遺産相続レポート
危うい名義預金
2018.08.13
こんにちは。札幌事務所の山本です。今回は、被相続人が相続人名義で預金口座を作っていた場合、いわゆる「名義預金」をテーマにお話させて頂きます。
はじめに
ご夫婦の間で、旦那様が奥様名義で退職金等の自身の収入を元手に預貯金口座を開設し、同預貯金を奥様にあげたと認識されていることもあるかと思われます。他にもお孫さんに財産をあげたいと思った祖父母がお孫さん名義の定期預金を作成するケースもあります。
預貯金について
これらの預貯金はいったい誰のものとなるのでしょうか。 単純に考えると、名義が奥様やお孫さんであるため、奥様、お孫さんのもののように考えられます。 しかし、法律的、税務的には、被相続人の財産であると判断される可能性が極めて大きいです。
それは、定期預金はその預貯金を出捐した者に帰属する(この考えを客観説といいます。)という最高裁判例(最高裁第3小法廷昭和48年3月27日判決)があるためです。「出捐した者」とは、簡単にいうとその預金をするためにお金を出した者を指します。上記例では、旦那様、祖父母がお金を出しているため、両者が出捐者となります。
一方で、口座の名義人(預入行為を行った者)を預貯金の帰属者とする主観説といった考え方もあり、主観説の考え方を一部取り入れたとも読み取れる最高裁判決もあるのですが(最高裁第2小法廷平成15年2月21日判決、最高裁第1小法廷平成15年6月12日判決)、現時点ではいまだ客観説が主流と言われております。 そうすると、上記のお孫さん名義の預貯金の例では、他の相続人(お孫さんの親以外の祖父母の子)からお孫さん名義の預貯金口座を遺産に含めて分けるべきと主張され、その主張が認められる可能性があります。
預貯金の贈与について
ここで、一つ疑問として、旦那様や祖父母が預貯金をあげるつもりであったのであれば、預貯金を開設した時点で奥様やお孫さんに対する贈与が成立しないかとも思われます。 確かに贈与契約は必ずしも、法律上は書面で締結する必要はなく、口頭の合意でも成立します。
しかし、税務署からは、(1)贈与契約書の作成がなく、贈与税の申告、納付がないこと(2)預貯金口座を名義人が管理していないこと(重要な考慮要素になります)などから、税務上贈与の事実を認めることができないと判断され、名義預金が被相続人の遺産として相続税の対象財産とされる可能性が考えられます。
また、相続税申告を行った後、税務署の調査が入る要因として名義預金の未申告が相当多いと言われております。 名義預金の未申告が税務署に発見された場合、当初の相続税申告時に名義預金を申告した際に支払う税額より多くの税金を支払う可能性があります。
終わりに
以上の通り、名義預金は法律上、税務上のリスクが大きいものと考えられます。 そのため、相続人に生前に多くの財産をあげたいと思っている方は、贈与税がかからない範囲である毎年110万以下の贈与を行うこと(この際、契約書の作成を行った方が望ましいです。)をお勧めします。