相続問題の専門知識

遺産分割

分割すべき遺産の確定

分割すべき遺産を確定する

被相続人が相続開始時に有していた権利・義務は、原則としてすべて相続の対象となり、相続人に承継されます。

しかし、相続の対象となるかということと、相続の対象となるとしても遺産分割(遺産分割審判)の対象となるかということとは法的に区別して考えられています。

遺産分割の対象から除かれて扱われる遺産がありますので、財産の種類ごとにご説明します。

1. 相続開始時にある財産

ア. 現金

被相続人の財布の中に入っていた現金や、金庫等に置かれていた現金について、分割方法が問題になる場合があります。

現金が相続の対象になることはもちろんですが、遺産分割の対象になるかどうかは議論があり得るところです。

実務では、最高裁の判例によって、遺産分割の対象となることが示されました(最判平成4年4月10日)。

イ. 預貯金

預貯金が相続の対象になることはもちろんです。法律上は預貯金債権といわれ、金銭債権のひとつとして扱われます。

預貯金が遺産分割の対象になるかどうかは議論があり、多くの裁判例でも争われてきました。この議論については、平成28年の最高裁決定で、預貯金は遺産分割の対象財産であるという結論が示されました(最大決平成28年12月19日)。

そのため、今後は預貯金も原則として遺産分割の対象財産に含まれることとなります。

なお、2019年7月1日以降、各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始時の債権額の3分の1に法定相続分を乗じた額(法務省令で定めた額を限度とする。2019年7月1日現在は150万円。)については、単独で払戻しを受けることができます(民法909条の2)。この規定は、2019年6月30日以前に開始した相続についても、同年7月1日以降に預貯金債権を行使する場合には適用されます。

これにより払戻しを受けた預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなされます。

預貯金についての議論の概略

一般の方からすると、当たり前のように預貯金が遺産分割の対象になると思われるでしょう。しかし、平成28年の最高裁決定の以前は、預貯金は可分債権として法律上当然分割されると考えられるため、遺産分割の対象にはならないものと扱われてきました(最判昭和29年4月8日等)。

もっとも、実務上は、柔軟にバランスを取りながら遺産分割を行えるように、相続人全員に合意を求めることによって、預貯金を遺産分割の対象として扱っていたのが実情です。

また、銀行等の金融機関の実務上も、相続人の一部による払戻しを拒絶し、相続人全員が署名捺印をした遺産分割協議書や払戻し請求書の提出を求めることが通例です。このような取扱いは、金融機関が相続人間のトラブルに巻き込まれることを未然に防止するためといわれています。

このような実務上の取扱いや、預金の法的性質等を考慮して、ついに平成28年、最高裁が、預貯金は遺産分割の対象財産であると示したものといわれています。

ウ. 不動産

土地や建物といった不動産が遺産分割の対象になることに争いはありません。被相続人名義の不動産について、誰がどのように取得するかを決定することになります。

不動産については、ひとりの相続人の単独名義にする場合が多いですが、複数名の相続人の共有名義にする場合もあり得ます。

エ. 不動産賃借権(借地権、地上権、借家権等)

たとえば、被相続人が借家に住んでいた場合等には不動産賃借権が相続の対象となり、遺産分割の対象となります。

オ. 株式(社員権)

社員権が遺産分割の対象となるかどうかは、法人の種類や性質等によって、また権利の性質等によっても扱いが異なります。

一般的に、株式会社の株式については、相続人全員の(準)共有状態になり、遺産分割の対象になります(所有権以外の財産権を複数名で有する場合、共有に準じて「準共有」と呼ばれます。)。

遺産分割協議が成立した後は、株式を承継することとなった相続人が名義書換を行って、単独で議決権を行使することになります。

他方で、遺産分割前の準共有状態の株式の議決権は、どのように行使するかという問題が生じます。会社法では、株式が2人以上の者の共有に属するときは、共有者は、その株式について権利を行使する者1人を定め、株式会社に対してその者の氏名又は名称を通知しなければ、その株式について権利を行使することができない、と規定されています。

そのため、相続人間の協議で、株式の権利行使者1名を選んで、それを会社に通知し、その権利行使者が議決権を行使することになります。

相続人間で権利行使者の希望が合致しない場合には、持分の過半数を有する相続人(相続人グループ)が希望する者を、権利行使者として選定することになります。

カ. 投資信託

投資信託と呼ばれる金融商品については、その種類によって若干取扱いに差がありますが、通常、信託受益権等が遺産分割の対象になるものと扱われています。

キ. 国債

個人の投資家が購入する個人向け国債は、遺産分割の対象になるものと扱われています。

ク.ゴルフ会員権

ゴルフ会員権には、預託会員制、株主会員制、社団会員制の3つの形態があり、このうち預託会員制がほとんどだといわれています。また、裁判例の中には、「ゴルフクラブの会員たる資格」や「会員権者たる資格」といった区別がされているものがあります。

