相続問題の専門知識
相続人調査・財産調査
相続人の調査
これまで法定相続人の範囲や優先順位、法定相続分の説明をしてきましたが、繰り返しにはなってしまいますが、被相続人が遺言書を書いていなかった場合、法定相続人の範囲が民法で定められておりますので、たとえその方の配偶者や子などの最も近しい関係にある人であっても、単独で相続財産となるべき不動産の名義を変えたり、預貯金を引き出したりすることはできません。 なぜなら、遺言書を遺さずに人が亡くなると、その方の財産は法定相続人全員が共同で所有(共有)することになるからです(民法第898条)。
このように、相続財産の名義自体は被相続人のままであっても、法律上は、法定相続人が共有しているものとみなされますので、他の共有者の権利を害するような形で、共有者一人の権限で財産を利用し又は処分することはできません。 このことから、遺言書が無い場合は、相続人が誰なのかを調査し、相続人全員から相続財産を利用・処分(不動産の名義変更や預金の引き出しなど)することについての同意を得る必要が生じます。
また、他に相続人がいないとしても、他に相続人がいないということは、客観的な資料を確認しなければ、法務局や銀行などの他人からは分かりませんので、相続人調査をして、相続人が自分たちだけだということを証明しなければなりません。 このような理由により、人が亡くなった場合は、その方の相続人が誰なのかを調査する必要があります。
1. 相続人の調査はどのようにして行えばよいのでしょうか?
相続人は、「亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍」を取得することで、調べることができます。具体的には、以下1~4のとおりです。下記手順を踏むことによって、相続人を調べることができます。一般的に、出生から死亡までの戸籍を集めると、5通~10通くらいの数になることが多いです。
- 亡くなった方につき、死亡の旨の記載のある戸籍を、本籍地の役場にて取得する。
- 1の戸籍を見て、一つ前の戸籍がどこにあるのかを確認し、該当する役場にて戸籍を取得する。
- 亡くなった方の出生時の戸籍にたどり着くまで繰り返す。
- 相続人となり得る人がいれば、その人の現在戸籍を取得し、相続人であることを確定する。
2. Q1にあるとおり、相続人の調査を行う必要があることは理解できました。一方で、Q1-2の「一つ前の戸籍」とは何でしょうか、現在の戸籍に出生から死亡までの記載はないのでしょうか?
一つの戸籍に出生から死亡までの記載が全部載っていれば便利ですが、そのようになっていないことがほとんどです。それは、戸籍は、本籍地の移転や、婚姻、法律の改正等によって、戸籍が新たに作り直されるからです。以下戸籍の作り直しにつき、パターン別に見てみましょう。
パターン(1)
本籍地の移転
戸籍はそもそも本籍地の役場に備え置かれているものです。そのため、本籍地を移転させれば、戸籍も新しい本籍地にて作り直されることになります。
パターン(2)
婚姻
人は、出生時は親の戸籍に入っているのが通常ですが、婚姻をすると親の戸籍から抜け出て、新しい戸籍が作られることになります。たとえ本籍地を変えなかったとしても、婚姻すれば、戸籍が新たに作られることになります。
パターン(3)
改製
法律の改正によって、全国的に戸籍の様式が変更されることがあります。これを戸籍の「改製」といいます。 明治19年式戸籍、明治31年式戸籍、大正4年式戸籍、昭和23年式戸籍、平成6年式戸籍、があります。 戸籍が改正されると、たとえ本籍地を移転していなかったり、婚姻をしていなかったとしても、戸籍が新たに作り直されることになります。
3. 相続人の調査は、自身で行うことは可能でしょうか?
ご自身で行うことは可能です。しかし、相続人調査は、被相続人の死亡時の戸籍から出生時の戸籍まで、一つずつ戸籍をたどっていく作業となり、慣れない方にとっては、非常に難しい作業となります。その理由としては、以下のような理由が挙げられます。
- 亡くなった方について、そもそも死亡時の本籍地が分からない。
- 亡くなった方が本籍地を何度も移している場合、その本籍地ごとに 戸籍を取らなければならない。
- 本籍地の役場まで行く時間がないし、わざわざ遠い役場に行くのも面倒。
- 郵送で戸籍を取寄せることができると聞いたが、実際にどう手続きしたらよいか分からない。
- 戸籍の読み方が分からず、一つ前の戸籍がどこにあるのか分からない。
- 古い戸籍を取得したが、手書きで作成されており、しかも達筆で書かれていたため、何と書いてあるか分からない。
- 「戸籍謄本」、「除籍謄本」、「改製原戸籍謄本」、「謄本」、「抄本」などの専門用語が出てきて、よく分からない。
- どこまで戸籍をたどれば、「出生」の戸籍までたどり着いたのか、分からない。
- 出生から死亡までの戸籍をすべて取得したものの、誰が相続人となり得る者なのか分からない。そのため、誰の現在戸籍を取得すればよいのかが分からない。
- 相続人の現在戸籍を取得しようと思い、現在戸籍を取得したが、その相続人は亡くなっていたことが判明した。
相続人調査を行う場合のポイント
(1) 亡くなった方につき、そもそも死亡時の本籍地が分からない方。
亡くなった方の「本籍地の記載のある住民票」を取得すれば、本籍地が分かります。亡くなった方の「本籍地の記載のある住民票」は、最後の住所があった役所にて取得することができます。
(2)本籍地の役場まで行く時間がなく、遠い役場に行くのも面倒な方。
郵送によって戸籍を取得することができます。
(3) 郵送で戸籍を取寄せる場合、実際にどう手続きしたらよいか分からない方。
