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遺産分割

相続紛争の予防と解決マニュアル

第1

相続法の基礎知識

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6

遺産分割

(1)

遺産分割とは

遺産分割とは、 相続の開始によって、 共同相続人の共有に属している相続財産の全部 又は一部を、 各共同相続人の単有もしくは新たな共有関係に移行させる手続のことです。
相続の開始と同時に、 被相続人の財産は相続人に移転します (民法 896 条本文)。 相 続人が1人の場合は、 遺産は相続人の単独で承継することになり、 分割の問題は生じま せんが、 相続人が数人ある場合は、 遺産の共有関係が生じていることになりますので、 いずれ各共同相続人に確定的に帰属させる手続が必要となるわけです。 この手続が遺産 分割手続です。
(2)

遺産分割と共有物分割の異同

(イ)
遺産分割は、 被相続人の死亡を契機として、 共同相続人の共有に属する相続財産を分配する手続であり、 共有物分割は、 人の死亡を契機とせず、 共有者間において 個々の特定物を対象として行われる手続である点で違いがありますが、 共有関係の 解消手続としては共通しています。
一方、 関係当事者による分割協議が調わない場合、 遺産分割においては遺産分割 審判手続、 共有物分割においては共有物分割訴訟手続によるべきこととなります。
遺産分割審判は、 後記のとおり、 積極・消極両財産を含む遺産を包括的に一体と して把握したものを対象とし、 家庭裁判所の後見的判断のもと、 分割の基準として 「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、 各相続人の年齢、 職業、 心身の状態及 び生活の状況その他一切の事情を考慮」 (民法 906 条) のうえ行われるものです。
また、 分割の方法も現物分割によるほか、 必要があれば価額分割又は債務負担によ る分割等の形をとることも認められています (家事事件手続法 194 条,195 条)。
これに対し、 共有物分割訴訟は、 個々の特定物を対象とし、 分割の方法は、 現物 分割を原則とし、 例外的に競売手続によることが法文上定められています。特段の 事情が存するときは、全面的価額賠償が認められる場合もあります。
(ロ)
このような遺産分割と共有物分割の現行制度上の差異に照らした場合、 遺産分割 は遺産分割審判手続によりなされねばならず、 又、 遺産分割を終える前に相続人が 遺産に属する個々の財産について共有物分割訴訟を起こすことも認められてはいないと解されます。 ただし、 遺産分割の結果、 遺産に属する個々の財産を相続人間の共有にしておくこととなった後は、 当然、 共有物分割訴訟によることができます。
(ハ)
それでは、 遺産分割協議未了の間に共同相続人の1人が相続財産中の特定不動産 についての持分を第三者に譲渡した場合、 共有関係を解消するためには、 遺産分割 手続、 共有物分割手続、 いずれの手続によるべきでしょうか。
(a)
譲受人である第三者から相続人に対し、 分割を求める場合
第三者が相続人を相手に分割を求める場合につき、 最高裁昭和 50 年 11 月7日 判決は、 「右共同所有関係の解消を求める方法として裁判上とるべき手続は、 民 法 907 条に基づき遺産分割審判ではなく、 民法 258 条に基づく共有物分割訴訟で ある」 と判示し、 共有物分割手続によるべきことを明らかにしました。
そして上記の場合、 第三者は持分の譲渡人である相続人をも被告にする必要は なく、 その他の相続人を被告にすれば足りるとされています (最高裁昭和53年7 月 13 日判決)。
(b)
相続人から譲受人である第三者に対し分割を求める場合
この場合も上記と同様、 共有物分割訴訟によるべきものと考えられます。
(3)

