遺産相続トピックス

推定相続人がいない方の相続対策

2025.12.12

推定相続人がいない方の相続対策|遺産相続の専門的な情報

1.はじめに

 配偶者や子がなく、兄弟姉妹・甥姪もいないなど、相続人がいない方の相続対策は、通常の相続とは手続きもリスクも大きく異なります。
 本稿では、法制度上「相続人が明らかでない」場合に生じる手続・リスク、さらに留意すべき最新の法改正・実務動向を踏まえ、相続人がいないおそれのある方が事前に検討すべき対策を整理します。

2.相続人が不存在または明らかでない場合の相続手続

(1)「相続人のあることが明らかでないとき」の制度

 被相続人に真正の法定相続人(配偶者・子・直系尊属・兄弟姉妹など)が存在しない、または存在しても誰かが確定しないときには、まず以下の規定が適用されます。
 民法951条:「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。」
つまり、相続財産自体が「相続財産法人」として扱われ、被相続人の財産・債務の清算手続きに入ります。
 同952条以下:家庭裁判所が利害関係人または検察官の請求により「相続財産清算人(旧称:管理人)」を選任し、これを公告することで、相続人や債権者・受遺者に申出を促します。
 その後、所定の公告期間を経て相続人が現れなかった場合、特別縁故者による相続財産分与の申立てがあったときはその処分を経て、残余財産が国庫へ帰属します(民法959条)。

(2)公告・清算の手続の流れ

 実務上は以下の流れで処理されるのが一般的です。

①利害関係人または検察官の請求により、家庭裁判所が相続財産清算人を選任。
②選任後、遅滞なく「清算人選任の公告」および「相続人捜索の公告(期間6か月以上)」がされます(改正民法で公告期間明確化)
③清算人は、相続債権者・受遺者に対して一定期間(原則2か月以上)に申し出をすべき旨を公告します。なお、この公告は、②の相続人捜索の公告の期間内に満了するものである必要があります(民法957条。改正前民法と比較して、全体の公告期間が短縮されました)。
④上記公告期間が満了しても相続人が現れず、また特別縁故者の申立てに関する処分を終えた後、残余財産は国庫に帰属します。
⑤なお、2023年成立の改正民法により、業務内容の実態に即して、名称が「相続財産管理人」から「相続財産清算人」へ変更されました。

(3)実務上の注意点

 相続人の有無・所在不明状態を放置することで、清算人選任に関する手続・費用負担が発生します。また、残余財産については原則として国庫帰属してしまうこととなります。
 財産の種類(不動産・動産・共有持分など)や債務の有無によっては、多額の清算費用・公告費用・選任予納金がかかる場合があります。
 なお、2024年4月1日からは「相続登記の義務化」が施行されており、相続人が不明確である場合に土地・建物を放置することはリスクがさらに高まっています。

3.遺言による対策の重要性

(1)遺言があると状況が大きく異なる

 相続人がいない、または不明確であるケースでは、被相続人が遺言を残していないと、最終的に財産が国庫に帰属してしまう可能性があります。遺言を残すことで、以下のようなメリットがあります。

  • 財産を特定の人(内縁配偶者・親しい友人・公益法人など)に遺贈でき、自身の意思を実現できる。
  • 適切に遺言を作成し、また遺言執行者を指定しておくことで、相続財産清算人選任や長期の公告・捜索を行うことを回避できる。
  • 財産を受ける側が確定しているため、清算人の選任・公告などの手続・費用が不要となる。

(2)遺言作成時の実務ポイント

  • 遺言作成時には、相続人がいない可能性の高いことを想定し、遺贈の態様(対象外の財産が生じないよう、包括遺贈を行う遺言を行うことが望ましいです)、遺言執行者の指定なども含めて設計することが望まれます。
  • 遺言書の形式として、法務局所属の公証人の関与のもと作成する「公正証書遺言」により遺言を行うことが、もっとも安全性が高く、ご意向どおりの相続内容が実現できる可能性が高いです。
  • 自らで全文等を自書することで作成する「自筆証書遺言」を使用する場合、単に自宅等に保管するのでなく、法務局での保管制度を利用することで、遺言書の紛失・改ざん・発見遅延リスクを軽減できます。
  • 遺贈を行う遺言を作成する場合には、受遺者へ遺贈を承諾してくれるかどうかの確認を行い、遺贈放棄リスクも含めた遺言の作成を行うと安心です。
  • 遺言だけでは対応できない負債・共有不動産・登記未了不動産などがあると、遺贈後に受遺者が債務や思わぬ負担を負ってしまう恐れがあります。作成に際しては、専門家のチェックが重要です。

4.最新の制度・実務上の留意点

(1)「相続登記義務化」の影響

 2024年4月1日より、相続によって取得した不動産については、相続を知った日から原則3年以内に相続登記を行う義務が課され、未登記状態を放置すると過料(10万円以下)を科される可能性があります。
 相続人が不明確なまま不動産を放置すると、所有者不明土地問題にも発展するため、遺言を残す・価値の低い土地は国庫帰属を検討するなど早期の対策が求められています。

(2)「相続土地国庫帰属制度」の活用

 不用となった土地や所有者が不明確な土地について、2023年4月に施行された相続土地国庫帰属法により、条件を満たせば国庫へ帰属させることも可能となりました。
 この制度を検討する際には、土地の評価額・管理費用のほか、土地の境界が確定しているか、土地に負担(担保権・通行権等)が存在しないか、地盤汚染などがないか、権利関係がどのようなものかなどの調査が重要です。

(3)「相続財産清算人」の実務運用

 財産が残った後の国庫帰属に至るまでには、債権者対応・相続人捜索・特別縁故者対応など複数の段階を経るため、想定より長期化・コスト増加の可能性があります(最短でも半年以上の期間を要します。)。
 相続人がいない・見つからないと思われる場合には、早期に遺言・遺贈・信託などを設計し、清算人選任のリスクを回避する戦略が有効です。

5.まとめ

 相続人がいない、または不明確な可能性がある方は、次のような点を特に留意してください。

  • 相続人がいないまま亡くなった場合、相続財産は法人化され、最終的に国庫へ帰属する可能性が高まります。
  • 遺言等の適切な方式による意見の表明・証拠化がないと、被相続人の意思実現や受遺者確定が難しくなります。
  • 2024年以降は、相続登記義務化・所有者不明土地対策・国庫帰属制度などの制度整備が進んでおり、放置はリスクを伴います。
  • 専門家(弁護士・司法書士・税理士)と連携して、遺言・登記・土地活用・信託・公益法人への遺贈などを統合的に検討することが望まれます。

 当事務所では、相続人がいないことを含めた「相続人のあることが明らかでない場合」における相続対策・遺贈設計を含めた遺言作成・作成した遺言の執行手続き・相続財産清算人対応など、本件に関する問題についてトータルでサポートしております。どうぞお気軽にご相談ください。