相続問題の専門知識

遺産分割

遺産分割調停について

遺産分割調停について

遺産分割事件は、家事事件手続法上、調停前置主義(遺産分割審判をするまえに、遺産分割調停をしなければならないことをいいます。)が採られていません。そのため、相続人間で協議が整わなかったときには、遺産分割審判の申し立てをすることも、遺産分割調停の申し立てをすることもできます。

もっとも、遺産分割事件では、先に遺産分割調停による相続人間の協議による解決を図り、協議によっても解決が図れなかった場合に、はじめて審判に移行するのが通常です。

調停手続の流れ

遺産分割調停の流れは、基本的には遺産分割手続と同じです。

  1. 相続人が誰かを確定する。
  2. 分割すべき遺産を確定する。
  3. 遺産を評価する。
  4. 具体的相続分を算定する。
  5. 具体的相続分に従って、分割方法を決定する。

なお、調停を申立てる際には、相続人が誰かは確定していることが前提となりますので、以下では、特に2. 3. 4.について、遺産分割調停の特徴を踏まえながらご説明します。

2. 分割すべき遺産を確定する

ア. 分割の対象になる財産

遺産分割の対象になる財産は、基本的に、被相続人が相続開始のときに有していたプラスの財産(積極財産)に限られます。もっとも、遺産分割調停では、積極財産に限らず、被相続人が負担していたマイナスの財産(消極財産)や、その他の本来は遺産分割の対象にならない種々の財産や論点も、調停の対象にすることができるとされています。

たとえば、相続開始の後に不動産から生じた収益(賃料債権等)は、それぞれの相続人が自分の相続分の限度で当然に承継しますので、本来は遺産分割の対象になる遺産にはあたりません。

もっとも、遺産分割調停では、本来は遺産分割の対象にならない財産であっても、相続人の全員が合意すれば、遺産分割の対象にすることができるとされています。さらに、被相続人が亡くなる直前に被相続人名義の口座から引き出されたお金を相続人が使い切ってしまった場合も、その相続人が引き出した事実を認めれば、そのお金を分割の対象にすることができます。

このように、遺産分割調停では、何を分割の対象にするか、どのような分割方法をとるか等について、基本的に相続人間の合意によって決めてよいとされています。

ただし、本来は遺産分割の対象にならない財産の分け方をめぐって紛争が長引くことになれば、遺産分割調停が進まなくなってしまいます。本筋から離れた紛争に時間を費やしてしまって調停が停滞してしまったのでは、本末転倒です。このような場合には、本来的に遺産分割の対象にならない事項(遺産分割の付随問題、前提問題ともいわれます。)については、調停から切り離したうえで別途の民事訴訟にその審理を委ね、本筋の調停が迅速に進むようにする等、実務では様々な工夫が凝らされるところです。

イ. 資料の収集

遺産分割調停では、遺産に関する資料収集は、基本的には当事者が行うこととされています。そのため、裁判所が独自に遺産調査をすることは原則としてありません。

3. 遺産を評価する

遺産分割調停では、遺産の評価について、相続人の合意が尊重されます。

たとえば、相続人の合意した不動産の価格が、実際の市場価値と比べて妥当かどうかを、裁判所が調査することは基本的にありません。たとえ合意された価格が市場価値とはかけ離れたものであったとしても、裁判所は、その合意された価格を遺産の価格として採用した上で、調停を進めることができます。

4. 具体的相続分を算定する(特別受益、寄与分)

遺産分割調停では、特別受益や寄与分について、厳密な証拠がない場合でも、相続人の全員が合意すれば、家庭裁判所は、このような相続人間の合意を尊重し、特別受益や寄与分があったものと扱うことができます。

ただし、特別受益や寄与分については、これらの認定をめぐって相続人同士で激しく争われることも多く、なかなか合意ができない場合が通常です。このような場合には、家庭裁判所の調停委員会が、客観的な資料をもとに独自の判断を行って、相続人間の合意形成を手助けする運用が行われています。

このように、遺産分割調停においても、遺産分割協議と同様に、段階を踏んだ手続運用が行われています。このように段階を踏むことによって、ときに争いが激化しやすい遺産分割紛争において、協議を適切に進めていくことができます。それぞれの段階では、相続人間で合意が形成されたことを文書の形で残しておき、紛争が蒸し返されないようにする等の工夫も必要となるでしょう。