遺産分割の対象となる財産の範囲

(イ)
遺産分割は、 相続財産を相続人に分配、 分属させる手続ですから、 遺産分割の対象となる財産の範囲は、 前記3相続の効力の項で述べたとおり、 相続性を有する一切の権利義務 (一身専属的な権利義務以外のもの) ということになります。
(ロ)
しかし、 遺産中の債務について、 判例は一貫して金銭債務のような可分債務は遺 産分割を経ることなく、 その相続分に応じて各共同相続人が承継するとしており (最高裁昭和 34 年 6 月 19 日判決)、 遺産分割の対象とならないとしています。
(ハ)
また、 実際の遺産分割においては、 相続開始から分割までに相当の時間を要することも少なくありません。
そのため、 相続財産を構成する個々の財産の中で変動を生じるものがあり、 遺産分割の際、 どのように扱うべきか問題となります。 この問題は、 どの時点の財産を もって相続財産と捉えるかの問題であり、 a.相続開始時に存在した被相続人の財 産を相続財産とする考え方と、 b.分割時に現存するものが遺産分割の対象となる相続財産であるとする考え方があります。
実務では、 b.の遺産分割時説に従っています。
(ニ)
次に、 具体的に相続財産の変動が問題となりうる事項につき検討します。
(a)
相続財産からの収益
相続財産を構成する不動産が他に賃貸されていて、 賃料収入がある場合等がこ れに該当します。
この点について、遺産共有の状態にある不動産から生ずる金銭債権たる賃料債 権は、遺産とは別個の財産として、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独 債権として確定的に取得するものとされ、後にされた遺産分割の影響を受けない とされています(最高裁平成 17 年 9 月 8 日判決)。
(b)
代償財産
相続財産を構成する建物が火災で焼失し、 火災保険金が支払われたり、 相続人の1人が他に売却して、 その代金が支払われる場合等、 本来の姿を代えた財産 (代償財産) として存在する場合があります。
この代償財産が相続財産に含まれるか問題となります。
この点については、 裁判例も積極・消極両方に分かれていますが、 代償財産は 相続財産に含まれ、 遺産分割の対象となるという積極説をとる裁判例の方が有力 という状況です (東京高裁昭和 9 年 10 月 21 日判決等)。
(c)
管理費用
1)
前記1相続総論(3)に述べるとおり、 相続財産に関する費用は、 相続財産の 中から支弁することなっています (民法 885 条1項本文)。
したがって、 相続財産によって清算されますが、 遺産分割手続において行う のか、 別の民事訴訟で行うのかについては、 争いがあります。
しかし、 実務上は、 「相続財産の管理に必要な費用は相続財産から支弁すべ きものであるから、 分割すべき相続財産およびその収益の額を算定するに当た っては、 当然右のような管理費用を控除すべきである」 (大阪高裁昭和 41 年 7 月 1 日判決)として、 遺産分割手続内での清算を積極に解する見解が主流です。
2)
相続財産に関する費用にあたるか否かについて争いのあるものとして、 前記 1(3)(ロ)のとおり、 (a)有益費、 (b)公租公課、 (c)相続税、 (d)相続債務の弁済費用があります。
そして、 相続財産に関する費用にあたると解する立場からは、 遺産分割手続の中で清算することになり、 逆にあたらないと解する立場からは、 遺産分割手続外により清算するか別途民事訴訟により解決することになります。
(4)

遺産分割の基準

(イ)
遺産分割の基準
民法 906 条は、 「遺産の分割は遺産に属する物又は権利の種類及び性質、 各相続人の年齢、 職業、 心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをす る」 と規定しています。
元来、 遺産分割は、 相続分に従って行われるべきものですが、 遺産には、 不動産、 動産、 債権その他多種多様のものがあり、 土地といっても宅地、 山林、 農地等によ って全く性質が異なります。 また、 相続人も年齢、 職業、 収入、 健康状態等、 多種 多様です。 したがって、 遺産分割において、 相続分によって単純に分配することは できず、 これら多種多様の事情を考慮して分割せざるを得ない側面があります。
(ロ)
相続分との関係
(a)
民法により共同相続人間の相続分が定められています (民法 900 条、 901 条)。これを法定相続分といいます。
また、 被相続人は、 遺言で共同相続人の相続分を定め、 又はこれを定めること を第三者に委託することができます (民法 902 条1項)。
これを指定相続分といいます。
指定相続分は、 法定相続分に優先されます。 即ち、 指定相続分がある場合には、 法定相続分の規定は適用されません。
(b)
それでは、 遺産分割において、 共同相続人が上記のような相続分を変更し、 自 由に分割してもよいのでしょうか。 換言すれば、 指定相続分ならば被相続人の意 思、 法定相続分ならば民法の意思よりも、 相続人の意思の方を優越させることが 許されるのかが問題となります。
この点については、 民法 906 条の規定は、 遺産分割を実行する際の指針を定め たものであり、 遺産分割は、 相続分にしたがってなされなければならないという 考え方が主流です。 すなわち、 民法 906 条の規定は、 建物を現に居住している者に取得させたり、 農地を農業従事者に取得させ、 それにより、 共同相続人間に不 均衡がある場合に、 預金等その他の遺産で均衡をとるような指針で分割すべきで あることを定めた規定であり、 相続分自体を変更することまで認めた規定ではな いとされています。
ただし、 上記は、 遺産分割審判手続における分割の基準と解すべきであり、 現 に共同相続人間の協議が中心である遺産分割調停においては、 共同相続人間の合 意により、 比較的柔軟な対応がされています。 また、 共同相続人間における分割 協議においては、 自由に分割でき、 ある相続人の取得分をゼロとする分割協議も 有効と考えられています。
(5)

