相続問題の専門知識

遺言書作成

遺言執行について

遺言執行とは

民法には遺言事項が法定されていますが、遺言者の死亡のみによって確定的に効力を生じ、その他の行為を要しない遺言事項と、遺言者の死亡のみだけでなく、何らかの行為が必要となる遺言事項が存在します。後者のように、遺言事項に付随して何らかの行為を行うことを「遺言執行」と呼び、遺言執行を行うことを委託された者を遺言執行者と呼びます。

遺言執行の主な内容

1. 認知

遺言による認知がなされている場合、 遺言執行者は、 就職の日から10日以内に戸籍上の届出をしなければなりません(戸籍法64条)。

2. 廃除やその取消

遺言による相続人の廃除および廃除の取消については、 遺言執行者が、その請求を家庭裁判所になし、 確定後に戸籍上の届出をする必要があります(戸籍法97条、 63条1項)。

3. 財産の移転

遺言執行者は、不動産、有価証券の引渡し、預貯金の払戻し等の事実行為を行って、受遺者に財産を移転させる必要があります。

4. 財産の名義移転

遺贈された不動産について、遺言執行者は登記義務者となり、受遺者との共同申請によって名義移転手続を行います。

5. 訴訟追行

遺産や遺言執行に関する訴訟が提起された場合には、遺言執行者が訴訟当事者となります。

遺言執行者が複数存在する場合の遺言執行

1. 遺言執行者の人数

遺言執行者に人数制限は設けられておらず、1名でも数名でも遺言執行者を指定したり、選任したりすることが認められています。遺言執行者が複数存在する場合には、遺言執行をどのように行うべきかが問題となります。

2. 遺言による職務分担の指定がある場合

遺言者が、遺言によって、各遺言執行者の職務分担を定めている場合には、その遺言条項に従うこととなります。例えば、認知手続を遺言執行者甲に行わせ、遺贈手続を遺言執行者乙に行わせるという遺言を作成した場合です。

3. 遺言による職務分担の指定がない場合

遺言に各遺言執行者の職務分担の定めがない場合、遺言執行は遺言執行者の過半数で決定することになります(民法1017条1項)。ただし、保存行為(遺産の妨害排除や修繕、時効の保全)については、各遺言執行者が単独で行うことができます(同条2項)。

遺言による遺言執行者の指定や指定の委託がない場合の遺言執行者を選定

1. 遺言執行者の必要な場面

遺言による推定相続人の廃除やその取消しがなされている場合、家庭裁判所に対する請求手続は遺言執行者が行わなければなりません(民法893条、894条)。遺言による認知がなされている場合、遺言執行者がその届出を行わなければなりません(戸籍法64条)。

このような遺言がなされたり、あるいは、遺言の執行にあたり相続人全員を当事者とすることが面倒で、円滑な執行のために遺言執行者を指定しておく必要があると考えられるにもかかわらず、遺言で遺言執行者の指定や指定の委託がなされていない場合には、どのような手続をとればよいのかが問題となります。

2. 家庭裁判所による遺言執行者の選任

遺言執行者がないときや、亡くなったときは、家庭裁判所は利害関係人の請求によって遺言執行者を選任することができます。 選任手続は以下のとおりです。

  1. 利害関係人(相続人、 受遺者、 これらの者の債権者または不在者財産管理人、 相続債権者および相続財産管理人等)が、相続開始地の家庭裁判所に対して遺言執行者選任の申立を行います。
  2. 家庭裁判所は、遺言執行者選任の審判において、遺言の内容から遺言の執行を必要とするかどうか、遺言執行者を選任すべきか、誰が遺言執行者にふさわしいかを審理します。
  3. 家庭裁判所は、遺言執行者となるべき者となる者の意見を聴く必要があります(家事事件手続法210条2項))。 このように、家庭裁判所によって選任された遺言執行者を、選定遺言執行者と呼びます。
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この記事の執筆
弁護士法人朝日中央総合法律事務所
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