遺産相続レポート
節税目的の養子縁組の有効性
2017.11.27
1.養子縁組による節税効果
「相続税の節税」について関心が高い方も多いと思いますが、今回は、その一つの手法としてよく挙げられる「養子縁組」による相続税の節税について、法律的な観点から、最近出された最高裁の判決も踏まえてお話をしたいと思います。
そもそも養子縁組を行うことが何故、相続税の節税になるのでしょうか。
ご存知の方も多いと思いますが、相続税を計算する際に、「基礎控除額」というものがあります。
基礎控除額とは、相続税が課されない金額(枠)のことをいいますが、以下の計算式で算出されます。
【計算式】 3,000万円+法定相続人の数×600万円
上記の計算式からも明らかなとおり、相続人の人数が増えることで、基礎控除額もそれに比例して増えることになります。そこで、養子縁組によって、この法定相続人を増やし、基礎控除額を拡大させるというのがこの手法の狙いとするところです。ただし、上記の計算を行うにあたっての、養子の数には制限があります。被相続人に実子がいる場合は一人まで、被相続人に実子がいない場合は二人までです。
2.養子縁組の要件・手続
養子縁組が成立するためには、一般的に、縁組をした時点において、(1)縁組当事者において縁組の能力(養子縁組の意義を常識的に理解し得る能力)を有していること、(2)縁組当事者において縁組の意思(真に養親子関係の設定を欲し、親子としての精神的なつながりを形成する効果意思)を有していることという2つの要件を備えていることが必要になります。なお、法律上、全く血縁関係のない第三者も養子になることができますが、実際には孫や甥姪など比較的近しい関係にある親族を養子とすることが多いといえます。
また、養子縁組は、縁組の当事者が所定の縁組届を市役所等に提出し、これが受理されることで効力が生じます。養親と養子に縁組の能力と縁組の意思さえ認められれば、手続きとしては、非常に簡単なもので済んでしまうため、皆様も、弁護士や税理士等から養子縁組による相続税の節税という提案を受けたことのある方も多いのではないでしょうか。
しかし、このように簡単な手続きで行えることから、後々、養子縁組を行った当事者が法律の要件を満たす形で縁組を行ったのか否かという点が問題となり、「養子縁組の有効性」という点が裁判所で数多く争われてきました。
3.最高裁判決
今回紹介する最高裁平成29年1月31日判決(以下「本判決」といいます。)は、上記の節税目的の養子縁組の有効性が問題となりました。事案の概要は以下のとおりです。
被相続人には、実子として、長男A、長女X1及び二女X2がいた(妻は先に死亡)。
本件で問題となった養子縁組の養子は、AとAの妻であるBとの間の子Yである。
Yは平成23年に出生し、被相続人とYは平成24年に養子縁組を行った。
被相続人は、養子縁組を行う前に、税理士から養子縁組をすると基礎控除額が増え、相続税の節税の効果がある旨の説明を受けた。
X1及びX2は、被相続人とYとの養子縁組は相続税の節税のためのものであるから、縁組意思が無いとして、養子縁組無効確認訴訟を提起した。
原審(東京高裁平成28年2月3日判決)は、本件は相続税の節税目的の養子縁組であって、縁組意思がないことから、養子縁組は無効であると判断した。
本判決は、この事案について次のように述べ、結論としては、本件養子縁組は有効であると判断しました。
「養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生することを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、並存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組みをする意思がないとき」に当たるとすることはできない。」
4.養子縁組が無効になるケース
それでは、どのような場合に、養子縁組が無効とされるのでしょうか。
民法上、以下のいずれかに該当すると、養子縁組が無効になるとされています(民法802条)。
- (1)当事者間に縁組をする意思がないとき
- (2)当事者が縁組の届出をしないとき
上記事案で問題となったのは、上記のうち、(1)当事者間に縁組をする意思がないとき、にあたるか否かです。
上述のとおり、「縁組をする意思」とは、「縁組の届出をする意思(届出意思)」だけではなく、「真に養親子関係の設定を欲し、親子としての精神的なつながりを形成する効果意思(実体的意思)」が必要であるというのが判例・通説です。ただし、「実体的意思」といっても、縁組当事者の意思、目的は多様であり、個別のケース毎に判断せざるを得ないでしょう。
5.検討
判決は、単に相続税の節税目的を有しているだけで縁組意思が無かったことにはならないと判示していることから、今後、縁組の効力を争う場合、「相続税の節税目的で養子縁組がなされている」、というだけの主張では足りません。本判決は、「前記事実関係の下においては、本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく、「当事者間に縁組をする意思がないとき」 に当たるとすることはできない。」と判示していることから、別の事情があれば,養子縁組が無効になり得ることを認めているといえます。そのため,縁組の効力を争う当事者は,縁組の経緯や動機,養子と養親の関係性等を精査し,緻密な論理で「縁組の意思がないこと」をうかがわせる事情を説明する必要があります。
また、本判決の事案は、養子縁組が民法上有効か否かが争われただけであり、相続税の計算に関連して養子縁組の有効性が争われたものではありません。つまり、本判決は、養子縁組をすれば必ず相続税の計算上も基礎控除の枠が拡大することまで認めたものではないのです。
相続税法63条には、「相続税の負担を不当に軽減させる結果となると認められる場合は、税務署長の判断で養子を算入せずに税額を計算することができる」という定めがあります。そのため,節税のみを目的として養子縁組を行った場合には、当該条項により税務署から租税回避行為とみなされ、節税効果を否定されるおそれがあります。
このように、養子縁組一つとっても、それが法律上及び税務上問題のないものか否かは専門的な判断が必要になりますので、養子縁組を含め、相続や相続税に関するお悩みをお持ちの方は、弁護士、税理士等の専門家にご相談されることをお勧めします。