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非上場株

相続税軽減マニュアル

第3

相続財産別の相続税の軽減方法

集合写真
3

非上場株

(1)

非上場会社株式の相続税法上の評価方法について

(イ)
原則的評価方式と配当還元方式
非上場株式の株価評価方法は、(a)原則的評価方式と、(b)配当還元方式の2つの方法があります。 このうちいずれの方法によるかは、株式を相続又は贈与により取 得した者のその取得後の議決権割合などに応じて決まります。 その取得後の議決権 割合と評価方法の関係は次のとおりとなります。

(注1)
「同族株主」とは、株主の1人及びその同族関係者の議決権割合の合計が 50%超となる場合におけるその株主グループ (50%超のグループがない場 合は 30%以上の株主グループ) をいいます。
なお、「同族関係者」 とは、法人税法施行令4条 (同族関係者の範囲) に 規定する者をいい、親族 (配偶者、6親等内の血族又は3親等内の姻族)や関係法人 (その株主等の持株割合が 50%超の法人) 等がこれに含まれます。
(注2)
「中心的な同族株主」 とは、同族株主の1人及びその配偶者、直系血族、兄弟姉妹、1親等の姻族 (これらの者の関係法人を含みます) の、議決権割合の合計が 25%以上となる場合におけるその株主をいいます。
(注3)
「中心的な株主」とは、株主の1人及びその同族関係者の議決権割合の合 計が 15%以上である株主グループのうち、いずれかのグループに単独で 10%以上の議決権を有している株主がいる場合におけるその株主をいいます。
(ロ)
原則的評価方式のうちの適用される評価方式の判定
株式取得後の持株割合に応じた評価方法が原則的評価方法となった場合には、まず次のフローチャートにより、適用される評価方式を決定します。
(a)
清算中の会社に該当するかどうかの判定
課税時期において、清算手続に入っている会社が該当します。
(b)
開業前又は休業中の会社に該当するかどうかの判定
開業前の会社
その会社が目的とする事業活動を開始する前の場合が該当します。
休業中の会社
課税時期において相当長期間にわたって休業中である会社が該当します。
(c)
開業後3年未満の会社等に該当するかどうかの判定
1)開業後3年未満の会社
2)類似業種比準要素のうち3要素ゼロの会社
の2つがあります。
1)
開業後3年未満の会社
開業後3年未満の会社の場合には、その会社が大会社、中会社、小会社のい ずれであろうとも、すべて純資産価額で評価しなければなりません。
設立後3年未満ではなく、開業後3年未満ということになっていますので、 設立は古くても、会社の本来の売上げがほとんどなく、預金や有価証券の運用 益だけの会社などは税務当局から開業していない状態だと判定される可能性が あります。
2)
類似業種比準要素のうち3要素ゼロの会社
類似業種比準価額算出の3つの要素である、評価会社の1株当たりの配当金額、1株当たりの年利益金額、1株当たりの簿価純資産価額のいずれもゼロの 場合、類似業種比準価額は使うことができず、純資産価額で評価することにな ります。
なお、上記比準要素のうち配当については、2期間の平均値を取ることにな っていますので、前期、前々期の配当がゼロであっても前々々期の配当があれ ば、結局2期間の配当はプラスになります。 従って、過去3期間の配当がいず れもゼロの場合に1株当たりの配当要素ゼロとなります。 同じように、1株当 たりの年利益金額も、原則は直前期末の利益によることになっていますが、直前期末と直前々期末の2年間の平均額を取ってもよいことになっていますので、 直前々期末の利益がゼロの場合、そのもう一年前の期に利益があれば、平均額 を出してプラスとすることができます。 したがって、過去3期間とも利益が赤 字の場合にゼロとなるということになります。
(d)
土地保有特定会社に該当するかどうかの判定
土地保有特定会社に該当するかどうかの判定は次頁の表のとおりです。

この判定にあたっての留意事項は次のとおりです。
イ.
大会社、中会社、小会社の判定は(ハ)(b)非上場会社株式の相続税上の評価方法を参照して下さい。
ロ.
分母・分子の金額は相続税評価額によります。
ハ.
課税時期前において合理的理由もなく評価会社の資産構成に変動があり、その変動が土地保有特定会社と判定されることを免れるためのものと認められるときには、その変動がなかったものとして上記の判定をします。
ニ.
土地等の保有割合を判定する場合における 「総資産価額 (相続税評価額に よる)」 及び分子の 「土地等の価額 (相続税評価額による)」 の計算に当たって、3年以内取得不動産は、購入金額から減価償却費相当分を差引いた金額で 評価します。 株式の 1 株当たりの純資産価額の計算に当たっての 「法人税額 等相当額の控除の不適用」 が適用されます。
ホ.保有する取引相場のない株式の1株当たりの純資産価額の計算に当たって は、「法人税額等相当額の控除の不適用」 が適用されます。
(e)
株式保有特定会社に該当するかどうかの判定
株式保有特定会社に該当するかどうかの判定及び評価方法は以下のとおりです。
1)
株式保有特定会社に該当するかどうかの判定
株式保有特定会社に該当するかどうかの判定は次頁の表のとおりです。

この判定に当たっての留意事項は次のとおりです。
イ.
大会社、中会社、小会社の判定は(ハ)(b)を参照して下さい。
ロ.
分母・分子の金額は相続税評価額によります。
ハ.
課税時期前において合理的な理由もなく評価会社の資産構成に変動があり、その変動が株式保有特定会社と判定されることを免れるためのものと認められるときは、その変動がなかったものとして上記の判定をします。
ニ.
株式等の保有割合を判定する場合における 「総資産価額 (相続税評価額 によって計算した金額)」 の計算に当たって、3年以内取得不動産は、購入 金額から減価償却費相当分を差引いた金額で評価します。
ホ.
株式等の保有割合を判定する場合における 「株式等の価額の合計額 (相 続税価額によって計算した金額)」 については、その株式等の発行会社を評 価会社とみなして会社の規模等に応じて財産評価基本通達に従って評価した金額によりますから、その株式の評価上の区分、発行会社の規模等及び特定の評価会社に該当するかどうかにより、その評価方法が違ってきます。
(ハ)
原則的評価方式
(ロ)による会社の判定で、原則的評価方式と判定されますと、次にその評価する会 社の規模を判定いたします。 その会社の規模に応じて原則的評価方法は1類似業種 比準方式、2純資産価額方式、31と2併用方式の3つの評価方式に分類されます。 会社の規模とこれら3つの評価方式の関係は、会社の規模により、次の表のとおりです。
(a)
会社の規模による評価方法
(b)
会社の規模の判定と、中会社の L の判定
◯会社の規模の判定と L の数値の表
従業員数が 100 人以上の会社は、大会社となります。
従業員数が 100 人未満の会社は、それぞれ次によります。
1)
卸売業の場合、取引金額、総資産価額、従業員数で判定しますが、該当する もののいずれか上位で判定します。
2)
卸業以外の業種の場合
(c)
純資産価額の評価方式
純資産価額の計算は以下のとおりとなっています。
(注 1)
同族株主等の持株割合が 50%未満の場合には、この価額の 80%を評価額と します
(注 2)
課税時期現在で仮決算して求めるのが原則です。
繰延資産など財産性のないものは除きます。
(注 3)
加えるもの
確定した前期分の法人税、事業税等
前期分の配当金
未納の固定資産税
差し引くもの
課税時期後に支給される死亡退職金
準備金及び引当金
(退職給与引当金以外のもの)
(d)
類似業種比準価額の評価方式
1)
類似業種比準価額の計算について
類似業種比準価額は、事業内容が類似する複数の上場会社からなる類似業種の平均株価に比準して計算した金額であり、具体的な計算方法は次によります。

