遺産相続レポート
生命保険と相続
2017.11.20
被相続人が、亡くなられる前に遺言を残されていなかった場合には、相続人の方々の間で遺産分割をすることになります。そして、その遺産分割をするための前提として問題となり得るのが、被相続人を被保険者(生命保険の対象として保険がかけられる人)とする生命保険金が遺産分割の対象となるか否かということです。生命保険金は額が大きいことも多く、受取人に指定されていなかった相続人の方からしてみれば不公平であると感じやすいものであるため、生命保険金も相続人の間で分割すべきであると思われる方もいらっしゃるかもしれません。そこで、実務上、生命保険金がどのように扱われているかについてお話しします。
1.被保険者及び保険契約者(保険会社と保険契約を締結し、保険料を支払う義務を負っている人)が被相続人であり、保険金受取人として特定の相続人が指定されている場合
この場合、受取人として指定された相続人が、固有の権利として生命保険金(保険金請求権)を取得することになりますので、遺産分割の対象とはなりません(最判昭和40年2月2日)。もっとも、生命保険金の額が著しく高額であるなど、受取人と他の相続人との間に生じる不公平が到底是認できないほど著しいと評価すべき「特段の事情」がある場合には、例外として、当該保険金は受取人として指定された相続人の特別受益となり、遺産分割において考慮される余地があります(最決平成16年10月29日)。
2.被保険者及び保険契約者が被相続人であり、保険金受取人を「被保険者又はその死亡の場合はその相続人」と指定した場合
この場合、保険契約者の意思としては、被保険者が死亡した時点での相続人を受取人として指定したと解釈でき、生命保険金は受取人である相続人固有の財産となるため、各相続人が受領する生命保険金は遺産分割の対象とはなりません(最判昭和40年2月2日)。そして、各相続人は、原則として、各相続人間の相続分の割合に応じ算出された生命保険金額を受領することになります(最判平成6年7月18日)。
3.被保険者及び保険契約者が被相続人であり、保険金受取人を指定しなかった場合
この場合、保険約款等の規定に従うことになります。例えば、保険約款において、「保険金受取人の指定のないときは、保険金を被保険者の相続人に支払う。」旨の条項がある場合には、保険金受取人を被保険者の相続人と指定した場合(上記2)と同じになるので、相続人が固有の権利として生命保険金(保険金請求権)を取得したものとして、遺産分割の対象とはなりません。
以上、3つのパターンを紹介しましたが、生命保険金は、基本的に受取人固有の財産となりますので、遺産分割の対象とはならないということになります。裏を返せば、それを利用することにより、複数の子供のうち老後の世話をしてくれた子供に対してや葬儀費用を負担する予定の方に対して多くの財産を残すことが可能となります。ただし、あまりにも偏りが大きい場合には、特別受益として遺産分割において考慮しなければならなくなる場合もありますのでご留意ください。
また、今回は説明を割愛しますが、生命保険を利用した相続税対策も存在するなど、生命保険は相続の場面において有効に活用すべきものであるといえますので、一度専門家にご相談することをおすすめします。