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相続総論

相続紛争の予防と解決マニュアル

第1

相続法の基礎知識

集合写真
1

相続総論

(1)

相続とは

(イ)
相続とは、 自然人の法律上の地位 (権利義務) を、 その者の死後に特定の者 (相続人) に包括的に承継させることをいいます。
明治民法 (明治 31 年法律 9 号) は、 家父長的家族制度の維持を前提とし、 家長の財産は家の財産として、 家長の死亡又は隠居によって次の家長たるべき者に承継 されるものとされていました (家督相続)。 そして、 家長以外の家族個人の財産は、 家督ではなく遺産として、 一定の身寄りの者に承継されていました。
しかし、 戦後の民法 (昭和 22 年法律 222 号) においては、 家父長的家族制度を 前提とした 「家督相続制度」 と 「隠居制度」 は廃止され、 相続の概念も被相続人の 遺産の承継ということに集約されたのです。
(ロ)
このように、 相続は、 自然人の死亡による財産承継ですから、 財産のないところ に相続は発生しません。 逆に財産が存在すれば、 誰でも相続が開始し、 これをめぐ る様々な問題が生じうるといえます。
(2)

相続の開始

(イ)
相続開始原因
相続は、 自然人の死亡によって開始します (民法 882 条)。 自然人が死亡すると、 その瞬間に相続人がそのことを知ると否とに関わりなく、 相続が開始することにな ります。
このように、 相続開始の原因は 「自然人の死亡」 ですから、 当然のことながら、 法人について相続が開始することはありません。
相続開始原因である 「人の死亡」 には、 大きくわけて、 自然的死亡と失踪宣告に もとづく擬制死亡の二つがあります。
(a)
自然的死亡
自然的死亡は、 医学的に死亡が確認された状態であって、 この自然的死亡によって相続が開始されるのが一般です。
最近、 話題になっている 「脳死」 は人の自然的死亡の時期をめぐる問題であり、相続の開始時期をめぐる問題でもあります。
(b)
失踪宣告による死亡
失踪宣告とは、 一定の要件のもとに人を死亡したものとみなして、 財産関係や身分関係につき死亡の効果を発生させる制度です。 この失踪宣告には、 普通失踪 と危難失踪とがあります。
1)
普通失踪
不在者の生死が7年間明らかでないときに、 家庭裁判所は利害関係人の請求により失踪の宣告をすることができます (民法 30 条1項)。 これを普通失踪と いいます。
普通失踪の場合、 失踪の宣告を受けた者は、 7年間の期間満了の時に死亡し たものとみなされます (民法 31 条)。 したがって、 この時点で相続が開始され ることになります。
2)
危難失踪
戦地に臨んだり、 沈没した船舶中にいた者、 その他死亡の原因となるべき危 難に遭遇した者の生死が、 これら危難の去った後1年間明らかでないときは、 家庭裁判所は、 利害関係人の請求により失踪の宣告をすることができます (民 法 30 条2項)。 これを危難失踪といいます。
危難失踪の場合、 失踪の宣告を受けた者は、 危難の去った時に死亡したもの とみなされます (民法 31 条)。 したがって、 この時点で相続が開始されること になります。
(c)
認定死亡
1)
認定死亡とは、 戸籍法の定めるところにより、 水難、 人災、 その他の事変に よって死亡した者がある場合において、 その取り調べをした官庁または公署が 死亡地の市町村長に、 その者の死亡した日時、 場所を報告することによって、 その日時、 場所で死亡したものとして取り扱われることをいいます (戸籍法89 条)。
この認定死亡によっても相続が開始します。
2)
認定死亡による相続開始の時期は、 死亡した者の取り調べをした官庁から市 町村長に送付される報告書に記載されているその死亡の日時です。
(ロ)
同時死亡の推定
(a)
通常、 ある人が死亡した時期と、 その人の相続人となるべき人の死亡時期とには時間的な差があるのが一般です。
しかし、 災害や事故などによって、 数人が死亡した場合など、 各人の死亡の前後が分からない場合があります。
この場合、 だれが相続人となるかについて問題が生じてしまいます。
そこで、 死亡した数人中の1人が他の者の死亡後もなお生存していたことが明らかでないときには、 これらの者は、 同時に死亡したものと推定されることにな っています (民法 32 条の 2)。 これを同時死亡の推定といいます。「推定」 ですか ら、 死亡の前後につき明確な証明ができた場合には、 この同時死亡の推定は及び ません。 また、 数人の死亡は、 同一の事故や原因による必要はなく、 死亡の前後 が不明であれば、 同時死亡の推定がなされます。
(b)
同時に死亡したと推定された者の間においては、 相続は生じません。
(ハ)
相続開始地
相続は、 被相続人 (死亡した者) の住所において開始します (民法 883 条)。 したがって、 住所以外の場所、 例えば、 入院先の病院で死亡した場合であっても、その者の住所で相続が開始します。
相続開始地は、 相続に関する訴訟、 家事審判の裁判管轄を判断する基準となります。 また、 相続税の納税地となり、 相続税の申告書は、 死亡した時の住所地の所轄 税務署長に提出されることとされています (相続税法附則3項)。
(3)

