遺産相続トピックス
遺留分制度の改正について変更点を解説
2020.10.15
1 はじめに
相続が開始し、被相続人の遺言によって財産のすべてが特定の相続人に承継されても、他の相続人には「遺留分」という最低限の取り分が認められています。
2019年(令和元年)7月1日施行の相続法改正により、従来の「遺留分減殺請求権」は、金銭請求をすることができることを内容とする『遺留分侵害額請求権』へと改められました。
これにより、権利の行使方法や評価時点などの考え方が整理され、より実務的で予測可能な制度となっています。
本稿では、改正前後の違いや、現在の運用上の留意点を解説します。
2 権利行使期間の変更点
(1) 改正前
遺留分減殺請求権は「形成権」とされ、特定の不動産の遺贈や贈与に関する権利行使の通知(多くは内容証明郵便)が相手方に到達した時点で効力が生じ、遺留分権利者は、対象となった当該不動産の持分等を当然に取得するとされていました(最判昭和57年3月4日民集36巻3号241頁)。
また遺留分減殺請求権は、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年又は相続開始の時から10年が経過した時に、消滅するとされていました(改正前民法1042条)。
もっとも、遺留分減殺請求権の効果によって取得した所有権等に基づく物権的請求には消滅時効の規定(改正前民法1042条等)が適用されないとする最判平成7年6月9日集民175号549頁もあり、金銭債権に比べて期間制限に曖昧な側面がありました。
(2) 改正後
改正後民法1048条では、遺留分侵害額請求は形成権の性質は維持しつつも、その法律効果は金銭請求権を生じさせるものに改められました。この点が、形成権の行使と同時に所有権移転等の効果を生じさせるとしていた改正前民法と異なる点です。
遺留分侵害額請求権(形成権)については、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年又は相続開始から10年が経過した時に、消滅するとされました(改正後民法1048条)。
他方で、遺留分侵害額請求権(形成権)の行使によって生じた金銭債権の消滅時効は、他の金銭債権と同様に、改正後民法166条1条1号により5年間が経過した時に時効により消滅することになりました。
なお、遺留分侵害額請求権の行使によって生じる金銭債権については、改正後民法166条1項2号が適用されるケースは想定し難いと考えられています。
実務上は、遺留分侵害額請求権を行使する旨の形成権の行使を行った上で、5年以内に具体的な請求金額を計算のうえ金銭請求を行うことになります。
3 財産価格確定の基準時の変更点
改正前は、遺留分権利者が不動産所有権等を直接取得する形で行使し、価額弁償(金銭の支払い)を希望する受遺者等(被請求者)が金銭で調整する方式でした(改正前民法1041条)。
しかし、改正前においては、具体的な遺留分額を算定するためには、複数の条項を適用する必要があり、また解釈に委ねられていた範囲(改正後民法1046条2項により明文化)もあり、難解な制度となっていました。
また遺留分減殺請求訴訟では、遺産に属する不動産の評価額の基準時について、「相続発生時」とすべきか「口頭弁論終結時」とすべきか等の争いが生じる問題がありました。
改正後民法1043条1項により、遺留分算定の基礎となる財産の価額について、被相続人が相続開始の時において有した財産(遺産)の価額及び相続人又は第三者に対する贈与(改正後民法1044条)の額を加えたものから、被相続人の債務の額を除いた額とすることが明確化されました。
同条の定めから、遺産の評価基準時は相続開始時であると一般に解されています。
また、改正前は解釈に委ねられていた範囲も含めて、具体的な遺留分侵害額の算定方法が、次のように明文化されました(改正後民法1042条、1046条)。
遺留分の額
=遺留分算定の基礎となる財産の額×遺留分割合×遺留分権利者の法定相続分
遺留分侵害額
=遺留分の額-遺留分権利者の特別受益の額
このように遺留分侵害額の算定方法が簡素化され、当事者の予測可能性が向上しました。
なお、遺産分割の対象となる遺産がある場合や相続債務がある場合には、それらも考慮して遺留分侵害額を算定することになります(改正後民法1046条2項2・3号)。
4 金銭債権化の影響
遺留分侵害額請求権が金銭債権化したため、相続財産が自宅不動産しかない場合、請求を受けた受遺者等が遺留分侵害額相当額の資金を確保できないと、同不動産を売却せざるを得ない状況が生じるおそれがあります。
特に相続財産が換価性や収益性の乏しい不動産である場合には、このような金銭的な清算が重い負担となることもあります。
一方で、遺留分権利者が持分共有状態になることを防げるため、相続後の共有トラブルは減少しました。
今後は、遺言段階での資金準備・生命保険活用などの対策がより重要になります。
5 実務上の留意点
- 請求は原則として書面通知で行う(内容証明郵便等が一般的)
- 通知から5年以内に訴訟・調停・支払い請求等を行う必要がある
- 相続人間の協議や調停で和解金額を定めるケースが増加
- 相続財産が不動産のみである場合、換価・売却が前提となることもある
- 遺留分侵害額請求権の譲渡・相続も可能(改正後民法1046条1項)
6 まとめ
相続法改正により、遺留分制度は物権的効力を持つ権利から「金銭債権」へと改められました。
これにより、制度の透明性が向上した一方で、現金化・支払資金の問題など、経済的な影響も大きくなっています。
2025年現在も、改正時の制度構造は変更されておらず、最新の実務もこの枠組みに基づいて運用されています。
遺留分侵害額請求は法的判断が複雑で、請求のタイミングや評価の根拠によって結果が大きく変わります。
権利を守るためには、早期に弁護士へ相談し、適切な請求・防御を行うことが重要です。







