(1)相続財産法人
ア.総論
(ア)制度の趣旨と定義
a.相続開始後であっても、相続人がいない(絶対的に不存在)場合や、いるかどうかが判然としない(不明)場合があります。相続人が不明なときは、相続人の探索と同時に、相続財産を適正に管理し、最終的に清算し、残余の帰属先を決める必要があります。
b.この二つの目的(探索と清算)を実現するため、相続人のあることが明らかでないときは、相続財産を法律上の権利主体(法人)とみなす制度が置かれています【民法第951条】。この「相続財産法人」を代表して手続を進めるのが相続財産清算人です【民法第952条】。
※ここでいう「法人」は株式会社のような通常の法人とは性質が異なり、清算等のために法律が一時的に擬制する権利主体です。相続人が見つかれば、原則として遡って消える仕組みです(後記)。
(イ)相続財産法人の成立
a.成立する場面
(a)戸籍上、相続人が存在しない場合
1)戸籍記録は身分関係を推定させますが、最終結論ではありません。したがって、戸籍上の相続人が見当たらないときでも、相続人探索を進めつつ、清算の準備を要します。
2)「戸籍上相続人が存在しない」には、法定相続人に該当する者が一人も記載されていない場合のほか、最終順位の相続人が欠格【民法第891条】又は廃除【民法第892条】により相続権を失った場合、あるいは相続放棄【民法第939条】の結果として相続権者がいなくなった場合を含みます。
(b)相続人がいないことが明らかである場合
明文の規定はありませんが、実務と通説は、現実に相続人出現の可能性がほとんどない状況でも、手続の安定のために相続財産法人の枠組みを用いて清算に進めることを肯定的に理解します。
b.成立が問題となる場面(学説・裁判例上の論点)
(a)戸籍上の相続人は存在しないが包括受遺者がいる場合
(b)戸籍上の相続人は存在しないが相続人が現れる可能性がある未確定事案(認知請求、離婚・離縁の無効確認、父を定める訴等が係属)
1)判決確定前に国庫帰属へ進むことを避けるべきとの配慮から、相続財産法人の成立を直ちに肯定すべきではないとする立場があります。
2)その間の管理根拠として、現状維持を中心に【民法第918条】の類推適用で説明する見解と、管理を可能にするため【民法第895条】(包括承継の一般原則)等を手がかりに整理する見解が対立します。実務では、家裁への清算人選任申立ての要否・時期を、係属訴訟の見込みや利害関係人の保護必要性に即して判断する運用が見られます。
(c)表見相続人が事実上相続している場合
1)下級審には、相続財産を実際に支配する者がいるときは、直ちに「相続人のあることが明らかでない」とはいえないとして相続財産法人の成立を否定したものがあります【朝鮮高院 昭和8年2月14日判決】。
2)これに対し、真正相続人の回復や第三者取引の安定を図る観点から、相続財産法人の成立と相続回復請求を認めて調整すべきとする見解もあります。
c.相続人は存在するが不在・生死不明の場合の取扱い
相続人が特定できているが所在不明・生死不明であるときは、相続財産法人ではなく、不在者財産管理【民法第25条以下】又は失踪宣告【民法第30条】の制度により対応します。
(ウ)成立の時期と公示
a.相続人のあることが明らかでなければ、被相続人の死亡時に相続財産法人は法律上当然に成立します【民法第951条】。この成立自体に申立て等の手続は不要で、公示も要しません。
b.もっとも、外部から制度の作動が明確になるのは、家庭裁判所が相続財産清算人を選任したときです【民法第952条】。清算人は、管理・清算のために必要な包括的権限を有し【民法第953条】、債権者・受遺者への報告義務【民法第954条】、請求申出の公告・催告【民法第957条】、相続人捜索の公告【民法第958条】等、段階的手続を主導します。
※清算人選任後は、まず相続人がいるかの確認(戸籍・住民票・関係者照会等)と、財産の把握・保全(預貯金の払戻し、動産不動産の管理)を進め、相続人が見つからなければ、債権者・受遺者からの請求を受け付けて弁済し、最後に相続人捜索の公告を経て、残余があれば特別縁故者への分与【民法第958条の3】や国庫帰属【民法第959条】に至る、という流れです。
(エ)相続財産法人の消滅
a.相続人判明時の効果
(a)相続財産法人が成立した後、相続人のあることが明らかになったときは、当該法人は「成立しなかったもの」とみなされ、遡及的に消滅します【民法第955条本文】。
(b)もっとも、清算人が権限内でした行為の効力は妨げられません【民法第955条ただし書】。取引の安全と、清算の実務を停滞させないための規律です。
b.包括受遺者出現時の扱い
(a)全部包括受遺者が判明した場合、上記最高裁の理に照らせば、相続財産法人による清算手続をとる必要がないのが原則です【最高裁 平成9年9月12日判決】。
(b)下級審には、包括受遺者が出現した事案で相続財産法人の消滅を前提に法律関係を整理したものも見られます。実務上は、清算人の既往行為の効力は上記ただし書により維持されるため、財産処分や弁済の効力が不安定化しないよう調整されます【民法第955条ただし書】。