遺産分割の方法

遺産分割の方法には、 遺言による分割、 協議による分割、 調停による分割、 審判による分割の 4 種類があります。
(イ)
遺言による分割
被相続人は、 遺言で分割の方法を定め、 もしくはこれを定めることを第三者に委 託することができます (民法 908 条)。
「分割の方法を定める」 とは、 例えば、 「妻には自宅土地建物を、 長男には田畑を、 長女には現金 1000 万円を相続させる」 というように、 分割の具体的な方法、 すな わち、 各相続人の取得すべき遺産を具体的に定めることです。 また、 個々の財産を その性質や形状を変更することなく相続人に配分する現物分割、 相続人の一部にそ の相続分を超える財産を取得させ、 他の相続人に対し債務を負担させる代償分割、 遺産を換価処分してその価額を分配する換価分割、 いずれによるべきかの指定もで きます。
なお、 被相続人の指定又は第三者の指定が無効であるとき、 あるいは第三者が相 当の期間に指定をしない場合は、 以下の手続によることになります。
(ロ)
協議による分割
(a)
内容
共同相続人全員の合意により遺産を分割する手続で、 最も一般的な分割方法と いえます。 共同相続人は、 被相続人が遺言で分割を禁じた場合 (民法 908 条) を 除くほか、 いつでもその協議で遺産の分割をすることができます (民法 907 条1項)。 協議の成立には、 共同相続人全員の意思の合致が必要です。 ただし、 分割 協議後、 被認知者が現れた場合については、 協議をやり直す必要はなく、 被認知 者は価額のみによる支払請求ができるにすぎません (民法 910 条)。 全員の意思 の合致がある限り、 分割の内容は共同相続人の自由に任されており、 指定相続分 あるいは法定相続分に必ずしも従う必要はありません。 したがって、 特定の相続 人の取得分をゼロ (何も取得しない) とするような分割協議も有効と考えられて います。
ただし、 前記(イ)の遺言により遺産分割方法の指定がなされている場合に、 共 同相続人がこれと異なる分割協議を行うことができるかは問題です。
この点については、 共同相続人全員の同意があれば、 一定の範囲 (被相続人の 意思を全く没却するものとはいえない範囲) で遺言と異なる分割協議をすること もできるとする考えが主流です。
(b)
当事者
遺産分割協議の当事者は、 各共同相続人です (民法 907 条1項)。 また、 相続人と同一の権利義務を有する包括受遺者 (民法 990 条) 及び相続分の譲受人、 包 括遺贈の場合の遺言執行者も当事者となります。 これに対し、 特定受遺者は、 遺 言の効力発生と同時にその財産を取得するため、 当事者とはなりません。
これら当事者の一部を除外して分割協議を行った場合、 後記6(7)(イ)で述べ るとおり、 分割協議自体が無効とされる可能性がありますので、 注意を要します。
(c)
遺産分割協議書
協議が成立した場合、 遺産分割協議書を作成するのが一般です。 不動産の登記等の名義変更のことを考えると、 遺産分割協議書には各相続人が署名するとともに実印による押印がなされるべきでしょう。
(ハ)
調停による分割
(a)
内容
共同相続人間で遺産分割の協議が調わないとき、 又は、 協議をすることができないときは、 各共同相続人は、 その分割を家庭裁判所に請求することができます (民法 907 条2項)。
ここでいう協議が調わないとは、 分割の方法について共同相続人間の意見が一致しない場合のみでなく、 分割をするかしないかについての意見が一致しない場 合も含むと解されています。
まず、 調停を申し立てることが一般ですが、 直接審判の申立てをすることもで きます。 いきなり審判の申立てをした場合であっても、 家庭裁判所はいつでも職 権で事件を調停に付することができます (家事事件手続法 274 条)。 この調停が 成立すると、 確定した審判と同一の効力を生じます (家事事件手続法268条1項)。
調停は当事者である共同相続人の合意にその基礎をおくものですから、 実質的 には家庭裁判所における調停委員会もしくは家事審判官のあっせんによる協議分 割とみることができます。 したがって、 必ずしも法定相続分あるいは指定相続分 に従う分割である必要はないと考えられています。 また、 相続債務、 遺産からの 果実、 遺産の管理費用及び相続税等の清算を調停手続の中で行うなど、 その運用 は柔軟になされています。
(b)
申立ての手続
1)
当事者
遺産分割調停の当事者は、 各共同相続人です (民法 907 条1項)。 また相続 人と同一の権利義務を有する包括受遺者 (民法990条) 及び相続分の譲受人も 当事者となります。 これに対し、 特定受遺者は、 遺言の効力発生と同時にその 遺産を取得するため、 当事者とはなりません。
相手方の中に行方不明の者がいる場合には、 不在者財産管理人の選任を家庭 裁判所に対して行い、不在者財産管理人を調停手続に参加させる必要がありま す。
2)
管轄裁判所
