相続問題の専門知識
相続人調査・財産調査
相続人の順位
人が死亡したとき(以下、死亡した人のことを「被相続人」といいます。)、すなわち、相続が起こったときに最初に確認しなければならないことの一つに、相続財産(死亡した人が持っていた財産)を受け取ることのできる相続人(相続財産を受け取る権利がある人)が誰になるのかという点があります。
相続人の範囲については、民法に定められており、この民法によって、相続人と定められている人のことを「法定相続人」といいます。民法では、被相続人と一定の身分関係があればその全員が法定相続人になれると定めているわけではなく、その身分関係の濃淡によって、誰が相続人となるのかについての優先順位が定められています。
では、この『優先順位』について、Q&A形式で確認していきましょう。なお、このような法定相続人の優先順位や後に述べる法定相続分が問題になってくるのは、あくまで被相続人が予め「遺言書」を残していなかった場合であり、被相続人が生前に、自分の死後の財産の承継先を予め「遺言書」に記していた場合には、この「遺言書」に基づき財産が承継されることになります(民法第902条第1項)。
「遺言書」の種類や作成方法、遺言書を作成した場合の効力等の詳細については、「遺言書の作成」のページをご参照ください。
1. 第1順位:被相続人の「子」(民法 第887条 第1項)
1. 「実の子」と「その他の子」と相続において区別はあるのでしょうか?
区別はありません。「実子(実の親から生まれた子の身分)」と「養子(養子縁組によって生じた子の身分)」、「嫡出子(法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子の身分)」と「非嫡出子」(法律上婚姻関係にない男女の間に生まれた子の身分)」との区別はありません。いずれの「子」であっても、第一順位で法定相続人になることができます。また、被相続人に「子」が複数人いる場合には、その子らは全員が第1順位で法定相続人になりますので、その子らの間に優劣はありません。したがって、この場合、その子ら全員が同列かつ共同で第1順位の法定相続人となります。
2. 相続人が「胎児」の場合はどうなるのでしょうか?
民法で胎児は、「相続については、既に生まれたものとみなす」(民法第886条第1項)とされています。ですので、胎児も相続人になることができます。しかし、「胎児が死体で生まれたとき」は、被相続人の相続開始時には相続人ではなかったものとされます(民法第886条第2項)
3. 相続人となるべき者(子)が死亡している場合はどうなるのでしょう?
「死亡した日」によって取扱いが異なります。
パターン(1)
相続人となるべき者(子)が被相続人の相続開始以前(同時に死亡した場合を含みます。)に死亡している場合
相続人となるべき者に子がいる場合は、その「子(=被相続人の孫)」が代わりに相続人となります(法律上、「代襲相続人」といいます。)(民法第887条第2項)。この場合、子が相続人になる場合と同様、実子と養子、嫡出子と非嫡出子との区別はありません。子(孫)が数人いる場合は、その子(孫)全員が、同列かつ共同で代襲相続人となります。ただし、被相続人の「直系卑属」(家系図で見て縦の血族関係にある子や孫など)でない者は代襲相続人となれません(民法第887条第2項但書)。
例えば、被相続人よりも先に死亡していた子の配偶者は、直系の卑属には当たらないため代襲相続人にはなれませんし、被相続人の養子が養子縁組をする前に産んでいた子は、被相続人との関係では直系卑属には当たらないため、やはり代襲相続人にはなれません。
では、上記の代襲相続人も被相続人の相続開始以前に死亡している場合はどうなるのでしょうか。答えは、代襲相続人の「子(曾孫)」が代わりに相続人となります(法律上、「再代襲相続人」といいます。)(民法第887条第3項)。
再代襲相続の場合も同様に、被相続人の直系卑属でない者は、再代襲相続人にはなれません(民法887条第3項、民法887条第2項但書)なお、繰り返しになりますが、代襲相続は、あくまで「直系卑属」がいた場合にその直系卑属が代わりに相続人になることができるという制度であるため、相続人となるべき故人(子)に子がいない場合は、相続人となるべき故人の法定相続人(配偶者、兄弟姉妹、甥姪等)が、被相続人の相続を受けることはありません。
パターン(2)
相続人となるべき者(子)が被相続人の相続開始後に死亡している場合
相続人となるべき者は被相続人の相続開始時には生存していましたので、当然に相続人となります。したがって、その者は生前一旦被相続人の相続を受け、その後、その者が死亡した際に、被相続人から承継した権利義務(相続権)を、その者の法定相続人が相続により承継することになります。この場合は、上記の代襲相続とは異なり、相続人となる者が直系卑属に限定されるわけではないため、相続人となるべき者の配偶者や兄弟姉妹、甥姪も被相続人からの相続を受けることになります。
4. 相続人となるべき者(子)が相続放棄をした場合はどうなるのでしょうか?