c.消滅の時期
いつ消滅したと評価するかについては学説上議論がありますが、法律関係を簡明にする観点から、相続人が判明し、かつ相続の承認等により承継主体が確定した段階を起点とするのが実務上の整理です。
(オ)手続の進め方と実務上の補足
a.清算人の選任と権限
(a)清算人は、利害関係人又は検察官の申立てにより家庭裁判所が選任します【民法第952条1項】。選任後は、保存・管理から清算・分配まで、相続財産法人の名で広範な処分を行います【民法第953条】。
(b)清算人は、債権者・受遺者に対する報告義務【民法第954条】、請求申出の公告・催告【民法第957条】、相続人捜索の公告【民法第958条2項】を順次実施します。公告期間経過後に出現しなかった相続債権者・受遺者は、原則として清算手続での権利行使ができません【民法第958条】。
b.相続人探索の範囲
(a)戸籍・除籍・改製原戸籍の精査、住民票・戸籍の附票、関係者への照会、必要に応じた海外在住可能性の確認など、実務的調査が求められます。係属中の親子関係訴訟の有無は、管轄裁判所への照会等で把握します。
c.特別縁故者への分与と国庫帰属
相続人が見つからず、清算を終えて残余がある場合は、特別縁故者への分与が認められ得ます【民法第958条の2】。分与後に残余があれば国庫に帰属します【民法第959条】。
※特別縁故者は「被相続人と特別の縁故のあった者」に限られ、単なる知人や遠縁では足りません。分与の可否と範囲は、家庭裁判所の審判で個別に判断されます。
d.相続人不存在と他制度の峻別
(a)相続人が判明しているのに所在が分からない場合は不在者財産管理【民法第25条以下】、長期不在で生死不明なら失踪宣告【民法第30条】の活用を検討します。相続人不存在制度は、あくまで「帰属すべき者が明らかでない」状態のための清算フレームです【民法第951条】。
e.実務上の注意点
(a)社会的に単身死亡・推定相続人不存在の事案が増加する中、清算人の選任後の公告・催告運用(期間設定・個別催告の徹底)と、相続財産の保全・売却の迅速化が重視される傾向にあります。
(b)また、全部包括遺贈がある場合は、上記最判の理に従い、相続財産清算人選任の申立てを避け、遺言執行者等が主体となって処理するルートが選好されます。
イ.相続人の捜索手続・公告
(ア)公告の全体像
a.相続人不存在の場面では、公告は原則として三段階で進みます。第一に、家庭裁判所は相続財産清算人を選任したうえで、その選任を公告します【民法第952条2項】。第二に、清算人は相続債権者・受遺者に対し、二か月以上の期間を定めて請求申出を促す公告を行います【民法第957条1項】。第三に、なお相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所が「相続人があるなら一定期間(6か月以上)に権利を主張すべき」旨の公告を行います【民法第958条】。
b.「清算人選任の公告【民法第952条2項】→清算人による請求申出公告【民法第957条1項】→家庭裁判所による相続人への権利主張公告【民法第958条】」という三段階で運用します。6か月以上の期間は【民法第958条】に基づくものです。これにより、清算・確定までの期間が実務上短縮されています。
※公告は官報によるのが通例で、個別連絡は例外にとどまります。
(イ)各公告の内容と期間
a.家庭裁判所の公告(清算人選任)
家庭裁判所が清算人を選任したときは、遅滞なく、その旨を公告します【民法第952条2項】。この公告は、手続の始動を外部に公示する役割を果たします。
b.清算人による請求申出の公告(相続債権者・受遺者向け)
上記の家庭裁判所公告がなされた後、清算人は、すべての相続債権者・受遺者に対して、二か月以上の期間を定めて請求申出を促す公告を行います【民法第957条1項】。この期間は、後続の相続人への権利主張公告【民法第958条】と抵触・重複が生じないよう、実務上、全体スケジュールを調整します。
c.家庭裁判所による相続人への権利主張の公告(6か月以上)
なお相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所は「相続人があるなら一定期間(6か月以上)に権利を主張すべき旨」を公告します【民法第958条】。この公告期間満了が、以後の特別縁故者への分与【民法第958条の2】や国庫帰属【民法第959条】へ進む前提となります。
d.期間の起算点
期間の起算は、官報掲載日(公告日)等、公告で特定された日から進行させるのが実務です。具体的には公告文に起算点が記載されるのが通例で、日付特定により利害関係人の予測可能性を担保します。
(ウ)期間内の権利主張と満了時の効果
a.相続人からの主張があった場合の扱い
相続人である旨の主張が期間内に提出されたとき、家庭裁判所は、明白に不適法でない限り受理し、清算人に通知するのが相当とされています。相続人性を巡って争いがあれば、最終判断は別途の訴訟手続で決せられます【東京高裁昭和39年3月30日判決参照。)。期間内に主張がされていれば、たとえ当該訴訟係属中に公告期間が満了しても、直ちに「不存在確定」とはなりません。
