遺産相続トピックス
配偶者保護のための相続法改正案
2017.11.27
1.はじめに
相続において、長年連れ添った配偶者が居住・生活の基盤を脅かされる状況を和らげるため、近年の改正では「持ち戻し免除」や「配偶者保護規定」の導入を通じて配偶者の地位を強化する方向が採られてきました。この記事では、特に「特別受益の持ち戻し免除」及びそれに関連する相続法改正の内容を整理し、さらに実務運用のポイントを解説いたします
2.「持ち戻し免除」制度の内容
(1)特別受益とは
被相続人が生前、特定の相続人に対して相続に先立って遺贈や贈与など通常の相続人が受けない利益を与えていた場合、このような利益を「特別受益」と呼び、相続人が複数いる場面では、公平を期すために相続分算定の基礎に戻して計算するのが原則です(民法903条1項)。
例えば、被相続人が配偶者や子に生前贈与を行っていた場合、その金額を遺産に「持ち戻して」相続分を計算します。
(2)持ち戻し免除の意思表示
上記の原則に対して、被相続人が「この贈与(または遺贈)は相続の際に持ち戻さなくてよい」と意思表示をしていたとき、個々の贈与・遺贈の価額を遺産に戻す必要がなくなる「持ち戻し免除」が認められます(民法903条3項)。
ただし、この意思表示が書面で残されていなかったり、黙示的であったりすると、遺産分割協議・紛争時に「持ち戻し免除があったか否か」が争点となることが多くあります。
3.相続法改正のポイントと配偶者保護の観点
20年以上の婚姻関係を有する配偶者に対する優遇
婚姻期間が20年以上の配偶者に対し、被相続人から居住用不動産の贈与または遺贈があった場合、その贈与・遺贈を「持ち戻さない(=免除)」と意思表示したものと推定する規定が新設されました(民法903条4項)。 この推定によって、長年連れ添った配偶者の居住継続・生活安定を法的に担保しやすくなりました。
4.最新の実務上の留意点
(1)書面・証拠の整備
「免除の意思表示」が有効とされるためには、遺言書・贈与契約書・協議書などで明記されていることが望まれます。黙示的な「それらしい事情」だけでは、持ち戻し免除を主張しても、他の相続人から争われるリスクがあります。
また、上記配偶者保護のための推定規定との関係でも、被相続人が生前に、贈与又は遺贈という形で何らかの意思表示をしておかなければ、配偶者の取り分が特別増えることはありませんので、遺言書・贈与契約書の作成が望まれます。
(2)婚姻期間・居住実態の確認
上記配偶者保護のための推定の適用を受ける場合、配偶者の居住実態・婚姻関係継続の状況などが実務審査において重視される傾向があります。婚姻破綻・別居状態が長期間ある場合などは、推定を否定される可能性もあります。
(3)遺産分割協議の場での対応
遺産分割協議を行う際は、持ち戻し免除の対象となった不動産が含まれているか、対象の配偶者がどのような扱いを受けるかをあらかじめ設計しておくことが重要です。協議書には以下のような項目を含めると安心です。
- 該当不動産の所在・評価額
- 贈与・遺贈の日付・金額明細
- 配偶者が相続分・居住用不動産を取得する条件
- 他の相続人に対する代償金・承継条件など
(4)税務・登記・関連制度との整合性
持ち戻し免除は法的な相続分算定の方法論ですが、実務的には相続税・不動産登記・贈与税の課税関係も併せて検討が必要です。また、2019年4月以降に施行された多数の相続関連改正(例:配偶者居住権、相続登記義務化など)との連携が実務上必須となっています。
5.まとめ
「持ち戻し免除」制度およびそれに関連する配偶者保護の改正は、配偶者の生活・居住を守る観点から極めて重要です。実務運用の精緻化が進み、書面記載・居住実態・婚姻期間・関連制度との整合性といった点で準備と確認が不可欠です。
配偶者保護の観点で遺言・贈与・相続設計を検討される場合には、専門家(弁護士・税理士・司法書士)と連携し、上記のポイントを踏まえた設計をおすすめいたします。
当事務所では、配偶者が安心して居住を継続できる相続設計、持ち戻し免除を含む遺言・生前贈与・相続分割の実務支援をワンストップで提供しております。どうぞお気軽にご相談ください。







