Q&A法律相談
第6 相続財産
預金債権
昨年、父が他界しました。相続人は、施設に入っている母と、兄と私です。
父も施設に入っておりまして、相続財産としての不動産は無く、凍結された預貯金のみです。
兄は、父から生前に事業の援助を受けており、その額はまだ確定できていません。
兄は、父名義の預金を引出して、更に事業の運転資金に使いたいようですが、私と母は、兄がお金をいいように使うことに承服できません。
何はいい方法はありませんか。
預貯金が凍結されたままであっても、各相続人が自己の相続分を有していますから、「兄」がこれを自由に出来るわけではありません。
実際の金融機関の取扱いは、遺産分割協議書や相続人全員の戸籍謄本や印鑑証明等の資料提出を求められ、これらの書類がそろわないと預金をおろせない取扱がされています。
ただ、従来、預貯金が凍結中であっても上記のとおり相続人は自己の相続分については権利があり、且つ、預金債権は当然に法定相続分で分割されるとの判例があり、訴訟等の方法により、自己の法定相続分について、払い戻しを受けることが可能でした。
しかし、近時、預金債権は、当然に法定相続分で分割されるわけではないとの判断が最高裁で示され、相続人が銀行相手に訴訟を提起しても、自己の法定相続分の預金について当然に払戻しを受けることが出来るわけでないという方向に、裁判所の扱いが変わっております。
従来のように、預金債権が当然に分割されるという扱いでは、お金のない相続人が遺産分割協議成立前に遺産から預金を手に入れることが出来るというメリットがありましたが、相続人間の最終的な公平が図られない危険性もありました。
今回の判例により、裁判所は、特別受益や寄与分をも考慮した相続人間の公平をより重視する態度になったといえるでしょう。
ご相談のケースも、「兄」がこれまでに受けてきた恩恵、即ち、特別受益を考慮した遺産分割の可能性を残すため、「兄」が単独で銀行相手に裁判を起こしても、預金を引出せない可能性が高いと考えられます。