一般的には、預託会員制のうちゴルフクラブの会則が相続性を肯定している場合には、遺産分割審判の対象となります。

実際には、ゴルフクラブを経営する会社や理事会の承認等が必要になることが多いので、個別に問合せをして確認することが必要です。

ケ. 相続債務

たとえば相続開始前の金銭債務は、相続によって各相続人に法定相続分に応じて当然に分割されて承継されると考えられており、遺産分割の対象とはなりません。

もっとも、相続人全員の同意があれば、遺産分割調停の対象になる財産として扱うこともできます。また、債務については、通常、債権者の承諾が必要になるので、相続人間で債務の負担割合を協議したとしても、債権者との関係では法定相続分に応じた債務を負うことになります。

2. 相続開始後に生じた財産

ア. 代償財産

たとえば、相続人が遺産を処分したことにより、遺産それ自体が無くなり、代わりに売買代金請求権や損害賠償請求権実務に姿を変えることがあります。これを遺産の代償財産といいます。

代償財産については、相続人全員が同意して遺産を処分したのか、一部の相続人が他の相続人の同意を得ないで遺産を処分したのかによっても扱いが異なります。

家庭裁判所の実務上は、相続人の意思に基づく処分によって生じた代償財産は、原則として、遺産分割の対象から逸出するが、当事者全員の合意があれば、遺産分割の対象として扱われているとされています。

イ. 遺産から生じた果実(収益)

相続開始後に遺産から生じた収益(たとえば、賃貸不動産の賃料収入や、利息、配当金等)は、相続財産ではないため、当然には遺産分割の対象になる財産として扱われません。

ただし、実務上は、相続人全員に合意を求めることによって、遺産分割の対象として扱っていることが多いでしょう。

最高裁平成17年9月8日判決

最高裁は、賃料収入が遺産分割の対象になるか等が問題となった事案について以下のように判断しています。

  1. 相続発生から遺産分割までの間に、遺産である不動産を賃貸して得られる賃料は、遺産とは別個の財産である。
  2. 不動産を賃貸して得られる賃料(賃料債権)については、各相続人はその相続分に応じ、分割単独債権として確定的に取得する。
  3. 各相続人が確定的に取得した賃料(賃料債権)は、後になされる遺産分割によって賃貸不動産の承継者が決定した場合でも、影響を受けない。

ウ. 生命保険金

生命保険金については、保険金受取人がどのように指定されているかによって扱いが異なります。

(1) 保険金受取人を特定の相続人と指定した場合

指定された受取人が固有の権利として保険金請求権を取得することになりますので、遺産分割の対象とはなりません。

ただし、生命保険金の金額が著しく高額で、他の相続人との間の公平性が大きく損なわれる場合には、特別受益として遺産分割の中で考慮されることがあります。

(2) 保険金受取人を「被保険者」又は「その死亡の場合はその相続人」と指定した場合

相続人が固有の権利として保険金請求権を取得したものとして、遺産分割の対象とはなりません。

(3) 保険金受取人を指定しなかった場合

保険約款では通常「被保険者の相続人に支払います」との条項が規定されており、保険金受取人を被保険者の相続人と指定した場合と同じになるので、相続人が固有の権利として保険金請求権を取得したものとして、遺産分割の対象とはなりません。

エ. 葬儀費用、香典

葬儀費用は、たとえばお通夜の費用や、葬儀告別式の費用、納骨代等をいいます。初七日や四十九日の費用については、見解が分かれるところです。

また、香典は、法的性質としては遺族が支払う葬儀費用を一部負担する趣旨で贈与されるものと扱われています。

葬儀費用や香典は、被相続人の遺産ではなく、誰がどのように負担・清算するかは確定的には決まっていません。喪主の負担とされることが比較的多いですが、ケースバイケースで、相続人全員の合意をもって遺産分割において清算することもあり得ます。

オ. 遺産管理費用

遺産管理費用は、たとえば遺産にかかる固定資産税等の公租公課、地代、建物の保守修繕費等が含まれます。

遺産の管理費用は、被相続人の遺産ではありませんが、実務上は、相続人全員に合意を求めることによって、遺産分割の対象として扱っていることが多いといわれています。

カ. 死亡退職金

公務員や会社員が在職中に死亡した場合等に、退職金が支給されることがあります。死亡退職金は、賃金の後払いとしての性質と、遺族の生活保障としての性質があるといわれています。

