分割前であっても、遺産「全体」に対する自らの割合的地位(相続分)を第三者へ譲渡できます。譲受人は、譲渡人に代わって遺産分割に参加する立場となります。他方、他の共同相続人には、譲受人に支払った価額・費用を償還してその相続分を取り戻せる制度が用意されています【民法第905条】。この仕組みは、見知らぬ第三者が分割協議を混乱させることを避けつつ、当事者間の調整を可能にする趣旨です。
(イ)個々の共同相続財産の処分
a.遺産の中の「特定の物・権利」を分割前に処分するには、原則として全員一致が必要です。もっとも、処分は共有物の「変更」に当たる重要行為と解されるため【民法第251条】、処分行為を実行する者以外の共同相続人が全員同意していれば、必ずしも全員が共同で手続に署名・押印する必要まではありません。
b.仮に、処分について反対する者がいて同意が整わない場合は、無理に売却等を進めるのではなく、まず遺産分割自体を申し立てて帰属を確定させるのが原則的対応となります(調停・審判での分割確定後に、各自が単独で処分の可否を判断できます)。
(ウ)持分権の処分
各共同相続人は、遺産に属する「個々の財産」について、相続分に応じた共有持分(持分権)を取得しており、この持分権は単独で譲渡できます。もっとも、持分が第三者へ移転すると、当該財産は第三者の共有持分が付着したまま遺産分割の対象となりますが、譲受人自体は遺産分割の当事者ではありません(遺産分割に参加できません)【民法第907条以下】。分割後、当該財産を取得した相続人と譲受人との関係は通常の共有関係となり、最終的に共有を解消したい場合は、改めて共有物分割の規定【民法第256条以下】に従うことになります。実務上は、処分の種類(相続分を譲るのか、個別財産の持分を譲るのか)で後続手続が大きく変わるため、第三者関与の可否、同意要件、分割方法への影響を整理して選択することが肝要です。
不可分債権とは、分割しては実現できない給付(例:自動車1台の引渡し)を目的とする多数当事者の債権をいいます。被相続人が不可分債権者であった場合に相続が開始すると、各相続人は「総債権者」のために債権全部の履行を請求し、また弁済を受領できます【民法第428条・第432条】。すなわち、持分割合に応じた一部請求に限定されず、全額の引渡しや支払を求めることが可能です(受領した給付は相続分に応じて相続人間の内部で精算が必要になります。)。債務者は、相続人の一人にした弁済で全体に対抗できる反面、弁済相手を誤らないよう、相続関係(相続人・持分)を確認しておくことが実務上重要です。
可分債権の代表例が金融機関に対する預貯金債権です。かつては相続開始と同時に法定相続分で当然分割され、各相続人が単独で自己の法定相続分を払い戻せるとされていました【最裁 昭和29年4月8日判決】。しかし、この運用は特別受益・寄与分を反映した公平な遺産分割にそぐわないとの指摘が強まり、判例変更により預貯金債権は遺産分割の対象とされました【最裁 平成28年12月19日判決】。したがって、相続人間で遺産分割が成立するまでの間、相続人であるとしても、単独で払い戻すことはできなかったのです。
その後、更なる立法対応として、各相続人は、遺産に属する預貯金債権額の「3分の1×自己の法定相続分」について、金融機関ごとに150万円を上限として単独で払戻しを請求できることになりました。【民法第909条の2】。すなわち「口座ごと」ではなく同一金融機関で合算した残高を基礎に上限を判定します。これは葬儀費用や当座の生活費など緊急支出に充てるための制度であり、残る預貯金(少なくとも3分の2相当)は、公平確保のため遺産分割で最終調整されます。
なお、この単独払戻しの制度は令和元年7月1日施行で、施行前の相続でも施行後は同規律が利用できます。他方、預貯金以外の可分債権は、原則として相続と同時に相続分に応じて分割され【民法第427条】、各相続人が自己持分の範囲で行使します。ただし、当事者の明示・黙示の合意があれば、遺産分割の対象として一括処理する運用も家庭裁判所実務で広く認められています。
金銭債務など分割可能な債務は、相続開始と同時に各共同相続人へ法定相続分に応じて当然に按分されます【民法第427条】。債務には「共有」という概念がなく、原則として遺産分割の対象になりません。したがって、相続人同士の合意だけで「特定の相続人に債務をまとめて負担させる」取り決めをしても、債権者には対抗できません。実務では、たとえば住宅ローンが残る自宅を取得する相続人が、金融機関の同意を得て免責的債務引受を行うなど、外部関係(債権者)と整合する方法で調整します。
被相続人が生前、連帯債務者であった場合、その地位は各相続人に相続分に応じて内部負担を承継されます。外部(債権者)から見れば、各相続人はいずれも債務の全額について履行責任を負い、誰か一人が全額弁済すれば債務は消滅します。他方、相続人相互の内部では、各人の負担部分(相続分等)に応じて求償により清算が行われます。遅延損害金など付随債務の帰結も原債務に従うのが原則です。
目的物の性質上、分割履行ができない債務(例:特定不動産の引渡し)は不可分債務に当たり、相続によって債務者が複数となっても不可分性は失われません。債権者は各共同相続人に対し、債務の全部の履行を求めることができ【民法第430条・第436条】、一人が全部を履行すれば外部関係では完全弁済となります。その後は、内部関係で相続分に応じた求償により負担を調整します。連帯債務と不可分債務はいずれも「債権者が全額請求できる」点は共通ですが、連帯債務は合意等による責任構造に基づくのに対し、不可分債務は給付の性質に由来する点が相違です。
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