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金融資産

相続税軽減マニュアル

第3

相続財産別の相続税の軽減方法

集合写真
1

金融資産

(1)

現金の生前贈与

(イ)
対策の内容
相続税の軽減方法として最も一般的な方法は現金の生前贈与です。 この方法は贈与の時期を自由に選択することが可能で、贈与に要するコストも殆どなく、手続も 簡単に贈与をすることができます。
生前贈与を行う際には、第2、4(3) 「贈与税の平均税率と相続税の限界税率との 比較」 の箇所で述べましたように、相続税の限界税率よりも低い贈与税の平均税率 の範囲内で多年に渡って、多くの受贈者に分けて贈与をすると著しい効果がありま す。
(ロ)
具体例

この場合の相続税の限界税率は 55%となっており、この限界税率よりも低い贈与税の平均税率での生前贈与を行うとして、例えば贈与税の平均税率 29.27%である 2,000 万円を3人の子にそれぞれ贈与を行ったときの、相続税負担と贈与税負担と の比較は以下のようになります。

(ハ)
留意点
(a)
贈与の事実が国税当局に否認されないように配慮しなければなりません。預金 を単に家族に名義を移しただけでは、借名預金として実質の所有者とみなされて しまいます。 このような事態を避けるためには、贈与契約書を作り、贈与税の申 告を行い、名義変更後の管理も名義人が行い、利息などの果実も名義人が収受す るなど贈与の実体を作る必要があります。
(b)
相続人に対しての相続開始前3年以内の贈与財産については、相続財産に加算されます。
(2)

非課税財産の購入

(イ)
対策の内容
生前に現預金等により相続税のかからない非課税財産を購入することにより、課 税される相続財産の総額を減少させる方法です。
(ロ)
具体例
墓地、墓石、仏壇、位牌等を生前に現預金等により購入しておきます。
(ハ)
留意点
(a)
墓地、墓石等を相続発生後に相続人が購入しても、相続税の非課税財産とはなりません。
(b)
墓地、墓石等を生前に購入して、その代金が未払であっても、その未払金は債務控除として控除されません。
(3)

特別障害者扶養信託

(イ)
対策の内容
特別障害者扶養信託契約に基づき、その信託の利益を受ける権利(信託受益権) の贈与を受けた場合には、一定の要件のもとにその信託受益権のうち、特別障害者は 6,000 万円まで(特別障害者以外の特定障害者は 3,000 万円、以下同じ)の金額が贈 与税で非課税とされています。
生前に親が、特別障害者である子に、当該制度に基づき信託受益権を贈与すれば、 信託受益権のうち 6,000 万円は非課税となり、相続財産を減らすことができます。 また、将来、親に相続が発生しても、特別障害者である子は受益者として生活資金 の確保が図れるという効果があります。
(ロ)
具体例

この制度を適用することにより、相続財産を 6,000 万円まで無税で生前贈与することができます。
(ハ)
留意点
この特例の適用を受けるには、信託銀行等を経由して 「障害者非課税信託申告書」 を所轄税務署に提出しなければなりません。
(4)