当該役所のホームページから申請書を印刷し、小為替を同封することで、取寄せることができます。詳しくは、申請先の各役所にお問い合わせください。
(4) 戸籍の読み方が分からず、一つ前の戸籍がどこにあるか分からない方。
一つ前の本籍地は、戸籍に「○○から転籍」、「○○から入籍」と記載してあることが一般的です。そのような記載があれば、その「○○」に戸籍の取り寄せを請求すれば、一つ前の本籍地の戸籍を取得することができます。
一方、特に「○○から転籍」、「○○から入籍」といった記載がない場合は、同じ役場で一つ前の戸籍を取得することができます。 一箇所の役場にて、「この人の、出生から死亡までの戸籍を、全てください。」と伝えてその役場にある戸籍一式の交付を受け、その中から最も古い戸籍を探し、「○○から転籍」、「○○から入籍」という記載を見つけるのが、最も効率的な戸籍の取り方です。
(5) 古い戸籍を取得したが、手書きで作成されており、しかも達筆で書かれていたため、何と書いてあるか分からない方。
その戸籍を発行した役所にお問い合わせください。その戸籍を発行した役場の職員であれば、答えていただけることが通常です。
(6) 「戸籍謄本」、「除籍謄本」、「改製原戸籍謄本」、「謄本」、「抄本」などの専門用語が出てきて、よく分からない方。
戸籍謄本(全部事項証明書)
一般に現在戸籍と呼ばれるものです。横書きで、かつ活字で作成されています。同一戸籍に入っている方の、氏名、生年月日、父母、続柄等が記載されています。
除籍謄本
転籍、婚姻、死亡などの理由によって、戸籍に載っていた全ての者がいなくなった後の戸籍のことです。
改製原戸籍謄本
法律の改正によって戸籍の様式が変わることがありますが、その新しい戸籍の元となった戸籍のことをいいます。「かいせいげんこせきとうほん」と読みますが、「現戸籍」と区別するために、「はらこせき」と呼ばれるのが一般的です。
※ 謄本・・・戸籍に載っている人が全員記載されたもの。
※ 抄本・・・戸籍に載っている特定の人についてのみ記載されたもの。
(7) どこまで戸籍をたどれば、「出生」の戸籍までたどり着くのか、分からない方。
戸籍には通常、その戸籍がいつからいつまでの期間のものなのかの記載があります。戸籍が作成された日は、転籍によって新たに戸籍が作成された場合は「転籍」、婚姻によって新たに戸籍を作成された場合は「編製」、戸籍の改製が行われた場合は「改製」、古い戸籍の場合は「受附」などと記載されます。その作成日を見て、亡くなった方の出生日よりも、前に戸籍が作成されたものであれば、その戸籍が出生時の戸籍ということになります。
8. 出生から死亡までの戸籍をすべて取得したものの、誰が相続人となり得る者なのか分からない方。
「相続人の順位」のページをご覧ください。相続人関係図を作成しながら戸籍を取得すれば、誰が相続人であるかの判断がしやすくなります。
9. 相続人の現在戸籍を取得しようと思い、戸籍を取得したが、その相続人は亡くなっていたことが判明した場合。
その死亡した相続人が、被相続人の死亡日よりも前に亡くなったのか、後に亡くなったのかによって、相続人の範囲が変わってきます。詳しくは、「相続人の順位」のページをご覧ください。
4. 相続手続きの負担の一部解消につながる「法定相続情報証明制度」があると聞きました。詳しく教えてください。
上記のとおり、相続の手続きを行う際には、相続人の代表者や相続人から委任を受けた代理人等において、各役場より取寄せした戸籍謄本等一式を、法務局や被相続人が取引を行っていた全ての金融機関(証券会社等を含みます。)に個別に提出し、都度、その戸籍謄本等が全て揃っているか否かの確認・審査を受けることが必要になります。 また、相続手続きにおいては、戸籍謄本等の原本が還付されない金融機関もあったり、金融機関の数が多く、複数の金融機関の相続手続きを同時に進める必要がある場合等には、状況に応じて同じ戸籍を複数部にわたって取得することが必要になるケースがありました。
このように相続手続きを行う金融機関毎に相続人から提出された書類を個別に確認するとなると、金融機関にとっても負担になりますし(相続手続センターのような専門の機関を設置しているところが多くなっています)、相続人にとってもその確認・審査の時間が取引先の金融機関の数だけ増えることになり、相続手続きが完了するまでの待ち時間もそれに比例して長くなってしまうという不都合な状況が続いておりました。
そこで法務省は、相続手続きの際に必要となる戸籍関係書類一式の代わりに、法務局が発行する「法定相続情報証明書」があれば、全ての機関における手続きを一括して行うことができる制度を導入し、平成29年5月29日から全国の登記所(法務局)において、各種相続手続に利用することができる「法定相続情報証明制度」が開始されました。 これにより、不動産の相続登記、金融機関の相続手続き、税務署への提出と、その都度戸籍関係書類を一式揃える煩雑さを軽減することが期待されております。
簡単な手続き方法は下記のとおりです。
法定相続情報証明制度
法務局が、戸籍関係書類の内容を確認して、証明文を付して交付し、その証明書があれば、相続に関係する全ての機関における手続きを一括して行うことができる制度
手続き方法
- 相続人は、被相続人や相続人の戸籍関係書類に基づいて「相続関係図」を作成します。
- この相続関係図と戸籍関係書類を一式法務局に提出し、証明文を付してもらいます。(以降、相続に関係する手続きを行う際の戸籍関係の書類は、この証明書1通を提出すれば足りるようになります。)
法定相続情報証明書制度の詳細については、法務省のホームページをご覧ください
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