遺産相続トピックス
遺産相続の際の普通預金・通常貯金・定期預金の取扱いについて
2025.12.08
1.はじめに
被相続人が残した預貯金は、相続において代表的な財産のひとつです。しかし、預貯金が「遺産分割の対象になるのか」「相続人が単独で引き出せるのか」といった点については、かつて裁判例で見解が分かれていました。
この問題について、最高裁平成28年12月19日決定により、「預貯金債権は遺産分割の対象となる」と明確に判断され、実務上の取扱いが統一されました。さらに、2020年代に入り、金融機関の払戻手続・相続法改正・電子化の進展により、相続預貯金の取扱いは大きく変化しています。
本記事では、最新の法制度と実務動向を踏まえ、普通預金・通常貯金・定期預金の相続手続に関する基本的な考え方を整理します。
2.預貯金債権の法律上の位置づけ
(1)以前の取扱い
かつては、預貯金債権(銀行預金・郵便貯金)は、「相続開始と同時に相続分に応じて自動的に分割され、それぞれの相続人がそれぞれの法定相続分に応じて支払を請求できる」とする考え方が主流でした(最高裁平成16年4月20日判決)。
そのため、それぞれの相続人が自分の法定相続分に応じて単独で払戻請求できると解釈されていたのです。
一方、相続人が単独で預貯金を引き出せることによって、これを悪用した不正な使い込みなどが問題視されるようになりました。
(2)最高裁平成28年12月19日決定による変更
そこで、最高裁平成28年12月19日決定により、「預貯金債権は、相続開始と同時に相続分に応じて自動的に分割されることはなく、遺産分割の対象となる」との判断が示されました。
この決定により、
- 預貯金は遺産分割協議で取得者が決まるまで共同相続人全員の共有状態にある
- 各相続人が単独で払戻請求を行うことはできない
とされ、相続における預貯金の法的取扱いが確立されました。
3.遺産分割前に預貯金を引き出すことはできるのか
(1)原則:共同相続人全員の同意が必要
被相続人名義の預貯金口座から預貯金を引き出すには、原則として、相続人全員の同意が必要です。
金融機関も、被相続人が死亡した事実を知ると、被相続人名義の口座を凍結し、単独相続人からの払戻請求には応じない運用をとっています。
(2)例外:一定額の仮払制度
もっとも、相続人同士の仲が悪い、相続人の中に行方不明の者がいるなどの事情によって、遺産分割が成立しない場合に、預貯金を引き出すことができず、相続人の生活が困窮するケースが問題視されるようになりました。
そこで、2019年7月施行の民法909条の2により、相続人の生活費・葬儀費用などのために、遺産分割前であっても一部の預貯金を仮に引き出すことができる「預貯金の仮払制度」が設けられました。
この制度では、相続開始時の預貯金残高×3分の1×法定相続分(ただし、1つの金融機関につき上限150万円)までを相続人が単独で引き出すことができます。
ただし、この仮払金は後の遺産分割で取得額に算入されます。
(3)家庭裁判所による仮分割の仮処分を受けることも可能
仮払金では不足する場合、家庭裁判所に対して「仮分割の仮処分」を申し立てることも可能です(家事事件手続法200条3項)。
実務上は、葬儀費用・医療費の支払い等を目的とする申立てが認められることがあります。
ただし、家庭裁判所から仮分割の仮処分を受けるためには、遺産分割調停または審判を申し立てる必要があります。
4.預貯金相続の手続きの流れと必要書類
相続が発生すると、被相続人名義の預貯金口座は原則として凍結され、相続人が自由に払戻しを受けることはできません。預貯金を相続するためには、金融機関ごとに定められた相続手続きを行う必要があります。以下では、預貯金相続の一般的な手続きの流れと、主な必要書類について整理します。
(1)預貯金相続の一般的な手続きの流れ
預貯金相続の手続きは、概ね次のような流れで進みます。
① 被相続人の死亡を金融機関に連絡
② 相続人の確定(戸籍謄本等の収集)
③ 遺言書の有無の確認
④ 遺産分割協議の成立(必要な場合)
⑤ 金融機関への相続手続申請
⑥ 預貯金の払戻しまたは名義変更の実施
遺言書がある場合には遺言内容に従って手続を進めますが、遺言書がない場合や相続人が複数いる場合には、原則として遺産分割協議を行い、預貯金の取得者を確定させる必要があります。
(2)預貯金相続に必要となる主な書類
金融機関で預貯金相続手続きを行う際には、一般的に次のような書類が求められます。
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 遺言書(ある場合)
- 遺産分割協議書(遺言書がない場合)
- 金融機関所定の相続届・払戻請求書
実務上は、金融機関によって提出書類や書式が異なるため、事前に確認することが重要です。また、複数の金融機関に口座がある場合、それぞれで同様の手続きが必要となる点にも注意が必要です。
預貯金相続は比較的単純に見えますが、相続人間で意見が対立している場合や、被相続人死亡前後の出金が問題となる場合には、手続が長期化・複雑化することがあります。そのような場合には、早い段階で専門家に相談することが、円滑な解決につながります。
5.預貯金の使途と注意点
(1)被相続人死亡前の出金確認
相続人間で「被相続人の死亡直前に多額の引出しがあった」などの争いが生じる場合があります。
被相続人名義の預貯金の取引履歴は、相続人全員に開示請求権が認められています(最高裁平成21年1月22日判決)。
被相続人の死亡前後の出金に疑義がある場合は、早期に通帳や取引明細を確認しましょう。
(2)遺産分割前の管理責任
遺産分割成立まで、預貯金は共同相続人全員の共有にあります。
一部の相続人が無断で引き出すと、不当利得または不法行為として返還義務を負うおそれがあります。
6.最近の動向(2025年12月時点)
- オンライン相続手続の拡大:主要銀行・ゆうちょ銀行・信託銀行がオンライン相続手続に対応。
- 金融ADRとの連携強化:払戻しを巡るトラブルは金融ADR制度での解決を促進。
- マイナンバー活用:相続人確認にマイナンバーカードが利用可能に(2024年度以降順次導入)。
- 口座凍結解除までの期間短縮:主要銀行では死亡届受付から原則1週間以内に相続手続案内を送付。
7.まとめ
預貯金は相続財産の中でも重要な位置を占めており、遺産分割や仮払制度の運用を誤ると、相続人間のトラブルにつながりかねません。現在は最高裁判決によって法的取扱いが確立し、さらに法改正やデジタル化によって手続の透明性・効率性も高まっています。しかし、相続人間で利害が対立する場合や、被相続人死亡前の出金が問題となる場合には、弁護士による専門的な支援が必要です。
当事務所では、預貯金の調査・法定相続情報証明の取得・遺産分割協議書の作成などを含め、相続全般をワンストップでサポートしています。お気軽にご相談ください。