遺産分割調停の申立て手続

1. 当事者

遺産分割調停を申立てることができる人(申立人といいます。)は、相続人や、相続分を譲り受けた人等です。調停を申立てる相手となる人(相手方といいます。)は、他の相続人全員です。相続分を譲渡した人や、相続放棄をした人は含まれません。

また、遺産分割調停において、意思能力のない人や行為能力のない人が参加した場合には、その協議は無効になってしまいます。そのため、相手方の中にこれらの人がいる場合には、申立人は、調停を申し立てるときに、その申立ての前か遅くとも同時期に、後見人の選任を、家庭裁判所に申立てる必要があります。

2. 管轄

調停を管轄する裁判所は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。相手方が複数いて、それぞれ住所地を管轄する裁判所が異なる場合には、そのうちのひとりの住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てることになります。なお、相続人の全員が合意した場合には、その合意で決めた家庭裁判所で調停をすることもできます。合意は書面でする必要があります。

3. 必要書類

ア. 遺産分割調停申立書

調停申立書には、当事者の記載のほか、申し立ての趣旨や理由、特別受益の内容等を記載します。調停申立書には、遺産目録を添付します。

また、申立人は、申立書の写しを相手方に送付する必要があります。これは、相手方全員に送付する必要がありますので、相手の人数分をコピーして提出する必要があります。

イ. 当事者等目録

相続人については、本籍の記載は不要で、住所を記載します。被相続人については、本籍もあわせて記載します。不動産登記簿上の住所や氏名が、住民票上の住所や戸籍上の氏名と異なっている場合には、不動産登記簿上の住所・氏名も記載します。

ウ. 相続関係図

被相続人や、すでに死亡している相続人について、死亡年月日を記載します。生存している相続人については、生年月日を記載します。両親を同じくする兄弟間の記載は、生まれた年の早い方を上にして記載することが通常です。

エ. 遺産目録

目録の左上に被相続人の氏名を、右上に作成年月日、作成者名を記入します。

(1) 不動産

隣り合っている土地や、土地とその上の建物等、まとまりのある土地や建物については、まとまりごとに記載します。不動産全部事項証明書上の記載通りに、正確に記載します。未登記建物については、固定資産評価証明書等の表示にしたがって記載すれば足ります。

固定資産税評価額欄には、直近の固定資産評価証明書に記載された評価額を記載します。「使用・管理状況」の欄には、敷地関係や利用状況、他の共有者等を記載します。

(2) 預貯金

金融機関名、支店名まで記載します。相続開始の後に預金の引き出しがある等して、残高が減少している場合には、「現在残高」欄とともに、「相続開始時残高欄」に記載します。使用・保管状況欄には、預金通帳や印鑑の保管者を記載します。なお、相続開始の後に預金を引き出すことは、相続人の預金に対する権利を奪うことになります。ですから、このような行為が行われた場合には、民事上の紛争で解決することになります。

(3) 株式、その他の有価証券

使用・保管状況欄には、証券会社の支店名を記載します。単価欄には、申立書の作成時点における終値を記載します。その他の有価証券については、有価証券の種類や、取扱金融機関、金額を記載します。

(4) 現金・保険契約等

「使用・管理状況」欄には、現金のうち、札や硬貨の状態で金庫に保管されているものを記載します。銀行名や支店名、口座名義を記載します。保険契約については、解約返戻金額を記載します。

オ. 事情説明書

事情説明書では、申立の内容に関する事項を詳しく記載します。事情説明書は、相手方に送付する必要はありません。もっとも、事情説明書は閲覧・謄写の対象になっているので(家事事件手続法254条)、相手から申請があれば、開示されることになります。

(1) 遺産分割の前提となる問題について

被相続人が生前に遺言書を作成していたか、相続開始の後に遺産分割協議が行われたか、遺産分割協議書を作成したか等について記載します。相続人の範囲、相続人に判断能力があるか、相続人が行方不明でないか、遺産の範囲や利用・管理の状況等についても記載します。

(2) 被相続人について

被相続人の亡くなった原因、同居相続人の有無、被相続人の生前の状況、亡くなったときの状況等について記載します。

(3) 今回の申し立てについて

遺産分割の話し合いの有無や回数、話し合いがまとまらなかった理由について記載します。

(4) 寄与分の主張について

寄与分を主張する予定の有無や、寄与行為の具体的な内容について記載します。

カ. 進行に関する照会書

家庭裁判所が、あらかじめ当事者の希望を聞いて、当事者の心身の状態や、安全の確保に配慮した調停を進めていくために提出を求めるものです。事情説明書と異なり、これは閲覧・謄写の対象にはならないとされています。