調停の申立は、 相手方の住所地又は当事者が合意で定める地を管轄する家庭 裁判所に対して行います(家事事件手続法 245 条 1 項)。 相手方が複数存在し、 住所地が異なるときは、 その中のいずれの家庭裁判所に対しても申立てること ができます。
3)
調停手続
イ.
調停機関
調停は、 裁判官一人及び家事調停委員二人以上をもって組織する調停委員 会がこれを行います (家事事件手続法 247 条、同 248 条)。 実務上は、 弁護士 その他の専門家を含む2名の調停委員が家事審判官の意見を聞きながら、 事 件の実情の聴取、 調停の勧告が行われることになります。
ロ.
調停手続
遺産分割調停は、 調停期日に、 当事者その他の関係者を出頭させて非公開で行われます。
申立人と相手方は、 交互に調停室に入室し、 個別に調停委員から事情聴取されることとなります。
ハ.
分割の基準と態様
調停による遺産分割は、 当事者間の合意に基礎をおく一種の協議による分 割であると考えられ、 分割の基準及び方法、 態様に制限はありません。
しかし、 現実問題として、 相続分、 寄与分その他一切の事情を考慮した、 法的にも社会的にも妥当な分割態様によらなければ、 調停の成立は困難です。
ニ.
音声の送受信による通話の方法による手続
当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは,当事者の意見を聴いて,家庭裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通 話することができる方法によって,家事調停の手続の期日における手続(証拠 調べを除く。)を行うことができます(家事事件手続法 258 条 1 項、54 条準 用)。
ホ.
遠隔地者等出頭困難者がいる場合の手続の特則(受諾手続)
調停条項案の書面による承諾の方法により,調停の合意を成立させることができます(家事事件手続法 270 条 1 項)。
4)
調停手続の終了
遺産分割調停事件の終了事由には、 調停の成立、 調停の不成立 (不調)、 調 停申立ての取下げ、 及び調停の拒否があります。
イ.
調停の成立
調停において当事者間に合意が成立し、 調停機関 (調停委員会もしくは裁判所) がその合意が相当であると認めてこれを調停調書に記載することによ り調停が成立します (家事事件手続法 268 条)。
調停が成立すると、 確定した審判と同一の効力を有します (家事事件手続 法 268 条 1 項)。 また、 金銭の支払、 物の引渡し、 登記義務の履行その他の 具体的給付義務を定めた調停調書の記載は、 執行力のある債務名義と同一の 効力を有します (家事事件手続法 75 条) ので、 執行文等の付与を要するこ となく直ちに強制執行をすることができます。
また、 相続人 (どの相続人でも可) は調停調書の正本を相続を証する書面 として添付して単独で登記申請をすることができます。
ロ.
調停の不成立 (不調)
a.
当事者間に合意の成立する見込みがない場合又は成立した合意が相当で ないと認められる場合には、 調停機関は調停は成立しないものとして事件 を終了させることができます (家事事件手続法 272 条 1 項)。 これを調停 の不成立 (不調) といいます。
合意の成立する見込みがあるかないかの判断は、 調停機関によってなさ れます。 合意が相当でない場合とは、 一人の相続人のみに著しい不利益を 課すことを合意内容とする場合等、 正義、 衡平の観点から不相当と考えら れる場合をいいます。
b.
調停が不成立で終了した場合には、 調停の申立ての時に遺産分割の審判 の申立てがあったものとみなされ、 遺産分割事件は審判手続に移行し、 審 判手続が開始することになります (家事事件手続法 272 条 4 項)。
審判手続の開始は当然に行われ、 当事者の申立ての必要はありません。
実務上は調停事件を取り扱った裁判所が審判事件を行うことになっていま す。
ハ.
調停申立ての取下げ
a.
申立人は、 調停の成立又は不成立までの間であればいつでも遺産分割調 停の取下げをすることができます。 取下げに理由はいりませんし、 また訴訟手続と異なり、 相手方の同意も必要ありません (家事事件手続法 273 条 2 項,民事訴訟法 261 条 3 項)。ただし、 審判から調停に付された事件にお いては、 調停のみの取下げはできません。
b.
取下げの方式は、 書面 (取下書) もしくは口頭ですることになってい ますが、 実務上は書面で行われています。
ニ.
調停をしない措置(家事事件手続法 271 条,家事事件手続規則 132 条)
事件が性質上調停を行うのに適当でないと認めるとき,当事者が不当な目 的でみだりに調停の申立てをしたと認めるときには,調停をしない措置を採られることがあります。
(ニ)
審判による分割
(a)
内容
遺産分割の協議が調わなかったり、 協議ができないときは、 各共同相続人は家庭裁判所に対して、 遺産分割の審判を請求することができます (民法 907 条2項、 家事事件手続法 39 条別表第二 12 号)。
