遺産相続レポート
相続人の欠格・廃除について
2018.07.09
1.(民法1028条)
通常、兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分を持っていますので(民法1028条)、たとえ遺言書等で全ての財産を一部の相続人に渡す旨の内容を記載されていたとしても、最低限、遺留分相当の財産は請求することができます。
しかし、少なくないご相談として、一部の相続人について、自分の遺産を受け継いでほしくない、遺留分として最低限の財産を渡すのも嫌だ、という話をされることがあります。そのようなご希望の理由としては、「自分の介護を全くしてくれなかったから渡したくない」「財産を渡しても無駄遣いしてしまうから渡したくない」など様々です。
このような場合に、自分の相続人に対して遺留分減殺請求権を行使させない方法があるでしょうか。実は、民法では以下のような特別な場合に限り、相続人から相続権や遺留分を失わせることができるものと定めています。
2.相続人の欠格(民法891条)
次に(1)~(5)に挙げられる相続人は、相続権を失い、当然遺留分減殺請求もできなくなります。これらの場合は、後述する廃除と異なり、裁判所への請求が無くとも当然に相続権を失うこととなります。
(1)被相続人又は自分より先順位もしくは同順位の相続人に対する殺人罪または殺人未遂罪で刑に処せられた者(同条1号)
被相続人等を殺す(又は殺そうとする)ことで、相続財産を得るような者には相続の資格がないとするものです。
(2)被相続人が殺されたことを知っていたのに、これを告発せず、又は告訴しなかった者(同条2号)
ただし、当該相続人に是非弁別能力が無いときや、被相続人を殺した者が当該相続人の配偶者または直系の血族であるときは除かれます。事実上告発、告訴が困難な場合まで相続権を失わせるのは酷だからです。
(3)詐欺又は脅迫によって、被相続人が遺言をしたり、遺言を撤回、取消又は変更することを妨げた者(同条3号)
詐欺や脅迫といった不当な手段をつかってまで、被相続人の遺言作成等を妨げるような者には相続財産を得る資格がないとされています。
(4)詐欺又は脅迫によって、被相続人に遺言をさせたり、遺言の撤回、取消又は変更をさせた者(同条4号)
上記(3)と同様、不当な手段により、被相続人の遺言作成等に関与した者は、相続財産を得る資格がないとされています。
(5)被相続人の遺言書を偽造、変造、破棄又は隠匿した者(同条5号)
上記(3)、(4)と同様、不当に遺言に干渉した者は、相続財産を得る資格がないとされています。ただし、平成9年1月28日最高裁判決は、破棄・隠匿された遺言の内容が当該相続人に有利な内容であったなど、破棄・隠匿などの干渉が相続に関して自らが不当な利益を得る目的で行ったものではない場合は、欠格事由に当たらないとしています。
3.推定相続人の廃除(民法892条)
兄弟姉妹以外の推定相続人のうち、被相続人に対して
(1)虐待を行った者
(2)重大な侮辱を加えた者
(3)その他著しい非行を行った者
について、被相続人は、家庭裁判所に対して当該推定相続人の廃除を請求できます。廃除されると、推定相続人は相続権を失いますので、当然遺留分減殺請求もできなくなります。廃除は家庭裁判所への請求、そして廃除判決の確定が必要となりますので、廃除事由があるからといって請求なしに当然廃除されることはありません。
なお、兄弟姉妹が相続人である場合は、そもそも遺留分が認められていないため、遺言によって財産を残さないことが可能となることから、廃除の対象とはなっていません。
どのような場合が虐待や侮辱にあたるかはケースバイケースですが、一時的にかっとなって暴言を吐いてしまったがそれ1回きりである、というような場合は、廃除事由にあたらないとされています。遺言によって廃除の意思表示をすることも可能です(民法893条)。この場合、遺言執行者が家庭裁判所に対し廃除の請求をすることになります。
欠格や廃除は、必ずしも認められる場合ばかりではありません。遺産を受け取ってほしくない人がいたとしても、廃除を請求するべきかどうかは各ご家庭の事情によるでしょう。