キ. 連絡先等の届け出書

家庭裁判所が平日の日中に連絡することができる連絡先を、当事者目録とは別に記載します。

ク. 非開示の希望に関する届け出書

事件記録の閲覧・謄写請求における相当性の判断の資料として、家庭裁判所に提出する資料です。

ケ. 相続関係を証明する戸籍

必要な戸籍類の範囲は、相続人の範囲によって異なり、通常、次のような書類を提出します。

(1) 相続人が子、又は子と配偶者の場合
  • 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
  • 相続人全員の現在の戸籍謄本
  • 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
  • 相続人全員の住民票または戸籍の附票
(2) 相続人が父母、または父母と配偶者の場合
  • 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
  • 相続人全員の現在の戸籍謄本
  • 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
  • 相続人全員の住民票または戸籍の附票
(3) 相続人が、兄弟姉妹、または兄弟姉妹と配偶者の場合
  • 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
  • 相続人全員の現在の戸籍謄本
  • 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
  • 相続人全員の住民票又は戸籍の附票
  • 被相続人の父母の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の直系尊属の死亡時の戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
相続人となるべき兄弟姉妹が、被相続人より先に亡くなっている場合

その兄弟姉妹の子が相続人となります(代襲相続人といいます。)。この場合には、亡くなった兄弟姉妹の出生から死亡までの、連続した戸籍謄本が必要です。

コ. 遺産に関する資料

  1. 不動産登記簿謄本または不動産登記事項全部証明書
  2. 固定資産評価証明書
  3. 住宅地図
  4. 公図
  5. 残高証明書の写し
  6. 投資信託等の残高証明書、報告書の写し
  7. 自動車の登録事項証明書の写し
  8. 相続税申告書の写し
  9. 遺言書の写し
  10. 遺産分割協議書の写し
  11. 特別受益や寄与分に関する資料
 

資料を提出する際には、説明書を提出する必要があります(資料の標目や作成者、証明しようとする事実を明らかにした書類のことをいいます。)。これらは相手方にも交付しますので、相手方の人数分の写しが必要です。

調停の終了

遺産分割調停が終了するのは、主に、1. 遺産分割調停が成立した場合、2. 不成立(不調)となった場合、3. 調停申立てが取り下げられた場合です。

1. 遺産分割調停が成立した場合

当事者間で合意が成立し、その合意が相当であると調停委員会や裁判所が認めて調停調書が作成されると、調停は成立したものと扱われます。調停が成立すると、確定した審判と同一の効力を有することになり、調停調書をもって直ちに強制執行をすることができます。

2. 不成立(不調)となった場合

当事者間で合意が成立する見込みがない場合等には、調停委員会や裁判所が調停を不成立として終了させることができます。調停が不成立で終了した場合には、当然に審判手続に移行することとされていますので、別途家庭裁判所に審判の申立てをする必要はありません。

3. 調停申立てが取り下げられた場合

申立人は、調停の成立又は不成立までの間に、いつでも調停の取下げをすることができます。特段の理由も不要で、相手方の同意も不要とされています。実務上は、取下書を裁判所に提出することとされています。

調停に代わる審判

調停に代わる審判とは、裁判所が、遺産分割調停が成立しない場合において相当と認めるときに、調停の成立に代わるものとして審判を出す制度です。遺産分割の合理的な解決や早期の解決を行うために活用されます。たとえば、以下のような場合に用いられることが多いです。

  1. 遺産分割調停において相続人の大半は遺産分割の方針について同意し協力的であるのに、ただ1人の相続人が方針に反対し、さらにその反対の理由も感情的で全く説得力が無いものであるという場合
  2. わずかな意見の食い違い等によって遺産分割調停があと一歩のところで成立しない場合

ただし、調停に代わる審判が出された場合でも、審判の告知を受けた日から2週間以内に当事者の誰かが異議を申し立てた場合は、「調停に代わる審判」は効力を失い、遺産分割審判に移行することになります。

遺産分割調停のポイント

裁判分割(遺産分割調停・審判による分割)のポイント」をご参照ください。