相続問題の専門知識

遺留分

遺留分の放棄

遺留分の放棄

1. 相続開始前の放棄

ア. 手続

相続の開始前において、遺留分の放棄をすることは可能ですが、家庭裁判所の許可を受ける必要があります(民法1043条1項)。遺留分を有する推定相続人は、相続開始時までに、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して放棄許可の審判を申立てます。

イ. 効力

放棄許可の審判がなされると、遺留分の放棄の効力が発生し、相続開始時において遺留分の侵害があったとしても、放棄者に遺留分侵害額請求権(遺留分減殺請求権)が発生しないことになります。また、共同相続人の1人がした遺留分の放棄は、他の共同相続人の遺留分に影響を及ぼしません。

Q&A

遺留分を放棄すると、相続権も失うのですか?

失いません。遺留分権利者が放棄したものは、あくまでその遺留分だけであって、相続権の放棄ではありませんので、遺留分を放棄したことによって相続権を失うことにはなりません。

家庭裁判所における遺留分放棄の許可審判の判断基準を教えてください。

家庭裁判所は、(1)放棄が推定相続人の自由意思に基づくものであるか、(2)放棄理由に合理性・必要性が認められるか、(3)放棄の代償の有無、などを許可判断の基準としています(仙台高決昭和56年8月10日、和歌山家裁妙寺支部審昭和63年10月7日)。

家庭裁判所で遺留分の放棄が許可された後、事情が変わった場合には、どのような手段がとり得ますか?

許可審判当時の事情が変化し、遺留分放棄の状態を存続させておくことが客観的に見て不合理、不相当と認められるに至った場合には、許可審判を取り消しまたは変更することができるとした裁判例があります(東京高決昭和58年9月5日)。

遺留分を放棄した相続人の死亡等により代襲相続が開始した場合には、代襲相続人は、遺留分侵害額請求権(遺留分減殺請求権)を有しますか?

遺留分侵害額請求権(遺留分減殺請求権)を有しないものと考えられています。代襲者は被代襲者が相続した場合以上の権利を取得するものではないからです。

2. 相続開始後の放棄

相続開始後、遺留分を有する相続人が遺留分を放棄することについては、明文の規定はありませんが、個人財産権処分の自由の見地から有効になし得ると解されています。相続開始前の放棄と異なり、家庭裁判所の許可は必要なく、要式も自由とされています。遺留分放棄の効果は、相続開始前の放棄と同様で、1人の相続人の放棄は他の共同相続人に影響を及ぼしません。

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この記事の執筆
弁護士法人朝日中央総合法律事務所
弁護士法人朝日中央綜合法律事務所は遺産分割紛争、遺留分紛争、遺言無効紛争などの相続紛争の解決実績は2018年以降、1,695件(内訳:遺産分割紛争635件、遺留分紛争89件、その他遺産相続紛争971件)にのぼり、多くの依頼者から信頼を獲得しています。