上記試算中(C)の金額が 0 の場合は、分母の 5 は 3 として計算します。
[符号の説明]
A・・・・
課税時期の属する月以前 3 ヶ月間の各月の類似業種の平均株価及び前年 1 年間の同平均株価のうち最も低いもの
B・・・・
課税時期の属する年分の類似業種の 1 株当たりの配当金額
C・・・・
課税時期の属する年分の類似業種の 1 株当たりの年利益金額
C・・・・
課税時期の属する年分の類似業種の 1 株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)
(B)・・・
評価会社の直前期末における 1 株当たりの配当金額
(C)・・・
評価会社の直前期末 1 年間(又は 2 年間の年平均)における 1 株当たりの年利益金額
(D)・・・
評価会社の直前期末における 1 株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)
なお、この場合に評価会社の 1 株当たりの資本金の額(直前期末の資本金額 を直前期末の発行済株式数で除した額)が 50 円以外の金額であるときには、上 記算式により計算した価額を次のように修正することとなります。
2)
1 株当たりの配当金額
評価会社の 1 株当たりの配当金額の計算は以下のとおりです。
直前期末以前 2 年間のその会社の利益の配当金額(特別配当、記念配当等の名称による配当で、将来毎期継続することが予想できない金額を除きます。)の合計額の 2 分の 1 に相当する金額を、直前期末における 50 円換算発行済株式数(直前期末の資本金額を 50 円で除して計算した数をいいます。以下(C)、(D)において同じ。)で除して計算した金額とします。
3)
1 株当たりの年利益金額
評価会社の 1 株当たりの利益金額の計算は以下のとおりです。
法人税の課税所得金額(固定資産売却益、保険差益等の非経常的な利益の金額を除きます。)に、その所得の計算上益金に算入されなかった利益の配当等の金 額(法人税額から控除された配当等の源泉所得税額に相当する金額を除きま す。)及び損金に算入された繰越欠損金の控除額を加算した金額を、直前期末に おける 50 円換算発行済株式数で除して計算した金額とします(その金額が欠損 のときは、0 とします。)この金額は直前期末以前 1 年間について求めた金額と 直前期末以前 2 年間について求めた金額の 2 分の 1 相当額とのうちいずれか納 税者の選択した金額によります。
4)
1 株当たりの純資産価額
評価会社の 1 株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)の計算は以下のとおりです。
直前期末の資本金額(払込否認の金額がある場合には、その金額を控除した資本金額)、法人税法 2 条《定義》17 号に規定する資本積立金額及び同条 18 号に 規定する利益積立金額(法人税申告書別表五(一)「利益積立金額の計算に関する 明細書」の差引翌期首現在利益積立金額の差引合計額)の合計額を、直前期末に おける 50 円換算発行済株式数で除して計算した金額とします。
(注)
利益積立金額がマイナスである場合には、資本金額と資本積立金との合計 額からそのマイナス金額を控除した金額が純資産価額となりますが、その控 除後の金額が、なおマイナスになるときは 0 とします。
(ニ)
配当還元方式
取得後の持株割合に応じた評価方法が配当還元法となった場合には、配当還元価額として評価し、次の<算式>により計算する。
<算式>

この<算式>における年配当金額は次のとおりに計算します。

=年配当金額(この金額が 2 円 50 銭未満となる場合及び無配の場合には 2 円 50 銭)
(注1)
配当金額の計算上、特別配当は除きます。
(注2)
配当還元価額が(ハ)の原則的評価方式により計算した金額を超える場 合には、原則的評価方式により計算した金額が評価額となります。
(ホ)
特別な評価方法
(a)
株式保有特定会社に該当する場合の評価方法
純資産価額方式か又は「S1+S2 方式」(国税当局では簡易評価方法と呼んでい ます。)のいずれかを選択します。
1)
純資産価額方式・・・(ハ)・(c)を参照して下さい。
2)
「S1+S2 方式」(簡易評価方法)
株式保有特定会社の評価上、選択的適用が認められる簡易評価方法は以下 のとおりです。
評価の概要
簡易評価方法は、株式等とその他の財産に区分して、株式等は株式等だけ で評価(S2)し、その他の財産はその他の財産だけで評価(S1)して、両者を 合計する方式。
(計算方法)
イ.
S1(株式等及び受取配当金を除いて計算した場合の原則的評価方法によ る評価額)
a.
評価方法
会社の規模により分類されるそれぞれの原則的評価方法において、株式等と受取配当金だけを除いて原則的評価方法を適用して算出する方法。
b.
評価上の留意点
あ.
S1 算出のための類似業種比準価額の算式
(ハ)(d)で説明した類似業種比準価額の算式のうち、(B)(1 株当りの配当金額)と(C)(1 株当りの利益金額)については、受取配当金収入に相当す る部分を差引き、(D)(1 株当りの簿価純資産価額)については簿価純資産 価額のうち株式等に相当する部分と、利益積立金のうち受取配当金に相当 する部分の合計額を差引いたものにより計算します。

(b)=(B)×受取配当金収受割合(*)
(c)=(C)×受取配当金収受割合
い.
S1 算出のための 1 株当り純資産価額の計算

なお、S1 算出のための 1 株当りの純資産価額においては、同族株主等の持株 割合が 50%未満でも、80%評価を適用しません。
ロ.
S2(株式及び出資の相続税評価額)
a.
評価方法
株式等の相続税評価額から評価差額の 42%を引いた金額を発行済株式数 で除した金額
b.
S2 の算式

なお、株式等に取引相場のない株式が含まれており、当該株式を純資産価 額により評価する場合には、評価差額に対する法人税等相当額を控除しない で計算した純資産価額の金額を「株式等の相続税評価額」とします。
(2)

株価引下げ

非上場会社の株価は、原則として、純資産価額方式と類似業種比準方式の組み合せによって決まりますが、その会社の収益の状況、財産の状況が良好であればあるほど高株 価になりますので、株式を次の世代に売買、贈与又は相続で移転して事業承継を行う場 合、同族関係者に、多額の譲渡税、贈与税、相続税の負担が発生します。 また、非上場 会社株式は、通常外部の第三者に売却することができないため、同族関係者の内で多額 の資金調達を行うことが必要となります。 このような厳しい状況におかれている株式移 転を円滑に行うためには、株価引下げ対策を行い、引下げ後の株価で、移転を行うこと が大切です。
株価引下げは、非上場会社株式評価の計算方式を活用し、有利な評価方式が適用され るための諸条件の整備や、計算上の諸要素の引下げにより実現します。
具体的には、

