遺産相続レポート
遺産管理費用の負担について
2018.09.10
1 遺産の管理費用
被相続人が残した遺産を管理するために、以下のような費用が発生することがありますが、これらの費用は、誰が、どのような割合で負担すべきものなのでしょうか。
【費用の具体例】
- 土地及び建物の固定資産税等
- マンション等の管理費
- 水道光熱費
- 火災保険料
- 建物の修理・改装費用
- 山林の植込み・補植・下刈等の維持・管理費用
- 遺産を換価する場合の諸経費(不動産仲介手数料、株式売却手数料)
- 遺産の賃借人に対する立退料等
- 賃料の取立費用
2 民法の共有規定の適用
被相続人の法定相続人が複数人存在するケース、いわゆる共同相続の場合には、相続が開始した後、遺産分割が完了するまでの間は、共同相続人で遺産を共有することになります。そのため、遺産の共有の場合にも、民法における共有規定が適用されると考えられています。
その結果、各相続人は、共有物たる遺産の全部について、その相続分に応じて使用することができ(民法249条)、共有物たる遺産の「変更」については、共同相続人全員の同意を要する一方(民法251条)、共有物の「管理に関する事項」は、原則として、各相続人の相続分の価値に従った過半数により行い(民法252条本文)、「保存行為」は各相続人が単独で行うことができることになります(民法252条但書)。
3 遺産の管理費用の負担方法
遺産管理費用の負担に関する問題については、「相続財産に関する費用」として、「相続財産から支弁するとの規定(民法885条1号)を根拠に、相続財産から清算されるべきであるとする考え方もありますが、遺産管理費用の負担の問題は、そもそも相続開始後に生じた債務の負担の問題であって、遺産とは別個のものであるから、遺産分割の対象とはならず、共有物に関する費用負担の問題として、共同相続人がその法定相続分に応じて負担すべきとする考え方が有力です。
もっとも、全ての共同相続人間で、遺産管理費用の負担に関する問題も含めて遺産分割手続の中で清算する旨の合意ができるのであれば、遺産管理費用の負担に関する問題を遺産分割手続の中で考慮することができると考えられています。実際、家庭裁判所における遺産分割調停手続の中でも、遺産管理費用の清算について話合いが行われることが多いといえます。
4 まとめ
遺産管理費用の負担の問題は、(1)遺産管理費用を現に負担している共同相続人が、他の共同相続人に対して、その相続分に応じた負担を求めるケース、(2)特定の共同相続人が、相続開始後も収益物件を事実上管理し、賃料収入を独占している場合に、当該共同相続人が遺産管理費用をその収入額から控除すべきであると主張するケース、(3)特定の共同相続人が、相続開始後に被相続人の預金を出金するなどして遺産管理費用を支払った場合に、他の共同相続人が当該遺産管理費用の支出に納得できないとして、出金した預金を遺産に組み入れるよう請求するケースなど、その費用の種類や遺産管理費用の支出の形態に応じて、様々な形で争われることになります。
そして、遺産管理費用の問題は、負担を他の共同相続人に求めていくケースでも、逆に、負担を求められているケースでも、その法律的な構成や清算の妥当性などの検証が必ず必要であり、専門的な判断を要することになります。そのため、遺産管理費用の負担の問題でお悩みの方は、一度、弁護士等の専門家にご相談されることをお勧めします。