相続問題の専門知識

遺言書作成

遺言の解釈について

遺言の解釈の必要性

遺言は特定の効果を発生させる法律行為であり、遺言内容について解釈が必要となる場合があります。しかし、遺言の解釈が必要となった時点では、 既に遺言者が死亡していることが多いため、 その真意を遺言者に確認することが不可能な場合がほとんどであるといえます。

裁判例の傾向

最高裁昭和58年3月18日判決は、遺言書の解釈の方法について、遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく、 遺言者の真意を探究すべきであり、 遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたっても、 単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出してその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、 遺言書の全記載との関連、 遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究して当該条項の趣旨を確定すべきであると解するのが相当である、としています。したがって、遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を前提にしながらも、その文言を形式的に解釈するのではなく、遺言作成時の状況等を考慮して、遺言者の真意を合理的に探究して解釈していくことになります。

例えば、最高裁平成17年7月22日判決は、4項目から成り、1項から3項までには、特定の財産について特定人を指定して贈与等する旨記載されており、4項には、「遺言者は法的に定められたる相續人を以って相續を与へる。」と記載されていた遺言書の解釈が争われた事案です。遺言者の法定相続人は、遺言者の兄弟姉妹であり、遺言書の文言を形式的に読むと、遺言書の4項は、同人らに法定相続分で財産を渡す意味に読めます。

しかしながら、最高裁は、次のように、遺言書の文言以外の作成当時の状況や作成に至る経緯を考慮して、遺言者の真意を探求して解釈をしています。すなわち、遺言者は、遺言者に子がなかったため、遺言者夫婦の実子として養育する意図で、Aにつき遺言者夫婦の嫡出子として出生の届出をしたこと、Aは、遺言者夫婦に引き取られた後遺言者が死亡するまでの約39年間、実の親子と同様の生活をしていたこと、そして、遺言者が死亡するまで、本件遺言書が作成されたころも含め、遺言者とAとの間のその生活状態に変化が生じたことはうかがわれないこと、以上の諸点に加えて、本件遺言書が作成された当時、Aは、戸籍上、遺言者の唯一の相続人であったことにかんがみると、法律の専門家でなかった遺言者としては、同人の相続人はAのみであるとの認識で、遺言者の遺産のうち本件遺言書1項から3項までに記載のもの以外はすべて上告Aに取得させるとの意図の下に本件遺言書を作成したものであり、同4項の「法的に定められたる相續人」はAを指し、「相續を与へる」は客観的には遺贈の趣旨と解する余地が十分にあるというべきであるなどと判断しています。

遺言の解釈の方法

遺言の解釈、すなわち遺言者の真意の探求は、まず遺言書の字句によることが原則ですが、裁判例が認めているように、いたずらに遺言書の字句にのみ拘泥するべきではなく、遺言書作成当時の遺言者と受遺者の関係、遺言者の置かれていた状況などの諸事情を考慮して、遺言者の真意を合理的に探究し、できる限り有効なものとして解釈すべきとされています。

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この記事の執筆
弁護士法人朝日中央総合法律事務所
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