があります。
(イ)
低い評価方式を適用するための対策
非上場株式の評価は、評価時点での諸条件によって、3、(1)で説明したように評 価方式が決められます。 この諸要件を変化させることによって、より低い評価方式 を適用させることも可能となります。
(a)
純資産価額評価の高い会社で類似業種比準価額の評価の比率を高める
非上場株式の場合、類似業種比準価額のほうが、純資産価額よりも低いケース が多く、類似業種比準価額の併用比率を高めることによって評価を引下げることができます。 類似業種比準価額の比率を高めるためには、下記の三つの要素を大きくすることが必要です。
1)年 商
2)従業員数
3)資産規模
それぞれの要素について大きくするための方法を以下に説明します。
1)
年商を大きくする
年商は、直前期末以前1年間における取引金額をいい、その金額はその期間における会社の目的とする事業に係る収入金額とされています。 年商を大きくする方法としては、以下の方法があります。
イ.
公益法人等
事業規模の拡大、新市場の獲得、新規事業の参入の方法として、M&Aによる吸収合併や他社からの事業譲渡が一般的になりつつあります。 本来の会社 の事業展開のニーズと一致すれば、株価引下げにも大きく貢献しますので、非 常に有効な方法です。
ロ.
親会社などの管理部門、財務部門、仕入部門などの業務を事業として独立さ せ、持株会社の収益として計上する
持株会社に代表者、創業者の株式を移転している場合は、殆どの会社で事 業規模が小さくて、しかも、株式保有特定会社になっているケースが多く、純 資産価額のでの評価になっています。
類似業種比準価額が使えて、さらに、類似業種比準価額の併用割合を高め るためには、親会社などの持つ管理部門、財務部門、仕入部門などを移転させ、 売上を高めてやることが有効です。 株式保有特定会社から離脱させるために は、有価証券以外の資産の割合を増加させる手法と一緒に実行する必要があ ります。
ハ.
分社化しているケースでの対策
過去に分社化したことにより、会社の年商が低下して類似業種比準価額が使えないか、使えても低い併用割合の場合は、分社化したものを再度合併させて、年商規模を大きくすることが有効です。
2)
従業員数を多くする
従業員数は、直前期末以前 1 年間においてその期間継続して評価会社に勤務 していた就業規則等で定められた1週間当たりの労働時間が 30 時間以上の継 続勤務従業員の数に、直前期末以前1年間において評価会社に勤務していた継 続勤務従業員を除く従業員のその 1 年間における労働時間の合計時間数を、従 業員1人当たりの年間平均労働時間数 (1,800時間とされます。) で除して求 めた数を加算した数をいいます。
なお、上記の従業員には、社長、理事長並びに使用人兼務役員とされない役 員 (副社長、代表取締役、専務取締役、専務理事、常務取締役、常務理事、清 算人その他これらの者に準ずる役員、監査役及び監事) は含まれません。 執行 役員は、商法上の取締役ではなく、従業員として扱われます。
従業員数を大きくする方法としては、年商を大きくする方法と同じです。
3)
資産規模を大きくする
会社の規模を判定する場合の資産の規模は、帳簿価額によって計算した総資 産価額によります。
総資産価額の計算方式は、以下のようになっています。
帳簿価額によって計算した総資産価額とは、課税時期の直前に終了した決算 期のその会社の帳簿価額による総資産価額をいいます。 この場合、その会社が 固定資産の減価償却額の計算を間接法によって行っているときは、減価償却累 計額を控除したものになります。 また売掛金等に対する貸倒引当金は、総資産 価額の計算上は控除しません。
この総資産価額を大きくする方法としては、年商を大きくする方法と同じ方 法のほか、借入をして資産を購入する、などがあります。 借入金により資産を 購入する場合、本来の事業に関する投資の場合と、例えば収益不動産の購入な どの場合があります。
特に、賃貸マンションなどの収益不動産を購入する場合は、その収益不動産 の立地、企画、建築のグレード、賃料水準などを良く検討し、高収益かつ安定 収益の物件を購入しなければなりません。 国内で借入の余裕がない場合、債務 付きの海外不動産を購入する方法が考えられます。
なお、借入金をそのまま預金にしておくというような形での総資産価額の増 加は認められませんので、注意が必要です。
(b)
株式保有特定会社としての評価をはずす
株式保有特定会社に該当しますと、純資産価額方式か又は 「S1+S2」 (簡易評価法) で評価することになり、通常原則的な評価方法よりも高い評価となります。 この評価方法からのがれる方法は以下のとおりです。
1)
所有株式・出資を売却して、他の資産に変換する
所有株式・出資を売却して現預金にしたり、他の資産への投資をした場合、総資産における有価証券の保有割合が下がり、株式保有特定会社から離脱する ことが可能です。
所有株式・出資を売却する場合は、買受人の資力の問題、譲渡法人税等の問 題があり、法人の繰越欠損金や他の資産の譲渡損を利用するなどの工夫が必要 です。
2)
所有株式を信託受益権に変換する
法人が所有する有価証券を受託者に信託することにより、有価証券は法人の資産の上では信託受益権となります。 このため、有価証券の保有割合は引下げ られますので、株式保有特定会社から離脱することができます。 信託設定は名 義人の変更のみで、実質所有権は依然として法人のため、譲渡等の税金は発生 しません。
3)
株式以外の資産を増加させるための方法
イ.
借入金による不動産の購入
借入金により不動産を購入することにより、会社の総資産に占める不動産 の割合が増加し、相対的に有価証券の占める割合が低下して、株式保有特定会 社から離脱することができます。 海外の不動産の場合は、購入時点で借入金 がセットされたものが多いので、国内での少ない借入で大きな規模の不動産を購入でき、株式保有特定会社からの離脱に有効な手段となることがあります。
なお、海外不動産も含めて不動産の購入は、立地や物件の質、賃料相場等を 厳しく分析し、優秀で安定高収益の物件を選ぶことが大切です。
ロ.
レバリッジドリースの活用
レバリッジドリースは多数の投資家を集め、匿名組合を作り、さらに、投資額の数倍から 10 倍の借入をして、投資直後のマイナス所得をてこの原理を使 って、極端に大きくする手法です。
借入金はレバリッジドリースの設定の中で既に組み込まれていますので、 資金調達の問題はありませんし、借入金で資産を購入することになりますの で、会社の総資産に占める有価証券以外の資産の割合が増加し、相対的に有価 証券の占める割合が低下して株式保有特定会社から離脱することができます。
ハ.
全期前納保険の活用
借入金により、生命保険契約のうち全期前納保険を掛けると、掛金は資産計上されるので、会社の総資産に占める有価証券以外の資産の割合が増加し、 相対的に有価証券の占める割合が低下して、株式保有特定会社から離脱する ことができます。
(c)
土地保有特定会社としての評価をはずす
土地保有特定会社に該当しますと、純資産価額方式のみで評価することになります。 この評価方法からのがれて、類似業種比準価額方式との併用による評価を受ける為の方法としては、下記のものがあります。
1)
土地の現物出資により子会社を設立することで土地の保有割合を減らす。
法人の所有する土地を現物出資することにより、子会社を設立すると、法人 の貸借対照表上で土地がなくなって、子会社の株式が計上されることになりま す。 このことにより、法人の総資産に占める土地等の保有割合が下って、土地 保有特定会社から離脱することができます。
2)
遊休土地の活用による建物建築を行う。
遊休土地上に借入金で建物を建築することにより、建物の投資額は土地以外 の資産として会社の総資産に計上されるため、法人の総資産に占める土地等の 保有割合が下って、土地保有特定会社から離脱することができます。 また、建 築する建物が賃貸物件の場合、遊休地の評価が更地評価から貸家建付地になり 減額されますので、さらに土地等の保有割合が下がることになります。
3)
建物の比率の大きい不動産の購入を行う。
借入金により土地建物一体の不動産を購入した場合、建物の比率が大きい時は、会社の総資産に占める土地等の保有割合が相対的に下がるため、土地保有 特定会社から離脱できます。
4)
土地の売却と買換資産の購入を行う。
法人の所有する土地を売却し、他の資産を購入します。 この場合に、特定資産の買換えの圧縮記帳の特例 (租税特別措置法65条の7) を活用し、譲渡益 に対する課税を最大 80%圧縮することできます。 買換の実行により、土地が 他の資産に代わるため、会社の総資産に占める土地等の割合が相対的に下がり、 土地保有特定会社から離脱することができます。
5)
所有不動産を貸家建付地、貸地評価が適用される状況にする。
所有不動産を賃貸の用に供することにより、土地を貸家建付地にしたり、自 用地を第三者に建物建築を目的として賃貸することにより、借地権の設定をし たりすることにより、土地の評価を下げて、総資産に占める土地等の保有割合が下がって、土地保有特定会社から離脱することができます。
(ロ)
類似業種比準価額の引下げ対策
類似業種比準価額の評価の三要素である1株当りの配当金額、1株当りの年利益 金額、1株当りの帳簿価額による純資産価額を抑えることができれば、類似業種比 準方式によって算定される株価を引下げすることが可能となります。 又、比準対象 業種を変更し、株価が低く算定される業種に転換する方法も考えられます。
三要素の引下げと比準対象業種の転換の方法は以下のとおりです。
(a)
一株当りの配当金額の引下げ方法
一株当りの配当金額を下げるには、次の 2 つの方法があります。
1)
配当率を下げる
一株当りの配当金額を下げることにより、類似業種比準価額の1つの要素が下がりますので、株価が下がることになります。 同族会社の場合、配当率はオーナーその他関係者の意図により相当程度自由 に決めることができるのが通例ですから、配当率を調整して株価引下げを行う ことは可能といえます。
2)
特別配当を活用する
類似業種比準価額の計算上、特別配当は一株当りの配当金額に算入しなくても良いことになっておりますので、特別配当を活用することも有効です。
(b)
一株当りの利益の引下げ方法
1株当りの利益金額を下げるには、次の方法があります。
1)
法人税の合法的な節税をきちんと行う。
1株当りの利益金額を下げるためには、法人税法上の規則を十分理解し、税 法上認められている方法のうち、最も有利な方法を選んで損金を計上し、利益 を下げることが有効です。
例えば、

