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共同相続の効力

相続紛争の予防と解決マニュアル

第1

相続法の基礎知識

集合写真
4

共同相続の効力

(1)

相続による共有の性質

民法は、 相続開始から遺産分割までの、 遺産に対する共同相続人の所有形態について 「相続人が数人あるときは、 相続財産は、 その共有に属する」 と規定しています (民法 898 条)。
判例は、 相続財産の 「共有」 は、 民法 249 条以下に規定する 「共有」 とその性質を異 にするものではないとしています。
(2)

共同相続財産の管理、 処分

(イ)
共同相続財産の管理
(a)
数人の相続人があれば共同で遺産を承継し、 共同で管理することになり、 共同 で管理義務を負担します。
しかし、 民法は、 共同相続人相互の関係については、 何も規定していません。
実際問題として、 一部の者に管理できない事情があったり、 また管理について 全員の合意が成立しないときなどに、 どのように管理すべきかについて争いが起 こりがちです。
(b)
現在のところ、 共有物の管理ならびに組合財産の管理に関する規定を適宜準用 して処理するほかありません。
1)
各相続人は、 相続財産全部について使用、 収益することができます (民法 249 条)。
このため、 共同相続人の1人が相続不動産を占有している場合、 相続不動産 に対する持分が過半数を超える者であっても、 相続不動産を単独で占有する他 の共同相続人に対し、 当然には、 その占有する相続不動産の明渡しを請求する ことはできません。
2)
保存行為は各自単独でできます (民法 252 条ただし書)。
裁判所で、 保存行為に該当するとされたものには、 相続不動産に対する相続を原因とする相続人全員を登記権利者とする保存登記又は移転登記を申請する こと、 相続不動産について不真正な登記がある場合にその抹消 (更正を含む) を求めること、 相続不動産の不法占有者に対する妨害排除請求があります。
その他、 家屋の修繕、 期限の到来した債務の弁済などが挙げられています。
3)
相続財産の管理行為は相続分の割合に従い、 過半数で決せられます (民法 252 条本文)。 管理行為というのは、 利用・改良行為などを指します。
裁判例で管理行為に該当するとされたものには、 建物買取請求権(借地借家 法 13 条)の行使、 詐欺による取消、 民法 602 条の期間を超えない賃貸借、 借地 借家法の適用のない賃貸借、 使用貸借契約の解除、 賃貸借契約の解除などがあ ります。
なお、 管理費用は相続財産の負担となります (民法 885 条)。
(ロ)
共同相続財産の処分
(a)
相続分の処分
各共同相続人は、 分割前にも、 全体としての遺産の上の相続分に対応する権利(相続分) を第三者に譲渡することができます。 この場合、 譲受人は譲渡人に代 わって遺産の分割に参加することになります。
これに対し、 他の共同相続人はその価額及び費用を償還してその相続分を取り 戻すことができます (民法 905 条)。
(b)
個々の共同相続財産の処分
1)
共同相続財産に属する個々の物又は権利を遺産分割前に処分するときは、 共 同相続人の全員が処分行為をしなければなりません。
ただし、 必ずしも上記処分行為を共同相続人の全員が共同して行うことまでは 必要とされず、 処分行為が 「変更」 の重要な一例であることを理由として (民 法 251 条)、 当該処分には処分行為を行う者以外の共同相続人全員の同意があ れば足りると解されています。
2)
処分に反対する共同相続人がいる場合には、 まず遺産分割を請求するほかあ りません。
(c)
持分権の処分
各共同相続人は、 分割前に遺産に属する個々の財産権について相続分に応じた権利 (持分権) を取得し、 これを単独で処分することができます。
共同相続人の一人がその持分権を第三者に譲渡した場合、 譲渡された持分権は、遺産分割の対象から外れてしまいます。 そのため、 譲受人は民法 960 条以下の遺 産分割の手続きによるのではなく、 民法 256 条以下の共有物分割の規定に従って分割請求をすることになります。
一方、 遺産の分割手続きが進められる場合には、 譲受人はこれに参加できるわけではなく、 当該相続財産は譲受人の共有持分で制限されたものとして遺産分割 の対象とされます。 譲受人である第三者が遺産分割手続に参加できない点が相続 分の譲渡の場合と異なります。
そして、 当該相続財産を遺産分割により取得した相続人と譲受人とは通常の共 有関係に立ち、 これを分割しようと思えば民法 256 条以下の共有物分割の規定に よることとなります。
(3)

