相続問題の専門知識

遺留分

遺留分の紛争の事前対応策について

遺留分に配慮した遺言書の作成

遺留分を侵害しない遺言書を作成してあれば、遺留分に関する紛争は起こりませんので、遺言書を作成する際に遺留分にも配慮した上で作成することがもっとも有効な対応策の一つとなります。

もちろん、遺留分が問題となるのは遺言者の相続開始の時点であり、評価額も相続開始時が基準となりますが、遺言書作成時点の評価額をベースに遺留分に配慮した遺言書の作成をすることは非常に有効な遺留分の紛争対策といえます。

遺留分に配慮した遺言書を作成するには、まず、遺言書作成時点での遺言者の財産内容を正しく把握することが肝要ですので、まずは財産の調査・整理・評価を行います。その上で、次のような遺言書を事案に即して作成していくことが有効です。

  • 遺留分を満たす程度の財産を遺留分権者に渡す遺言書
  • 遺留分侵害額請求を行う可能性の高い遺留分権者に渡す遺言書
  • 遺留分侵害額の負担割合を指定した遺言書

また、「遺留分侵害額請求」の場合はもちろん、2019年6月30日以前に開始した相続について「遺留分減殺請求」をする場合であっても、「受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる」(改正前民法1041条)とされていますので、遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)を受ける者に十分な金融資産を渡す遺言書を作成しておくことで、遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)を受けた者が無理なく対応できる環境を用意することができます。

このような観点から、遺言書作成時点において財産を整理・評価し、財産の全容を把握しておくことが重要となります。

上記の方法は、一例に過ぎず、どのような方法が有効か、どのような遺言書を作成しておくべきかは、事案によって異なりますので、万全を期したい場合には相続に強い弁護士にご相談頂くことが適切です。

遺留分侵害額の支払いのための資金の確保

遺留分に配慮して一定の金融資産を渡す遺言書を作成する方法のほかにも、遺留分侵害額(価額弁償)を支払うための金融資産を確保する方法があります。たとえば、生命保険を活用することで、遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)を受ける者に速やかに金融資産を確保することができるとともに、一定の範囲内であれば、遺留分額を減少させる効果を期待できます。

また、遺言書作成時点において、遺留分に充つる程度の十分な金融資産がないことが判明した場合には、相続開始までの間に十分な金融資産が確保できるように余裕をもって生前に財産を処分しておくという対策をとることも考えられます。このように、その金銭を確保しておくことにより、万一、遺留分紛争が起こっても、すぐに鎮静化することが可能となります。

遺留分の事前放棄

遺留分は、相続発生後はもちろん、相続発生前でも自由に放棄することができます。

ただし、相続開始前に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可を要します。遺言者の生前に、遺留分に関する紛争が生じる可能性のある場合、この遺留分の生前放棄の措置をとることができれば、後日、相続人が遺留分に関する紛争で苦しまずにすむことになります。

相続人の廃除

廃除によって、特定の相続人の相続権を喪失させれば、その者の遺留分もなくなることになり、遺留分に関する紛争を回避する結果となります。廃除とは、法定相続人が被相続人を虐待したり重大な侮辱をしたりしたときなどに、被相続人側の請求によってその相続権を失わせる制度です。

参照

第892条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

廃除の請求は被相続人の生前に行うことも、遺言によってなすことも可能ですが、虐待等の事実が認められなければ廃除はされませんので、事前に証拠資料の整備など、十分な準備が必要となります。

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この記事の執筆
弁護士法人朝日中央総合法律事務所
弁護士法人朝日中央綜合法律事務所は遺産分割紛争、遺留分紛争、遺言無効紛争などの相続紛争の解決実績は2018年以降、1,695件(内訳:遺産分割紛争635件、遺留分紛争89件、その他遺産相続紛争971件)にのぼり、多くの依頼者から信頼を獲得しています。