などがあります。
2)
事業譲渡による利益の分散
会社の多くの部門のうち1部分を別会社を作って事業譲渡することにより、 会社の利益が減少するため類似業種比準価額が下がることとなります。
3)
役員報酬額の引上げと役員退職金の計上
会社の役員報酬を引上げることにより、会社の利益を引下げることができま す。 また、オーナーの引退や、相談役などへの役職変更の時に退職一時金を出 し、その一時金を損金計上することにより、会社の利益を下げることができま す。 会社の利益が下がることにより、類似業種比準価額が下がることとなりま す。
4)
役員の生命保険
会社がかける養老保険の場合、死亡退職金の受取人を被保険者の遺族とし、生存保険金の受取人を会社とした場合は、支払保険料のうち2分の1は資産に 計上し、残額は給与又は損金となるため、支払保険料のうち2分の1は利益を 減少させる効果があります (法人税法基本通達 9-3-4) 。
また、会社がかける定期保険の場合、死亡保険金の受取人が会社の場合は、 対象者が役員だけであっても損金となります。
また、使用人も含めて死亡保険金の受取人を被保険者の家族とした場合には、 保険料のすべてを損金に計上することができます (法人税法基本通達 9-3- 5)。
従って、役員の生命保険料の全部又は一部が損金になることによって利益が 減少し、類似業種比準価額が下がることになります。
5)
レバリッジドリース等を活用し、一時的に巨額の損失を作る
会社がレバリッジドリース対象物件を購入することにより、大幅な減価償却 費と借入金利により一時的に巨額の損金を計上できるため、利益を下げることもできます。 なお、レバリッジドリースの効果は一時的なものですから、株価が下がった時点で、贈与又は売買により後継者に株式を移転することが必要です。
6)
含み損のはき出し
会社の所有する資産のうちで、購入価額に比べ現在の時価が著しく下落して いるものがある場合、その資産を第三者又は、関連会社等に時価で売却し、含 み損を現実の損金とすることにより、利益を下げることができます。 例えば、 含み損を抱えたゴルフ会員権や土地などがそれに該当します。
7)
海外不動産投資
海外の不動産の場合、既に耐用年数の殆ど全部を経過しながら、まだ十分今 後収益を生んでくれる資産価値の高いものがあります。 この場合、日本の税法 の償却費計上の規則によれば、耐用年数の短縮により多額の償却費を計上する ことが可能で、利益を大幅に下げることができます。
(c)
一株当りの純資産の引下げ方法
1株当りの簿価による純資産価額を下げるには、次の方法があります。
1)
会社を分割する
会社が新たに法人を金銭の出資により設立し、その所有する金銭以外の資産 を、その新たに設立された法人に対してその設立後に譲渡した場合において、 会社が新たに設立した法人の資本の全額を拠出しており、設立後遅滞なく資産 を譲渡して、新設された法人がその資産を時価以下の金額で受け入れて帳簿価 額とした場合は、特定出資による有価証券の圧縮記帳の特例により、譲渡益に 対する課税が繰延べられます (法人税法51条1項、法人税法基本通達10-7 -1)。
この制度を利用し、会社の資産を新設した法人に移転することにより、利益 の分散、資産分離による年利益と純資産の引下げができます。
2)
会社を合併する
会社が、別の土地等を所有する会社 (被合併会社) を吸収合併する場合で、被合併会社を相続税評価額で評価した結果、純資産価額がマイナスになるとき は、純資産価額のマイナス分により純資産価額を引下げる効果が期待できます。
また、解散する会社の株主に新株を発行することにより、発行済株式総数が 増えて、1株当りの純資産価額が下がることになります。
3)
一時的に巨額の損失を作る
1株当りの利益を引下げる対策に記載したのと同じ巨額の損失は、簿価による資産の縮減又は債務の計上を引き起こすので、簿価純資産の金額が下がりま す。
4)
含み損のはき出し
1株当りの利益を引下げる対策に記載したものと同じ含み損を抱えていた資産が、時価で処分されることにより、簿価純資産の金額が下がります。
(d)
比準対象業種の変更方法
類似業種比準方式は、それぞれの評価会社がどの業種にあてはまる (又は最も類似している) かということをまず判定し、比準対象となる3要素を比較してい きますが、業種によってその3要素は大幅に変動しますので、売上割合を転換す ることによって、より株価が低く算定される業種に転換して、株価引下げを達成 することができます。
この売上割合の転換のためには、下記の方法があります。
1)
事業譲渡を受ける
会社の現在の業種と異なる事業の事業譲渡を受けることにより、類似業種の適用業種を変化させることができます。
2)
営業の一部を別会社に切り離す
会社の現在の事業の中で、高株価を招いている部門を別会社に事業譲渡する ことにより、残った事業形態で新たに類似業種の適用業種を判定すれば、異な った業種に属することになって株価が下がる可能性があります。
3)
M&Aで吸収合併する
会社の現在の業種と異なる事業を行っている会社をM&Aで吸収合併することにより、類似業種の適用業種を変化させることができます。
(ハ)
純資産価額の引下げ対策
(a)
借入金による不動産の取得
1)
対策の内容
借入金により不動産を取得し、不動産取得後3年以上経過すれば、法人の所 有する土地建物は相続税評価額で計上され、簿価との乖離が生じ、株式の純資 産価額方式による評価額が下がることになります。
この手法は、純資産価額引下げの手法ですが、もし、当該会社が株式保有特 定会社であれば、株式保有特定会社からの離脱、土地保有特定会社であれば、借入金で建物を購入することにより、土地保有特定会社から離脱する効果もあ ります。
1)
具体例
イ.
現 状
ロ.
対策案
借入金5億円で、賃貸用不動産を購入する。 土地建物の割合は4:6とする。
賃貸用不動産の相続税上の評価額
ハ.
対策実行3年経過後
3)
留意点
イ.
借入金による購入不動産は、賃貸物件の場合、安定して高収益を生み出して くれる物件を選択する必要があります。
ロ.
購入規模が適正であることも必要です。
ハ.
増資による自己資本により資金調達を行い、借入金を圧縮して実行しても 効果は同一です。
(b)
遊休地での賃貸用建物の建築
1)
対策の内容
法人の所有している遊休地に、借入金で賃貸物件を建築した場合、不動産取 得後3年以上経過すれば、相続税評価額で計上され、簿価との乖離が生じ、株 式の純資産価額方式による評価額が下がることになります。
この手法は、純資産価額引下げの手法ですが、もし当該会社が株式保有特 定会社であれば、株式保有特定会社からの離脱、土地保有特定会社であれば、 借入金で建物を建築することにより、土地保有特定会社から離脱する効果もあ ります。
2)
具体例
イ.
現 状
ロ.
対策案
借入金4億円で、賃貸用不動産を建築する。
賃貸用不動産の相続税上の評価額
ハ.
対策実行3年経過後