相続財産に関する費用

(イ)
相続財産に関する費用とは、 相続財産についての公租公課、 相続不動産について の保存登記手続費用、 管理費用、 清算費用、 訴訟費用など、 相続財産の保存、 管理 や清算に必要な費用をいいます。
この相続財産に関する費用は、 相続財産の中から支弁することになっています (民法 885 条1項本文)。
したがって、 実際の遺産分割手続においては、 相続財産からこの相続財産に関す る費用を控除して分割することになります。
(ロ)
遺産の管理費用に、 保存に必要な費用すなわち必要費が含まれることに争いはあ りませんが、 利用、 改良に必要な費用すなわち有益費や公租公課、 相続債務の弁済 費用等が含まれるかについては争いがあります。
(a)
有益費
裁判例は、 積極 (含まれる)、 消極 (含まれない) の両方に分かれています(積極説として、 仙台家裁古川支部昭和 38 年 5 月 1 日審判等、 消極説としては、 札幌高裁昭和 39 年 11 月 21 日決定)。 消極説では、 相続財産に対し有益費を支出した相続人は、 分割によりその財産 を取得した相続人に対し、 遺産分割手続外において償還請求することになります。
しかし、 遺産全体を一挙に解決する必要性から、 実務的には積極説がより合理 的であるように思われます。
(b)
公租公課
裁判例は、 積極、 消極の両方に分かれています (積極説として、 大阪高裁昭和41 年 7 月1日決定等。 消極説として、 東京高裁昭和 42 年1月 11 日決定等)。 この点についても実務的には積極説がより合理的であるように思われます。
(c)
相続税
この点についても裁判例は、 積極、 消極の両方に分かれています。
東京家裁昭和 46 年 9 月 7 日審判は、 相続人の1人が立替払いした相続税につき、 相続人全員が、 遺産分割における清算を希望しているときに、 遺産分割手続内で の清算を認めており、 積極説を採用しました。
これに対し、 東京家裁所昭和 47 年 11 月 15 日審判は、 相続税は、 各共同相続 人が遺産分割によって取得した具体的相続分に応じて、 各相続人が負担すべきも ので、 遺産分割手続において清算すべきものではないとして、 消極説を採用して います。 実務的には、 東京家裁昭和 46 年 9 月 7 日審判のように、 相続人全員が 遺産分割による清算を希望しているときまで、 これを否定する必要はないと思われます。
(d)
相続債務の弁済費用
この点についても裁判例は、 積極、 消極の両方に分かれています。
大阪高裁昭和 46 年 9 月 2 日決定は、 相続人の一部の者が遺産分割前に被相続人の債務を弁済したような場合には、 その債務並びに弁済がいずれも正当と認め られる限り、 遺産分割手続中で清算するのが相当であるとして、 積極説を採用し ました。
これに対し、 大阪高裁昭和 31 年 10 月 9 日決定は、 他の共同相続人のために相 続債務の立替弁済をした場合には、 立替払をした相続人の他の共同相続人に対す る償還は通常の民事訴訟手続によるべきで、 遺産分割の審判事件において求める ことはできないとして、 消極説を採用しました。
(e)
以上の争いは、 裁判所の最終的判断が要求される遺産分割審判手続及び共有物 分割訴訟手続の中では起こりうるものですが、 当事者の協議を中心とする遺産分 割調停手続の中においては、 比較的柔軟に運用されています。
(ハ)
相続財産に関する費用は、 原則として相続財産の中から支弁されます。
ただし、相続人の過失によって支出した相続財産の管理、 清算費用は、 その相続人固有の債務となります (民法 885 条1項ただし書)。
ここにいう相続人の過失の判断基準となる注意義務は、 他人の財産に対する注意義務ではなく、 自己の固有財産におけるのと同一の注意義務であるとされています (民法 918 条1項)。
(4)