公益法人等への寄付

(イ)
対策の内容
(a)
相続税法上の非課税の特例の活用
一定の要件を満たす公益法人等に財産を贈与又は遺贈をしますと、非課税で相続財産を減少させることができます。 これを図示しますと、次のようになります。
(b)
租税特別措置法の特例の活用
個人が相続又は遺贈により取得した財産を、相続税の申告期限までに国、地方公共団体又は一定の要件を満たす特定の公益法人等に寄付することにより、その 財産をその相続又は遺贈に係る相続税の非課税財産とすることができます。
これを図示しますと、次のようになります。
(ロ)
非課税の要件
(a)
贈与税又は相続税の非課税……上記(イ)(a)のケース
1)
課税のしくみ
イ.
贈与又は遺贈をする個人
非課税の要件を満たさない場合は、キャピタルゲインがあれば、みなし譲 渡所得として、譲渡所得税が課されます。
ロ.
公益法人等
非課税の要件を満たさない場合は、個人とみなされ、贈与税又は相続税が課されます。
2)
要件の内容
イ.
個人の非課税
贈与又は遺贈のあった日から3月以内に、非課税の申請書を国税庁長官に提出し、承認を受けることが必要です。 この承認を受けるための要件は下記 のとおりです。
a.
贈与又は遺贈が、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献、 その他公益の増進に著しく寄与すること。
b.
贈与又は遺贈に係る財産が、贈与又は遺贈があった日以後2年以内に、財 産を受けた公益法人等の公益を目的とする事業の用に供され、又は供される 見込みであること。
c.
公益法人等に対して財産の贈与又は遺贈をすることにより、贈与者若しく は遺贈者の所得に係る所得税の負担を不当に減少させ、又は贈与者若しくは 遺贈者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税若しくは贈 与税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められること。
ロ.
公益法人等の非課税
下記 a.b.の要件を満たす必要があります。
a.
宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者で、一定の要件を 満たすものが贈与又は遺贈により取得した財産で、その公益を目的とする事 業の用に供することが確実なものであることが必要です。 この一定の要件 とは、公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業で、具体的に は下記のあ.い.う.のすべてに該当する事業であることとされています。
あ.
事業の種類
イ)
社会福祉事業法(昭和 26 年法律 45 号)2条(定義)2項各号及び3項各号に掲げる事業
ロ)
更生保護事業法(平成7年法律 86 号)2条1項に掲げる更生保護事業
ハ)
学校教育法(昭和 22 年法律 26 号)1条(学校の範囲)に規定する学校教育又は学校教育に類する教育を行う事業
ニ)
育英事業
ホ)
科学技術に関する知識の普及又は学術の研究に関する事業
ヘ)
図書館若しくは博物館又はこれらに類する施設を設置運営する事業
ト)
宗教の普及その他教化育成に寄与することとなる事業
チ)
保健衛生に関する知識の普及その他公衆衛生に寄与することとなる事業
リ)
政治資金規正法(昭和 23 年法律 194 号)3条(定義等)に規定する目的のために、政党、協会その他の団体の行う事業
ヌ)
公園その他公衆の利用に供される施設を設置運営する事業
リ)
イ)からヌ)までに掲げる事業を直接助成する事業
い.
事業の規模
本事業の内容に応じ、その事業を営む地域又は分野において社会的存在として認識される程度の規模を有しており、かつ、事業を行う十分な施設その他の財産を有していること。
う.
事業の運営
イ)
社事業の遂行により与えられる公益が、それを必要とする者の現在又は 将来における勤務先等により制限されることなく、公益を必要とするすべての者に与えられるなど公益の分配が適正に行われること。
ロ)
公益の対価は、原則として無料であること。
b.
贈与又は遺贈により取得した財産を、取得してから2年を経過する日まで に公益を目的とする事業の用に供すること。
ハ.
公益を目的とする事業を行う者が個人の場合
上記ロ.a.b.の要件の他に、下記の要件を満たすことが必要です。
a.
公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業のみを専念して 行う者。
b.
その者にその財産の贈与又は遺贈をした者又はその者若しくはその贈与 者又は遺贈者の親族その他これらの者と特別の関係のある者に対して、その 事業の施設の利用、余裕金の運用その他その事業に関し特別の利益を与える 事実がないこと。