3)
留意点
イ.
借入金による建築物件は、賃貸物件の場合、立地・市場等に合致し、安定し て高収益を生み出してくれるものを建築する必要があります。
ロ.
購入規模が適正であることも必要です。
ハ.
増資による自己資本により、資金調達を行い、借入金を圧縮して実行しても 効果は同一です。
(c)
貸地貸家の売却と賃貸用不動産の購入
1)
対策の内容
法人が所有する古くからの低収益の貸地・貸家を売却し、その売却資金で新 たに賃貸用不動産を購入します。低収益の不動産が高収益不動産にかわるため に、収益性が格段と向上するとともに、購入後3年以上経過すれば、土地、建 物は相続税評価額で計上され、簿価との乖離が生じ、株式の純資産価額方式に よる評価額が下がることになります。
また、売却時に譲渡益に対する法人税等が課税されますが、特定資産の買換 制度を適用することにより、譲渡益を最大 80%圧縮して、課税の繰延べを受け ることができますので、売却資金のほとんどを新規不動産に投入できます。
2)
具体例
イ.
現 状

ロ.
対策案
a.
前提条件
法人所有の貸地を売却して、買換物件として賃貸用不動産を購入します。
土地と建物の割合は4:6
b.
売却買換の資金収支
c.
賃貸用不動産の相続税上の評価額
ハ.
対策実行3年経過後
3)
留意点
イ.
買換物件として安定して高収益を生み出してくれる物件を選択する必要があります。
ロ.
既成市街地等内にある 5 年超所有土地等を売却し、既成市街地等外にある土地等に買換えた場合には、一律に譲渡益の 80%の課税の繰り延べができます。
(d)
役員退職金のタイムリーな支給
1)
対策の内容
会社の純資産価額引下げのため、一時的に大きな損金を作り貸借対照表上の純資産の金額を下げる対策も有効です。一時的に大きな損金を作る一つの方法 として、役員退職金があります。世代交代で代表取締役の交代の時などに、役 員退職金を相当金額出して、純資産価額を引下げ、後継者に株式をできるだけ 低い価額で多く移転するという一連の手法は、事業承継の手法として有効です。
役員退職金は、創業者オーナー社長の場合、ご本人の意思で決めることがで きますが、税務上は、幾つかの注意すべき点があります。
2)
具体例
イ.
現 状
ロ.
対策案
役員退職金1億円、借入金にて支払い。
ハ.
対策実行3年経過後
3)
留意点
イ.
役員退職金規定等を整備し、退職金支給額が過大役員退職金として否認されないようにします。
ロ.
株主総会の決議と支給の時期及び経理処理を注意すること。 例えば株主総会の決議後、支給時に仮払い経理をして、その後の事業年度で損金に振り替えても、損金算入されません。
ハ.
相当期間内に実際に支給することが必要であり、そのための資金手当てが必要となります。
(e)
会社の分割
1)
対策の内容
会社が高収益をあげている場合、会社の純資産額に必ず反映し、高株価をもたらします。後継者が別に会社を設立しその新設会社にオーナーの会社の高収 益部門を事業譲渡することにより、以後の株価の上昇を抑制することができま す。 その事業譲渡により、オーナーの会社が損失を計上するようになれば、蓄 積した余剰金を食いつぶし、株価が下がってゆくことになります。
事業譲渡を実行する場合、法律税務両面で多くの問題があり、それらを総合 的にクリアーしていかなければなりません。
2)
分割の方法
会社の分割は、重要な事業の譲渡を行い、高収益部門を新会社に移管することで、収益源をたち、徐々に純資産価額を引下げる方法です。
3)
留意点
会社の分割は、重要な事業の譲渡を行い、高収益部門を新会社に移管することで、収益源をたち、徐々に純資産価額を引下げる方法です。
イ.
経済的合理性の具備
他に何らの経済的合理性のある理由がなく、ただ単に株価引下げの目的のみであることが明白な場合には、「同族会社の行為計算の否認」 等の法理により、税務上問題とされる場合があります。
ロ.
従業員の転籍に伴う法律上税務上の問題
会社の分割に伴い従業員を転籍させることが多くのケースで発生しますが、 完全な転籍か、出向扱いかによってその地位身分が変わってきます。 過去の勤務に対する退職給与引当金の引継や、社会保険等、法律上税務上の問題を検討することが必要となります。
ハ.
取引先の問題
会社の分割により、売上先、仕入先、外注先等取引先との契約や売掛金、買 掛金、未払金等の親会社と新設会社間の引継負担の問題が出てきますので、法 律税務両面での十分な配慮が必要となります。
ニ.
商法上の問題
営業の全部又は重要な一部の譲渡については、株主総会の特別決議において、株主の過半数が出席し、その3分の2以上の賛成が必要とされています。 営業の譲渡をした場合、当事者が別段の意志を表示していないときは、譲渡人 は同一市町村及び隣接市町村内において、20 年の間、同一の営業をすること ができないこととされています。
また、商号の譲渡については、営業と共に譲渡する場合又は営業を廃止す る場合に限り、譲渡することができることとなっています。
ホ.
独占禁止法上の問題
独占禁止法により、一定規模をこえる事業譲渡については、公正取引委員会に対して届出、報告義務がありますので、注意が必要です。
ヘ.
対金融機関の問題
