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遺産相続レポート

相続放棄と熟慮期間

2017.12.11

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1.相続における相続人の選択肢

相続が開始すると、相続人は自らの意思とは関係なく被相続人の財産を包括的に承継する地位につきます(民法896条)。被相続人の財産の中には、不動産や預貯金といったプラスの財産の他に、負債などのマイナスの財産も全て含まれることになります。このとき、仮に被相続人の財産が、プラスよりもマイナスの方が多い債務超過の状態であった場合、相続人は相続を拒否して負債を背負うことを回避することができるのでしょうか。

民法は、相続人に強制的に被相続人の財産を承継させるのではなく、財産を相続するかどうかについて、以下のとおり相続人に3つの選択肢を与えています。

  1. 単純承認(民法920条以下。プラスもマイナスも含めて包括的に相続する選択。)
  2. 限定承認(民法922条以下。プラスの財産の限度でマイナスの財産も引き受けるという選択。相続人の固有財産は守られる。)
  3. 相続放棄(民法938条以下。相続人の地位を放棄することによって、プラスの財産もマイナスの財産も一切承継しないという選択。)

先程例にあげた被相続人が債務超過の状態にある場合、相続人の選択として多く利用されているのが③の相続放棄という制度です。そこで、今日は相続放棄の制度及び相続放棄の際最も問題となりやすい熟慮期間についてお話ししたいと思います。

2.熟慮期間の具体的な起算点

相続人が相続放棄を行うためには、家庭裁判所に対しその旨を申述しなければなりません(民法938条)。したがって、例えば「私は相続放棄します。」とその他の相続人や利害関係者に宣言するだけでは正式な相続放棄とは認められませんので注意が必要です。

そして、家庭裁判所に対する相続放棄の申述は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内」に行う必要があります(民法915条1項)。これが熟慮期間と呼ばれるものであり、熟慮期間内に相続放棄の申述を行わないと単純承認をしたものとみなされ(民法921条2号)、マイナスの財産も一緒に背負うことになってしまいます。ゆえに、相続放棄を行うにあたっては、熟慮期間がいつの時点から起算して3カ月以内なのかを理解することが非常に重要なのです。

先程紹介したように、民法では「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3カ月以内と定めていますが、「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは具体的にいつの時点なのでしょうか。この点について裁判例(大正15年8月3日大審院決定)は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、①被相続人が死亡した事実を知り、かつ②自分が被相続人の相続人である事実を知った時と解釈しています。したがって、被相続人が死亡したことは知っていたが、自分が被相続人の相続人であることは知らなかったという場合(例えば自分が被相続人の婚外子であり、後に認知されていたことが判明した場合など)には、後に自分が被相続人の相続人にあたることを知った時から起算して3カ月以内が熟慮期間になるというわけです。

3.被相続人の死亡後3カ月を経過した後に負債などの存在が判明した場合

では最後に、次のような場合はどうでしょうか。別居して暮らす父親が亡くなり、遺品の整理等を行っていたが父親には財産らしい財産は何もなく、相続に関する手続は一切何も行わないまま半年が経過したある日、突然金融業者から生前父親が500万円の負債の連帯保証人になっているので、相続人であるあなたに500万円を支払って欲しいと要求がありました。この場合、あなたは相続放棄をして500万円の支払いを免れることができるでしょうか。

先程説明したように、熟慮期間は①被相続人が死亡した事実を知り、かつ②自分が被相続人の相続人である事実を知った時から起算して3カ月以内です(民法915条1項但書で延長申請している場合は除きます)。このケースでは、被相続人である父親が亡くなったこと及び自分が父親の相続人であることを知った時から既に6カ月が経過しているので、相続放棄は認められないようにも思えます。

ところが、裁判例(昭和59年4月27日最高裁判決)は、一定の条件を満たせば、先程のケースでも相続放棄が認められる可能性のある判断をしています。
(昭和59年4月27日最高裁判決の事案の概要)

  • 父親Aは定職に就かずギャンブルに熱中していたため、妻や子どもは家出して別居。
  • 以降父親Aと家族間の交渉は途絶えていたが、家族が家出して約13年後に父親Aが死  亡。
  • 子どもY1は父親Aの生前に何度か見舞いをし、父親Aの死亡にも立ち会っていたが、その際、父親Aの資産や負債については全く説明を受けたことが無かった。
  • Y1を含む子どもらは父親Aに全く財産が無く、負債も特に無いと思っていたため、相続に関して何か手続をとる必要があることなど念頭に無かった。
  • しかし、実は父親Aは家族が家出して約10年後に1000万円の負債の連帯保証人になっており、生前に支払いを求める訴訟も起こされていたが、そのことについてY1に知らせたことは無かった。
  • Y1らは判決の送達を受けて初めて1000万円の保証債務の存在に気付き、直ちに控訴するとともに相続放棄の申述を行った(父親Aの死亡から約1年が経過)。

以上の事案で最高裁は、被相続人の死亡及び自分が相続人となった事実を知った時から3カ月以内に相続放棄をしなかったのが、「相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には」熟慮期間は、相続人が相続財産の全部もしくは一部の存在を認識した時、又は通常これを認識できた時から起算するのが相当であると判断し、相続放棄は熟慮期間内になされたものとしてY1らは1000万円の保証債務を負わないと結論付けています。

つまり、相続人が被相続人にプラスの財産もマイナスの財産も全くないと合理的な根拠に基づいて信じたことにより、相続放棄を行わなかったという場合には、相続人が相続財産(プラスもマイナスも含みます。)の存在に気付いた、又は通常気付けた時点を熟慮期間の起算点にするという例外的な判断をしているということになります。

気を付けていただきたいのは、最高裁は後々全く知らなかった負債が判明した場合に、一般的に熟慮期間の起算点の例外を認めているわけではないということです。裁判例でも「相続財産が全く存在しない」と相続人が信じた場合に限って例外を認める趣旨と解説されていることから(当該最高裁判例の調査官解説)、そのハードルは相応に髙いと認識すべきでしょう。

これまでお話してきたように、相続放棄をするにあたっては熟慮期間を把握することが非常に重要です。相続の際に思わぬところで負債を背負ってしまうことの無いように、家族・近親者の相続の際は、十分に気を付けていただければと思います。

このレポート執筆の弁護士

高良 倉充

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