相続放棄は、相続人が被相続人の相続開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申し立てることによって行うのですが(民法第915条、同法第938条)、その結果、その者は最初から被相続人の相続人ではなかったとみなされ(民法第939条)、相続権を失います。このように、相続人となるべき者の一部が相続放棄をした場合は、その者以外の子のみが相続人となり、相続人となるべき者の全員が相続放棄をした場合は、被相続人の子がいなかった場合と同様に、第2順位の相続人が相続を受けることになります。すなわち、上記(ア)のように相続放棄をした者の子が代襲相続人となることはありませんし、上記(イ)のように相続放棄をした者の相続人が被相続人の相続権を承継することもありません。
なお、この相続放棄の取扱いについては、第2順位、第3順位の相続人に関しても変わりません。
2. 第2順位:被相続人の「直系尊属」
1. 子が一人もなく、かつ代襲相続人(あるいは再代襲相続人)もいない場合はどうなるのでしょう?
子が一人もなく(全ての子が相続放棄をした場合を含む)、かつ代襲相続人(あるいは再代襲相続人)もいない場合は、被相続人の「直系尊属」(家系図で見て縦の血族関係にある父母(養父母を含む)や祖父母など)が相続人となります(民法第889条第1項1号)。なお、父母のように親等が同じ者が数人いる場合は、同列かつ共同で相続人となり、母と父方の祖母のように親等の異なった者がいる場合は親等が近い者(母)が優先されます。
3. 第3順位:被相続人の「兄弟姉妹」
1. 第2順位の相続人もいない場合はどうなるのでしょう?
第1順位の相続人も第2順位の相続人もいない場合は、被相続人の「兄弟姉妹」が相続人となります(民法第889条第1項2号)。 父母の双方を同じくする者と父母の一方だけを同じくする者との区別はありません(ただし、これらの者の間で相続分が異なる点については後で説明します。)。また、兄と妹のように兄弟姉妹が複数人いる場合は、この者らは、同列かつ共同で相続人となります。
ところで、相続人となるべき兄弟姉妹が死亡している場合は、その兄弟姉妹が「死亡した日」によって、次のとおり取扱いが異なりますので注意が必要です。
パターン(1)
相続人となるべき者(兄弟姉妹)が被相続人の相続開始以前(同時に死亡した場合を含みます。)に死亡している場合
相続人となるべき者(兄弟姉妹)に子がいる場合は、その「子」が代襲相続人となります(民法第889条第2項、同法第887条第2項)。上記1.Q3パターン(1)、(2)同様、実子と養子、嫡出子と非嫡出子との区別はありませんし、子が数人いる場合は、同列かつ共同で代襲相続人となります。
ただし、上記1.の子が相続人である場合と異なり、兄弟姉妹には再代襲相続の規定はありませんので、上記の代襲相続人が被相続人の相続開始以前に死亡している場合は、代襲相続人の子が被相続人の相続を受けることはありません。このように、子が相続人である場合と取扱いが異なっているのは、一般的な身分関係を想定したときに、被相続人と子・孫の関係と比較して、被相続人と兄弟姉妹・甥姪との関係性の方が薄いと考えられているためです。法定相続人の範囲や法定相続分については、このような一般的に見たときの身分関係の濃淡が理由となっていることが多いため、このような観点から見ていくとより理解が深まると思います。
パターン(2)
相続人となるべき者(兄弟姉妹)が被相続人の相続開始後に死亡している場合
子が相続人になる場合と同様、相続人となるべき者は被相続人の相続開始時には生存していましたので、当然に相続人となります。したがって、その者は生前中にいったん被相続人の相続を受け、その後、その者が死亡した際に、被相続人から承継した権利義務(相続権)を、その者の相続人が相続により承継することになります。
4. 被相続人の配偶者
1. 上記第一順位~第三順位に関わらない『配偶者』はどうなるのでしょう?
被相続人に配偶者がいた場合は、常に相続人となります。すなわち、上記1~3の相続人となるべき者がいるときは、その者と同順位で共同相続人となり、それらの者がいないときは、単独で相続人となります(民法第890条)。なお、この場合における各相続人の相続分については、後述で説明します。
5. 相続資格の重複
1. 特定の相続人と被相続人との間に、『二重の親族関係』が存在する場合はどなるのでしょう?