事業譲渡を行う場合、事前に金融機関の十分な理解を得、被担保物件等の 新会社への移動等がある場合には、法的措置等の十分な検討が必要です。
(f)
赤字会社との合併
1)
対策の内容
純資産価額の高い会社を被合併会社とし、赤字会社を合併会社として合併を します。 存続するのは赤字会社のほうで、合併後の会社の純資産価額は大幅に 下がりますので、株価引下げの方法として有効です。 ただし、この合併に、税 の軽減目的の他、経済的合理性がない場合、税務上否認される恐れがあります ので、十分な注意が必要です。
2)
留意点
イ.
経済的合理性の具備
合併を行って純資産価額を下げる手法を実行する場合、合併会社の株主構 成を被合併会社の株主構成と合わせておくことがポイントとなります。 また、 赤字会社が黒字会社を合併する、いわゆる 「逆さ合併」 は、税務上問題となる ケースが多く、赤字会社の繰越欠損金が活用できなくなり、損金算入が否認さ れることもありますので、合併することについての経済的な合理性を具備す ることに十分な配慮が必要です。
ロ.
被合併会社の株主のみなし配当課税
合併により交付される株式の価額 (交付される金銭等も含む) が、被合併法人の資本等の額を超える場合には、その超える部分が配当所得とみなされて課税されることとなりますので、注意が必要です。
(g)
自社所有土地の利用区分の変更
1)
対策の内容
純資産価額を引下げするためには、相続税評価額を引き下げることが必要です。 そこで、相続税評価額を下げるために、土地の利用区分を例えば更地から貸家建付地、又は貸地へ変更することが有効であるといえます。 また、一団の土地の中で、一部分の利用区分を変更することにより、全体と して一画地で評価されていた土地が細分化されて、それぞれの評価が下がります。
2)
具体例
イ.
現 状
ロ.
対策案
土地 (工場用地) の 1/2 に建設協力金で店舗を建築し、外部に賃貸する。
建築規模は 5,000 万円で全額建設協力金で賄うものとする。
ハ.
対策実行3年経過後
3)
留意点
全体として一画地と評価されていた土地について、土地の利用区分を変更し、一画地として評価される土地の細分化等を行い、相続税上の評価の引き下げを 行う場合、細分化された一画地として評価されることについて、実体としての 要件を備えていることや、租税回避のみを目的としたものとして否認されるこ とのないよう十分な配慮が必要です。
(h)
優先株への転換による高配当の支払い
1)
対策の内容
純資産価額引下げのために、配当を行って社外に資金を流出させる方法があ ります。 相続人に多くの配当をふり向けるために、相続人の所有する株式を優 先株に転換する方法が有効です。
2)
留意点
会社法 108 条において、配当を優先的に行う株式を発行することができる旨が定められています。 定款で定めた優先株式への配当率に、実際の配当が達しない場合は、その不 足部分については、次期以降一定期間について繰越して累積配当として支払いを受けることができます。
(i)
レバリッジドリースの活用
1)
対策の内容
純資産価額の高い会社がレバリッジドリース対象物件を購入することにより、多額の減価償却費の計上が可能となり、結果として資産の評価額を下げ、純資 産価額を引き下げすることが可能となります。
このレバリッジドリースの効果は一時的なものですから、株価が下がった時 点で、贈与又は売買により後継者に株式を移転することが必要です。
現在商品として販売されている多くのレバリッジドリースは多数の投資家を 集め、匿名組合を作り、さらに、投資額の数倍から 10 倍の借入をして、耐用年 数の比較的短い減価償却資産に投資を行い、投資直後の損金額をてこの原理を使って大きくしています。
2)
留意点
イ.
リース期間の最終段階で、多額の利益が計上されるしくみとなっていますので、その段階での対応を検討しておくことが必要です。
ロ.
レバリッジドリースの中にはハイリスクのものもありますので、そのリスク性について十分検討し、実行することが必要です。
(j)
海外不動産投資
1)
対策の内容
海外投資不動産の多くの物件では、当該不動産に借入が既にセットされており、ネット金額 (例えば不動産価額 10 億円、セットされている借入金8億円の 場合、日本での資金調達は2億円) で購入できます。
このため、少ない借入で実質的に大きな規模の不動産を購入できるため、評 価引下げの効果が大きく期待できます。取得3年経過後の相続税上の評価額も、 海外不動産の場合はその時点での時価とされますが、総投資額に占める建物部 分が大きいため、建物の減価による評価減の効果が期待できます。 また、多額 の減価償却費の計上による純資産価額の引き下げ効果もあります。
2)
留意点
イ.
海外不動産についての市場の状況の調査と物件の安全性や収益の確実性の検討が、国内不動産の選定以上に重要です。
ロ.
物件の選定にあたっては、信頼できる管理体制や報告体制が整備されていることも重要な要件です。
(ニ)
配当還元価額の引下げ対策
配当還元価額を引下げるには、支払配当金を引下げる必要がありますが、特別配 当という形で支払いますと、配当還元価額の計算時の対象になりませんので、配当 還元価額を下げることができます。
配当還元価額の計算方法は3、(1)、(ニ)を参照して下さい。
(3)

