遺産相続レポート

持戻しの免除の推定

2018.07.17

持戻しの免除の推定|遺産相続の専門的な情報

1.相続に関連する民法の改正案

政府は、今年3月13日、約40年ぶりに相続に関連する民法の改正案を閣議決定しました。

改正案には、先日ご説明した「配偶者居住権」のほか、20年以上結婚していた夫婦において、居住に要する建物又はその敷地(以下、住居とします)が配偶者に遺贈もしくは生前贈与された場合に、当該住居については、持戻しの免除があったものと推定する規定が盛り込まれています。

2.「持戻し」を規定

(1)民法903条1項

(1)民法903条1項は、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、…相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」という、いわゆる「持戻し」を規定しています。

事案で説明します。

夫Aの財産は住居(1000万円)と預貯金(1200万円)です。Aは、住居を妻Bに生前贈与し、その後亡くなりました。Aの相続人は、妻Bと長男Cの2人です。

Aが亡くなった際に有していた財産は、預貯金1200万円のみですが、上記持ち戻しが起こることにより、Bに生前贈与した住居1000万円を加えた、
1200万円+1000万円=2200万円
が、相続財産とみなされます。配偶者であるBの相続分は
相続財産(2200万円)の2分の1=1100万円
ですから、Bは1100万円から、生前贈与で取得した住居の価額1000万円を控除した残額である、
100万円
のみが、Aの相続によりBが取得する財産になります。

夫に先立たれた妻にとって、100万円という額は先々生活していくうえで、あまり安心できる額ではないかもしれません。また、住居を贈与する夫としても、これによって妻の相続分が減ってしまうことは、通常望まないものと思います。

(2)民法603条3項

(2)民法603条3項は、「被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。」として、「持戻しの免除」を規定しています。

もし、被相続人であるAが、遺言等により持戻しの免除の意思表示をしていれば、Bに生前贈与した住居を持ち戻さずに相続財産が算定されますので、1200万円の2分の1=600万円を、BはAの相続において取得できることになります。

このように、「持戻しの免除」の意思表示をすることで、Bの保護を図ることは可能です。しかし、持戻しという制度自体あまり知られておらず、わざわざ免除の意思表示がされているケースはほとんどないのが実情です。

3.配偶者の保護のための民法改正案

このような場合の配偶者の保護のため、民法改正案は、この「持戻しの免除」の意思表示を、以下の条件で推定する規定を設けました。

(1)婚姻期間が20年以上の夫婦
(2)配偶者である被相続人が、他の一方の配偶者に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたとき

先ほどの事案ですと、AとBの婚姻関係が20年以上であった場合であれば、Aによる特段の意思表示がなくとも、持戻し免除の意思表示があったものと推定され、Bの相続分は減らないということになります。

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この記事の執筆
弁護士法人朝日中央総合法律事務所
弁護士法人朝日中央綜合法律事務所は遺産分割紛争、遺留分紛争、遺言無効紛争などの相続紛争の解決実績は2018年以降、1,695件(内訳:遺産分割紛争635件、遺留分紛争89件、その他遺産相続紛争971件)にのぼり、多くの依頼者から信頼を獲得しています。

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