特定の相続人と被相続人との間に、『二重の親族関係(以下パターン(1)、(2)で説明します)』が存在する場合、相続資格の重複の問題が発生します。このように相続人の地位が重複する場合にはどのように考えたらよいのでしょうか
パターン(1)
同順位相続資格の重複
まず、(1)実子と養子が婚姻し、同人らに子がいない場合と(2) 孫を養子にした場合が考えられます。戸籍先例では、実子と養子が婚姻した場合については、配偶者としての相続分のみを認めて、兄弟姉妹としての相続分の重複を認めていません。
一方、孫を養子にした場合については、相続資格の重複を認め、養子としての相続分と代襲相続人としての相続分を有するとしています。
パターン(2)
異順位相続資格の重複
例えば、兄が弟を養子とする場合が考えられます。兄が死亡した場合、弟は子としての相続資格と兄弟姉妹としての相続資格の重複が生じるようにも考えられます。しかし、弟は第一順位の子としての相続資格が認められるだけであり、第三順位の兄弟姉妹としての相続資格は第一順位の相続人の存在によって認められないことになります。
6. 相続欠格
1. 相続欠格とは?
相続資格がある者が被相続人や他の相続人の生命や遺言行為に対して、故意の侵害をした場合に、そのような行為を行った者の相続権を失わせる制度です。民法上、相続欠格の事由は5つ規定されていますが、被相続人又は先順位、同順位相続人の生命侵害行為に関する非行を規定するものと、被相続人の遺言への干渉行為を規定するものと二種類に大別できます。
相続欠格(1)
生命侵害行為(相続人が故意に被相続人等を死亡させ刑に処せられた場合)
相続欠格事由となる生命侵害行為の一つは、相続人が故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位に在る者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた場合です。故意犯である殺人罪を犯した者が対象で、既遂、未遂は問われず、殺人予備罪も含みます。刑の執行は相続開始後でもよいとされています。 一方、過失致死罪や傷害致死罪は欠格事由には含まれません。執行猶予が付された場合については、その猶予期間を経過すれば、刑の言渡しは効力を失いますので、遡及的に相続欠格事由がなかったことになるものと考えられています。
生命侵害行為(被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず又は告訴しなかった場合)
次に、相続欠格事由となる生命侵害行為は、被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず又は告訴しなかった場合です。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは除かれています。被相続人が殺害されたときは、相続人には告訴告発する義務があるとの趣旨でこの欠格事由が規定されていますが、通常犯罪があれば、告訴告発を待つまでもなく捜査が開始されます。 そのため、告訴告発がなされなかったからといっても、当然の相続欠格事由とまでする必要はなく、この欠格事由はきわめて限定的に解すべきものと考えられています。
相続欠格(2)
遺言への干渉行為
遺言への干渉行為には次の三つがあります。
- 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、これを取り消し、又はこれを変更することを妨げた場合
- 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、これを取り消させ、又はこれを変更させた場合
- 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した場合
いずれも、遺言に対して著しく不当な干渉といえるため、相続の欠格事由としたものです。なお、無効な内容の遺言をすることを妨げたとしても、実害の生ずる余地がないため、対象となる遺言は有効に成立した遺言でなければなりません。 また、詐欺、強迫、偽造等において、それらをする意思に加えて、相続上の自己の利益のため、あるいは不利益を妨げるためという利得意思があることが必要とされています(最判昭和56年4月3日)。
相続欠格は被相続人の意思に反する違法な利得を得ようとする者に制裁を課すことをそもそも目的とするからです。
2. 相続欠格の効果について
相続の欠格事由に該当する場合、直ちに欠格の効果は発生し、その被相続人との関係で相続資格を失うことになります。欠格者は同時に受遺者となることもできなくなります。欠格の効果が発生するためには、他の相続人や受遺者などからの主張、あるいは裁判所での手続は不要です。法律上当然にその効果を生じますので、戸籍にも記載されません。欠格の効果は、特定の被相続人と欠格者との間で発生するにすぎず、欠格者であっても他の者の相続人となることはできますし、欠格者の子は代襲相続人となれます。欠格の効果は、相続開始前に欠格事由が生じた場合は、その時に生じますが、相続開始後に欠格事由が生じた場合は相続開始時に遡及すると考えられています。したがって、相続開始後に欠格事由が生じた場合には、欠格者が加わってなされた遺産分割協議及び審判分割が無効となったり、欠格者から相続財産を譲り受けた第三者について、欠格者との間の譲渡行為は無効となります。
3. 一度相続資格を失うと、二度と資格を回復することはできないのでしょうか?