株式移転

(イ)
同族関係者への移転
(a)
贈与
1)
対策の内容
生前贈与による対策として、相続税の限界税率よりも低い贈与税負担率の範 囲内で贈与を行う方法があります。
2)
具体例
相続財産 10 億円 (相続税の限界税率 50%)
相続人 子供3人
3人の子供に対して毎年 1,000 万円相当の自社株を 10 年間贈与した場合の効果
3)
留意点
相続発生時に贈与の事実を否認されないように、贈与契約書の作成、贈与税 の申告、株主名簿等に注意しなければなりません。
(b)
売買
1)
対策の内容
自社株を売却すると、以下の算式により計算した譲渡所得税等が生じますが、 含み損のある上場有価証券がある場合には、上場有価証券の売却について申告 分離課税を選択することにより、自社株の譲渡益と上場有価証券の譲渡損が損 益通算され、譲渡所得税等の負担が減少します。 この方法により自社株の売買 による移転が容易となります。
(算式)
(譲渡金額-取得費-譲渡費用)×20%=譲渡所得税等
2)
具体例
自社株 額面 50円 時価 1万円 所有株数 20万株
上場有価証券の損失 5,000 万円
イ.
自社株 1万株を売却した場合
a.
上場株の売却損と損益通算しない場合の譲渡所得税等
(1 万円×1 万株-50 円×1 万株)×20%=1,990 万円
b.
上場株の売却損と損益通算する場合の譲渡所得税等
{(1 万円×1 万株-50 円×1 万株)-5,000 万円}×20%=990 万円
3)
留意点
イ.
購入する側に買取り資金が必要となります。
ロ.
株の売買だけでは相続税の軽減になりません。 売却により取得する現金を 使って、相続税軽減対策をすすめる必要があります。
(c)
配当還元価額による移転
1)
対策の内容
同族関係者が取得する自社株については、通常原則的評価方式により評価さ れますが、同族関係者であっても相続・贈与又は譲渡の仕方を工夫して、配当 還元価額方式によって評価し、自社株の移転を図ることができます。
評価対象者が同族株主である場合でも、1他に中心的な同族株主がいて評価 対象者が中心的な同族株主でなく、2相続・贈与又は譲渡により株式を取得し た後の持株割合が5%未満で、かつ、3役員でなければ、原則的評価方式では なく、配当還元価額方式を適用することができます。
なお、「同族株主」、「中心的な同族株主」 の意義については、3、(1)、(イ) を参照して下さい。
2)
具体例
イ.
親族関係
ロ.
会社の状況
社長及び G、H のみが役員
株式は社長が 100%を所有
発行済株式総数
2万株 (額面 500 円)
原則的評価額
1万円
配当還元価額
500 円
ハ.
対策
本ケースでは、社長を中心として、妻、弟、妹のみが中心的な同族株主とされます。 それ以外のA、B、C、D、E、F、I、J、妻の兄、妻の姉は配 当還元価額方式での評価が可能ですので、社長が株式の 4%ずつをそれぞれに 贈与します。
ニ.
効果
a.
贈与税
2万株×4%×500 円=40 万円≦110 万円
∴贈与税の基礎控除以下のため贈与税の課税はなし
b.
相続税
3)
留意点
イ.
同族株主等に該当するかどうかの判定は、相続・贈与又は譲渡があった後の 株主の状況により判定します。
ロ.
株式の分散による弊害についての配慮も必要です。
(d)
配当還元価額による新株発行
1)
対策の内容
イ.
新株発行の課税関係についての取扱い
同族会社が新株発行に伴い 「時価」 以下の発行価額で増資を行い、旧株主の持株割合が変動する場合には、株主間において課税問題が生じます。
株主割当ての場合には、旧株主の持株割合が変動しないため、課税関係は生じません。
第三者割当の場合には、旧株主の持株割合が変動しますが、発行価額が時価である場合には、課税関係は生じません。
ロ.
手法
配当還元価額方式を適用できる同族株主に第三者割当を実行することによ り、所得税、贈与税の課税問題を生じさせず、オーナーの持株割合を減少させ、 自社株の一株当たりの評価額を下げることができます。
2)
具体例
イ.
前提条件
資本金
1,000 万円
発行済株式総数
2万株
オーナー株主の持株数
2万株
原則的評価方法により1株当たりの評価額
1万円
配当還元方式による 1 株当たりの評価額
500円
ロ.
発行済株式総数の 50%相当の 1 万株の第三者割当を額面にて実行するもの とします。
3)
留意点
第三者割当の発行価額が時価以下の場合は下記の課税関係が生じます。
イ.
時価との差額が給与、賞与又は退職金の支給に代えるものであるとき 給与所得又は退職所得
ロ.
時価との差額が給与、賞与又は退職金の支給に代えるものであるとき 給与所得又は退職所得
イ.以外の理由によるとき
a.
同族関係者の場合
相続税法基本通達9-4により、旧株主から新株引受権の贈与を受けたも のとみなされ、贈与税が課税。
b.
同族関係者以外の場合
所得税基本通達 23~35 共-6により、時価との差額が一時所得。
第三者割当を受ける者によって、税務上の時価の金額が異なってきますので、注意が必要です。 詳細は、3、(1)、(イ)を参照して下さい。
(e)
転換社債型新株予約権付社債
1)
対策の内容
イ.
課税関係の取扱い
転換社債・ワラント債を有利な発行価額 (時価以下の金額) で引受けますと、時価と引受価額との差額が課税の対象となります。
ロ.
手法
有利な発行価額で後継者が転換社債・ワラント債を引受けた場合においても、一時所得扱いになり、贈与税と較べて低い税負担で自社株を将来移転す ることが可能です。
ハ.
転換社債型新株予約権付社債の相続税評価
原則として、《利付公社債の評価》の定めによって評価します。 ただし、 転換社債の発行会社の株式の価額が、その転換社債の転換価格を超える場合 には、次に掲げる金額によって評価します。
この場合における転換社債の発行会社の株式の価額は、その株式が取引相 場のない株式である場合には、その株式について財産評価基本通達の定めに より評価した課税時期における株式 1 株当たりの価額を基として、次の算式 によって修正した金額とします。

上の算式中の 「N」、「P」 及び 「Q」 は、それぞれ次によります。
「N」
=財産評価基本通達の定めによって評価したその転換社債の発行会社の課税時期における株式1株当たりの価額
「P」
=その転換社債の転換価格
「Q」
=次の算式によって計算した未転換社債のすべてが株式に転換された ものとした場合の増資割合
ニ.
転換社債型新株予約権付社債の相続税評価事例

