遺産相続レポート

家族信託について

2018.10.08

家族信託について|遺産相続の専門的な情報

1.家族信託とは?

 

家族信託というものをご存知でしょうか?まだまだ認知度は低いのが現状ですが、最近にわかに注目を集めている財産管理の一手法です。

家族信託とは、資産を持つ方が、特定の目的(例えば「自分の老後の生活・介護等に必要な資金の管理及び給付」等)に従って、その保有する不動産・預貯金等の資産を信頼できる家族に託し、その管理・処分を任せる仕組みのことを言います。具体例で詳しく見てみましょう。

 

将来の認知症等に備えて家族信託を活用するケース

 

高齢の父親が賃貸アパートを所有している場合、父親の意思能力がしっかりしている間は何も問題はありませんが、将来認知症等により父親の意思能力が失われると、財産管理の上で重大な問題が生じます。というのも、アパートの所有者である父親の意思能力が失われ法的に契約を結ぶことが不可能になると、アパートをリフォームする、新規の入居者と契約する、アパートの建て替えを行う、アパートを売却するなどなど、アパートに関する財産管理が行えない状態となり、完全に手詰まりの状況となってしまうからです。こうなると、せっかくの資産は塩漬けの状態となり、有効に活用することは不可能になってしまいます。

 

この場合、認知症の父親に成年後見人を付けて、成年後見人が代わりにアパートの財産管理を行う方法も考えられますが、あまり有効な手段とは言えません。なぜなら、成年後見人の第一の使命は被後見人の財産を守ることにあるため、多額の出費を伴うアパートのリフォームや、財産を手放すことになるアパートの売却などについては、裁判所の許可が下りない可能性が高いからです。つまり、成年後見人を付けたとしても、アパートを建替える、アパートを売却するなど、資産の運用・組み換えといった積極的な財産管理を行うことは難しく、財産管理の方法として融通が利かないというデメリットがあります。

 

そこで、家族信託という手段を活用することが考えられます。一例として、まず父親の所有しているアパートを、信頼できる息子に信託してその管理・処分を任せるという例を見てみましょう。仕組みは概ね以下のとおりです。

  1. アパートを信託財産として父親と息子で信託契約を締結する。形式上、アパートの所有名義が受託者である息子の名義になる。但し、父親の意思能力がしっかりしている間は父親の指示に従いアパートを管理・運用することとする。
  2. 父親が認知症等の診断を受け意思能力が低下した段階で、アパートの管理・運用権限を息子が完全に引き継ぐ。なお、賃料はそのまま父親が受領する。
  3. アパートの所有名義が受託者である息子の名義になっているので、認知症等で父親の意思能力が失われていたとしても、息子の判断でアパートのリフォーム、建替え、売却等を行うことができる。成年後見と違って裁判所の許可なども必要ないので、受託者である息子の権限で財産管理を行うことができる。
 

いかがでしょうか。以上のような家族信託を活用することで、万が一父親が認知症等によって意思能力を失った場合でも、受託者となった家族の判断で資産を有効に活用することが可能となります。成年後見と違い裁判所の許可も必要ないので、積極的な運用も可能になるのです。

2.その他の信託の活用例

 

先程は、父親が所有するアパートの管理・運用を例に家族信託を説明しましたが、信託はその設計の仕方により実に多種多様なニーズに応えることができます。以下で、信託の活用例をいくつか紹介したいと思います。

 

(1) 障害者支援型の信託

 

例えば障害のある子どもを持つ親が、自分が亡くなった後でも子どもが生活に困ることの無いように信託を活用するケースがあります。その場合、一例として以下のような信託の仕組みを作ります。

  1. 委託者である親と受託者(親族又は信託会社等の専門家)との間で信託契約を締結し、  信託財産となる金銭を受託者に預託する。但し、実際に金銭が移動するのは、委託者で  ある親が死亡した時と定める。
  2. 委託者である親が亡くなると、受託者は信託契約の内容に従って、受益者である子ど  もが生活に困らないように金銭を給付する。金銭の給付方法は信託契約で自由に決めることができる。
  3. 受益者である子どもが十分な意思表示が出来ない可能性がある場合は、子どもの代理人となる受益者代理人(弁護士などの専門家)をあらかじめ指名しておく。
  4. 受益者である子どもが亡くなった場合は、信託は終了する。その時点で金銭が残って  いる場合は、信託契約で受取人と定めた者に対して金銭を引き渡す。
 

以上のような信託を設定することで、親亡き後でも障害のある子どもはお金に困ることなく生活を送ることができます。実務では、以上のような信託の仕組みと成年後見制度を組み合わせてプランを設計することもよく行われています。

 

(2) 受益者連続型の信託

 

受益者連続型とは、第1受益者Aが死亡した時は、第2受益者Bが代わって受益者となるというように、受益者の地位が契約に定められた順位に従って移転する仕組みの信託を指します。この信託は、自分の財産を引き継ぐ者を先々まで指定することができるという点において、遺言では実現できないメリットを持っています。

例えば、遺言では自分が亡くなった時に遺産を受け取る者を指定することはできますが、さらにその遺産を受け取った者が亡くなった場合までを指定することはできません。これに対し、受益者連続型の信託では、最初に受益権を取得する第1受益者、第1受益者が死亡した後に受益権を取得する第2受益者、その次の第3受益者というように先々まで指定することが可能です(※永久に指定することができるわけではなく、期間的な制限があります)。

 

そのため、例えば自分が亡くなった時はまず息子に財産を承継し、息子が亡くなった場合は孫に財産を渡したいという要望がある場合、遺言だとその要望を完全に叶えることは困難ですが(遺言で財産を受け取った息子が、その財産を孫に引き継ぐとは限らない。妻に渡す場合、又は第三者に渡す可能性もある。)、受益者連続型の信託であればその要望を叶えることができます。

 

(3) 事業承継支援型の信託

 

会社経営者で株式の大半を保有する父親が、後継者となる息子に株式を譲り事業を承継したいという場合、単に株式を贈与する方法もありますが、信託を活用することでより柔軟な事業承継を実現することが可能になります。

仮に株式を単に贈与した場合は、名実ともに息子に会社の支配権が移転することになるので、それ以降父親は会社経営について影響力を失うことになります(贈与税等の税金の問題は省略します。)。

これに対して、信託を活用すれば、父親の会社に対する支配権は維持したうえで、株式の配当等の経済的権利のみを息子に移転し、その後父親の判断するタイミングで支配権を息子に譲る等の柔軟な事業承継を実現することが可能です。これにより、まだ会社経営から退くタイミングではないが、後々の相続税対策等も考えて、株式の配当等の権利のみを後継者に譲り、会社の支配権は自分で保持したいと考える経営者のニーズを満たすことができます。

3.最後に

 

以上、身近な家族信託から事業承継に活用できる信託までその概要を説明してきました。信託という制度は非常に奥が深く、その設計次第で多種多様な要望を法的に実現することができるため、今後ますます注目を集めていくことは間違いないでしょう。

当事務所は、グループ会社として信託会社を設立しており、信託に関して豊富な経験がありますので、信託の活用に興味のある方は、是非一度当事務所にご相談ください。

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この記事の執筆
弁護士法人朝日中央総合法律事務所
弁護士法人朝日中央綜合法律事務所は遺産分割紛争、遺留分紛争、遺言無効紛争などの相続紛争の解決実績は2018年以降、1,695件(内訳:遺産分割紛争635件、遺留分紛争89件、その他遺産相続紛争971件)にのぼり、多くの依頼者から信頼を獲得しています。

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