被相続人が相続欠格者を許し(これを、法律用語では『欠格の宥恕』と言います)、その相続資格を回復させることができるかについては争いがあります。相続欠格が法律上当然の相続資格喪失事由であること、欠格の公益性、宥恕について民法に明文の規定もないことから、従前は被相続人による相続欠格の宥恕は否定的に考えられていました。しかし、現在は、相続欠格が公刑罰とは関係ないものであること、被相続人の財産処分の自由が保障され、欠格者への生前贈与も許容されていることなどから、相続欠格の宥恕を肯定するのが多数説です。宥恕の方法については特に制限はなく、相続欠格者の非行を許し相続人として処遇する旨の被相続人の意思表示又は感情の表示があればよいと考えられています。
被相続人が相続欠格事由の発生したことを知りつつ、その欠格者に遺贈した場合も、宥恕がなされたと評価して、遺贈は有効であると考えられています。
7. 相続廃除
1. 相続廃除とは?
相続人となるべき者に欠格事由はないものの、被相続人に対する虐待、侮辱、非行等がある場合、被相続人の請求に基づいて、家庭裁判所の調停や審判手続により、その者の相続権を剥奪する制度です。相続権の剥奪という点では、相続欠格と同じ効果ですが、被相続人の意思に基づくところが相続欠格と異なります。被相続人は、財産を相続人以外の者に対して、生前贈与、遺贈することによって廃除と同様の目的を達することもできそうですが、相続人の遺留分までを否定することはできません。廃除制度は、相続人の遺留分権を否定し、相続権の剥奪を認める制度といえます。
相続廃除
廃除されるものは、遺留分を有する推定相続人、弟・姉・妹以外の相続人が廃除の対象
兄弟姉妹に遺産を相続させたくなければ、他の者に全財産を贈与又は遺贈し、あるいは兄弟姉妹の相続分をゼロとする遺言を行えば足ります。また、適法に遺留分を放棄した相続人についても、廃除を求める必要性がないので、廃除は認められません。
廃除事由=被相続人に対する虐待、重大な侮辱とその他の相続人の著しい非行が対象となります。
一般論としては、虐待や侮辱は主観的なものでは足らず、客観的かつ社会的にみて相続権の廃除を正当とする程に重大なものでなければなりません。また、非行や虐待が一時的な行為である場合、被相続人の側にもその原因をなす行為があった場合、非行や虐待が被相続人に直接向けられていない場合について、慎重な審判がなされる傾向にあるといえます。
廃除が認められた具体的事例
例1
相続人が、家業の農業も自ら行わず、専ら妻子に任せてしまい、とりわけ経済的に困窮していないにもかかわらず、老齢で病床にある父母に対して、生活費を与えず裏小屋に別居させ、母に傷害を負わせ、「首をくくって死んでしまえ。」 などと暴言をはいた事例(仙台高決昭和32年1月裁判日不明)。
例2
長男が父の金を無断で消費したり、多額の代金の支払いを父に負担させ、これを注意した父に対して暴力をふるい、その後家出をして行方不明となった事例(岡山家審平成2年8月10日)。
例3
夫婦喧嘩が絶えず、妻と、夫の母及び妹との折り合いも悪い状態において、夫が再三にわたり妻に暴行を加え、妻は顔面等に傷害を受け、さらに腹部を夫に蹴られたために、妻は流産し死亡した事例(大阪高決昭和37年5月11日)。
例4
妻がアルコール中毒症で療養中の夫と二人の子を置き棄てて、13才年下の使用人と駆け落ちし、これを知った夫は痛憤しかつ悲嘆にくれ、連日、自棄酒をあおるようになり、ついには自殺した事例(新潟家高田支審昭和43年6月29日)。
例5
相続人が正業に就かず、浪費を重ね、社会の落後者の地位に転落した事例(東京家審昭和42年1月26日)。
例6
正当な事業を経営して、資産家として名を成した両親のもとに、なに不自由なく成育した長女が、離婚後間もなく、両親の知らない間に窃盗、詐欺等の前科のある男と同棲し、同人が勤務先の多額の金員を横領して所在をくらますや、年老いた両親の悲嘆や心労を何ら顧慮しないで、音信不通のまま同棲相手と共に逃避行を続けている事例(和歌山家審昭和56年6月17日)。
例7
四男が父の死亡が間近いことを察知するや、その遺産のほとんどを可能な限り単独取得しようと図り、偽計を用いて遺産たる預貯金等の名義を被相続人の意思に基づくことなく、自己名義あるいはその妻子名義に変更し、被相続人を激しい怒りと悲嘆におとしいれ、被相続人に対し不当な精神的苦痛を与えたとの事例において、四男が被相続人と約7年間同居し、父の入院中は四男の妻が看病に当ったこと等の扶養的行為を考慮に入れても、かかる四男の行為は、相続的協同関係を破壊するに足る著しい非行にあたるされた事例(熊本家審昭和54年3月29日)。
