ご相談受付

0120-956-251 受付時間:平日9:00~19:00

遺留分

相続紛争の予防と解決マニュアル

第1

相続法の基礎知識

集合写真
11

遺留分

(1)

遺留分とは

(イ)
遺留分の意義
遺留分制度とは、 被相続人が有していた相続財産について、 その一定割合の承継を一定の法定相続人に保障する制度をいいます (民法 1042 条以下)。 被相続人は、 遺言により自己の財産を自由に処分することができることが原則ですが、 この遺留 分制度によって、 その自由が一定限度で制限されていることになります。 このよう に、 一定の法定相続人に保障される相続財産の一定割合を遺留分といいます。
ただし、 遺留分を侵害する贈与または遺贈も当然には無効とされず、 後記のとお り金銭による精算対象となるにとどまります (民法 1046 条)。
(ロ)
遺留分権利者の範囲及び割合
(a)
遺留分権利者
1)
遺留分を有する者は、 法定相続人のうち兄弟姉妹を除いたものです (民法 1042 条)。 すなわち、 配偶者、 子、 直系尊属が遺留分権利者です。
2)
胎児も無事に出産すれば、 子としての遺留分が認められます (民法 886 条)。 子の代襲相続人も遺留分を有します (民法 1042 条 1 項 2 号、 887 条第2項、 3 項)。
3)
相続欠格者、 相続を廃除された者及び相続を放棄した者は、 遺留分権利者と はなりません。 相続欠格及び相続人の廃除の場合には、 代襲者が相続人となり、 その者が同時に遺留分権利者となります (民法1042条1項2号、 887条2項、 3項)。
(b)
遺留分の割合
遺留分の割合については、 遺留分権利者である共同相続人の全体に帰属する相続財産の部分、 割合を意味する総体的遺留分と、 遺留分権利者が2人以上いる場 合に各遺留分権利者が相続財産に対して有する割合である個別的遺留分とがあります。
総体的遺留分は、 直系尊属のみが相続人である場合は相続財産の3分の1、 そ の他の場合は2分の1です (民法 1042 条 1 項)。
また、 個別的遺留分は、 総体的遺留分を法定相続分に従って各相続人に配分して算定されます (民法 1042 条 2 項、 900 条、 901 条)。
例えば、 相続人が配偶者と子3人である場合には、 総体的遺留分は相続財産の2分の1であり、 個別的遺留分は、 配偶者が相続財産の4分の1、 子がそれぞれ 12分の1となります。 また、 相続人が父母のみの場合 (直系尊属のみの場合) に は、 総体的遺留分は相続財産の3分の1であり、 個別的遺留分は父母それぞれ6 分の1となります。
(2)

