遺産相続レポート
配偶者居住権について
2018.07.02
現民法において
(1)今年1月16日の法制審議会において、民法の改正案として、配偶者居住権の創設が議論され、2月16日において同会は、同改正要綱を上川陽子法相に答申しました。
(2)これまで、相続が生じた時の配偶者の居住場所の確保に関しては、自宅の所有権という観点でしか具体的な規定がありませんでした。
現民法において、遺言書等が無く子が相続人に含まれる場合において、配偶者の相続分は遺産の2分の1と規定されています。2分の1あるならば良いと考えるかもしれません。
問題が生じる場合もあります
しかし、問題が生じる場合もあります。例えばAが亡くなり、配偶者B、子Cが相続人になったとします。Aの遺産が、自宅建物(500万円)、預貯金(100万円)で、借金等が無かった場合、BとCの相続分はそれぞれ2分の1なので、それぞれ(500万+100万)÷2=300万円分の相続権があることになります。BはAと一緒に、自宅に長年居住していたため、自宅土地・建物を取得したいと考えました。
もし、Bが自宅土地・建物を全て取得すると、500万円分を取得することになり、一方で残りの遺産は100万円しかないことから、Cの相続分には200万円足りません。そこで、Bは、Cに対して、自宅土地・建物を全部取得するため代わりに、100万円分の代償金をCに対して支払わなければならなくなります。これにより、逆にBの生活費が減ってしまうということにもなりかねません。
BとCのような親子間であれば、Cが代償金はいらないよ、と譲ってくれることもあるかもしれませんが、相続人が兄弟、甥姪等であった場合や、相続人間が不仲であった場合は、そのようにうまくはいかないケースも出てくるおそれがあります。
民法改正案において
民法改正案においては、このようなことで配偶者が今まで住んでいた場所から追われるようなことが無いように、配偶者居住権を創設することが検討されています。
- 配偶者の居住権を長期的に保護するための方策
Aが所有していた自宅建物に、Bが相続開始時(Aが亡くなった時)に居住していた場合において、
(1)遺産分割において配偶者居住権をBが取得するとされたとき
(2)Bに配偶者居住権が遺贈されたとき
(3)A・B間で、配偶者居住権をBに取得させる死因贈与契約がされていたとき
のいずれかにあたれば、原則Bが亡くなるまで、Bは自宅建物に無償で住み続けることができます。配偶者居住権は、自宅建物そのものよりも安価であると考えられますので、代償金の額も低く抑えることができると考えられます。
- 配偶者の居住権を短期的に保護するための方策
Aが所有していた自宅建物に、Bが相続開始時(Aが亡くなった時)に無償で居住していた場合において、
(1)自宅建物を相続人(Bを含む)で遺産分割する場合は、自宅建物の帰属が確定した日又は相続開始時から6か月を経過した日のいずれか遅い方までの間
(2)(1)以外の場合で、自宅建物を相続又は遺贈により取得した者が配偶者短期居住権消滅の申し入れをした場合は、申し入れの日から6か月を経過するまでの間Bは、自宅建物に無償で住むことができます。
まとめ
このような改正により、新たなトラブルも今後発生するでしょう。しかし、配偶者保護の取り組みが進んだこと自体は大きなことですので、どのような制度として確立していくか見守りたいと思います。