相続債権の帰属

(イ)
不可分債権
不可分債権 とは、 たとえば自動車 1 台の引渡しなどのように、 分割して実現す ることのできない給付 (不可分給付) を目的とする多数当事者の債権 をいいます。
不可分債権について相続が発生したときは、 各相続人は、 総債権者のために債権 全部の履行を請求し、 あるいは弁済を受領できます(民法 428 条、432 条)、。
(ロ)
可分債権
可分債権の代表である預貯金債権については,従前、相続により各相続人の法定相続分で分割され、各相続人は単独で自己の法定相続分にかかる預貯金を引き出す ことができるとされていました(最高裁昭和 29 年 4 月 8 日判決)。これによれば、 相続発生後に資金的に困っている相続人を救済することが可能でした。しかし、他 方、預貯金を相続人の話し合いで解決するという国民意識と齟齬するだけでなく、 特別受益や寄与分を考慮した実質的に公平な相続の実現の要請と合致しないという 問題がありました。
このため、判例が変更され、預貯金債権は遺産分割の対象となりました(最高裁 平成28年12月19日判決)。
平成 30 年の相続法改正では、昭和 29 年判決と平成 28 年決定という2つの最高裁 判例を勘案し、相続人の金銭的救済と遺産分割の最終的公平という2つの要請を調 和させる規律が導入されました。
即ち、各相続人は、遺産に属する預貯金債権の3分の1に自己の法定相続分を乗 じた金額について、別に法務省令で定める金額(平成 30 年法令 29 により、150 万円)を限度として、単独でこれを行使することができます(民法 909 条の 2)。つま り、標準的な当面の必要経費、平均的な葬儀費用の額等を賄うことができる一方、 預貯金の3分の2以上は、公平な遺産分割のために金融機関に留保されます。
上記相続法改正は、令和元年 7 月 1 日から施行されていますが、それ以前に発生 した相続に関してでも、改正法施行後であれば、各相続人は上記の範囲で預貯金を 引き出す権限があることになります。
しかし、預貯金債権以外の可分債権については、昭和 29 年判決の方針が変更され ておラス、各共同相続人は、 相続と同時に民法 427 条の原則により相続分に応じて 分割された債権を取得し、取得した範囲で権利行使できることになります。
しかし、 そのような取扱いをせず、 遺産分割の対象とすることが公平に合致する 場合が数多く存在することは、預貯金債権と同じです。 また、 当事者も、 当然分割 の対象となると考えている場合が多いものです。 したがって、 当事者間に明示また は黙示の合意があれば、 遺産分割の対象とすることができると解され、家庭裁判所 でも、多くの場合、そのような運営がなされています。
(4)

相続債務の帰属

(イ)
可分債務
被相続人の金銭債務その他の可分債務は、 法律上当然分割され、 各共同相続人が その相続分に応じてこれを承継します。 債務については、 遺産分割の前提となる共 有又は準共有という法律関係が存在しませんから、 原則として、 遺産分割の対象と ならないというほかありません。 また、 当事者の同意があっても、 これを分割の対 象とすることは、 債権者との関係を調整しなければならないので許されません。
ただし、 積極財産の分割に当たり考慮を要する消極財産であって、 その負担者を 定めることが相当と認められる場合があります。 例えば、 遺産である土地建物に住 宅ローンが設定され、 住宅ローンが残った状態で相続が開始した場合、 当該土地建 物を取得することになった相続人に住宅ローンを全て負担させるのが相当なときが あります。 このような場合、 債権者の同意を得た上、 当事者全員の同意があれば、 遺産分割とは異なる債権者及び全相続人の合意の効果 (債務の免責的引受) として、 相続人の一部に負担させることが合理的であると考えられます。
(ロ)
連帯債務
相続債務が性質上また契約上不可分である場合には、 相続によって債務者が複数 になった場合にも不可分債務に関する民法 430 条の適用があり、 相続債権者は分割 前に共同相続人に対して、 債権の全額について履行を求めることができます(民法 436 条)。
(ハ)
不可分債務
相続債務が性質上また契約上不可分である場合には、 相続によって債務者が複数 になった場合にも不可分債務に関する民法 430 条の適用があり、 相続債権者は分割 前に共同相続人に対して、 債権の全額について履行を求めることができます(民法 436 条)。