遺留分の算定

(イ)
遺留分の算定
遺留分を侵害された相続人は、 自己の遺留分を侵害された限度で金銭支払いを受 けることができます (民法 1046 条 1 項)。
遺留分算定に関して、 民法 1043 条1項は、 被相続人が相続開始時に有していた 財産の価額にその贈与した財産の価額を加え、 その中から債務の全額を控除して算 定するとしています。 そこで、 遺留分算定の基礎となる財産の範囲を明らかにし、 次にその範囲に含まれる財産の評価をする必要があります。
(ロ)
遺留分算定の基礎となる財産の確定
(a)
被相続人が相続開始時に有していた財産
遺留分算定の基礎となる財産は、 被相続人が相続開始時に有していた財産です (民法 1043 条1項)。 ただし、 系譜、 祭具などの祭祀財産は、 他の相続財産とは 別個にその承継が決定されることから (民法 897 条)、 遺留分算定の基礎となる 財産からは除かれます。 被相続人の一身に専属する権利も、 当然に除かれます (民法 896 条ただし書)。
(b)
条件付権利など
条件付権利又は存続期間の不確定な権利も、 遺留分算定の基礎となる財産に含まれます (民法 1043 条2項)。 もっとも、 その権利の評価額は、 家庭裁判所の選定した鑑定人の評価によります。
(c)
遺贈
遺贈が遺留分算定の基礎となる財産に含まれることについては争いがありませ ん。
(d)
死因贈与
死因贈与は、 贈与契約自体は被相続人の生前になされますが、 その効力については遺贈に関する規定が準用されています (民法 554 条)。 そこで、 遺留分の算 定に当たり、 死因贈与を遺贈と同様に扱うのか、 贈与とみて原則として相続開始 前1年間の間にしたものに限って遺留分算定の基礎となる財産に含めるのか (下 記(e)参照)、 見解が対立していますが、 遺贈と同視するという見解が有力です。
(e)
相続人が、相続人でない者に対して、生前に贈与した財産
1)
被相続人が贈与した財産は、 相続開始前の1年間にしたもの、 及び、 それよ り前であっても当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与し たものは、 遺留分算定の基礎となる財産に含まれます (民法 1044 条 1 項)。
2)
1年以内という要件につき、 贈与契約が成立したときを起算点にするのか、 それとも贈与契約の効力発生時を基準にするのか、 争いがありますが、 贈与契 約が成立したときを基準とする見解が有力です。
3)
「遺留分権利者に損害を加えることを知って」 の意味については、 遺留分権 利者を害する目的ないし意思までは必要ではなく、 贈与契約時に遺留分を侵害 する事実を認識することができ、 かつ、 将来被相続人の財産の増加がないこと を予見していたことが必要であり、 かつ、 それで足りると考えられています (大審院昭和 11 年 6 月 17 日判決)。 老齢、 病弱で働くことができず、 財産の増 加が見込まれない被相続人が、 相続開始前の短期間に全財産又は相当な部分を 贈与した場合などは、 遺留分権利者を害することを知ってなされたものと認め られると考えられます。
(f)
負担付き贈与
被相続人から相続人に対してなされた負担付き贈与は、通常の贈与と同じく、遺留分算定の基礎となりますが、この場合には、 その目的物の客観的な価値から 負担の価値を控除した額が遺留分算定の基礎財産に含まれます (民法 1045 条 1 項)。
(g)
不相当な対価をもってした有償行為
被相続人が不相当な対価をもってした有償行為は、 契約当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした場合に限り、 贈与とみなされます (民法1039 条)。 この場合には、 その目的物の客観的な価値から対価の額を控除した額 が遺留分算定の基礎財産に含まれます。 一方、 遺留分権利者が減殺請求をすると きには、 その対価を償還しなければなりません (民法 1045 条 2 項)。
(h)
特別受益(共同相続人に対するもの)
共同相続人のなかに、 被相続人から生前に婚姻、 養子縁組のため、 もしくは生計の資本として贈与 (特別受益) を受けた者があるときには、 被相続人が相続開 始時に有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものが相続財産とされます (民法 903 条1項)。 そして、 遺留分についてもこの規定が考慮されているため (民法 1046 条 2 項 1 号)、 特別受益財産は、 今般の民法改正により、原則として、 「相続開始前10年間にしたものに限り」とされており(民法 1044 条 3 項)、1 0年を超えるものについては、「遺留分権利者に損害を加えることを知って」と の要件が加算されることになります。そして、 これを含めて算定された遺留分の 額からその者のうけた特別受益を控除した残額が、 その者の遺留分となります。
(ハ)
遺留分算定の基礎となる財産の評価
遺留分算定の基礎となる財産の評価基準時について、 最高裁判所昭和 51 年3月18日判決は、 相続開始の時、 すなわち、 被相続人死亡の時を基準にすべきであると しています。 なぜなら、 遺留分が具体的に発生、 確定するのは相続開始の時である からです。
したがって、 被相続人が生前金銭を贈与していた場合には、 贈与のときの金額を 相続開始のときの貨幣価値に換算した額をもって評価すべきことになります。 貨幣 価値換算の方法については、 総理府統計局編 「家計調査年報」、 「消費者物価指数報 告」 記載の消費者物価指数などによって換算されています。
(ニ)
遺留分算定の際相続財産から控除すべき債務
相続財産から控除すべき債務には、 公租公課などの公法上の債務も含まれます。
相続財産に関する費用 (相続財産管理費用等) や遺言執行費用がここにいう控除すべき債務に含まれるかですが、 民法 1021 条ただし書によれば、「遺言の執行に関 する費用は、これによって遺留分を減ずることができない。」とされております。
(3)

