遺産相続トピックス
相続放棄の注意点
2017.11.06
1. はじめに
相続放棄(民法939条)とは、相続人が被相続人から相続すべき遺産(マイナスの財産のみならず、プラスの財産も)の全てを相続しない旨を表明することをいいます。被相続人が相当の債務を負っていた場合などに、相続放棄をするかどうかが問題になります。
今回は、相続放棄をするにあたっての注意点を述べていきたいと思います。
2.家庭裁判所への申立て
(1)相続放棄をするには、まず家庭裁判所への申立てが必要です。
相続放棄申述書を作成し、併せて、被相続人の住民票除票又は戸籍附票、相続放棄をする相続人の戸籍謄本などの必要書類を集め、これらを被相続人死亡時の住所を管轄する家庭裁判所に提出します。家庭裁判所に直接出向いて提出する方法でも、郵送で送付する方法のいずれでも構いません。
(2)相続放棄の申述が家庭裁判所に受理されると、後日、家庭裁判所から照会書が送られてきますので、照会書に必要事項を記入して、家庭裁判所に返送します。その後、相続放棄申述受理通知書が郵送されてきて、相続放棄の手続はこれをもって完了します。
3. 申立ての期限
(1)相続放棄は、原則として、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月(熟慮期間といいます)以内にしなければなりません(民法915条)。但し、被相続人に債務があるかどうかが不明であるなど、3か月では相続放棄をするか否かを決めることができない場合には、家庭裁判所に、3か月という熟慮期間の伸長を家庭裁判所に申立てることができます(民法915条但書)。
(2)なお、相続放棄は、被相続人が死亡する前にはすることができません。相続というもの自体が、被相続人が亡くなって初めて発生するものだからです。
4. 法定単純承認
(1)相続人が、被相続人の財産の全部又は一部を処分したときは、承認があったとみなされてしまいます(民法921条1号)。その結果、その相続人は被相続人の財産を相続することになり、以後は相続放棄ができないことになります。
(2)「処分」には、被相続人名義の預貯金を引き出して、自身のために使ってしまうこと、被相続人名義の預貯金や株式、不動産の名義を変更すること、債権を取り立てて現金化することなどが該当します。相続放棄を考えておられる場合は、「処分」に該当する可能性のある行動は控えることが無難です。
(3)なお、生命保険金は、生命保険契約者と被保険者が同じ場合には、死亡受取人固有の財産であり、相続財産ではありません(最判昭和40年2月2日判決)。相続放棄をしてしまうと、生命保険の非課税枠の利用を受けられないというデメリットもあります。
5. 代襲相続について
相続放棄をした場合、代襲相続(死亡などで相続人がいない場合に、その相続人と同一順位で相続分を引き継ぐこと)は起こりません。例えば被相続人の次男が相続放棄をすると、その次男の子供は、被相続人を相続することはありません。
6.次順位相続人の繰り上がり
相続放棄があると、次順位の法定相続人が相続人になります。第1順位の相続人である子が相続放棄をすれば、第2順位の相続人である両親が相続人となり、両親も相続放棄をすれば、第3順位の相続人である兄弟姉妹などが相続人になります。もしも、被相続人に多額の債務があって、相続放棄をする場合は、次順位の相続人に迷惑がかからないように前もって連絡などをするなどの配慮が必要でしょう。