b.多数の申出が交錯する場合
公告期間の進行は申出人ごとに独立して評価され、特定の申出に関する訴訟係属が他の潜在的申出人の期間を延長させることはありません。したがって、各人は自らの期間管理に留意すべきです。
c.期間満了時の効果(失権と次段階)
(a)公告期間内に「相続人としての権利を主張する者」がなかったときは、相続人並びに清算人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を行使できません【民法第958条の2】。いわゆる失権効果が生じ、清算の確定に向けた基礎が整います。
(b)失権の対象は、清算の性質上、弁済によって消滅し得る権利(貸金債権など)を中心に理解されます。他方、地役権・地上権等の用益物権や、対抗力を具備する賃借権は、失権の対象とならず、後続の承継主体(特別縁故者・国庫等)に承継されるのが原則です。
(c)相続人の不存在が確定した後は、残余財産があれば、特別縁故者への分与【民法第958条の3】、なお残れば国庫帰属【民法第959条】へと進みます。
ウ.実務上の注意点
(ア)公告の設計
家庭裁判所の6か月公告【民法第958条】を起点に、清算人の二か月公告【民法第957条1項】との重複・抵触が生じないよう全体スケジュールを組みます。公告文の表現(起算点・満了日)は、後日の紛争予防上、明確かつ整合的であることが重要です。
(イ)申出・主張の受付実務
相続人性の主張書面は、戸籍・判決謄本等により疎明を伴うのが通常です。明白に不適法でなければ受理し、清算人が併行して財産の把握・保全・換価を進めます。訴訟で相続人性が否定された場合でも、清算人の権限内行為の効力は法の予定するところに従い保全されます(制度趣旨との整合)。
※公告は官報掲載が基本です。期間管理を誤ると、相続人としての権利主張や、債権者・受遺者の請求ができなくなることがあります。疑問があれば、公告に記載された満了日を必ず確認してください。
a.選任手続
(a)相続財産法人が成立した場合
家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の申立てにより、相続財産清算人を選任します【民法第952条1項】。もっとも、本制度は「相続人の不存在という状態にある相続財産とその法律関係を処理する」ための枠組みですから、清算人を置く必要が認められないときは、申立ては却下されます。
例えば、相続財産が全く(又はほとんど)存在しないように見えても、相続人のいない被相続人から不動産の譲渡を受けた者が対抗要件を備えていない場合(登記未了のまま被相続人が死亡したとき等)には、その者に適式の対抗要件を取得させるため、清算人の選任が相当と判断されます。
反対に、相続財産も、処理すべき法律関係も全くないと認められるときは、相続人不存在手続自体をとる必要はありません。選任後に不適任が判明した清算人は、家庭裁判所が職権で解任できますし、選任審判後に要件欠缺が判明したときは、申立てにより当該審判が取り消されます(いずれも家事審判の枠組みで運用)。なお、選任の審判や申立て却下の審判に対しては、不服申立ての手続は予定されていません。
※清算人は「遺産の管理人」と似ていますが、役割は“清算の完了”までを担う点に特徴があります。財産の把握・保全、換価・弁済、公告・催告、特別縁故者への分与や国庫帰属まで一連の処理を指揮します。
(b)申立権者
申立権者は、利害関係人又は検察官です【民法第952条1項】。検察官に権限が付与されているのは、相続財産が社会的・公益的な意味を持つ場合があるためです。
「利害関係人」の範囲は条文上明確ではありませんが、一般に、相続財産の帰属・清算に法的利害を有する者が該当します。典型例として、相続債権者、特定受遺者、相続債務者、被相続人に対して何らかの請求権を持つ者などが含まれます。さらに、特別縁故者として【民法第958条の2】に基づく分与を求めようとする者も、利害関係人に当たると解されています【昭和41年8月4日・家二111号・最高裁家庭局長事務取扱回答】。
上記の他にも実務では、利害関係人に該当すると扱われる例として、次の者が挙げられます。
1)都道府県知事等
道路・河川等の公共事業のために民有地を取得する場面で、当該土地の所有者の相続人の存否が明らかでないとき、所管国有財産の取扱いに関わる立場から、知事等を利害関係人と認めた先例があります【昭和38年12月28日・家二163号・最高裁家庭局長回答】。
2)生活保護の実施機関たる市町村長
生活保護法による措置を行った実施機関は、求償の観点から利害関係人とされます【昭和35年6月13日・民事甲1459号・民事局長回答】。
3)葬式費用を支出した者
厳密には相続債権者と位置づけにくい場合がありますが、相当額の葬式費用の償還を求め得る利害から、利害関係人に含める取扱いが示されています。