死亡退職金が遺産に含まれるかどうかは、確定的には決まっていません。法律や会社内の支給規定の定め方によっても取扱いが異なります。

支給規定等において受給権者の範囲や順位が具体的に定められている場合には、もっぱらその支給規定に従うこととなり、遺産には含まれないものとして、受給権者が固有に取得する取扱いをすることが多いでしょう。

支給規定等において受給権者の範囲や順位が具体的に定められていない場合には、慣行や株主総会等の決議によって個別に判断するほかありません。

キ. 遺族給付金

遺族給付金は、法律等により、被相続人と一定の関係にある親族に対して給付される金銭であり、遺族年金、遺族補償給付、弔慰金、葬祭料等様々な種類があります。

遺族給付金は、法令等により受給権者の範囲や順位が決められていますので、遺族固有の権利として、遺産には含まれないと考えられています。

ク. 使途不明金

使途不明金は、たとえば相続人の一部の者が、被相続人名義の口座から金銭を引き出してその使途が不明のものをいいます。

使途不明金は、本来的には遺産分割調停ではなく、別途民事訴訟で争われるべき問題です。ただし、実務上は、相続人全員の合意を求めることによって、遺産分割の対象として扱われていることも多いでしょう。

使途不明金の問題

一部の相続人が、被相続人が死亡する前や死亡した後に、被相続人の預貯金を引き出して使い込んだことが疑われる場合があります。

被相続人のために使われたものであれば特に問題はありませんが、被相続人のために使われたものでなく、そもそも何に使われたのか分からないという場合が問題になります。

使途不明金について相続人間の協議で解決できれば大きな問題にはなりませんが、遺産分割調停や審判を行うようなケースでは使途不明金について大きな争いになることが多いです。

このような争いについては、遺産分割調停・審判とは別に、使い込みが疑われる相続人に対して、民事訴訟(不法行為に基づく損害賠償請求や不当利得の返還請求)を提起して、解決することになります。

とはいえ、民事訴訟を提起したとしても、使い込みの事実を立証することには相当のハードルがあります。使途不明金の引き出しの時期や、被相続人の当時の状態、被相続人と相続人の関係(日常生活の世話をしていたのか、同居していたのか等)を詳しく精査して、訴訟の見通しを検討する必要があります。

3. 相続財産の調査・資料収集

相続財産について、資産(プラスの財産)と負債(マイナスの財産)を調査し、遺産の全容を把握しなければなりません。

また、相続財産だけではなく、「みなし相続財産」(相続財産そのものではありませんが、相続税の課税対象になる財産)についても調査を行う必要がある場合もあります。

そのため、財産の種類ごとに、適切な調査・資料収集を行っていくことがとても大事です。

ア. 不動産

(1) 名寄帳・課税台帳

名寄帳は、ある人が所有する不動産の(市区町村ごとの)一覧表です。市区町村によっては、名寄帳という名称ではなく、「土地家屋課税台帳」や「固定資産課税台帳」とも呼ばれます。

不動産がどこの市区町村に所在しているかさえわかれば、名寄帳は、その市区町村の役所(通常は固定資産税課です。)で入手することができます。

被相続人が不動産を所有していたことは知っているけれど、具体的な地番等まではわからないという場合や、不動産の数が多すぎて全物件を把握できていないという場合にも、名寄帳を申請すれば、その人の所有している全ての物件の明細(土地の地番、地積、地目、評価額等や、建物の所在、家屋番号、種類、構造、床面積、評価額等)を調べることができます。

また、固定資産税の納税通知書や課税明細書には、非課税物件(評価額がとても低いため課税されていない不動産、公衆用道路等)が記載されていない場合が多いですが、名寄帳には非課税物件も記載されます。

ただし、市区町村によっては、非課税物件を省略して発行されてしまう場合もありますので、窓口で非課税物件も記載して欲しいと申し出ると良いでしょう。

(2) 固定資産税の納税通知書・課税明細書

毎年4月~5月頃に市区町村から送付されます。固定資産税の納税通知書・課税明細書には、税額以外にも、物件の明細が記載されています。

なお、課税明細書は、その年の1月1日現在の登記情報を基に作成されますので、1月1日から相続開始までの間に不動産を売買した場合等には、反映されていません。

(3) 登記事項証明書、登記情報

遺産目録や遺産分割協議書を作成する場合には、物件情報を正確に記載する必要があります。そのためには、登記事項証明書を取り寄せる必要があります。

登記事項証明書等は、登記所又は法務局証明サービスセンターで入手することができます。窓口での交付請求や、郵送による交付請求だけでなく、インターネットを利用してオンラインによる交付請求を行うこともできます。

