Q&A法律相談

第6 相続財産

損害賠償請求権の相続

先日、実家に運転を誤った車が突っ込み、建物が損傷すると共に、父が重症を負いました。
父は入院していましたが、肺炎を併発して亡くなりました。
相続人は私しかいないため、父名義の自宅土地建物を相続することになりますが、父死亡時点では損傷した建物しかなかったのですが、この建物を相続することしか出来ないのでしょうか。私から加害者に修理費用を請求することは出来ますか。

交通事故のような不法行為や契約違反等の債務不履行があった場合、加害者や債務者に対して、損害賠償請求権が発生します。 そして、この損害賠償請求権は、単純な金銭債権であり、原則として相続の対象となります。

ご相談の事例でも、「父」の身体障害に関する治療費等、そして、建物の損傷に関わる修理費用等の何れについても、「父」に損害賠償請求権が発生しており、これが相続人に承継されることになります。ただ、死亡の原因が肺炎であり、交通事故と因果関係が無いということになると、この点の損害賠償請求権は発生していないということになります。

ところで、例えば、犯罪や交通事故等で被害者が死亡した場合、被害者は、死亡の時点で権利能力(法律上の権利義務の主体となる能力)を失うため、そもそも被害者自身が損害賠償請求権を取得せず、相続の対象となる損害賠償請求権が存在しないのではないかという議論が存在します。しかし、このような結論は形式的に過ぎ、また被害者が重症であった場合との均衡を著しく失することから、たとえ即死の場合であっても、被害者自身が取得する損害賠償請求権を観念し、これが相続の対象になるとされています。
更に、慰謝料請求権は、被害者個人の心情に基づく損害賠償請求権であるため、一身専属権として相続の対象にならないのではないかという問題が生じます。しかし、この点でも、慰謝料請求権も金銭債権であることにかわりはなく、相続の対象になると解釈されています(最高裁昭和42年11月1日判決等)。
以上より、ご相談の事例では、「父」の受傷に基づく治療費、慰謝料、入院のための雑費、そして、建物の修理費用等が相続人より取得されており、これを加害者に請求することが出来ます。