民法 904 条の2第1項は、 寄与分が認められる寄与行為として、 a.被相続人の 事業に関する労務の提供、 b.被相続人の事業に関する財産上の給付、 c.被相続 人の療養看護、 d.その他の方法を挙げています。
そこで、 以下では、 上記の四類型を参考に、 実務上寄与分の成否が問題となるパ ターンごとに説明します。
1)
家業従事型とは、 被相続人の事業に従事し、 相続財産の維持又は増加に寄与 した場合をいいます。
被相続人の営む事業の典型例は農業や商工業ですが、 医師、 弁護士、 司法書 士、 公認会計士、 税理士などの業務を含むとされています。
家業従事が特別の寄与に該当するといえるためには、 a.無償性、 b.継続 性、 c.専従性、 d.被相続人との身分関係、 e.その他の事情が問題となり ます。
「特別の寄与」 といえるためには寄与行為は原則として無償でなければなら ないとされています。
もっとも、 実務上は、 この家業従事の類型において前記の専従性及び継続性 の要件を満たすような場合には、 寄与行為に対する給付が全くないといった事 例は稀であり、 何らかの対価的な給付がなされているのが通常です。 この場合、 被相続人が、 第三者に対して事業の執行を委任し、 又は第三者を従業員として 雇用した場合においてなされる第三者に対する給付と相続人に対する現実の給 付との間に差額がないときには無償性がないものと評価し、 その差額があると きには無償性があると評価し、 その差額をもって寄与分算定の基準とすること になると考えられています。
同じく家業従事者としてなされた寄与行為が 「特別の寄与」 といえるためには、 これが相当長期間にわたって継続してなされることが必要とされています。
共同相続人による家業についての貢献が 「特別の寄与」といえるためには、 当該寄与行為が臨時であるいは片手間でなされるのでは足りず、 本来自分が従 事すべき仕事と同様にこれに携わることが必要とされています。
「特別の寄与」 とは、 被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待され る程度を超えた貢献をいいます。 したがって、 その程度は、 被相続人と当該共 同相続人との具体的身分関係によって自ずから差異が生ずるものであり、 共同 相続人が配偶者あるいは子、 兄弟姉妹、 親族のいずれであるかによって同様の 寄与行為があっても寄与分が認められるか否かの差が出てくることになります。
そして、 通常期待される貢献の程度については、 一般に配偶者 (協力、 扶助 義務)、 親子 (扶養義務、 相互扶助義務)、 兄弟姉妹 (扶養義務、 同居の場合に は相互扶助義務)、 親族 (扶養義務、 同居の場合には相互扶助義務) の順序で 小さくなりますから、 その程度を超えた場合に初めて特別の寄与として認めら れることになります。
ここで 「親族」 とは、 共同相続人のうち両親を除く直系尊属及び代襲相続人 を指します。 例えば、 祖父母や被相続人の孫、 兄弟姉妹の子がこれに該当します。
金銭等出資型とは、 被相続人に対し、 財産上の給付を提供し、 又は被相続人の借金を返すなどして、 相続財産の維持又は増加に寄与した場合をいいます。
具体的には、 a.共稼ぎの夫婦の一方である夫が夫名義で不動産を取得するに 際し、 妻が自己の得た収入を提供する場合、 b.相続人が被相続人に対し、 自己 所有の不動産を贈与する場合、 c.相続人が被相続人に対し、 自己所有の不動産を無償で使用させる場合、 d.相続人が被相続人に対し、 被相続人の家屋の新築、 新規事業の開始、 借金返済などのため、 金銭を贈与する場合などが挙げられます。
この場合、 寄与分を肯定するためには、 a.無償性を要するほか、 b.金銭等 出資の効果が相続開始時に残存していることが必要です。
療養看護型とは、 被相続人の療養看護を行ない、 付添い看護の費用の支出を免れさせるなどして、 相続財産の維持に寄与した場合をいます。
実際の療養看護が特別の寄与に該当するといえるためには、 家業従事型と同様、a.必要性、 b.被相続人との身分関係、継続性、専従性が問題となります。
扶養型とは、 被相続人を扶養して、 その生活費を賄い、 相続財産の維持に寄与 する場合をいいます。
ただ、 夫婦は互いに協力扶助の義務を負っていますし (民法 752 条)、 また直 系血族及び兄弟姉妹は互いに扶養する義務を負っていますから (民877条1項)、 扶養行為が認められる場合でも、 特別の寄与にあたるかどうかの判断が必要にな ります。
したがって、 扶養行為につき寄与分を肯定するためには、 a.扶養義務の有無 及び分担義務の限度、 b.相続人の受けた利益が問題となります。
財産管理型とは、 被相続人の財産の管理を行ない、 管理費用の支出を免れさせるなどして相続財産の維持に寄与した場合をいいます。 具体的には、 不動産の賃 貸、 管理、 修繕、 保険料や公租公課の支払い等の行為が考えられます。
この場合、 通常は、 家業従事型や療養看護型のような専従性、 継続性といった 要件は考慮する必要はなく、 基本的には前述の金銭出資型に準じて特別の寄与と いえるかどうかを判断することになります。