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遺産相続トピックス

配偶者居住権について |トピックス|弁護士法人朝日中央綜合法律事務所

2021.04.14

配偶者居住権について|遺産相続の専門的な情報

1 はじめに

 

 ご高承のとおり、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(平成30年法律第72号。以下「改正法」といいます。)が平成30年7月6日に成立し、同月13日に公布されました。
  以下では、改正法によって新設された配偶者居住権につき説明いたします。
  改正法のうち、配偶者居住権に関する規定は、令和2年4月1日に施行されました。同規定は、令和2年4月1日以降に開始した相続について適用されます。

2 配偶者居住権とは

 

⑴ 意義
   日本国民の平均寿命が延びたことに伴い、夫婦の一方(以下「被相続人」といいます。)が亡くなった後も、残された配偶者(以下、単に「配偶者」といいます。)が長期間にわたり生活を継続しなければならないケースが増えました。
   これにより、配偶者は、住まいを確保しつつ、老後の生活資金を確保する必要性が高まっています。配偶者が被相続人の所有であった自宅での居住を確保するには、自宅の所有権を取得するか、または自宅の所有権を取得した者から借り受ける必要があり、多くの場合、配偶者は大きな金銭的負担を強いられます。
   しかし、それは一般的に配偶者に酷であるので、今般の民法改正で、配偶者は一定の要件を満たせば、生涯、無償で自宅に居住する権利を取得しうるようになりました。この権利を「配偶者居住権」といいます。

 ⑵ 具体例
   例えば、夫が遺言を作成せずに死亡し、相続人は妻及び子の2名、遺産は夫婦が居住していた5000万円の自宅及び3000万円の預貯金という事案において、法定相続分(妻2分の1、子2分の1)どおりに遺産分割をする場合、改正法が適用されるか否かによって以下の違いが生じます。
  ア 改正法が適用されない場合
    遺産の合計額は8000万円(=自宅5000万円+預貯金3000万円)であることから、妻が自宅に無償で住み続けるために5000万円の自宅(の所有権)を取得しようとすれば、妻の取得額が法定相続分に相当する4000万円を超過しますので、妻は子に対し、超過分1000万円を代償金として支払う必要があります。
  イ 改正法が適用される場合
    配偶者居住権が新設されたことにより、自宅の所有権という一つの権利を、①「配偶者居住権」と、②「(配偶者居住権の負担付き)所有権」とに分離して、別々に取得できるようになりました。
    5000万円の自宅の所有権を、上記①及び②の権利に分離するため、財産的価値も二分されます。仮に上記①の配偶者居住権が2000万円、上記②の(配偶者居住権の負担付き)所有権が3000万円と評価される場合、妻は2000万円の配偶者居住権及び2000万円の預貯金を取得し、子は3000万円の(配偶者居住権の負担付き)所有権及び1000万円の預貯金を取得するという遺産分割が可能となり、妻は生活資金を確保しやすくなります。

 ⑶ 配偶者居住権の成立要件
   配偶者居住権が成立するためには、①被相続人の配偶者であること、②配偶者が被相続人の相続開始時に被相続人所有の建物に居住していたこと、及び③その建物について配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺言または死因贈与、あるいは同旨の遺産分割がなされることが必要です(民法1028条1項、554条)。

3 配偶者短期居住権との区別

 

 ⑴ 配偶者短期居住権の意義
    配偶者居住権と類似した制度として、「配偶者短期居住権」という制度が改正民法で新設されました(民法1037条ないし1041条)。
    これは、夫婦の一方の死亡後、残された配偶者が、一定の短期間、被相続人の所有であった自宅に無償で居住できるという権利です。
  ⑵ 発生原因
    配偶者居住権は、遺言、死因贈与または遺産分割によって取得する必要があるのに対し、配偶者短期居住権は、相続開始により当然に発生します。
  ⑶ 存続期間
    配偶者居住権の期間は原則として配偶者の終身の間であるのに対し、配偶者短期居住権の存続期間は、居住建物が配偶者を含む共同相続人間で遺産分割の対象となるか否かによって、以下のとおり異なります。
   (a) 遺産分割の対象となる場合は、遺産分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始時から6か月が経過した日のいずれか遅い日まで存続します(民法1037条1項1号)。
   (b) 遺産分割の対象とならない場合は、居住建物の取得者が配偶者短期居住権の消滅の申入れをした日から6か月が経過した日まで存続します(同項2号)。

4 最後に

 

 配偶者居住権が成立するためには、前述のとおり、遺言、死因贈与または遺産分割がなされることが必要です。
  自分の死後、配偶者に自宅の居住権を確保してあげたいと考えておられる方は、正しい内容の遺言書や死因贈与契約書を作成する必要があります。
  他方、被相続人が遺言を作成せずに死亡した場合は、配偶者としては、遺産分割によって自宅の居住権を確保したいところですが、自宅以外の遺産がある場合には、配偶者居住権の価値を適切に評価した上で遺産分割を行う必要があります。
  当事務所は、相続問題について豊富な経験、専門知識及びノウハウを蓄積しておりますので、配偶者居住権に関しお困りの点やご不明な点がございましたら、当事務所までお気軽にご相談ください。