(4) 固定資産評価証明書

都税事務所や市区町村役場では、固定資産税評価証明書を入手することもできます。相続を原因とする登記手続をする際には、最新年度の固定資産評価証明書が必要となります。

イ. 預貯金

預貯金の残高を把握するためには、通帳や残高証明書が必要になります。残高証明書は、ある時点での残高を銀行等に証明してもらう書類です。

残高証明書の申請には、相続人であることがわかる戸籍謄本等を銀行等に示す必要があります。また、被相続人名義の口座を特定するために、通帳やキャッシュカードがあるとスムーズです。

通帳やキャッシュカードが見当たらない場合でも、氏名、住所、生年月日等をもとに銀行等に調べてもらうことも可能ですが、住所変更を銀行等に届け出ていない場合等には漏れがあり得ますので、注意が必要です。

また、相続開始時点の残高証明書だけでなく、一定期間の入出金の履歴を確認したい場合には、取引履歴の発行を各銀行等に申請することができます。ただし、取引履歴の保存期間は各金融機関によっても異なります。

ウ. 生前贈与

相続税対策等を目的として、被相続人が、相続人や第三者に対して生前贈与をしている場合があります。贈与契約書、贈与税の申告書、通帳の入出金等を確認することになります。

エ. 投資信託

取引のある証券会社・銀行で、取引報告書や取引残高報告書等を入手することができます。また、定期的に郵送されてくる場合もあります。

また、配当金等が、指定口座に入金される場合もあるので、通帳や取引履歴等でも投資信託の手掛りを得られる場合があります。

オ. 生命保険

保険証券によって、契約者、被保険者、保険金受取人、保険金額等を確認することができます。また、所得税の確定申告をしている場合には、生命保険料控除の欄を見ることで、保険契約の手掛りを得られる場合があります。

カ. 債務

(1) 借入金

被相続人と債権者との間の金銭消費貸借契約書や借用証、法人の決算書、通帳、不動産の登記事項証明書等を調べる必要があります。

(2) 未払金

請求書、領収書、契約書、通帳、クレジットカード利用明細書等から、被相続人に未払金の有無を確認する必要があります。

(3) 未払公租公課

各種公租公課(市県民税、固定資産税、国民健康保険料等)の負担の有無は、納税通知書や請求書等で確認することができます。

(4) 保証債務

保証債務の有無は、金銭消費貸借契約書や預金通帳、登記事項証明書等で確認することができます。

4. 非遺産の混入(遺産でない財産を遺産として分割してしまった場合)

遺産調査の結果財産の名義が被相続人であったため、遺産分割の時点では、ある財産を遺産として遺産分割を行ったものの、後にそれが被相続人の財産ではないことが判明したという場合があります。

たとえば、被相続人が生前にその財産を第三者に売却していたけれども、名義変更手続をする前に死亡してしまった場合や、本当は第三者の財産だけれども、何らかの事情があって名義だけを被相続人の名前にしていた場合です。

(1) 非遺産に関する遺産分割条項

他人の物について協議して分割することとしても、そのような遺産分割に効力はなく、非遺産に関する分割条項は無効となります。

(2) 他の遺産分割条項への影響

協議により遺産でない財産を取得することとなった者は、予定されていた財産を取得できないことになりますので、その不足分について、他の相続人に対して権利を主張することができます。

各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同様の担保責任を負うと規定されています。そのため、非遺産が遺産分割において重要な位置づけを占めており、非遺産以外の分割条項をそのまま維持すると遺産分割の趣旨を大きく損なうような場合には、遺産分割そのものの解除を主張することができます。

そこまでではない場合は、解除とまではいかずとも、不利益を受けた相続人が、他の相続人に対して金銭での損害賠償を求めることができます。

遺産の範囲についての注意点

いったん遺産分割協議書に署名捺印したにもかかわらず、後になって新たに遺産が発見される場合があります。新たに発見される遺産は、プラスの財産の場合もありますし、マイナスの財産(借金等)の場合もあります。

その財産の種類・規模によっては、遺産分割協議そのものが無効になったり、取り消されたりする可能性があります。

また、遺産分割協議書の記載方法によっては、署名捺印したときには予想していなかった利益・不利益を受ける可能性もあります。

そのため、あらかじめ相続に強い弁護士へ相談し、不備や漏れがないようにしたり、もし後になって遺産が見つかったとしても揉め事にならないようにしたりしておくことをおすすめします。

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この記事の執筆
弁護士法人朝日中央総合法律事務所
弁護士法人朝日中央綜合法律事務所は遺産分割紛争、遺留分紛争、遺言無効紛争などの相続紛争の解決実績は2018年以降、1,695件(内訳:遺産分割紛争635件、遺留分紛争89件、その他遺産相続紛争971件)にのぼり、多くの依頼者から信頼を獲得しています。