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寄与分を定める審判事例

相続紛争の予防と解決マニュアル

第3

相続紛争の事例研究

集合写真
5

寄与分を定める審判事例

(1)

事案の概要

A は、 妻 B と共に個人で薬局を経営していました。 A と B との間には長女 C、 長男 D、 次男 E の3人の子がいました。 長男 D は幼少のころより家業を引き継ぐよう希望されて いたため、 高校生のころより献身的に薬局の手伝いをしました。
大学を卒業した後、 D は A のもと、 薬局で働きました。 給与は出たものの、 一般的な 給与と比較すると僅かなものでした。
その後、 D は F と結婚しました。 D の妻 F は結婚後、 D の指示に従い薬局の経理事務を 無報酬で行いました。
薬局は D の働きにより順調に売上を伸ばしていきました。 D が 30 歳になったころか ら、 D は A に代わって薬局の経営の中心となりました。
C 及び E はそれぞれ独立し、 薬局の経営には一切関知しませんでした。
その後薬局は規模を大きくし、 Dが40歳になった時点で法人化しました。 薬局が法人 化してから5年後に先ず B が死亡し、 続いて A が死亡しました。
A は遺言を残しておらず、 相続人間で遺産の分割につき協議がされました。 しかしな がら、 D及びFの寄与の評価について争いが生じたため、 Dは家庭裁判所に調停を求め ました。 調停で話し合いがなされましたがまとまらず、 遺産分割及び寄与分について審 判手続に移行しました。
(2)

解決

長男 D については、 被相続人 A より給与をもらっていた点が問題となりましたが、 右給与が低廉であったことが考慮され、 審判により寄与分が認められました。 また、 相続 人ではない長男の妻 F についての寄与は、 長男 D の寄与分の算定につき考慮するという 形で評価されました。
(3)

コメント

遺産分割に際して、 寄与分が認められる要件として、 寄与行為の無償性があります。
つまり、 寄与分が認められるには、 当該寄与行為が無償で行われなければならず、 被相 続人から相当の対価を得て労働等をした場合には、 寄与分は認められません。
しかしながら、 僅かな小遣い銭程度しかもらっていない場合には、 相当の対価とは言 えませんから無償性は否定されず、 寄与行為として認められることとなります (福岡家 久留米支審平 4.9.28.家月 45 巻 12 号 74 頁)。
よって、 本事例でも、 D が得ていた給与は、 一般的な給与と比較して僅かなものです ので、 寄与分が認められました。
次に、 長男 D の妻 F の寄与ですが、 寄与分は原則として、 相続人のみに認められるも のです (民法 904 条の2)。 よって長男 D の妻 F が寄与分を主張することは出来ません。 しかしながら、 妻が、 相続人である夫のいわば手足となって従事したような場合にまで、 妻の行為を評価しないのは明らかに不公平です。 そこでこのような場合には、 妻の行為 を、 夫の寄与行為に含めて評価すべきであるとされています (東京高裁平成元年 12 月 28 日決定、 熊本家裁玉名支部平成 3 年 5 月 31 日審判)。
よって本事例においても、 妻 F は、 D の指示に従い無報酬で経理事務を行っています から、 FはDの手足となって薬局経営に尽くしたと認められ、 Fの行為はDの寄与分と して評価されました。
なお、2018 年(平成 30 年)相続法改正により、被相続人の親族であって、被相続人に 対して無償で療養看護その他の労務の提供により被相続人の財産の維持又は増加に特別 の寄与をした者(特別寄与者)がいた場合に、その者は、相続開始後に相続人に対し、 寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払いを請求できることとなりました(民法 1050 条 1 項)。したがって、相続人ではない長男の妻などの貢献に対する保護は、相続人に対 する特別寄与料請求によって図られることになります。