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遺産相続トピックス

遺留分制度の改正について |弁護士法人朝日中央綜合法律事務所

2020.10.15

遺留分制度の改正について|遺産相続の専門的な情報

1 はじめに

 相続が開始され、被相続人の遺言により、相続財産の全てが一人の相続人に承継されてしまったとしても、他の相続人には遺留分という一定程度の相続財産を受け取る権利があるということは、ある程度認知が広まってきました。
 これまで、不動産については、遺留分額に応じて持分が分割されてきましたが、改正相続法が施行されることにより、持分相当額の金銭を請求する権利へと変更されました。
 これにより、これまで遺留分「減殺」請求と呼ばれていたものが、遺留分「侵害額」請求と改められることになりました。 本稿では、相続法の改正前後でどのような違いが生じるのか述べていきます。

2 権利行使期間の変更点

(1) 改正前について

 「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年経過したときも同様とする。」(改正前1042条)と規定されていました。遺留分権利者は消滅時効を回避するために、権利行使の通知をすることになります。
しかし、法律上正当な権利であるとはいえ、被相続人の意思に反する請求をするわけですから、紛争が生じる可能性は非常に高く、その通知には内容証明郵便を用いて通知をするのが一般的です。
 この権利は、形成権といい、権利行使によって当然に法律効果を生じさせるものです。つまり、通知が相手に到達した時点で、遺留分権利者は遺留分に応じて遺産を当然に取得します。
また、遺留分減殺請求権が、遺産から遺留分相当の財産を取得できる権利である一方、具体的な請求権等は、取得した財産の所有権に基づく移転登記請求や支払請求権となります。 したがって、前記1042条とは異なり、金銭債権であれば10年で時効消滅し(改正債権法施行前167条)、不動産に対する請求については、時効消滅することはないとの判例(最判平成7年6月9日)により、時効消滅しませんでした。

(2) 改正後について

改正後についても相手方に通知をするところまでは同様です(改正後1048条)。
しかし、金銭請求のみとなりますので、時効期間は10年(改正前167条)となります。
 但し、改正債権法が令和元年4月1日に施行されましたので、通知が4月1日以降となった場合には、時効期間は「権利を行使することができると知った時から5年」(改正債権法施行後166条1項1号)となります。
 通知をしている当人が権利行使できると知らないことなど通常ありませんので、通知到達時から5年で時効消滅することになります。

3 財産価格確定の基準時の変更点

 改正前においては、不動産等財産評価額に争いが生じやすいものについても権利を取得しますので、当該不動産の権利を全て承継するはずだった相続人は、価額弁償の意思表示をすることで、金銭を支払い、代わりに不動産の権利を全て取得することができます。
 このとき、財産評価の基準時は、現実に不動産価額の弁償がされるときであり、当該価額弁償を請求する訴訟においては口頭弁論終結時(最判昭和51年8月30日民集30巻7号768頁)が基準時となっていました。
一方で、遺留分算定の基準時は、被相続人の死亡時です。
 したがって、訴訟においては、被相続人死亡時の不動産評価額が争いになり、かつ価額弁償の意思表示の時点における不動産評価額も争いになり得ることから、手続として複雑であることはもちろん、訴訟の終わるタイミングや不動産評価額が上下することにより、当事者の一方に不利益を強いることがしばしばありました。
 しかし、改正後においては、価額弁償の意思表示を待つことなく、被相続人死亡時の財産価格により請求額が確定することになります。

 

4 金銭請求に限られることでのデメリット

  

 相続財産が実家である不動産に限られ、遺言により当該不増産を特定の相続人に遺贈した場合、これまでは当該不動産の持分を得ることで、全く財産を得られないという事態は避けることができました。
 しかし、改正後においては金銭請求しか認められませんので、当該不動産を受け取った相続人に金融資産が無い場合には、財産を得ることができません。
 遺言と異なる遺産分割協議をして、持分を得ることは不可能ではありませんが、相続人間で争いが生じやすいため、結局訴訟となり、最悪当該不動産を売却しなければならない事態になり得るのです。
 財産が不動産しかない場合に備えて、相続人は金銭を工面しておく必要がありますし、遺言である被相続人も、遺留分の存在を念頭に財産を分ける必要があります。

5 金銭請求に限られることでのメリット

  

 これまで、小規模事業を営んでいた親の事業を子の一人が手伝い、その子が引き継ぐことになっていたとしても、全く事業とは無関係な子に遺留分として、事業財産を取得される結果となっていました。(例:400万円の機械又は自動車の4分の1の持分割合だけ事業と無関係の子が所有する等。)また、株式についても同様に、遺留分に応じた持分を取得することになることから、事業承継に混乱が生じていたのです。
 改正により金銭請求に限られますので、これらの問題を解消することができ、会社事業の承継がスムーズに行えるようになりました。

6 特別受益の変更点

 これまで相続人に対する生前贈与については、特段の事情の無い限り、遺留分減殺請求の対象(最判平成10年3月24日民集52巻3号24頁)とされてきました。
 なぜなら、相続人から生前受け取った財産額に、相続人間で大きな格差がある場合、生前贈与の時期を限定することで、格差を是正できなくなるという弊害を防止することが目的だったからです。しかし、第三者の受遺者からみれば、相続人への過去の生前贈与など知る術がありません。したがって、後々生前贈与が発見され、紛争が再び生じる可能性があるなど、法的安定性を害する制度となっていました。  そこで、これらの均衡を図るため、相続人に対する生前贈与についても相続開始日より10年前までのものが対象となるよう改正されました。
 なお、第三者に対する生前贈与については変更が無く、相続開始前1年間の贈与が対象となります(1044条1項)。

7 おわりに

  

 遺留分の請求は、相手が親族であることもあり、非常にデリケートな問題です。当事務所でお受けする法律相談においても、相続の際に親族間でトラブルが発生するケースがしばしば見受けられます。
 解決の際には、ぜひ専門の弁護士にご相談することをおすすめします。