4)国庫
残余財産の帰属先となり得る関係から、通説上、利害関係人に当たります。
※「利害関係人に当たるか」は、清算手続によって現実に権利・負担が影響を受けるかで判断されます。根拠資料(請求権の存在を示す契約書・領収書・行政処分書等)を添付して申立てるのが実務です。
(c)時効の停止
相続財産清算人が選任されると、その時から6か月間、相続財産に関する時効は完成しません(完成猶予)【民法第160条】。この規定は、選任時点で既に時効期間が経過していたかどうかを問わず適用されると解され、選任時点から6か月を経過するまでは、取得時効の完成は認められません。相続財産に属する不動産を、善意無過失で平穏・公然に占有していた者であっても、清算人選任前に時効が完成することはなく、他方で選任後6か月を経過した段階で要件充足があれば完成する、とする最高裁判例があります【最高裁 昭和35年9月2日判決】。
※「完成猶予」は、その間、時計が止まるイメージです。選任により一旦6か月分の“猶予”が入り、その後、残りの期間の進行に移ります。清算人が財産の保全・換価に着手するための時間的余裕を確保する仕組みと理解してください。
b.相続財産清算人の地位・権限
(a)相続財産清算人の地位
相続財産清算人(旧称:相続財産管理人)の法律上の位置付けは、相続財産法人の代表者と解されます【民法第951条・第952条】。したがって、抵当権者が担保権を実行する場合、相続人が不存在であれば、相続財産清算人の選任申立てを行い、選任後は相続財産法人を相手方として手続を進めるのが原則です。売主死亡・相続人不存在の状態での所有権移転登記(被相続人名義の不動産の登記移転)も同様で、清算人が代表して必要な処理を行います。
訴訟法上も、当事者適格は相続財産法人に帰属し、清算人個人ではありません。よって、清算人個人を被告としながら相続財産法人に対する効果を生じさせるような判決は不適法となります。加えて、清算人選任後に相続人が判明し【民法第955条本文】相続財産法人が遡及的に不成立と扱われる場合には、清算人は相続人の法定代理人に転化すると解され、法的連続性を確保します。
第三者が相続財産に関する訴えを提起したいが、清算人選任までに証拠保全や時効中断などの緊急性があるときは、特別代理人の選任申立てが許されます【民事訴訟法第35条】。もっとも、特別代理人選任の後に清算人が選任された場合、両者の権限は自動的に重なって消滅するのではなく、裁判所の解任により特別代理人の代理権が消滅するのが原則です【最高裁 昭和36年10月31日判決】。
※「清算人」は相続財産法人の“代表窓口”であり、相続財産の名で対外的に行為します。個人名義で争うのではない点が重要です。
(b)相続財産清算人の権限
1)権限の基本枠組み
相続財産清算人の権利義務には、不在者財産管理人の規律が準用され【民法第953条】、清算人の権限は「権限の定めのない代理人」【民法第103条】と同水準を基本とします。すなわち、保存行為および性質を変えない範囲での利用・改良行為は単独で可能ですが、それを超える処分等は家庭裁判所の許可を要します【民法第28条】。
家庭裁判所の許可なく行える典型例として、被相続人が生前に締結した売買契約の履行としての所有権移転登記への協力や、履行としての相続財産の売却、書面によらない贈与の取消し、相手方から提起された訴え・上訴に応じる訴訟行為などが挙げられます。
これに対し、清算人自らが原告として訴えを提起する場合に許可が要るかは議論があるところですが、実務では敗訴時の責任や相続財産の減少リスクへの配慮から、原則として家庭裁判所の許可を得て提訴する運用が広く採られています。
なお、許可を要する行為について無許可で行った場合は無権代理となり、追認や表見代理の規定が問題となります【民法第113条・第110条】。
2)委任準用と善管注意義務等
清算人は家庭裁判所が選任する財産管理者であることから、その職務遂行には民法の委任規定が準用されます【民法第644条・第646条・第647条・第650条】。
清算人は善良な管理者の注意義務を負い、相続財産の状況に応じた保全・換価・弁済等を適切に進めなければなりません。また、職務上受領した金銭その他の物は相続財産法人に引渡す義務があり、自己のために消費したときは消費の日以後の利息を支払う責任を負います。清算人の過失により相続財産法人に損害が生じた場合は、損害賠償責任を負います。
一方で、清算人が相続財産の管理に必要な費用を立替えたときは、その額および支出の日以後の利息の償還を相続財産法人に請求できます。管理に必要な債務を負担した場合には、その弁済や担保の提供を求めることができ、また自己に過失なく被った損害については、相続財産法人に対して賠償を請求できます。
※清算人には「厳しい義務」と「合理的な費用回収・補填の権利」がセットで与えられています。裁判所の許可が必要かどうかは、処分の程度と相続財産の利益保護の観点から判断されます。
(c)相続財産清算人の職責
1)相続財産の調査・目録作成
