遺産相続トピックス

推定相続人がいない方の相続対策

2017.12.04

推定相続人がいない方の相続対策|遺産相続の専門的な情報

相続において、亡くなった方に配偶者も子もなく、兄弟姉妹も甥姪もいないため、相続人がいないというケースをしばしば見かけます。
ご自身に推定相続人がいない場合には、将来の相続対策としてどのようなことを検討すべきでしょうか。

1.相続人の不存在の場合の相続手続

まずはじめに、相続人の不存在の場合の相続手続を概説します。(相続人の不存在の場合の詳細な解説については、本サイトをご参照ください。)

亡くなった方に相続人のあることが明らかでないとき

亡くなった方に相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は法人とされ(民法951条)、この場合には、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人が選任されます(民法952条第1項)。その後、次のとおり3度の公告がなされます。

(1)相続財産管理人が選任された旨の公告(家庭裁判所が行う)(民法952条第2)

2か月が経過しても相続人が現れない場合

(2)すべての相続債権者や受遺者などすべての利害関係人に対して一定期間(2ヶ月以上)内に債権の申し出をすべき旨の公告(相続財産管理人が行う)(民法957条第1項)

公告期間の満了後相続人が現れない場合

(3)一定期間(6ヶ月以上)を定めた相続人の捜索の公告(相続財産管理人又は検察官の請求により、家庭裁判所が行う)(民法958条)

(3)の公告期間が満了すると、相続人の不存在が確定し、相続人並びに相続財産管理人に知れなかった相続債権者及び受遺者は権利行使ができなくなります(民法958条の2)。

特別縁故者からの財産分与の申立

一方、被相続人と特別の縁故がある人は、(3)の公告期間の満了後3ヶ月以内であれば、家庭裁判所に特別縁故者としての相続財産分与の申立てを行うことができます(民法958条の3)。過去の裁判例において、特別縁故者に当たるとされた者としては、内縁の夫婦、事実上の養親子、報酬以上に献身的に看護に尽くした付添看護婦、被相続人により長年経営されていた学校法人などが挙げられます。
特別縁故者からの財産分与の申立がないまま相続人捜索の公告期間満了時から3ヶ月間が経過した、または財産分与の申立が却下された時には、相続財産は国庫に帰属することになります(民法959条)。

2. 遺言を遺すという選択肢について

このように、相続人の不存在の場合の相続手続は、相続人が存在する場合とは全く異なり、最終的に残った財産の帰属先は国庫となります。
そして、遺言等が無い限り、たとえ被相続人の介護や世話をしていたなどの事情があっても、相続人ではない人が財産を受け取るには、特別縁故者に対する財産分与の制度を利用するしか方法がありません。しかし、この制度により分与を受けるためには、分与を希望する人が、期限内に、家庭裁判所に対し自ら申立をしなければならず、大変な労力が必要な割には、財産を受け取れるのかどうか、どの程度受け取れるのかという点については確実性がありません。もちろん、亡くなったご本人のご希望やご意向の実現も期待できません。
一方、相続人のいない人であっても、遺言を遺して、財産の帰属先を明確にしておけば、思いのままに財産を承継することができ、財産が国庫に帰属するという事態を回避することができます。なお、遺言者に相続人は存在しないが、相続財産全部の包括受遺者が存在する場合には、民法951条にいう「相続人のあることが明らかでないとき」には当たらない、と判示した最高裁判例(平成9年9月12日最高裁判所第二小法廷判決)があります。この判例によれば、相続人は存在しなくても、遺言があって包括受遺者が存在する場合には、そもそも相続財産は法人とならず、財産管理人の選任も不要ということになります。
(なお、包括受遺者の詳細な説明については、本サイトをご参照ください。)
以上から、将来、推定相続人がいないという方の相続対策としては、まず遺言という選択肢が挙げられます。

3. 遺言を遺す以外の方法

遺言以外の方法としては、養子縁組の利用も考えられます。養子縁組をすれば、相手方との間に法律上の親子関係が生じることになりますので、相続人の不存在の問題が解消されます。さらに、場合によっては、相続税の軽減効果が認められることもあります。
しかし、そもそも、養子縁組とは、相手方との間に法律上の親子関係を形成することを目的とする制度であって、遺産の承継や相続税の軽減のみを目的とする制度ではありません。また、遺言を遺すにあたっては、受遺(予定)者の同意は不要(知らせる必要もない)ですが、養子縁組をするためには当然ながら相手方の同意が必要です。また、遺言が自由に撤回・変更できるのとは対照的に、ひとたび有効な養子縁組がなされた場合は、一方から自由に撤回(離縁)することもできません。複数人との間で養子縁組を行った場合には、相続人も複数となり遺産分割協議が必要となりますので、相続人どうしで揉める心配も出てきます。また、法人に財産を遺したいという場合にはそもそも利用できません。
   このため、養子縁組による方法も必ずしも万能とは言えず、種々の側面に配慮した慎重な姿勢が求められます。

以上から、現時点で推定相続人がいない方、将来的に推定相続人がいなくなる可能性のある方は、まずは遺言の活用を検討されることをおすすめいたします。