遺産相続トピックス

相続にまつわる3つの「放棄」

2017.12.18

相続にまつわる3つの「放棄」|遺産相続の専門的な情報

1.はじめに

 「放棄」という言葉は、相続手続の場で耳にする機会が少なくありません。本稿では、相続に関連して知られておくべき「3つの放棄」──① 相続放棄、② 相続分の放棄、③ 遺留分の放棄──の内容と違い、それぞれを検討する際の注意点を、現在時点の法令・実務運用を踏まえて整理いたします。

2.相続放棄とは

 「相続放棄」(民法第939条等)とは、相続人が 被相続人から相続すべき遺産(プラス・マイナス両方)を一切相続しない旨を明らかにする法律行為です。例えば、被相続人が多額の債務を抱えていた場合に、相続によるマイナス財産の承継を避けるために用いられます。
 相続放棄をした場合、法的には「初めから相続人でなかった」ことになり、遺産について一切の処分ができなくなります。
 相続放棄には期限があり、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に家庭裁判所へ申述を行う必要があります(民法第915条第1項、第938条)。加えて、相続放棄をする前に遺産の一部を処分してしまうと、自己のために相続を承認したとみなされ(民法第921条1号)、その後の相続放棄ができなくなるリスクがあります。

3.相続分の放棄とは

 「相続分の放棄」とは、相続そのものを放棄するのではなく、相続人が自分の法定相続分(遺産のうちプラス財産部分)を取得しない旨、他の相続人にその分を承継させる意思表示をいいます。相続分の放棄は、相続人間ではマイナスの財産(債務)を引き継がないことを取り決めることができても、債権者からすれば、法定相続分に従い、依然債務を負っているものとして請求されるおそれがあります。そのため、相続分の放棄により完全に負債を免れることはできませんので、被相続人に債務がある場合には注意が必要です。

 相続分の放棄については、期限・方式の定めが法律上明確に定められておらず、相続人間での合意による意思表示(書面化しておくことが実務上望ましい)で足りるとされています。

注意すべきポイント

  • 相続分の放棄をする前に遺産(あるいは債務)を処分すると、自己のために相続を承認したとみなされる可能性があります。
  • 相続人間で合意書を作成しておくことが、後々のトラブル防止に重要です。
  • 相続分の放棄後も、被相続人に債務があるケースでは、放棄した分を含む遺産の範囲や債務負担の按分などが紛争の火種となることがあります。

4.遺留分の放棄とは

 「遺留分」とは、被相続人の兄弟姉妹及びその子らを除いた法定相続人に対して最低限保証された遺産の取り分を言います(民法第1028条等参照)。自己の遺留分が侵害された場合、財産を多く受領した相続人に対して、侵害された金額に相当する金員を支払うよう請求する権利を有します。
 ここで、「遺留分の放棄」とは、その最低限保証された取り分(遺留分)を、相続人自身が放棄することを言います。なお、相続そのものを放棄するわけではありません。

 被相続人の生前に行う場合:家庭裁判所の許可を得る必要があります(民法第1043条第1項)。相続案件の中では、しばしば被相続人の生前に財産の取り決めをするような合意書を作成されることがありますが、相続人間で遺留分を放棄する合意書を作成したとしても、家庭裁判所の許可を得なければ、法律上有効な放棄がなされたとはいえません。

 被相続人の死後に行う場合:相続開始後において、遺留分侵害額請求をするか否かは遺留分権利者次第ですので、遺留分の放棄をしようと思えば、遺言のとおり分割することを是認し、遺留分侵害額請求をしなければよい問題ですので、特段の手続は不要です。なお、相続人間で争いが起きないよう、遺留分侵害額請求をしないという合意書を作成する場合もあります。

2025年時点の実務的留意点

  • 生前の遺留分の放棄が有効と認められるか否かは、被相続人・相続人間の事情・放棄の動機・資産状況等を総合して家庭裁判所が判断します。
  • 遺留分を放棄した後でも、他の相続人との遺産分割協議や金銭清算において、予期せぬ支払い義務が残る可能性があるため、法的リスクを慎重に検討する必要があります。

5.各「放棄」の違い整理

相続に関する「放棄」は名称が似ているため、内容や法的効果を混同しやすい制度です。以下では、相続放棄・相続分の放棄・遺留分の放棄について、手続や期限、注意点の違いを一覧で整理します。

種類 内容 手続・期限 備考
相続放棄 遺産(プラス・マイナス両方)を一切承継しない 被相続人の死亡を知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述 初めから相続人でなかった扱いとなる
相続分の放棄 自分の法定相続分を他の相続人に承継させる 明示的な意思表示(書面化が望ましい) 債務の承継を免れない可能性あり
遺留分の放棄 最低限保証された遺産取り分を放棄する 生前の場合:家庭裁判所の許可が必要/死後の場合:遺言等や合意により実務処理 遺留分請求をしない意思表示を含むケースもあり

6.実務上の留意点

  • 相続放棄について、申述期限3か月を過ぎてしまった場合でも、相続人が「特別承認」も「単純承認」もしておらず、相続債務の存在を知ってから直ちに申述した場合には、例外的に受理される可能性もあります。ただし、家庭裁判所が個別事情を慎重に判断します。
  • 相続放棄・相続分の放棄・遺留分の放棄のいずれの場合も、相続人全員・遺産の範囲・債務状況を早期に確認し、適切な専門家(弁護士・司法書士・税理士)を交えて進めることが紛争防止に効果的です。
  • 遺留分放棄については、放棄後に予想外の遺産隠し・追加贈与が判明して、遺留分侵害請求をめぐる紛争になるケースが増えてきています。遺留分の放棄をするにあたっては、慎重な検討が必要です。

7.まとめ

 上記の3つの「放棄」は一見似ている用語ですが、内容・効果・手続・法的意味合いが大きく異なります。各放棄を検討する際には、次の点をご留意ください。

  • 被相続人の遺産・債務の実状を早期に把握すること
  • 相続人間での合意や文書化を含めた対応をすること
  • 専門家の助言を受けつつ、手続期限や方式の適合を確保すること

 当事務所では、相続放棄・相続分の放棄・遺留分の放棄を含む相続手続き全般を、相談受付から申述・協議書作成・家庭裁判所提出まで一貫してサポートいたします。お気軽にご相談ください。