また、 遺産分割の調停を申立てたが、 遺産分割調停が不成立となった場合、 調 停申立時に審判の申立てがあったものとみなされ、 審判手続に移行します (家 事事件手続法 272 条 4 項)。 審判分割においては、 家庭裁判所の審判官が、 民法 906 条の分割基準に従って、 各相続人の相続分に反しないよう分割を実行するこ とになります。
金銭の支払、 物の引渡し、 登記義務の履行その他給付を命ずる確定した審判に より、 相手が任意に履行しない場合、 強制執行ができます (家事事件手続法 75 条)。
(b)
申立ての手続
1)
当事者
審判の当事者は、 調停の場合と同じです (6 (5)(ハ)(b)1) 参照)。
2)
管轄裁判所
審判の申立は、 相続開始地を管轄する家庭裁判所に対して行います (家事事 件手続法 191 条1項)。
ただし、 調停が不成立となって審判に移行した場合には、 原則として調停手続を行った家庭裁判所において審判手続が行われます。 ただし、 相続財産の鑑 定に著しい支障が生じる場合や尋問を要する参考人等が他の管轄家庭裁判所区 域内に多数存在するなど、 事件処理をするために適当であると認められる場合 には、 他の管轄家庭裁判所に移送することができます (家事事件手続法 9 条)。
3)
審判手続
イ.
審判機関
家事事件手続法 40 条 1 項においては、 「家庭裁判所は,参与員の意見を聴いて,審判をする。ただし, 家庭裁判所が相当と認めるときは,その意見を聴かないで,審判を行うことができる。」 と規定されています。
ロ.
審理手続
家事審判手続は、 家庭の平和と健全な親族共同生活の維持を図るため、 国 家が後見的見地から私人間の法律関係に積極的に介入し、 裁量的、 合目的的 に具体的な権利、 義務関係を形成する手続です。
したがって訴訟手続と異なり、 家庭裁判所は、 職権で事実の調査及び必要 と認める証拠調を行い (家事事件手続法 56 条 1 項)、 非公開で行われます (家事事件手続法 33 条)。
また、原則として、 事件の関係人自身が出頭することが要求されています (家事事件手続法 68 条1項)。
ハ.
分割の基準と態様
a.
「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、 各相続人の年 齢、 職業、 心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれを する」 ことが要求されています (民法 906 条)。
b.
審判においては、 分割協議や遺産分割調停と異なり、 家庭裁判所が裁量 により相続分を増減することは許されないとされています。
c.
分割の態様には、 現物分割、 換価分割、 代償分割、 共有分割、 用益権設 定による分割及びこれらを併用する等の方法があり、 一切の事情を考慮し て裁判官の裁量的判断により審判されることになります。
4)
審判手続の終了
遺産分割審判事件の終了事由には、 審判、 審判申立ての取下げ、 調停の成立があります。
イ.
審判
a.
審判には認容の審判と却下の審判とがあります。
認容の審判は、 申立てが適法であり、 かつ遺産分割の処分をなすべきものと認められる場合になされるものです。
却下の審判は、 申立てが不適法、 又は分割の理由ないし必要がない場合になされるものです。
b.
遺産分割審判は、 これを受ける者が告知を受け、 即時抗告期間 (即時抗 告権者が告知を受けた日の翌日から起算して2週間とされています。 家事 事件手続法86条1項) が経過すると確定し効力を生じます (家事事件手 続法74条2項)。
確定した審判により、 執行文の付与を要することなく直ちに強制執行す ることができます(家事事件手続法 75 条)。
c.
審判に対し、 不服のある当事者は、 即時抗告をすることができます (家 事事件手続法 85 条 1 項)。
即時抗告期間は、 審判の告知を受けた日の翌日から起算して2週間であ り (家事事件手続法86条1)、 審判をした家庭裁判所宛に抗告状(高等裁判 所宛)に即時抗告の申立てをしなければなりません (家事事件手続法87条 1 項)。
抗告審が即時抗告の理由があると認めたときは、 原審判を取り消して審 判に代わる裁判(決定)をします(家事事件手続法 91 条 2 項)。
原審が申立てを不適法として却下した審判を取り消す場合及び現審判を 取り消してさらに原審に審理させる必要がある場合には,差し戻して原審 において審理させることになります(家事事件手続法 93 条 3 項,民訴法 307 条,308 条)。
また、 抗告裁判所は事件を家庭裁判所の調停に付することもできます (家事事件手続法 274 条 1 項)。
ロ.
審判申立ての取下げ
遺産分割の審判の申立ての取り下げは、相手方が書面を提出し、又は期日において陳述をした後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じないとされています(家事事件手続法 199 条,153 条)。
ハ.
調停の成立
審判から調停に付され、 その調停が成立した場合には、 審判は何らの手続 を要せず当然に終了します。
(6)