廃除が認められなかった具体的事例
例1
父と同居する長男の嫁が病床の義母の看病をせず、父に対して口答えする等したため、父は長男夫婦と不和となり、もみ合いの喧嘩により傷害を負ったりした事例であるが、父が嫁に対して執拗な非難や謝罪の要求をしたこと、また父が長男夫婦を不孝者などと家中に落書したり、物を投げつけるのを止められたことに起因するものであり、被相続人である父にも相当の責任があるとされ、長男の行為は廃除事由にあたらないとされた事例(名古屋高金沢支決平成2年5月16日)
例2
父が支配する同族会社に勤務する子が、会社の倒産を回避すべく、父が金策に奔走している時期に、会社財産5億数千万を業務上横領して実刑判決を受けた事例において、かかる子の行為について、父の面目や体面が著しく失墜したとは認められないこと、その会社は大手企業であり、父の個人財産の横領又はこれと同視できる行為とみることはできないこと、これが会社倒産の原因のひとつとは考えられないことなどを理由として、相続的協同関係を破壊するほどの著しい非行とはいえないとされた事例(東京高決昭和59年10月18日)。
例3
子の親に対する暴行や暴言がなされた事例において、その原因は、幼時に里子に出されたこと、経済的に独立する結婚等に反対されたこと、親が妹を偏愛し妹婿に家屋敷を贈与したことのような、親が子に疎外感を抱かせる行為にあると考えられるとされた事例(大阪高決昭和37年3月12日)。
2. 廃除の手続きはどのような方法があるのでしょうか?
廃除の方法は、被相続人が生前に家庭裁判所に申し立てる方法と、遺言による方法との二つが認められています。
パターン(1)
生前の廃除申立
被相続人は、遺留分を有する推定相続人に廃除事由があると考えるときは、家庭裁判所に対して廃除請求ができます。手続は審判または調停によっておこなわれます。調停の場合において、当事者間に廃除の合意が成立していたとしても、家庭裁判所は直ちに廃除の成立を認めず、職権で廃除事由の存在を調査し、その存在が認められないときは、合意を不相当として調停不成立とし、審判手続に移行させ、裁判所自らが審判によって、廃除を否定することとなります。廃除請求事件の係属中に被相続人が死亡して相続が開始したときは、家庭裁判所で遺産管理人を選任し、遺産管理人が廃除手続を受継することになります。
パターン(2)
遺言による廃除
被相続人は、遺言で推定相続人の廃除の意思を表示することができます。この場合、遺言執行者は、相続が開始してその遺言が効力を生じた後、家庭裁判所に廃除の請求をしなければなりません。遺言による廃除を行おうとする場合、家庭裁判所での廃除手続を実行してくれる遺言執行者が必要です。よって、廃除を求める遺言書には、誰を遺言執行者にするのかも定めておく必要があります。被相続人が遺言執行者を定めていない場合は、家庭裁判所で遺言執行者を選任することになります。
3. 廃除の効果について
廃除の効果は、廃除を請求した被相続人に対する関係で、廃除の対象となる相続人の相続権を剥奪することです。廃除された者は、被相続人に対する関係でのみ相続権を剥奪されるのみで、他の者との関係では相続権を否定されるものではありません。また、廃除された者の子は代襲相続ができます。廃除の効果は審判の確定又は調停の成立によって発生します。審判の申立人は、廃除について戸籍上の届出を行わなければなりませんが、届出は報告的な性格を有するもので、届出がなされなくとも廃除の効果に影響はありません。よって、審判確定後、届出がされる前に第三者が廃除されたが相続する予定であった財産について差押えの登記をしても、その登記は無効となります。遺言による廃除の場合は、審判は相続開始後に行われますが、廃除の効力は相続開始時にさかのぼって発生します。廃除の審判確定前に相続が開始した場合も相続開始にさかのぼって廃除の効力が発生すると考えられています。
4. 廃除の取消しは可能なのでしょうか?
被相続人は、何時でも、廃除の取消を家庭裁判所に請求することができます。 遺言でも廃除の取消を請求することができ、遺言による場合には、遺言執行者が 家庭裁判所に廃除取消の請求をしなければなりません。廃除の取消がなされると、廃除の効果は相続開始時にさかのぼって消滅し、相続権が回復します。
相続問題の専門知識