遺産相続トピックス

認知症の相続人がいる場合の遺産分割手続

2017.12.25

認知症の相続人がいる場合の遺産分割手続|遺産相続の専門的な情報

1.はじめに

 遺産分割協議を行う際、相続人の中に認知症等により法律行為を適切に行うことができない方がいる場合があります。被相続人の財産や債務の承継という重大な局面において、意思能力の有無は遺産分割協議における合意の有効性を左右する重要な要素です。ここでは、認知症等を理由に意思能力が争われる可能性のある相続人がいる場合における最新の法制度・実務対応を整理します。

2.意思能力を欠く相続人の協議参加

(1)意思能力の意義

 遺産分割協議は、相続人間の合意を基礎とする法律行為です。したがって、協議に参加する相続人が「自己の行為の結果を正しく認識し、これに基づいて合理的に意思決定できる能力(意思能力)」を欠いている場合、その協議行為は無効または取消しの対象となることがあります。

(2)認知症即「意思能力なし」となるわけではない

 認知症と診断されただけで、自動的に意思能力がないということになるわけではありません。症状の程度・時期・記録・日常の意思決定状況等を総合的に判断する必要があります。たとえば、認知症の初期段階で日常的な意思判断が可能な相続人が遺産分割協議に参加した場合は、遺産分割協議における合意が有効とされることもあります。

(3)意思能力を欠いていると判断された場合の対応

 相続人が意思能力を欠いていると判断されるときは、以下のような手続きを検討する必要があります。

  • 成年後見制度の利用:成年後見人の選任申立てを家庭裁判所に行い、後見人が相続手続きに参加・代理する体制を構築する。
  • 特別代理人の選任:相続人の一部が意思能力を欠いているため遺産分割協議に参加できない場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、意思能力を欠いた相続人のために特別代理人を選任してもらう。
    これらの方法により、遺産分割協議が無効・取消しとなるリスクを防ぐことができます。

3.最新の実務上の留意点(2025年)

(1)相続人の意思能力に関する客観的資料の重要性

 高齢化社会のなか、相続人の高齢化も進んでおり、相続手続において認知症等による意思能力低下の有無を巡る争いが増えています。意思能力低下の有無の判断は、医学的資料・日常生活状況・過去の意思表示に関する資料・診断書の有無などを踏まえて検討する必要があります。
 また、実務では、意思能力の低下が認められる相続人について、遺産分割協議前に診断書等で意思能力の有無・程度を資料化しておくことで、将来の争い防止に役立ちます。

(2)成年後見・保佐・補助との関係

 相続人に後見人がついている場合、当該相続人に代わって後見人が遺産分割協議に参加する必要があります。
 また、判断能力が著しく不十分なため保佐人がついている相続人については、遺産分割協議を行うにあたって保佐人の同意が必要です。
 判断能力が不十分なため補助人がついている相続人についても、補助人の同意が必要な場合があります。補助人の同意が必要でない場合であっても、補助人が相続人と共に協議に参加することで、協議の有効性確保に繋がります。

(3)遺産分割協議の実務的配慮

 遺産分割協議を進める際には、次の点がより重要になっています。

  • 意思能力に疑義のある相続人がいる場合、家庭裁判所に対する成年後見人選任申立てや遺産分割調停における特別代理人の選任を検討する。
  • 遺産分割協議書の署名・押印時に、意思能力に疑義がある相続人には、専門家(医師・弁護士)による証明・助言を受けることを検討する。
  • 遺産分割協議成立後も、協議の無効・取消しを防ぐ観点から、協議当時の状況(認知機能・診断書・専門家の報告等)を保存しておく。

(4)訴訟・調停の増加

 近年、高齢化の進行により、意思能力の低下を理由とする遺産分割協議の効力を巡る訴訟・調停が増加傾向にあります。たとえば、協議書に署名した時点で意思能力を欠いている相続人がいたと主張し、協議の無効を主張するケースがあります。早期段階での意思能力の確認や代理人による協議参加の検討が、余計な費用・時間・トラブルを回避する鍵です。

4.まとめ

 認知症の疑いがある相続人がいる場合の遺産分割手続は、意思能力の有無とその確認・対応が手続の有効性を左右します。意思能力がないまま協議に加わると、後から無効・取消しをめぐるリスクが生じます。
 2025年現在、高齢化の進行により意思能力の低下が疑われる相続人が遺産分割協議に参加することによる争いが増えていることから、専門の法律事務所による早期の相談・設計がますます重要となっています。

 当事務所では、認知症・判断能力低下が懸念される相続人がいるケースの遺産分割協議への対応や成年後見人の選任申立手続・遺産分割調停における特別代理人選任申立手続などについてサポートを行っております。どうぞお気軽にご相談ください。