ニ.
公益を目的とする事業を行う者が、法人格のない社団や財団の場合
上記ロ.a.b.の要件の他に、下記の要件を満たすことが必要です。
a.
公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業のみをその目的 事業として行う者。
b.
下記の事実がないこと。
あ.
その社団等の役員その他の機関の構成、その選任方法その他その社団等 の事業の運営の基礎となる重要事項について、その事業の運営が特定の者 及びその親族その他その特定の者と特別の関係がある者の意思に従ってな されていると認められる事実。
い.
その社団等の機関の地位にある者又は財産の贈与又は遺贈をした者若 しくはこれらの者の親族その他これらの者と特別の関係がある者に対し てその社団等の事業の施設の利用、余裕金の運用、解散した場合の財産の 帰属その他その事業に関し特別の利益を与えること。
(b)
個人の相続税の非課税(租税特別措置法の非課税)……上記(イ)(b)のケース
1)
課税のしくみ
イ.
寄付をする個人
非課税の要件を満たさない場合は、その寄付をした財産に係る相続税は非課税となりません。
ロ.
公益法人等
一定の要件を満たさない場合は、贈与税が課税されます。
2)
要件の内容
イ.
個人の非課税
下記の a.b.c.d.のすべての要件を満たすことが必要です。
a.
相続又は遺贈により取得した財産をその相続に係る相続税の申告期限ま でに国等又は特定の公益法人等に贈与すること。 なお、贈与をする財産は、 相続又は遺贈により取得した財産ですが、その中には生命保険金等などのみ なし相続財産を含み、相続開始前3年以内の贈与財産で相続税法 19 条の規 定により相続税の課税価格に加算される財産を含みません。
b.
贈与により、その贈与をした者又はその親族その他これらの者と特別の関 係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認め られないこと。
c.
贈与の相手方が、国又は地方公共団体及び科学又は教育の振興に寄与する ところが著しい公益法人等として、措置法施行令 40 条の3に例示されてい る法人であること。 このうち、民法 34 条の規定により設立された法人につ いては、適正な運営がなされているものであること等について、主務大臣等 の認定を受け、認定を受けた日の翌日から2年又は5年を経過してないもの であること。
d.
公益法人等が、贈与により取得した財産をその贈与があった日から2年を 経過した日までに公益を目的とする事業の用に供すること。
(参考)
措置法施行令 40 条の3
公益法人等
自動車安全運転センター、理化学研究所、日本原子力研究所、核燃料サイクル開発機構、宇宙開発事業団、海洋科学技術センター、科学技術 振興事業団、環境事業団、国際交流基金、生物系特定産業技術研究推進 機構、放送大学学園、日本学術振興会、日本私立学校振興・共済事業団、 日本育英会、日本体育・学校健康センター、日本芸術文化振興会、医薬 品副作用被害救済・研究振興調査機構及び日本赤十字社
民法 34 条の規定により設立された法人 (次号において 「民法法人」 という。) で次に掲げるもの
財団法人日本体育協会
財団法人貿易研修センター
財団法人長寿社会開発センター
財団法人日本オリンピック委員会
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第51条の2第1項に規定する精神障害者社会復帰促進センター
学術に関する研究を主たる目的とする法人で日本育英会法施行令第9条第2項第6号の指定を受けているもの
民法法人 (前号に掲げるものを除く。) のうち次に掲げるもので当該民法法人の主たる目的である業務に関し、その運営組織及び経理が適正 であると認められること、相当と認められる業績が持続できること、法 第 70 条第1項に規定する贈与に係る財産によりその役員又は使用人が 特別の利益を受けないことその他適正な運営がされているものであるこ とにつき当該法人に係る主務大臣 (大蔵省令で定める法人に係る場合に は、大蔵省令で定める者) の認定を受け、かつ、その認定を受けた日の 翌日から2年 (ハに掲げる法人にあっては、5年) を経過していないも の
科学技術に関する試験研究を主たる目的とする法人
科学技術に関する試験研究を行う者に対する助成金の支給を主たる目的とする法人
科学技術に関する知識及び思想の総合的な普及啓発を主たる目的とする法人
人文科学に関する研究を主たる目的とする法人で、自然科学に関する研究を行う登録学術研究団体を含む複数の登録学術研究団体と連携して研究を行うもの
人文科学の諸領域について、優れた研究を行う者に助成金の支給を行うことを主たる目的とする法人でその業務が全国の区域に及ぶもの