清算人は就任後、速やかに記録を閲覧して事件の概要を把握し、相続財産の現況を調査します。そのうえで財産目録を2通作成し、1通を監督家庭裁判所に提出します【民法第953条、民法第27条1項本文、家事事件手続規則第112条・第82条1項】。財産の漏れや評価の偏りは後続処理に重大な影響を及ぼすため、金融機関照会や不動産調査、動産・債権の把握を含め、網羅的に行うのが基本です。
2)相続財産状況の報告義務
清算人は、相続債権者又は受遺者から請求があれば、相続財産の状況を報告する義務を負います【民法第954条】。清算段階で権利行使の可否や配当見込みを判断するために必要な情報の透明化を図る趣旨です。
3)清算義務
清算人は、すべての相続債権者及び受遺者に対して請求申出の公告を行い【民法第957条1項】、その期間満了後、限定承認の清算に準じた手順で弁済・配当・残余処理を進めます。公告・催告の設計は、家庭裁判所による相続人への権利主張公告【民法第958条】との整合が取れるよう調整します。
※「相続人探索→債権者・受遺者の申出→弁済→(残余があれば)特別縁故者への分与→国庫帰属」という順序で、段階ごとの公告・報告義務が連動します。
(d)代理権の消滅
相続財産清算人の代理権は、相続人が相続の承認をしたときに消滅します【民法第956条1項】。相続人が判明すれば相続財産法人が遡及的に不成立となるため【民法第955条本文】、理屈のうえでは直ちに清算人の権限も消えるはずですが、実務上は無管理の空白を生じさせないための調整が必要です。そこで条文は「承認」を起点とし、相続人が直ちに管理を担当できない場合や、その後放棄に転じて再び相続人不存在となる可能性にも配慮した構造になっています。
ここでいう「承認」には、単純承認【民法第920条】、法定単純承認【民法第921条】、限定承認【民法第922条】のいずれも含まれます。承認により承継主体が確定すれば、清算人の権限は消滅しますが、それまでに清算人が権限内で行った行為の効力は維持され、取引安全と清算の継続性が担保されます【民法第955条ただし書】。
※「承認した瞬間にすべてが切り替わる」のではなく、清算人の権限の終期は法が定める起点(承認)により画されます。承認の有無・時期は、公告・催告の進行や弁済計画にも影響するため、実務では早期の把握が重要です。
(2)特別縁故者に対する財産分与
ア.特別縁故者に対する財産分与とは
相続人がいないことが確定した後、家庭裁判所は、相当と認める場合に限り、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故を有した者の申立てに基づき、清算後に残った相続財産の全部又は一部を与えることができます【民法第958条の2】。いわゆる「特別縁故者に対する財産分与」の制度です。
この制度は、遺言がない・遺贈が未整備といった場合に、被相続人と密接な関係にあった者へ財産を配分することで、被相続人の意思・利益に沿った終局処理を図る趣旨と理解されています。一般向けに言えば、「相続人がいないときに、被相続人を実際に支えていた人や団体に、残った財産の分け与えを検討するための手続」と位置付けられます。
イ.特別縁故者の意義
(ア)総論(定義と判断枠組み)
a.特別縁故者は、第一に被相続人と生計を同じくしていた者、第二に被相続人の療養看護に努めた者、第三にその他被相続人と特別の縁故があった者を指します【民法第958条の2】。これらは例示列挙であって相互に優先順位はありません。家庭裁判所は、被相続人の意思との整合、生前の交際・扶助の密度、精神的・物質的な庇護の程度、死後の供養の実態など諸事情を総合して、分与の可否・割合を裁量判断します。
b.裁判例は、自然的血族関係の有無も一事情として考慮し得ること、血族であれば一般に縁故の濃さが推認され得ることを指摘しています【大阪高裁 昭和44年2月24日決定】。ただし血族か否かのみで結論が決まるわけではなく、具体的事情の積み重ねが中心です。
※この制度は「相続人がいないときに、実際に被相続人を支えてきた人や関係に応じて、残った財産の分け与えを裁判所が審査する仕組み」であり、相続分そのものではありません。清算後の残余が対象となります。
(イ)被相続人と生計を同じくしていた者
a.趣旨
密接な生活共同があるのに民法上の相続権がない者を救済する観点から想定された類型です。全くの第三者というより、親族又はそれと同視し得る実質的関係にある者が中心となります。判断は同居の有無だけでなく、家計の一体性、生活費の負担状況、家事分担、共同生活の継続期間などの実態で行われます。
b.典型例(代表的な認容類型)
1)内縁の配偶者
制度創設時の主要な保護対象の一つとされ、多数の認容例があります。例えば、長年にわたり生活を共にし、葬祭を主宰した事案や、数十年の同居・実質的夫婦関係が継続した事案で認められています(山口家裁 昭和49年12月27日審判、東京家裁 昭和38年10月7日審判、岡山家裁 昭和46年12月1日審判)。
2)事実上の養子