この通達の定めにより評価した課税時期における

以上の場合における転換社債の価額 (券面額 100 円当たりの価額) は、次のように 120 円となります。
a.
株式の価額が転換価格を超えるかどうかの判定
あ.
Q(増資割合)の計算
い.
株式の価額
う.
判定
株式の価額 180 円が転換価格 150 円を超えることとなる。
b.
転換社債型新株予約権付社債の価額
(f)
持株会社
1)
対策の内容
イ.
概要
自社株を持株会社へ移転する方法としては、売買又は現物出資による方法があります。
売買、現物出資ともに、所得税法においては譲渡として取り扱われるため、譲渡益に対して課税 (所得税 15%、住民税 5%) されます。
ロ.
税負担の軽減の方法
含み損のある上場有価証券がある場合には、上場有価証券の売却について 申告分離課税を選択することにより、自社株の譲渡益と上場有価証券の譲渡 損が損益通算され、譲渡所得税等の負担が減少します。
2)
具体例
(b)売買と同様ですので、該当する頁を参照して下さい。
3)
留意点
イ.
低額譲渡の場合の個人に対する課税
法人に対して、譲渡資産の譲渡の時における時価の2分の1未満の金額で 譲渡した場合には、所得税法 59 条の規定によりその時の時価によってその資 産を譲渡したものとみなされて、譲渡所得税が課税されます。
ロ.
時価以下の金額で譲り受けた場合の法人に対する課税
a.
売買の場合
法人が時価以下の金額で資産を譲受けた場合には、時価との差額が受贈益 として認識され、法人税法 22 条の規定により課税所得に計上されます。
b.
現物出資の場合
現物出資の場合には、その法人にとって資本等取引に該当するため、課税 関係は生じません。
(ロ)
会社支配権維持を考慮に入れた同族関係者外への移転
(a)
議決権制限株式を第三者割当で発行する
1)
対策の内容
イ.
議決権制限株式
会社法 108 条において議決権制限株式の発行が認められています。議決権制限株式の総数は発行済株式総数の2分の 1 を超えることができないと規定されています。
ロ.
手法
a.
発行済株式総数の2分の1以下の範囲内で議決権制限株式の第三者割当増 資を行います。
b.
引受者は、従業員持株会、取引先等の同族関係者以外で配当還元価額で引 受けられる者を対象とします。
2)
具体例
イ.
前提条件
ロ.
発行済株式総数の 50%相当の1万株の第三者割当を実行するものとします。
3)
留意点
(d)配当還元価額による新株発行と同様ですので、該当する頁を参照して下さい。
(b)
従業員持株会へ譲渡
1)
対策の内容
イ.
設立のメリット
節税効果の他、下記のメリットがあります。
ロ.
手法
a.
従業員持株会を活用した自社株の引下げについては、
1オーナー所有株式の持株会への放出する場合、2持株会への第三者割当 により新株を発行する場合の2つの方法があります。
b.
自社株の評価は株の取得者によって異なります。
同族株主については、原則的評価方法により評価し、同族株主以外については、配当還元方式により評価します。 従業員持株会は同族株主以外に該当するため、配当還元価額により譲渡、第三者割当をしても課税上問題はありません。
2)
具体例
イ.
前提条件
ロ.
オーナー所有株式の持株会への放出の場合
オーナー所有株式の 30%を持株会へ放出するものとします。
ハ.
持株会への第三者割当により新株を発行する場合
持株会へ配当還元価額で 4,000 株割当てるものとします。
3)
留意点
(d)配当還元価額による新株発行と同様ですので、該当する頁を参照して下さい。
(c)
中小企業投資育成会社等へ譲渡
1)
対策の内容
イ.
概要
投資育成会社が引受ける株式の価額は、下記ロ.の算式により計算されます が、その評価額は、原則的評価方法による相続税評価額よりかなり低い価額と なりますので、オーナー等の持株比率が下がり、株式の評価額が下がる効果が あります。
ロ.
投資育成会社が引受ける株式の価額
投資育成会社が株式を引受ける際には、中小企業庁と国税庁が定めた、1株当たりの予想利益をもとにした 「収益還元方式」 により評価します。 具体 的には、次の算式によります。

(株式公開前の規制期間中と公開後は適用されません。)
このうち、配当性向は 1 株当たりの予想利益額に応じて決まります。 期待 利回りについては、別に基準が設けられています。 なお、投資育成会社の保有する株式を譲渡する際も、同じ評価要領により株価を算定します。
上記評価要領に基づいて投資育成会社が引受けまたは譲渡する株価は、税 務上も適正な価額として認められることになっています。 ただし第三者が取引事例株価として援用することはできません。
2)
具体例
イ.
前提条件
ロ.
投資育成会社が新株式を 6,000 株引受けるものとします。
3)
留意点
監査等の費用が増加する。
経営に対して少なからず干渉される危険があります。
実際には価値の高い株式を低い価額で引受けされることとなります。
将来上場する場合に、資本政策において障害となる危険性があります。
〔参考〕 中小企業投資育成会社の投資の概要
イ.
中小企業投資育成会社
「中小企業投資育成株式会社法」 に基づいて設立された、わが国唯一の公的 な投資育成機関です。
ロ.
投資を受ける会社の条件
会社の組織形態
 株式会社
資本金
 原則として3億円以下
業種
 ほぼすべての業種で利用可能、ただし、公序良俗に反する事業や投機的な事 業は対象外
配当
 株式での投資の場合、業績が順調な決算期においては、一定の配当が必要
業績
 原則として、最近2年間の配当実績が1株当たり年5円 (額面50円換算)以上であるか、もしくはこれに見合う利益をあげており、今後も相応の利益計上が見込まれること
ハ.
引受の内容
a.
株式
引受株式
増資新株の引受け (既発行株式の引受不可)
その後の増資についても追加出資に応じることができる
持株比率
原則として、増資後の発行済株式総数の 15~50%の範囲内
引受価額
1株当たりの予想利益をもとにした 「収益還元方式」 により算定。 ただし、 設立新株の場合は額面での引受け
b.
新株予約権付社債
引受限度
原則として、引受時に新株引受権を全額行使したものとして計算した持株 比率が、15~50%の範囲内
行使価額
株式の引受価額と同じ 「算式」 により算定。
行使期間
発行の翌日から償還期限の前日までの間で設定。
償還期限
原則として5年
利率
長期プライムレート (半年毎の変動制) を基準
新株引受権の行使
発行会社との合意のうえ、行使期間中最も良いタイミングで行う
行使方法
原則として 「現金払込」
新株引受権の譲渡
総数の2分の1の範囲内で譲渡可能
譲渡先は原則として非同族役員・従業員
(d)
公益法人等に自社株式を寄付する
1)
対策の内容
公益法人等へ自社株を寄付した場合には、一定の要件を満たすと、寄付をし た個人及び寄付を受けた法人ともに、非課税となります。
また、寄付をする自社株を無議決権株式とすることにより、自社の支配権を 維持しつづけることが可能となります。
2)
具体例
財産を生前に贈与することにより、非課税で相続財産から減らすことができ ます。
課税上の取扱いについては、第3、1(4)の要件を参照して下さい。