遺産分割の効果

(イ)
遺産分割の遡及効
遺産の分割は、 相続開始の時にさかのぼってその効力を生じ(民法 909 条本文)、 各相続人が遺産の分割によって取得した財産は、 相続開始時に被相続人から直接 承継したものと扱われます。 これを遺産分割の遡及効といいます。
(ロ)
第三者の権利保護
(a)
遡及効の制限
遺産分割の遡及効は、 相続人の保護には資するものといえますが、 他方、 分割前 に相続人から権利を譲り受けた第三者の権利を害するおそれがあります。
そこで、 取引の安全を図るため、 遺産分割の遡及効が制限され、第三者の権利を 害することはできないとされています (民法 909 条ただし書)。
(b)
遺産分割前の第三者
民法 909 条ただし書は、分割の遡及効により害される第三者を保護するものですから、ここでいう 「第三者」 とは、 相続開始後遺産分割前に生じた第三者のこ とをいいます。 ただし、 この第三者が同条によって保護されるためには、 登記等 の対抗要件を備える必要があるとされています。
(c)
遺産分割後の第三者
第三者が遺産分割後に生じた場合、民法 909 条ただし書では保護されません。
この場合、分割により権利を取得した相続人と第三者は対抗関係に立つとされ、 遺産分割により相続財産中の不動産について法定相続分と異なる権利を取得した 相続人は、 当該不動産につき登記を経なければ、 遺産分割後に当該不動産について権利を取得した第三者に対し、 法定相続分を超える権利の取得を対抗することはできないとされています (最高裁昭和 46 年 1 月 26 日判決)。
(ハ)
死後認知者の価額請求
(a)
民法 910 条は、 死後認知によって相続人となった者が遺産の分割請求をする場 合においてり、 他の相続人が既に遺産分割その他の処分をしたときは、価額のみ による支払の請求権を有するとして、遺産分割のやり直しを避けつつ、 被認知者 の保護を図っています。
(b)
この価額の支払請求は、 通常の訴訟手続によってなされるべきと考えられてい ます。
(c)
また、価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時は、価額の 支払を請求した時とされています(最高裁平成 28 年 2 月 26 日判決)
(7)