法律上の養子縁組は未了でも、長期にわたり親子同然の生活実態があり、被相続人の扶養・監護等が認められるときは肯定される例が多く見られます。
3)おじ・おば
血縁上も生活実態上も近接した関係にありつつ相続権がないため、被相続人の生計維持に実質関与していれば特別縁故者と認められることがあります。
4)継親子
法律上の親子ではなくても、長期同居・扶養関係など生活共同の実態が厚い場合には肯定例があります。
5)亡子の妻
被相続人の子の死亡後も被相続人と同居し、家計・生活維持を共同で行っていた事情があれば対象となり得ます。
6)亡継子の子
被相続人との間で長期的に生活共同や扶助関係が認められるときは、実質に着目して判断されます。
7)未認知の非嫡出子
認知がないため法定相続人ではありませんが、被相続人と長期にわたり同居・生計維持を共にした実態があれば、事情により該当が検討されます。
※同居していたという一点だけではなく、生活費の立替えや介護・家事の分担、被相続人の収入・支出の管理状況など、生活共同の“濃さ”を示す資料(家計簿、送金記録、賃貸借契約、関係者の陳述など)が重視されます。
(ウ)被相続人の療養看護に努めた者
a.趣旨と判断要素
被相続人の療養や介護に実質的に尽力した者について、被相続人の謝意を推認し、遺言が可能であれば当該者へ遺贈がなされたであろう事情を根拠に、清算後残余の分与対象とするのが趣旨です【民法第958条の2】。判断に当たっては、看護の期間・頻度・内容(通院付添い、投薬管理、家事負担、入退院対応等)、費用負担の有無・程度、他に代替担い手がいたか、看護により本人の生活や就労にどの程度の犠牲が生じたか、といった具体的事情が総合的に考慮されます。
※療養看護の継続性や密度、そして被相続人との関係の実質が重視されます。
b.親族による看護が肯定された例
血縁者が長期にわたり生活・精神面の支援を継続し、死亡後も葬儀や祭祀を主宰した事情を重視して特別縁故者性を認めたものがあります(鹿児島家裁昭和38年11月2日審判)。例えば、独居高齢の兄弟姉妹に対し、日常的な相談相手となり、死亡後は一切の葬祭を執行し、その後も継続して祭祀を主宰する意思・実績があるといった事情が評価されています。
①看護・扶助が長期間かつ実質的であること、②死亡後の供養等も含め、生活・死後事務に一体的に関与していることがポイントになりました。
c.親族以外の看護が肯定された例
民生委員が自宅・入院中を通じて食事・洗濯等の身の回りを継続的に世話し、葬儀まで手配した事案(前橋家裁昭和39年10月29日審判)、職場の元同僚が入院手続・見舞い・退院後の世話・葬儀対応など約5か月にわたり実質的看護を行い、死後の供養も継続した事案(東京家裁 昭和46年11月24日審判)で、特別縁故者性が肯定されています。
親族でなくても、実質的なケアの継続と、被相続人の生活・療養に対する代替困難な貢献があれば、対象となり得ます。
d.職業的担い手(看護師・家政婦等)の取扱い
職業として看護・家事支援を行い正当な報酬を得ている者は、原則として特別縁故者には当たりません。他方で、報酬を超えて献身的に尽力した「特別の事情」があれば例外的に認め得るとされ、2年以上にわたり連日誠実に看護し、その態様・報酬水準からみて対価を超える貢献が認められる場合に特別縁故者性を肯定した審判例があります(神戸家裁 昭51年4月24日審判・)。
実務上は、業務委託・雇用契約に基づく通常業務の範囲か、それを超える私的・継続的関与があったかを、勤務記録、支払明細、関係者陳述等で具体的に立証していきます。
e.立証の着眼点(簡潔)
特別縁故者性は機械的に決まりません。①看護の連続性・頻度・具体内容、②費用負担(交通費・医療費立替え等)と損失(休業・減収)、③他の親族等の関与状況、④死後の葬祭・供養の実態、⑤被相続人の謝意を示す言動(手紙・メモ・関係者証言)などを総合評価します。
※写真・メモ・領収書・SNSのやりとりなども根拠資料になり得ます。清算人・家庭裁判所に事情を伝える「具体的な証拠の束」を準備することが、分与判断に直結します。
(エ)その他被相続人と特別の縁故があった者
法定相続人ではない親族や友人等で、被相続人から生活上の扶助や精神的・物質的な支援を受けるなど、密接で継続的な関わりがあった者が想定されます。裁判例は、「生計同一者」「療養看護者」に準ずる程度に具体的かつ現実的な交渉が存在し、当該者への分与が被相続人の意思に合致すると推測できるほどの密接な関係を要すると解しています(東京家裁 昭和60年11月19日審判)。
判断の着眼点としては、交流の継続期間・密度、生活費や住居の提供・立替え等の具体的扶助、被相続人の生前の言動(謝意の表明等)、死亡後の葬儀・供養の実態、反対当事者の有無や利害の調整可能性などが挙げられます。
※単なる知人関係を超えて被相続人の最期の局面まで支えたか、あるいは長期にわたって生活基盤を支えたといえるか等が重視されます。
(オ)その他の問題点
a.過去における一時期の縁故
