相続問題の専門知識

遺言書作成

遺言書の保管・検認について

遺言書の保管

遺言を作成しても、その遺言書が相続人らに発見されなければ、法定相続が開始してしまい、遺言者の意思を実現することができません。また、相続人全員が遺産分割を行った後になって遺言書が発見された場合には、錯誤を理由に遺産分割が無効となる可能性もあります。

一方、遺言書を容易に発見できる場所に保管した場合、利害関係人による偽造、変造の危険性が生じます。

公正証書遺言の場合

公正証書遺言は、遺言書の原本が公証人役場に保管されるため、偽造、変造、紛失のリスクが事実上ありません。また、保管のための手数料もかからないというメリットがあります。相続人側においても、被相続人の死後に、公証人役場で公正証書遺言の有無を検索することができます。

また、信託会社等に、公正証書遺言の正本を保管してもらい、将来遺言執行者になってもらうという「遺言信託」というサービスがあります。このサービスを利用した場合、公証役場から交付される公正証書遺言の正本を信託会社等に保管してもらうことができます。

その他の遺言の場合

遺言者が自らの責任と費用で遺言書の原本を保管する必要があります。

遺言書を遺言者の手元に保管する以外の方法としては、

  1. 貸金庫に保管する
  2. 信託会社等の遺言信託サービスを利用する
  3. 遺言執行者に保管を委託する

等の方法が考えられます。

公正証書の保管期間

1. 原則

公正証書の原本の保管期間は、原則として20年間と規定されています(公証人法施行規則27条1項)。公正証書遺言の保管もこの規定に従うため、20年間は公証人役場にその原本が保管されます。

2. 保管期間満了後の措置

前述の保管期間が満了した後でも、特別の事由により保存の必要がある場合は、その事由のある間は保存しなければならないという規定が存在します(公証人法施行規則27条3項)。遺言は、遺言者の死亡時に効力を生じますから、公正証書遺言は遺言者の死亡時点まで保管しておく必要がある文書といえます。

そのため、実務の対応としては、20年間経過後も公正証書遺言の原本を保管しているのが通常です。具体的な保管期間については、各公証人役場で取扱いが異なる(例えば、遺言者が140歳になるまでと定めている公証役場もある)ため、若年者が遺言を行う場合には事前に確認しておくほうがよいでしょう。

遺言書の調査方法

1. 公正証書遺言

公正証書遺言は、作成後、正本及び謄本を遺言者に交付し、原本を公証人役場に保管します。被相続人が、遺言の存在や場所を相続人に知らせずに死亡した場合には、相続人は、被相続人の遺言の有無やその保管場所を調査する必要があります。

2. 公正証書遺言検索システム

公正証書遺言については、公証人役場での検索、照会システムが存在し、以下のような手順で被相続人の遺言の有無を照会することができます。なお、検索、照会はどこの公証人役場からでも依頼できますが、謄本の交付などは取り扱っている公証役場でなければできません。

3. 検索、照会の具体的手順

  1. 除籍謄本、戸籍謄本等、被相続人が死亡したこと、及び照会者が相続人であることを証明する資料を準備します。
  2. これらの資料を公証人役場に持参して、遺言の検索、照会手続を行います。公証人役場はどの公証人役場でもかまいません。
  3. 手続後に、公証人が、日本公証人連合会事務局に対して、被相続人の氏名や生年月日等の情報によって、公正証書遺言の有無、保管場所を照会します。
  4. 依頼を受けた日本公証人連合会事務局は、検索を行い、その結果を公証人に対して回答します。
  5. 公証人から照会者に対し、公正証書遺言の有無とその保管場所(公証人役場)が伝えられます。
  6. その後、相続人において、公正証書遺言が現実に保管されている公証人役場に対して遺言書の謄本交付手続を行います。

遺言書の開封方法

1. 封印のある遺言書の開封

封印のある遺言書は、 家庭裁判所において、相続人又はその代理人の立会のもと開封することが規定されています(民法1004条)。この規定に反して、家庭裁判所外において遺言書を開封した者は5万円以下の過科に処せられます。家庭裁判所での開封手続を規定した理由は、遺言書の変造を可及的に防止し、公正な遺言の執行を実現するためです。

なお、開封手続の有無は遺言の効力そのものには影響を与えません。

2. 開封の対象となる遺言書

家庭裁判所での開封手続の対象となる封印のある遺言書とは、封に印が押捺されている遺言書をいいます。 単に封入された遺言書はこれに含まれません。 秘密証書遺言は、封印することがその有効要件とされていますから、 常に開封手続を要します。

一方、公正証書遺言は常に開封手続を要しません。

3. 開封手続

実務上は、 開封と検認とが同一手続で行われるのが一般的です。家庭裁判所は、提出された戸籍謄本によって相続人を確認した上、 検認、開封期日を定めて、 相続人ないしその代理人に検認、開封期日呼出状を送達します。

なお、呼出状が送達されれば、期日に相続人の立会がなくとも、開封、検認手続は実施できます。

遺言書の検認

1. 検認とは

遺言書の保管者又は遺言書を発見した相続人は、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならないと規定されています(民法1004条)。この規定に反して、家庭裁判所において遺言書の検認を行わなかった者は5万円以下の過科に処せられます。家庭裁判所での検認を規定した理由は、遺言書の変造を可及的に防止し、公正な遺言の執行を実現するためです。

なお、検認手続の有無は遺言の効力そのものには影響を与えません。

2. 検認の対象となる遺言書

公正証書遺言以外の全ての遺言書が検認の対象となります。

3. 検認手続

検認の申立は、 相続開始地(被相続人の住所地)の家庭裁判所に対して行います。家庭裁判所は、提出された戸籍謄本によって相続人を確認した上、検認期日を定めて、相続人ないしその代理人に検認期日呼出状を送達します。

なお、呼出状が送達されれば、期日に相続人の立会がなくとも、検認手続は実施できます。 期日において、遺言書の方式及び遺言書の事実状態を調査した上で、検認調書を作成します。遺言書には、検認証明が付されることになります。

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この記事の執筆
弁護士法人朝日中央総合法律事務所
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