相続問題の専門知識
相続紛争予防と解決の急所
相続紛争が起きる要因
相続紛争と言うと一部の資産家だけの問題と言うイメージを持っている方も多いでしょう。しかし、相続紛争は遺産の金額に関わらずどの家族にも起きる可能性がある問題なのです。実際、家庭裁判所で争われている遺産分割事件のほとんどは、遺産の総額が5,000万円以下の事件であり、相続紛争が一部の特別な資産家だけの問題でないことは数字が証明しています(平成27年度司法統計家事事件編によれば、認容・調停が成立した遺産分割事件8,181件の内、遺産額が5,000万円以下の事件は6,205件であり、実に75%以上の割合です。)。
相続紛争が起きる要因は実に様々ですが、一般的に次のようなケースでは相続紛争が発生する可能性が高いと言えます。
ケース1:遺産のほとんどが不動産であり分割困難な場合
相続紛争で非常に多いのが不動産の分割を巡る争いです。預貯金などの金融資産は数字で割り切れますので、そこまで問題が深刻化することは稀ですが、不動産は簡単に分割することができないので、どの不動産を誰が相続するのかについて意見が対立した場合は、紛争が深刻化してしまいます。特に、都市部の宅地など価値のある不動産と、畑・山林等のあまり価値の無い不動産が混在している場合などは、皆が価値のある不動産の取得を希望するため収拾がつかず、紛争が長期化するおそれが高くなります。
ケース2:相続人間の人間関係が疎遠な場合
一般的な核家族のケースで父親が死亡した場合は、妻と子どもが相続人になるので、家族間の人間関係が疎遠であるということはそこまで多くはないでしょう。しかし、例えば子どもの居ない夫婦のケースで夫が死亡した場合は、妻と夫側の兄弟(兄弟が既に亡くなっている場合は、その子ども)が相続人になるので、残された妻は夫側の義理の兄弟と話し合いをしなくてはなりません。この場合、普段付き合いのない夫側の兄弟に話し合いを拒否されたり、遺産の分け方について意見が対立することはよく見られることです。このように普段付き合いのない疎遠な関係にある相続人と話し合いをすることは想像以上に困難であり、相続紛争が発生する一つの要因となっています。
ケース3:相続人の1人が親と同居し長年面倒を見ていた場合
兄弟の1人が親と同居し、長年にわたって親の生活費や面倒を見てきたという場合、親が亡くなった後の遺産の配分を巡って相続紛争が起きることがあります。同居して面倒を見てきた兄弟の立場からすれば、献身的に親に尽くした自分が遺産を多くもらえる権利があると考えることはごく自然なことです。一方で、その他の兄弟からすれば、遺産相続はあくまで法律で決められている配分に従って行われるべきであり、同居していた兄弟が過度に特別扱いされることは納得できないという気持ちを抱くこともあるでしょう。このようなケースでは、いわゆる寄与分(寄与分については、後で詳しく説明します。)の評価を巡って相続人間で争いが生じることになります。
以上、いくつかのケースを見てきましたが、その他にも相続紛争が発生する要因は多種多様にあります。特に近年では、相続人の権利意識も高まっており、相続に関する知識も容易に入手することができるため、微妙な問題で思わぬ相続紛争に発展することもしばしば見受けられるところです。この項目では、そのような相続紛争を未然に予防するためにどのような対策があるのか、そしてその対策のポイントは何かを解説するとともに、既に相続紛争が発生している場合の対処法についても、ケース別に詳細に解説を行っていきます。
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