遺産相続レポート

相続人ではなくなってしまう場合(2)

2018.01.22

相続人ではなくなってしまう場合(2)|遺産相続の専門的な情報

前回は、法定相続人に該当しているにもかかわらず、法律上当然に相続人になることができない場合について、お話ししました。
しかし、実は、前回お話ししたような場合に該当していなくとも、被相続人(亡くなられた人)が家庭裁判所に請求することにより、相続人の地位を奪うことができるのです。

今回は、被相続人が家庭裁判所に請求することにより、相続人の地位を奪うことができるケースについて、お話ししたいと思います。

民法の規定(推定相続人の廃除)

第892条
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

民法の規定(遺言による推定相続人の廃除)

第893条
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

遺留分については、~遺言書と遺留分~の記事で既に紹介しておりますのでご存知の方が多いとは思いますが、念のため、簡単に結論だけご説明しますと、遺留分を有する推定相続人とは、(1)配偶者 (2)直系卑属(子供や孫)がいる場合には当該直系卑属 (3)直系卑属がおらず、直系尊属(父母や祖父母)が相続人である場合には、当該直系尊属 が遺留分を有する推定相続人ということとなります。
なお、兄弟姉妹にはそもそも遺留分が認められず、遺留分を有する推定相続人には当たりませんので、当該兄弟姉妹の排除を家庭裁判所に請求することはできません。

なぜ、このような制度があるのでしょうか。~遺言書と遺留分~の記事でも既に紹介しておりますが、遺留分は遺言でも侵害することができない権利ですので、たとえ遺言書の中で、「全財産を、遺留分を有する推定相続人以外の者へ、遺贈する。」と書いていたとしても、遺留分を有する推定相続人は、遺留分割合に応じた遺留分に相当する財産を渡すよう、全財産を受け取った者に請求することができるのです。

この遺留分という制度は、そもそも、残された相続人の生活保障を考えて作られた制度です。例えば、亡くなった夫には、妻と息子一人という二人の相続人がいるにもかかわらず、夫が、妻や子供ではなく、○○という団体に全財産を遺贈する、という遺言書を残していた場合、妻と息子が今後の生活に困ってしまうことから、このような相続人の生活を保障するために作られた制度なのです。

しかし、もしも妻が、夫に対して重傷を負わせるような暴行を加えていた場合にまで、夫は、このような妻の生活を保障しなければならないのでしょうか。もしそうであれば、夫は到底納得できないでしょう。
このような事態に備えて設けられた規定が、民法第892条(推定相続人の廃除)という規定なのです。

すなわち、遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があった場合には、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができ、この請求が認められた場合には、当該推定相続人は相続人ではないこととなり、遺留分すら請求することができなくなるのです。

ちなみに、この推定相続人の廃除の請求は、必ずしも被相続人が生前に行う必要はなく、遺言で推定相続人を廃除する意思を表示しておけば、被相続人の死後、遺言執行者がその推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することとなります。

但し、これまで述べてきたとおり、推定相続人の廃除が認められてしまうと、推定相続人は相続人ではなくなってしまい、一切の生活保障を受けることができなくなってしまうものですので、家庭裁判所でも、排除を認めることに対しては相当慎重になります。

家庭裁判所に対する推定相続人の廃除請求を考えておられる方は、専門家に一度ご相談されることをおすすめします。

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この記事の執筆
弁護士法人朝日中央総合法律事務所
弁護士法人朝日中央綜合法律事務所は遺産分割紛争、遺留分紛争、遺言無効紛争などの相続紛争の解決実績は2018年以降、1,695件(内訳:遺産分割紛争635件、遺留分紛争89件、その他遺産相続紛争971件)にのぼり、多くの依頼者から信頼を獲得しています。

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