遺産相続トピックス

配偶者保護のための相続法改正案

2017.11.27

配偶者保護のための相続法改正案|遺産相続の専門的な情報

1.持ち戻し免除の改正案

平成29年7月18日、法制審議会民法(相続関係)部会において、「中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)」が取りまとめられました。その中で、20年以上の夫婦について、居住用不動産を贈与又は遺贈した場合、持ち戻し免除の意思表示の推定を行う規定を追加する案が提示されていました。
今回は、現行の「持ち戻し免除」制度の内容と改正案について説明します。

2.「持ち戻し免除」制度の内容

(1)特別受益

被相続人から遺贈や、相続に先立って贈与などを受けた相続人がいる場合に、その受け取った特別な利益のことを「特別受益」といいます。相続人が複数いる場合、民法は、財産を相続発生時の財産に加えて(持ち戻して)各相続人の相続分を計算するという方法を定めています(民法903条)。これは、特別受益を得たものと他の相続人との相続分が公平になるようにするという趣旨です。

(2)持ち戻し免除

持ち戻し免除は、上記(1)の原則の例外をなすものです。すなわち被相続人が上記と「異なった意思を表示したとき」(特別受益を遺産分割時に持ち戻す必要のない旨の意思表示をしていた場合)は、特別受益を相続発生時の財産に加算せずに(持ち戻さずに)、各相続分を計算することができるのです(同3項)。これを持ち戻し免除の意思表示といいます。
特別受益を相続財産に持ち戻さない結果、特別受益を得た相続人は他の相続人に比して特別な取り分を得ることができるようになります。
ここでいう持ち戻し免除の意思表示が、書面などに明示されてなされる場合は特に問題は起きませんが、黙示の場合は、当該贈与等持ち戻し免除がなされたか否かが遺産分割協議においてよく争いになります。

3.改正案

(1)冒頭に述べました追加試案の取りまとめによりますと、特別受益などに関する民法903条に次の規定を付け足す案が出されています。
「婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地の全部又は一部を遺贈又は贈与したとき(第1・2の規律により長期居住権を遺贈又は贈与した場合を含む。)は、民法第903条第3項の意思表示があったものと推定する。」

(2)これまでは、被相続人がその所有する不動産を同居していた配偶者に生前に贈与、又は遺贈を行った場合、それを特別受益として相続財産に持ち戻すのか、それとも持ち戻し免除の意思表示があったものと解釈するかどうかは、個別の事案ごとに判断されてきました。
もしもこの改正試案が実現すると、各要件を満たす同居不動産の贈与等は、被相続人による持ち戻し免除の意思表示があったと推定されるため、個別のケースごとに持ち戻し免除の意思の有無を判断する必要が、原則としてなくなります。但し、あくまで「推定」規定ですので、免除の意思表示であることを覆す事情が出てきた場合はこの限りではありません。
したがって、配偶者は同居している不動産の贈与等を受けても、遺産分割時には、それを除いた財産で相続分を計算して取得できるため、結果として、特別な取り分を得ることができることになります(但し、遺留分の問題は野残ります)。

(3)この改正試案は、20年を超える夫婦の財産は共同で形成されてきたという側面があるからその貢献に報いるべきであることや、相手方配偶者に居住用不動産を確保しつつ他の相続分も確保させることで、老後の相手方配偶者の生活保障を行うべきであることがその理由とされています。
ただ、この改正試案が実現したとしても、被相続人が生前に、贈与又は遺贈という形で何らかの意思表示をしておかなければ、配偶者の取り分が特別増えることはありません。

(4)なお、現状において生前贈与の一部については、税制上の優遇措置があります。婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除(110万円)のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)ができるというものです(相続税法第21条の6)。

4.まとめ

昨今の高齢社会において、配偶者の生活の保障は重要な事項となっています。この改正案で実際に相続法の改正が行われるのか、注視していきたいところです。