相続問題の専門知識
遺産の名義変更
預貯金口座の凍結
不動産特有の問題
不動産を相続するにあたっては、いくつかの不動産特有の問題があります。 ここでは、その代表的なものをいくつか説明します。
6. 登記手続費用がどの程度かかるか教えてください。
不動産の登記を申請する場合、登録免許税という税金を法務局に支払わなければなりません。 登録免許税は、「相続」の場合は固定資産税評価額の0.4%、「遺贈」の場合は固定資産税評価額の2%です。 また、登記手続きを司法書士に依頼する場合、司法書士への報酬等が必要になります。
7. 登記手続きはどこで行えばよいですか。また、登記手続きにはどのくらいの期間がかかりますか。
登記手続きは、その不動産の所在地を管轄する法務局に申請する方法で行います。登記手続きが完了するまでに要する時間は、法務局によって異なりますが、一般的には申請してから1週間から2週間程度かかります。
8. 不動産を売却して、その後で売却代金を相続人間で分けたいのですが、どのような手続きが必要ですか?
不動産を第三者に売却する場合、不動産の名義(登記)が被相続人のままでは、売買契約をすることはできません。 したがって、不動産を売却する前提として、相続登記を行い、不動産の名義を被相続人から相続人に変更した後に、相続人を売主として第三者との間で売買契約を締結する必要があります。
なお、この場合、売却代金をどのように分配するかによって、誰が登記手続きを行うかが変わってきます(Q7)。 具体的な不動産の登記手続きの方法については、「登記申請に必要な書類を教えてください」をご参照下さい。
9. 不動産を売却した後に、相続人間で売却代金を分けようと思います。手続きが面倒なため、形式的に一人の相続人を代表者として相続登記をした後で、売買しようと思いますが、そのような手続きに問題点はありますか?
たとえ形式的とはいえ、被相続人から一人の相続人に相続登記を行った場合、遺産分割の結果、その相続人が当該不動産を確定的に取得したと考えられます。 そのため、その後その相続人が不動産を売却して得た売却代金を他の相続人に分配することは、「贈与」とみなされ、他の相続人が贈与を受けたものとして贈与税が課されることとなります。 したがって、不動産の売却代金を分配することを予定している場合は、当該相続人全員が、分配割合に応じて相続登記を行う必要があります。
10. 遺産分割未了の間の賃料については誰が取得すべきですか?
遺産分割が終了するまでに発生した賃料債権については、「各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するもの」(最判平成17年9月8日民集59巻7号1931頁)とされています。 そのため、遺産分割協議によって不動産の所有者が決定したとしても、それ以前に発生した賃料については、法定相続人が法定相続割合に従って取得することとなります。
なお、遺産分割協議後に発生した賃料については、新たな所有者が取得することとなります(Q11)。
11. 第三者に賃貸している不動産を相続します。賃借人との間で新たに賃貸借契約を締結し直す必要はありますか?
相続により不動産の所有権を取得した場合、特段の事情なき限り、所有権とともに賃貸人の地位を取得し、賃貸人としての権利義務を承継します。 そのため、当該不動産を取得した日以降の賃料は、新所有者が取得することになるとともに、賃貸人としての義務(目的物を使用収益させる義務や敷金保証金返還義務)を新所有者が承継することになります。もっとも、賃借人側から誰が賃貸人となったか不安であるから賃料を支払えないと主張された場合、不動産の登記を移転しない限り賃借人に対して賃料を請求することはできないとされています(最判昭和49年3月19日民集28巻2号325頁)。 したがって、貸地やアパートなどの賃貸不動産を相続した場合は、登記手続きを怠らないようにしなければなりません。
また、法的な問題とは別に、被相続人が借主から直接賃料を振り込まれていた場合や不動産管理会社に管理を委託していたような場合には、相続に伴い賃貸人や振込先口座の変更の通知などの事務的な手続きが必要になる場合があります。
12. アパートやマンションの一室を相続します。注意すべきことはありますか?
被相続人がアパートやマンションの一室を所有していた場合、ごみ置場や待合室などの共用部分等の共有持分も有している場合があります。 これらについても、被相続人の名義である以上、当然相続の対象となりますが、登記情報や固定資産税課税明細書の記載からは判然としない場合もあり、手続きを失念したまま放置されてしまうことがあります。
共用部分の持分を有しているかは、(1)不動産を購入したときの売買契約書を確認する、(2)登記済権利証を確認する、(3)管理組合や不動産を購入した不動産会社等に問い合わせることによって確認できます。 共用部分は、アパートの一室とは別に取引の対象となりますので、共用部分の登記移転手続を忘れないように注意する必要があります。
13. 建物を相続しましたが、建物にかけられている火災保険や地震保険はどうなりますか?
建物の登記を相続人に移転しても、火災保険や地震保険の契約者の地位は変更されません。変更するためには、保険会社との間で契約者変更の手続きをする必要がありますが、保険会社によって必要書類が異なるため、まずは保険会社に問い合わせましょう。 このような手続きに備え、火災保険や地震保険の承継についても遺産分割協議書に明記しておくことが望ましいといえます。
14. 被相続人が第三者から土地を借りてその上に建物を所有していました。新たに地主との間で借地契約を締結し直す必要がありますか?また、建物を第三者から借りていたときはどうですか?
前提として、賃借人たる地位も相続の対象となります。 そのため、遺産分割協議において賃借人たる地位を相続する者を定めたら、改めて賃貸人との間で契約を締結し直す必要はなく、相続人は従前の契約に従うこととなります。
結論として、第三者から土地を借りてその上に建物を所有している場合は、建物を相続するとそれに付随して借地権も相続します。そのため、建物を相続する者を遺産分割協議で定める必要があります。 また、建物を第三者から借りている場合は、建物の賃借人たる地位を相続する者を遺産分割協議で定める必要があります。
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