死亡時点では関係が希薄でも、過去の一定期間に顕著な扶助や共同生活が存在した場合、事情によっては「特別の縁故」が肯定され得ると解されています(通説)。継続性が短くても、貢献の質・独自性が高いときは考慮の対象となります。
b.被相続人と申立人の同時存在
相続では原則として相続開始時の同時存在が要請されますが、特別縁故者による分与は国庫帰属前の恩恵的配分という性質に照らし、同原則の制約を受けないとする審判例が多数です。被相続人の死亡後に出生・縁組等により申立人の地位が生じた場合でも、本制度の趣旨に沿う限り直ちに排斥されません(大阪家裁 昭和39年7月22日審判)。
※ここでのポイントは「被相続人の意思の推認」と「残余財産の公正な帰属」であり、形式的な同時存在の有無そのものではありません。
c.死後縁故
死亡後に形成された関係(葬儀・納骨・法要の主宰、継続的な祭祀・供養など)をもって特別縁故を肯定した裁判例があります。例えば、幼少時から身近な親族として交流があり、死亡後は遺族同様の世話・祭祀を継続する意思と実績がある者を含めた方が、条文の趣旨や故人の意思に合致するとした決定【大阪高裁 昭和45年6月17日決定】や、被相続人が生前に予見できたなら遺贈等の配慮をしたはずの事情がある場合に、死後に生じた縁故でも【民法第958条の2】の「その他の特別の縁故」に当たるとした審判(福島家裁 昭和46年3月18日審判)があります。
もっとも、死後に特別な縁故が生じた場合は、形式的に広げすぎると恣意を招きます。実務では、①生前からの基礎的関係の有無、②死後事務(葬祭・供養等)の実質、③他の申立人や利害関係人との衡量、④被相続人の推認意思との整合性を丁寧に立証・評価する運用が一般的です。
※写真・領収書・弔問記録・寺社の証明書・関係者の陳述書など、客観資料の積み上げが結論を左右します。
エ.相当性
(ア)総論
特別縁故者に対する財産分与は、清算後の残余を「与えることが相当である」場合に限られます【民法第958条の2】。相当性の判断は、被相続人と申立人との縁故関係の厚薄・継続期間・具体的内容(生計同一、扶助、看護、葬祭・供養の実態等)、申立人の年齢・職業・生活状況、他に扶養・供養の担い手がいたか、相続財産の種類・数量・価額・所在・維持管理の負担、被相続人の推認意思(言動・手紙・関係者証言)など、一切の事情を総合考慮して裁量決定されます【高松高裁 昭和48年12月18日決定】
また、分与の方法(現物か金銭か)や割合は、残余財産の内容と処分容易性、特定の財産に対する申立人の関与の程度(居住・管理・維持費負担等)を踏まえて設計されます。残余が乏しい場合や国庫帰属【民法第959条】との比較衡量で公益上の配分が妥当といえない場合は、不認容または一部認容となり得ます。
※この制度は「相続分の付与」ではなく、最終段階の“恩恵的な配分”です。請求すれば当然にもらえるわけではなく、どれだけ関わってきたかを具体的資料で示す必要があります。
(イ)複数の申立てがある場合
条文に配分基準の明文はありませんが、複数申立人が競合する場合、家庭裁判所は遺産分割の衡平原則に類する考慮(【民法第906条】の趣旨)を参照しつつ、各人の関与の質・量・期間、重複の有無、今後の生活状況、残余財産の性質(住居用・事業用・換価の可否)などを総合して按分割合を定めます。
例えば、Aが長期同居で家計を担い、Bが末期の看護・葬祭を主宰したような事案では、双方の貢献の性質が異なるため、金銭と現物を組み合わせる、または一部のみ認容するなど、きめ細かな調整が行われます。申立人数が多いからといって機械的な等分となるわけではなく、寄与の重なりや他の救済(葬祭費の清算等)が既になされていないかも考慮対象です。
※複数で申立てるときは、「自分が担った役割」を重複なく分かるようにまとめると、裁判所が評価をしやすくなります(同居・送金・看護・葬祭などを時系列で整理)。
(ウ)長期間経過後の申立て
被相続人の死亡から長期間を経た後の申立てでも、法は期間制限を定めていません。裁判例も、【民法第958条の2】の申立てに「死亡後相当期間内」といった制限はないとして、長期経過後の申立てを認めたものがあります(熊本家裁 昭和47年10月27日審判)。
もっとも、時間の経過は「相当性」の評価や立証に不利です。①関係者の記憶の風化、②領収書・家計簿・医療費明細等の散逸、③残余財産の変動(換価・処分済み)、④清算実務の進行状況(債権者弁済・特別縁故者への配分枠の残存)などにより、認容の範囲が狭まることがあります。既に国庫帰属が確定しているときは、もはや本制度の対象となりません【民法第959条】。
※遅れて申立てる場合は、過去の関与を示す客観資料(住民票履歴、送金記録、介護記録、葬祭関係書類、写真、関係者陳述書など)をできる限り集め、当時の事情を時系列で明確にすることが重要です。
オ.財産分与の手続
(ア)申立手続
a.申立権者
1)申立てできるのは特別縁故者に限られます【民法第958条の2】。分与は申立人個人に対してのみ許され、第三者(申立人以外)へ直接配分することはできません(通説・判例。大阪家裁 昭和43年11月18日審判)。