遺留分侵害額請求権行使の要件

(イ)
遺留分が侵害されたこと
遺留分減殺請求権行使の要件として、 遺留分が侵害されていることが必要です。
遺留分の侵害とは、 被相続人が自由分 (被相続人の財産のうち、 被相続人が自由に 処分できる部分をいいます) を超えて処分をし、 その結果、 相続人が現実に受ける 相続利益が前記で算定された遺留分の額に満たない状態のことをいいます。
このように、 侵害は被相続人自身の行為によることが必要で、 例えば、 相続人が 相続した財産を被相続人の生前の意思に基づいて第三者に贈与したため、 残存額が 遺留分に満たなくなったとしても、 遺留分の侵害には該当しません。
(4)

遺留分侵害額請求権の行使

(イ)
遺留分負担者の順序
自己の遺留分を侵害された遺留分権利者及びその承継人は、 自己の遺留分を保全 するのに必要な限度で、 贈与や遺贈などの減殺を請求することができます (民法 1047 条 1 項)。 そして、 贈与と遺贈がともになされている場合や、 複数の遺贈や贈 与がなされている場合、 受贈者や受遺者に対する金銭請求をどのような順序で行う かが問題となります。
(a)
遺贈と贈与間の順序
遺留分減殺請求権の対象となる遺贈と贈与が存在する場合、 遺留分権利者は、まず受遺者に対する請求をした後でなければ受贈者への請求をすることができま せん (民法1047条1項1号)。
上記規定は強行規定と解されており、贈与の減殺後に遺贈を減殺しべしとする ような遺言者の意思表示は無効です(民法 1047 条 1 項 2 号の反対解釈)。
(b)
複数の遺贈がある場合の順序
複数の遺贈がある場合、 遺贈間での先後関係はなく、 全部の遺贈がその価額の割合に応じて減殺されることとなります (民法第1047条1項2号本文)。 ただし、 遺言者が、 遺言で別段の意思を表示したときは、 その意思に従うことになります (民法1047条1項2号ただし書)。
(c)
複数の贈与がある場合の順序
複数の贈与がある場合、 新しい贈与から減殺し、 順に前の (過去の) 贈与に及ぶことになります (民法 1047 条 1 項 3 号)。 新旧の判断は、 契約の日時によって 行われることとされています。 したがって、 登記、 登録の前後は無関係です。
ただし、 そもそも減殺請求の対象となる贈与は、 当事者が遺留分権利者に損害 を加えることを知ってなされたものを除き、 相続開始前1年間にしたものに限ら れる (民法 1044 条 1 項) 点に注意すべきです。
(ロ)
遺留分侵害額請求権の行使方法
遺留分減殺請求権は、 必ずしも訴えの方法によることを要せず、 相手方に対する意思表示によってなせば足ります。 しかし、 後日の争いをできる限り回避する ため及び事後の立証のため配達証明付内容証明郵便により行うべきでしょう。 ま た、 相手方が任意に応じない場合には、 訴えを提起するほかはありませんが、 そ の場合の裁判所の管轄は、 被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所になるこ とに加え、特別管轄として、相続開始地の被相続人の普通裁判籍所在地の裁判所 となります。
(ハ)
遺留分侵害額請求権行使の相手方
(a)
減殺請求権行使の相手方は、 原則として減殺されるべき処分行為によって直接的に利益を受けている受遺者、 受贈者です。
(b)
遺留分減殺請求権が行使された後に目的物が第三者に譲渡された場合この場合、 遺留分権利者と第三者の優劣は対抗要件の有無で決せられると考え られています (最高裁昭和 35 年 7 月 19 日判決)。
(c)
遺留分減殺請求権が行使された後に目的物上に抵当権などの権利が設定され た場合
この場合、 前掲最高裁昭和 35 年7月 19 日判決の考え方からすれば、 前記(b) 同様、 遺留分権利者と第三者の関係は、 対抗要件の有無もしくは先後で決められ るものと思われます。
(5)