学校教育法第1条に規定する学校(次号において「学校」という。)における教育に対する助成を主たる目的とする法人
学生若しくは生徒に対する学資の支給若しくは貸与又はこれらの者の修学を援助するための寄宿舎の設置運営を主たる目的とする法人
海外の留学生交流の推進を図る団体と連携を図りながら留学生交流 を行うことを主たる目的とする法人でその業務が全国の区域に及ぶもの
青少年に対して健全な社会教育を行うことを主たる目的とする法人でその業務が全国の区域に及ぶもの
芸術の普及向上に関する業務を行うことを主たる目的とする法人
文化財保護法第2条第1項に規定する文化財の保存及び活用に関する業務を行うことを主たる目的とする法人
図書館法第2条第1項に規定する図書館の設置運営を主たる目的とする法人
博物館法第 2 条第 1 項に規定する博物館 (カにおいて 「博物館」 という。) の設置運営を主たる目的とする法人
博物館の振興に関する業務を行うことを主たる目的とする法人でその業務が全国の区域に及ぶもの
開発途上にある海外の地域に対する経済協力、技術協力を主たる目 的とする法人
海外における我が国についての理解の増進を図るため、我が国の政 治、経済、文化その他の我が国の事情の紹介その他の業務 (レにおい て 「海外における我が国についての理解の増進を図る業務」 という。) を行うことを主たる目的とする法人
貧困者の訴訟援助を主たる目的とする法人でその業務が全国の区域 に及ぶもの
自然環境の保全のため野生動植物の保護繁殖に関する業務を行うこ とを主たる目的とする法人で当該業務に関し国又は地方公共団体の委 託を受けているもの
すぐれた自然環境の保全のためその自然環境の保存及び活用に関す る業務を行うことを主たる目的とする法人
国土の緑化事業の推進を主たる目的とする法人
犯罪の予防のための活動の一環として覚せい剤その他の薬物の濫用の防止に関する業務並びに青少年の非行の防止及び健全な育成に関す る業務を行うことを主たる目的とする法人でその業務が全国の区域に 及ぶもの
暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第31条第2項第1 号から第9号までに掲げる事業を主たる目的とする法人で同条第1項 の規定による指定を受けているもの又は同法第 32 条第2項第1号から 第4号までに掲げる事業を主たる目的とする法人で同条第1項の規定 による指定を受けているもの
本邦への帰国を希望する中国残留邦人の円滑な帰国の促進を図る業 務で国の支援を受けて行うもの及び当該中国残留邦人の帰国後の生活 の安定を図るための業務を行うことを主たる目的とする法人でその業 務が全国の区域に及ぶもの
レクリエーション活動の総合的な普及振興及びレクリエーション活 動を行う他の団体に対する支援を主たる目的とする法人でその業務が 全国の区域に及ぶもの
イからヰまでに規定する業務のうち2以上の業務を一体のものとし て行うことを主たる目的とする法人 (当該2以上の業務にホ,チ,リ, カ,ソ又はラからヰまでに規定する業務を含む場合には、その業務が 全国の区域に及ぶものに限る。)
私立学校法第3条に規定する学校法人で学校の設置若しくは学校及び 専修学校の設置を主たる目的とするもの又は私立学校法第 64 条第4項 の規定により設立された法人で専修学校の設置を主たる目的とするもの
社会福祉法人
更生保護法人
ロ.
寄付を受けた公益法人等の非課税
公益法人等に対して財産を寄付 (贈与) したことにより、その寄付者 (贈与 者) の親族その他寄付者 (贈与者) と特別の関係がある者の贈与税の負担が 不当に減少する結果と認められるときのみ、その公益法人等は個人とみなされ て、贈与税が課されます。
(5)

生命保険の活用

(イ)
対策の内容
生命保険金等の非課税限度額の活用
被相続人の死亡により、相続人 (相続を放棄した者及び相続権を失った者を除く) の取得した生命保険契約の保険金等については、次の 1)又は 2)に掲げる場 合の区分に応じ、それぞれに定める金額が相続税の非課税財産となります。
1)
「相続人全員の取得した保険金の合計額」 ≦ 「500 万円×法定相続人の数」 の場合
各相続人が取得した保険金の全額が非課税となります。
2)
「相続人全員の取得した保険金の合計額」 > 「500 万円×法定相続人の数」の場合
各相続人が取得した保険金の全額が非課税となります。

このように、相続税では取得した生命保険金等のうち 「500万円×法定相続人 の数」 までの金額については非課税財産として扱われます。
(ロ)
具体例
生命保険金等の非課税
1)
相続人
配偶者、子A、子B
2)
生命保険契約A
3)
生命保険契約B
4)
被相続人死亡時に受け取った保険金についての課税