遺産分割の無効、 取消、 解除

(イ)
無効
(a)
当事者の意思表示に瑕疵がある場合
遺産分割協議は契約の一種であることから、当事者の意思表示の重要な事項 (要素) につき錯誤がある場合には、 遺産分割協議は無効となります。 遺産分割調停 が成立した場合も、当事者の合意に基礎をおくものであるため、 同様と考えられて います。
ただし、 当事者の意思表示が要素の錯誤に基づく場合であっても、 それが重大 な過失に基づくときは無効とはなりません (民法第 95 条 3 項)。
(b)
相続人の一部を除外して分割協議がなされた場合
1)
戸籍上相続人であることが分割協議の時点で判明していた場合
遺産分割協議は、 共同相続人全員の意思の合致によりなされなければなりま せん。 したがって、 戸籍上判明している相続人を除外してなされた遺産分割協 議は無効です (昭和 32 年6月 21 日、 家甲 46 号、 最高裁判所家庭局長回答)。
また、 包括受遺者は、 相続人と同一の権利義務を有するとされていますので(民法 990 条)、 包括受遺者を除外してなされた遺産分割協議も無効です。
相続人から相続分を譲り受けた者を除外してなされた遺産分割協議も無効と解されています。
2)
分割協議後に相続人であることが判明した場合
イ.
失踪宣告の取消
失踪宣告により死亡したとみなされた者を除外して遺産分割協議がなさ れた後、その者が 生存していることが判明し、 失踪宣告が取り消された場合 には、遺産分割協議自体は有効です。 ただし、 失踪宣告の取消を受けた者は、 他の相続人に対し、 現に利益を受けている限度において、 財産の返還を求め ることができます (民法 32 条2項)。
3)
被認知者を除外した場合
相続開始後、 認知によって相続人となった者は、価額のみによる支払請求権を有するにすぎず(民法 910 条)、遺産分割の無効を主張したり遺産分割のや り直しを求めることはできません。
4)
その他の場合
上記以外にも、遺産分割協議後に相続人であることが判明した場合として、 相続人である胎児が出生した場合、 離婚や離婚が無効となった場合、母と子の 親子関係が確認された場合等があります。
上記 3) のとおり、 被認知者を除外した場合、 民法 910 条により、 遺産分割 協議の無効を主張することはできず、 価額による支払請求のみが認められてい ますが、 これ以外で相続人を除外してなされた場合は、 どのように考えるべき でしょうか。
この点については、相続人を除外してなされた遺産分割も有効であり、 除外 された相続人は民法 910 条の類推適用により価額による支払請求権を有するの みであるとする説もあります。
しかし、 遺産分割協議は、 共同相続人全員による合意を基礎としていますか ら、 民法が規定していない場合にまで 910 条を適用すべきではなく、 相続人を 除外してなされた遺産分割は無効とすべきであると考えられます。 判例も、 母 子関係存在確認の訴えで母子関係が確認された子が存する場合について、 認知 に関する民法784条、 910条を類推適用することはできないとしています (最 高裁昭和54年3月23日判決)。
(c)
相続人でない者を加えて遺産分割協議がなされた場合
1)
相続人でない者を加えて遺産分割協議がなされた場合
これには、 遺産分割当協議の時点から相続人でない者が相続人として分割協 議に加わっている場合と、 遺産分割協議の時点では一応相続人であるとされて いた者が、遺産分割協議成立後に、 婚姻無効判決、 縁組無効判決等の確定によ って相続人ではなくなった場合があります。
2)
相続人でない者を加えた分割協議の効力
イ.
相続順位が変更される場合
相続人でない者を遺産分割協議に加えた結果、 正当な相続人が遺産分割協議から除外される場合があります。
この場合には、 共同相続人の一部を除外してなされた遺産分割協議として、無効と解されています (大阪地裁昭和 37 年 4 月 26 日判決)。
ロ.
相続順位が変更されない場合
この場合については、相続人ではない者から分割された遺産を取り戻した うえで、 これを未分割遺産として改めて真正な相続人間で分割すれば足りる とする考え方が主流です。
(d)
遺産の一部を脱漏して分割した場合
遺産分割協議後に未分割の遺産が新たに判明した場合、遺産分割協議を無効として再度遺産全部について遺産分割協議を行うべきか、それとも新たに判明した 遺産のみを分割すればよいかが問題となります。
この点については、分割協議の目的とした一部の遺産と残余財産との区別や両 者を分離して処理することについての当事者の合意が不十分であれば、 協議は無 効であるとした裁判例があります (高松高裁昭和 48 年 11 月 7 日判決)。
これに対し、 遺産全体からすれば、 脱漏した遺産がごく一部であって、 当初の 遺産分割を無効とするまでの必要がないときは、 未分割遺産のみを分割すること も許されるとする考えもあります。
(e)
非遺産を分割の対象とした場合
判例は、 遺産分割の対象とされた財産が民事訴訟手続において非遺産であると認定された場合につき、 「分割の審判もその限度において効力を失うに至るもの と解される」 と判示しています(最高裁昭和 41 年3月 26 日判決)。
この見解によれば、 遺産分割全部を無効と解する必要はなく、 民法 911 条の担 保責任の問題として処理すれば足りると考えられます。
(f)
遺産分割協議後に遺言の存在が判明した場合
1)
遺言により相続人資格が変更される場合
遺言により認知や廃除をしていた場合など、 相続人資格が変更される場合が あります。