2)管轄は相続開始地の家庭裁判所です【家事事件手続法第203条3号】。
3)申立期間は、相続人に対する権利主張の催告期間満了後3か月以内とされています【民法第958条の2第2項】。期間徒過後の申立ては認められません。
4)申立てには、被相続人との特別の縁故関係を具体的に疎明する必要があります【家事事件手続規則第110条1項】。申立書には、縁故を基礎付ける事実関係(生計同一の実態・看護の内容と期間・葬祭や供養の実行等)を詳述し、関係人の戸籍謄本、同一世帯の住民票、被相続人の意思を推測させる資料(手紙・メモ・陳述書等)を添付します。
5)特別縁故者となり得る者が申立てをしないまま死亡した場合、その「特別縁故者たる地位」自体は相続の対象とならず、相続人は申立人の地位を承継できません(通説・判例。大阪家裁 昭和39年7月22日審判)。
※申立期間は原則として延ばせません。公告の満了日と「3か月」の起算を必ず確認し、資料収集を前倒しで進めることが重要です。
(イ)審理手続
a.申立通知
申立てがあると、家庭裁判所は遅滞なく相続財産清算人にその旨を通知します【家事事件手続規則第110条2項】。清算人は、当該事件が終局に至るまで相続財産の管理を継続します。
b.併合審理
(a)数人から申立てがある場合、審判手続および審判は併合しなければなりません【家事事件手続法第204条2項】。各申立人の縁故関係を比較衡量し、結論の抵触を防ぐ趣旨です。
(b)申立てが複数の家庭裁判所に係属する場合には、相続財産清算人選任裁判所への移送等により一裁判所で審理する運用が望ましいとされています【昭和37年6月28日・最高裁家二第116号・最高裁家庭局長通達】
c.清算人の意見聴取
家庭裁判所は、分与の審判に際して相続財産清算人の意見を聴取しなければなりません【家事事件手続法第205条】。清算人は相続財産法人の代表者として全体状況を把握しているため、実情に即した判断に資するためです。意見聴取は書面・審問・調査官調査で行われます。
d.換価命令
(a)分与のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は清算人に対し、相続財産の全部又は一部の競売又は任意売却を命ずることができます【家事事件手続法第207条・第194条、家事事件手続規則第111条・第103条4項~9項】。
(b)この換価命令に対して、申立人または清算人は即時抗告が可能です【家事事件手続法第207条・第194条5項】。
(c)換価命令確定後に事情が変更し、命令の理由が消滅したときは、家庭裁判所はその審判を取り消すことができます【家事事件手続法第207条・第194条3項】。
※現物分与が困難なときは換価して金銭で配分します。居住用不動産などは、占有状況・処分容易性・費用対効果を見て方法を選びます。
(ウ)審判
a.手続
(a)分与の審判は、申立人を相続財産についての具体的権利者とする「形成的審判」に当たります。
(b)審判の告知は、分与を許す場合は申立人および清算人に、却下の場合は申立人に行います。
(c)申立人および清算人は分与審判に、申立人は却下審判に対して、それぞれ即時抗告ができます【家事事件手続法第206条1項】。
b.効力
分与審判が確定すると、特別縁故者は相続財産を取得します。その法的性質は、相続財産法人からの無償の給付(贈与に類する性質)として整理されます。
※審判確定までは取得は確定しません。確定後、清算人の指示に従い、移転登記・名義変更・引渡し等の手続を進めます。
(エ)分与対象財産
a.範囲
分与の対象は「清算後残余すべき相続財産」全般です【民法第958条の2】。不動産・動産・金銭・預貯金・有価証券・債権等、相続財産を構成する一切が対象となり得ます。
b.方法
原則は現物分与ですが、前記のとおり換価による金銭分与も行われます。特定の財産に申立人の生活基盤が結び付いているときは、個別事情に応じて現物を優先し、他の申立人には金銭等で均衡を図るなどの調整が行われます。
(3)相続財産の国庫帰属
ア.手続の流れ
相続人に対する権利主張の催告期間満了により相続人不存在が確定した後、3か月以内に特別縁故者から分与の申立てがあれば、その審理を経て却下か認容が決せられます。分与後もなお相続財産が残る場合は、その残余は国庫に帰属します【民法第959条】。
※特別縁故者への配分は国庫帰属に先立つ「中間段階」です。申立てがなければ直ちに国庫帰属の検討に移ります。
イ.国庫帰属の時期と清算人の地位
国庫帰属の発生時期については学説上の議論がありましたが、最高裁は、相続人不存在の場合において特別縁故者に分与されなかった財産は、相続財産清算人が国庫へ引継ぎをした時点で国庫に帰属し、全部の引継ぎが完了するまでは相続財産法人は消滅せず、清算人の代理権も未了財産について存続すると判示しました【最高裁 昭和50年10月24日判決】。この判断により実務の扱いは統一されています。
※国庫への引継ぎは財産ごとに行われます。引継ぎが完了するまでは清算人が最後まで管理・処理を担い、必要な登記・解約・残務整理を進めます。