遺留分侵害額請求権行使の効果

(イ)
金銭支払い義務の発生
減殺請求の意思表示がなされると、 法律上当然に、受贈者又は受遺者に遺留分を 侵害したことによる責任の範囲で、金銭支払い義務が生じます(民法 1046 条 1 項)
(6)

遺留分減殺請求権の消滅

(イ)
消滅時効
(a)
意義
遺留分侵害額請求権は、 遺留分権利者が相続の開始および遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から、 1年間これを行わないときには時効に よって消滅します (民法 1048 条前段)。 相続開始時から 10 年を経過したときも 同様に消滅します (民法 1048 条後段)。
民法 1048 条は、 1年による消滅も 10 年による消滅も 「時効」 によるものと思 われる表現をしており、これは平成 30 年の相続法改正以前と同様ですが、改正前 において 一般に前者は消滅時効、 10 年は除斥期間と解されていました。 除斥期 間の場合、 当事者による援用は不要ですし、 中断ということもありません。 した がって、 相続開始後 10 年間の期間経過により当然に消滅することになります。 改正後もこの解釈は維持されるものと思われます。
(b)
1年の時効の起算点
前記のとおり、 「相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知ったときから」 時効は進行することとなりますが、 具体的には、 単に侵害額請求の 対象である贈与又は遺贈の存在を知れば時効は進行するのか、 それとも贈与又は 遺贈が遺留分を侵害し、 減殺しうべきことを知ることを要するのかが問題となります。
この点、 判例は、 「減殺すべき贈与があったことを知ったときとは、贈与の事 実及びこれが減殺できるものであることを知った時と解すべきである」としてい ます (最高裁昭和57年11月12日判決)。
これに対し、 10年による消滅は、 相続開始の時から進行することに争いはあり ません。
(ロ)
遺留分の放棄
(a)
相続開始前の放棄
1)
放棄の可否
相続の開始前において、 遺留分の放棄をすることは可能ですが、 家庭裁判所の許可を受ける必要があります (民法 1049 条1項)。
2)
放棄の手続
イ.
申立人
遺留分の事前放棄の許可の申立ができるのは、 遺留分を有する第1順位の相続人に限られます。
ロ.
申立時期
申立の時期は相続開始時までです。
ハ.
管轄
被相続人の住所地の家庭裁判所が管轄裁判所となります (家事事件手続法 216条1項2号)。
3)
効力
許可審判がなされると遺留分の放棄の効力が発生し、 相続開始時において、遺留分の侵害があっても放棄の限度において遺留分減殺請求権が発生しないこ とになります。
イ.
遺留分の放棄は、 相続の放棄ではありません。 したがって、 遺留分放棄者 も相続開始後は相続人となります。
ロ.
共同相続人の1人がした遺留分の放棄は、 他の共同相続人の遺留分に何ら 影響を及ぼしません (民法 1049 条2項)。 したがって、 被相続人が自由に処 分し得る相続財産の部分がそれだけ増加することになります。 この点は、 相 続放棄の場合、 他の共同相続人の相続分が増加するのと異なります。
ハ.
遺留分を放棄した先順位相続人が相続開始前に死亡したり、 相続を放棄し たため、 次順位相続人が相続した場合には、 この放棄は次順位相続人の遺留 分に何らの影響を及ぼさないと解されています。
ニ.
遺留分を放棄した相続人の死亡等により代襲相続が開始した場合には、 代 襲相続人も遺留分減殺請求権を有しないものと考えられています。 代襲者は被代襲者が相続したとすれば取得するであろう相続権以上の権利を取得するものではないからです。
(b)
相続開始後の放棄
相続開始後、 現実に遺留分を持つ相続人が、 自己の自由な意思によって遺留分 を放棄し得るかについては明文の規定はありません。 しかし、 個人財産権処分の 自由の見地から有効になし得ると解されています。
そして、 相続開始前の放棄と異なり、 家庭裁判所の許可は必要ありません。
放棄の効果は、 相続開始前の放棄と異なるところはなく、 1人の相続人の放棄 は他の共同相続人に影響を及ぼさないとする民法 1049 条 2 項はこの場合にも適 用されると解されています。