この場合、 相続人の一部を除外してなされた遺産分割協議、 相続人でない者 を加えてなされた遺産分割協議の効力の問題として、 6(7)(イ)(b)(c)で述べた ことがそのままあてはまることになります。
2)
遺贈がなされていた場合
イ.
ある者に遺産の全てを遺贈している場合には、 遺産分割の対象となる財産 は存在しないことになり、 遺産分割協議は無効となります。
ロ.
非相続人に対して、 割合的包括遺贈 (例えば、 全財産の 5 分の 1 を遺贈す るなど、 全財産の割合的な一部を包括して遺贈すること) がなされている場 合には、 包括受遺者を除外してなされた遺産分割協議として無効となります です。
ハ.
相続人に対して、 割合的包括遺贈がなされている場合には、 遺産分割協議 に要素の錯誤がある場合、例えば、各相続人がこのような遺言があることを 知っていれば、 そのような遺産分割協議をしていなかったであろうと考えら れる場合は、 無効となる場合があります。 (6(7)(イ)(a))
ニ.
特定遺贈 (例えば、 自宅建物を遺贈するなど、特定の財産を指定して遺贈 すること) がなされていた場合、 遺言の効力発生と同時に受遺者がその財産 を取得することになります。 したがって、 当該財産は遺産分割の対象ではな く、 その財産に関する限り遺産分割協議は無効です。 さらに、 当該財産の遺 産に占める割合、 重要性等からして、 分割協議全体が無効となる場合もありえます。
このように、 特定受遺者は、 遺産分割協議を経ることなく当該財産を取得することになり、 遺産分割協議の当事者とはなりません。
3)
相続分の指定、 遺産分割方法の指定、 遺産分割の禁止の遺言が存することが 判明した場合
遺産分割協議の当事者が、 このような遺言があることを知っていれば当初の ような遺産分割協議をすることはなかったと考えられるような場合には、 錯誤 により無効となる場合があります(6(7)(イ)(a))。
(ロ)
取消
遺産分割協議も相続人間での契約の一種にあたることから、詐欺や強迫によって遺産分割の合意がなされた場合には、遺産分割協議を取り消すことができます (民 法96条)。
また、 遺産分割協議そのものの瑕疵ではありませんが、 判例上、遺産分割協議も 民法 424 条の詐害行為取消権の対象となるとされています。
(ハ)
解除
(a)
債務不履行による解除
遺産分割協議において、 相続人の一人又は数人がある遺産を現物で取得する代 わりに、 他の相続人に対し債務を負担する(金銭を支払う等)ことがあります (代 償分割)。 この代償分割により遺産を取得した相続人が債務を履行しない場合、他 の相続人は債務不履行を理由に遺産分割協議自体を解除(民法 541 条)できるでし ょうか。
判例は、老親を扶養するという債務の不履行が問題となった事案につき、民法 909条により遡及効を有する遺産の再分割を余儀なくされ、 法的安定性が著しく害 されることになることを理由に、 相続人の一人が他の相続人に対して遺産分割 協議において負担した債務を履行しないときであっても、 他の相続人は民法 541 条によって遺産分割協議を解除することはできないとし 解除を否定しました(最 高裁平成元年2月9日判決)。
(b)
合意解除の可否
遺産分割協議を合意解除できるかについて、 判例は、は、 「共同相続人の全員が既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、 改めて 遺産分割協議をなしうることは、 法律上、 当然には妨げられるものではない」 と 判示し、 合意解除の有効性を認めています(最高裁平成 2 年 9 月 27 日判決)。
ただし、 合意解除及び再分割をした場合、 税務上、 分割後の贈与であると認定 されて贈与税が課されるおそれがあるため、 実際に遺産分割をやり直して再分割 をする際には慎重な考慮が必要といえます。
(ニ)
遺産分割の瑕疵の主張方法
(a)
遺産分割協議の瑕疵の場合
1)
遺産分割協議不存在確認の訴え
そもそも遺産分割協議がなされておらず、 遺産分割協議書が偽造されているような場合には、 遺産分割協議不存在確認の訴えを提起することができます。
この遺産分割協議不存在確認の訴えは、 共同相続人全員のために合一的に確 定される必要があるため、 共同相続人全員を相手にする必要があります (必要 的共同訴訟)。
2)
遺産分割協議無効確認の訴え
遺産分割協議に無効原因がある場合には、 確認の利益があれば、 遺産分割協 議無効確認の訴えを提起することができます。
この遺産分割協議無効確認の訴えも、 必要的共同訴訟です。
3)
証書真否確認の訴え
遺産分割協議書の真否に争いがあり、 かつ確認の利益がある場合には、 証書 真否確認の訴え (民事訴訟法 134 条) を提起することができます。
(b)
遺産分割調停の瑕疵の場合
1)
調停無効確認の訴え
確認の利益があれば、 調停無効確認の訴えを提起することができます。産分割協議不存在確認の訴えは、 共同相続人全員のために合一的に確 定される必要があるため、 共同相続人全員を相手にする必要があります (必要 的共同訴訟)。
2)
請求異議の訴え
強制執行の停止を求めるために、 請求異議の訴えを提起することができま す (民事執行法39条1項1号)。
(c)
遺産分割審判の瑕疵の場合
1)
審判無効確認の訴え
確認の利益があれば、 審判無効確認の訴えを提起できます。
2)
請求異議の訴え
審判書による強制執行を停止するために、請求意義の訴えを提起することが できます。