相続回復請求権

(イ)
意義
前記のとおり、 相続によって相続人は、 被相続人が有していた一切の財産権を包括的に承継する権利、 すなわち相続権を有しています。 この相続権を他人が侵害し ている場合、 相続人は、 その全部又は一部を侵害している者に対し自己の相続権を 主張し、 侵害を排除して、 完全な相続権の回復を図る必要があります。
そこで、 相続人に認められた権利が相続回復請求権 (民法 884 条) です。
(ロ)
相続回復請求権の行使
(a)
相続回復請求権を行使できる者の範囲
1)
相続回復請求権を行使できる者は、 遺産の占有を失っている (相続権を侵害 されている) 真正な相続人です。
2)
相続分 (詳細は後記5を参照) の譲受人も相続人に準じて、 相続回復請求権 を行使できると解されています。
3)
これに対し、 相続財産の特定承継人 (相続人から売買、 贈与などによって譲 渡を受けた者) は、 相続回復請求権を行使できないと解されています。 その理 由は、 相続回復請求の争点が相続資格にある以上、 相続回復請求権は真正な相 続人の一身に専属し、 この相続人から相続財産を譲り受けた第三者は、 相続資 格を主張できないからだとされています。
4)
相続権を侵害された相続人が、 相続回復請求権を行使せずに死亡した場合、 その相続人の相続人は、 相続回復請求権を相続によって取得するのではなく、 相続人の相続人固有の相続回復請求権を有することになると解されています。
(b)
相続回復請求権行使の相手
1)
表見相続人 (相続人ではないのに、 戸籍上、 相続人であるように見られる地 位にある者) が、 相続回復請求の相手方になることには異論がありません。
2)
第三取得者 (不真正な相続人から売買、 贈与などによって譲渡を受けた者) が相続回復請求権の相手方になるかについて、 古い判例 (大審院大正 5 年 2 月 8日判決) は、 これを否定しています。 しかし、 戦後の下級審判例においては、 肯定する判決もなされており (例えば、 東京高裁昭和 38 年7月 15 日判決)、 統一をみません。
3)
無効な売買によって被相続人から相続財産を取得した者のように、 自己の相 続権を主張しない相続財産の占有者は、 相続回復請求の相手方とはなりません。 このような者は、 相続と全く関係のない財産侵害者であるからです。 この場合 の目的物の返還請求は、 本来、 被相続人に帰属すべき請求権を相続人が行使す るというものにすぎません。
(c)
共同相続人間の争いに対する民法 884 条の適用の有無
1)
共同相続人の1人が他の共同相続人を排除して相続財産を管理、 支配してい る場合に、 他の共同相続人がその管理、 支配を排除する場合、 相続回復請求に 関する民法 884 条の適用があるか否かについては議論が分かれています。
2)
この点につき、 最高裁昭和 53 年 12 月 30 日判決は、 a.共同相続人間の相続 権の侵害についても原則的には民法 884 条の適用があるが、 b.相続権を侵害 している相続人がその侵害していることを知り、 または侵害していないと信じ るべき合理的な理由がない場合には、 民法 884 条の適用はないと判示し、 この 問題は実務的には解決されました。
(d)
相続回復請求権の行使方法
1)
相続回復請求権は、 必ずしも訴訟において行使する必要はありません。
また、 相続財産に対する被相続人の所有権や賃借権その他の権利の存在を主張、 立証する必要はなく、 自己が相続人であること及び回復を求める遺産が被相続 人の遺産を構成していたことを主張、 立証することで足ります。
2)
訴訟による場合、 被相続人の住所地を管轄する裁判所に対して訴えを提起す ることになります。
(ハ)
相続回復請求権の消滅
(a)
消滅期間
1)
相続回復請求権は、 相続人またはその法定代理人が 「相続の開始及び自己が 真正の相続人であることを知った時」、 すなわち相続権の侵害をされた事実を 知った時から 5 年で時効により消滅します。
これは、 時効による消滅ですから、 相続回復請求の相手方 (表見相続人等) が時効による消滅を援用することによって初めて相続回復請求権の消滅という 効果が生じます。
2)
相続回復請求権は、 相続開始の時から 20 年を経過した場合には、 相続人が 相続権侵害の事実を知っていたか否かに関係なく消滅します。
これは、 時効によって消滅するのではなく、 除斥期間 (権利を行使すべき確 定的期間) の経過によって消滅するものであると解されています。 したがって、 相続回復の相手方による援用は不要で、 期間の経過により当然に相続回復請求ができなくなってしまいます。
3)
以上の消滅期間の定めは、 相続による財産変動の早期確定ないし安定を図る 趣旨であるといえます。
したがって、 前記で述べた相続回復請求の相手方に該当する者は、 該当しな い者に比べ、 財産変動の早期確定、 安定が認められることになり、 有利である ともいえます。
(b)
消滅の効果
相続回復請求権が消滅すると、 相続人は、 相続によって承継した個々の権利義務も包括的に喪失し、 逆に表見相続人は、 相続開始の時から相続権を取得した ことになり、 表見相続人のなした行為は、 すべて遡って有効なものとして確定 するものと解されています。