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相続問題の専門知識

大規模相続紛争解決手続の特色

相続税 ~納税資金の確保が最重要

相続が開始した場合、相続人間での話し合い(遺産分割協議)をいつまでにしなければならないという期限は特にありません。しかし、相続財産額が大きい大規模相続紛争の場合は、相続税が課税される場合がほとんどでしょうから、相続税申告、納税を視野に入れる必要があります。

相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内とされており、その期間内に被相続人の死亡時における住所地を管轄する税務署長に相続税の申告書を提出し、併せて相続税の納税をしなければなりません。

遺産や遺産の分割について相続人間で争いがあり、申告期限までに遺産分割が整わない場合でも、相続税の申告期限は同じく相続開始を知った日の翌日から10か月以内とされています。この場合の相続税の計算は、遺産を各相続人が法定相続分で取得したものとして未分割財産の計算を行い、各相続人の納付すべき相続税額を計算することになります。相続税の申告は、必ずしも相続人の全員で行う必要はなく、単独でもできます。

遺産分割が争いにより申告期限までに完了していない場合には、法定相続分による申告を単独で行うこともよくあります。逆に遺産分割協議が終わっていないからといって申告期限を徒過してしまうと、延滞税が加算されてしまうことになるので注意を要します。特に大規模相続紛争の場合、相続財産は多岐にわたり、遺産分割に時間がかかることもよくあり、申告・納税期間までに遺産分割が間に合わないことも考えられます。遺産分割が終わっていないので、相続財産である預貯金を相続人の一部が勝手に引き出して納税に使用することもできません。

従来、金融機関に預けている預貯金については、相続開始後法定相続分に応じて当然に分割され、各相続人は他の相続人との合意がなくても、自分の法定相続分に相当する預貯金額について払い戻しを受けることができるというのが判例であり、金融機関に対し相続分の払い出しを求めることが可能でした。しかし、この点に関する判例が変更され、預貯金についても当然に分割されるのではなく、相続人共同で払い戻しをするか、遺産分割が必要であるとされました(最高裁平成28年12月19日大法廷決定、最高裁平成29年4月6日第一小法廷判決)。

この判例変更により、預貯金に関しても相続人間での合意がない限り、自らの相続分についても払い戻しを受けられなくなりました。したがって、相続税の申告期限までに遺産分割協議が整わない場合には、納税資金の確保が特に切実な問題となります。

ここでの重要なポイントは、

  1. 相続開始後速やかに相続人、相続財産の調査に取り掛かり、相続財産額を把握すること
  2. 1を前提に相続税額を速やかに把握すること
  3. 納税資金の調達方法を検討すること
  4. 主体的に遺産分割協議の方針を立て(遺産分割協議の主導権を握る)、納税期限までに遺産分割協議を完了すること、
  5. 遺産分割協議が整う見込みの有無を早期に見極め、遺産分割調停、審判に移行すること
  6. 調停、審判手続きにおいても争点整理を主体的に行い、遺産分割案を主体的に提出し、早期解決を図ること

このように迅速かつ的確な対応が要求されるため、弁護士、税理士が密に連携して手続を進めていくことが不可欠です。

納税資金の確保ができないときはどうしたらよいか

相続税の申告・納税期限までに納税資金の確保が困難な場合、延納や物納という制度があります。延納とは、「相続税額が10万円を超え、金銭で納付することが困難とする事由がある場合に、納税者の申告により、その納付を困難とする金額を限度として原則として担保を提供することにより年賦で納付することができる制度」です。

上記のように金銭で納付することが困難な場合にのみ認められ、遺産分割が納付期限までに整わず相続財産から納付できないにすぎない場合などは認められません。また延納期間中は高額な利子税を支払う必要があります。そのため納税資金の融資を受けることができれば金融機関から融資を受けて一括納税したほうが有利な場合も多いと思われます。

物納とは、金銭に代えて、納税義務者の課税価格計算の基礎になった債券や不動産など日本国内にある一定の財産で納付する制度です。しかし、管理又は処分するのに不適当と認める財産は、物納が認められないなど厳格な要件があり、必ず物納が認められるとは限りません。

以上の制度のほか、納税資金を確保するために次のような手段を検討することになります。

方法1:相続人間で納税資金に必要な預貯金の解約、払戻しに同意する

相続税の納税は、相続人共通の利害に合致します。各相続人は自分の相続税を支払えばそれで全ての義務を逃れるというわけではありません。同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者は互いに連帯して相続税を納付する義務があります。例えば一部の相続人が納税しなかった場合には他の相続人等が代わって納税しなければなりません(連帯納付義務)。

そこで、互いに相続で争っている当事者間であっても、納税に必要な範囲で預貯金の払戻に合意し、その余の相続財産の分割を引き続き協議するという方法を取ることがあります。この方法を行う場合、紛争当事者間で一旦冷静に処理する必要がありますので、弁護士など第三者を交えて交渉することが重要な場合も少なくありません。

方法2:相続財産を売却する

相続財産を構成する金融資産だけで納税することが困難な場合には、不動産等売却可能な財産の処分を検討することになります。上場していない非上場株式であっても、対象会社の議決権の過半数を有する株式などの場合には、第三者への売却を検討することがあります。

このように相続財産を売却する場合には、遺産分割協議が整い当該財産を単独で取得できた場合や相続人全員が売却に同意している場合に限られます。売却可能な財産の選定や売却交渉に一定の時間を要することも考慮すると、遺産分割協議を計画性をもってスピーディに進めていく必要があります。

方法3:納税資金の借り入れを行う

金融機関から融資を受けること以外にも、同族会社や他の相続人または第三者からの借り入れの可否を検討する場合もあります。この場合、借入利息を含め返済条件を明確に定めておく必要があります。また、借入先との関係では、納税資金の確保に窮しているとの情報が他の相続人に伝わり、その窮状に乗じて遺産分割協議において不利な条件を突き付けられるおそれが生じることに細心の注意を払わなければなりません。

方法4:連帯納付における求償、破産申し立て

逆に、相手方共同相続人の協力を得ることなく納税資金を確保し、相手方共同相続人がその確保に窮している場合には、遺産分割協議を進めるにおいて優位な立場に立つことが可能になります。さらに前述の通り共同相続人は、相続税の連帯納付義務を負っています。一部の相続人が納税できないことが確実という場合には、他の相続人が代わって納付しなければならなくなります。納付しなかった相続人に対しては求償することになりますが、支払えないことには変わりません。このような場合には、納付できない相続人に破産申し立てを検討することもあります。

相続税の軽減制度が利用できないときどうすればよいか

遺産が相続税の申告期限までに分割できていない場合には、次にあげる相続税の軽減制度は適用されません。

  • 配偶者に対する相続税額の軽減特例
  • 小規模宅地等についての課税価格の計算特例
  • 特定事業用資産についての課税価格の計算特例

など
したがって、申告時点においてはこれらの適用がないものとして申告、納税を行うことになります。ただし、申告期限から3年以内に分割ができた場合には、その分割ができることになった日から4か月以内に更正の請求をすることによりこれらの適用を受けることができ、適用を受けたことにより減額した相続税が還付されます。

また、申告期限から3年以内に分割ができない場合でも、その分割ができない理由が裁判や調停など客観的に分割が困難であるものとして所轄税務署長の承認を受けたときは、分割ができることとなる日から4か月以内に更正の請求をすることにより、これらの適用を受けることができます。

このように、遺産分割の早期解決が見込まれない場合には、早期に遺産分割協議を中断し、家庭裁判所に遺産分割調停ないし審判の申立てを行うことが重要です。