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遺言の方式

事業承継マニュアル

第3章

事業財産の承継

集合写真
第2

遺言による承継

2

遺言の方式

遺言は、民法で定める方式によるものでなければ無効です。
民法の定める遺言の方式は、普通方式と特別方式に大別され、普通方式には、(1)自筆証書遺言、(2)公正証書遺言、(3)秘密証書遺言、があります。特別方式には、危急時遺 言(一般危急時遺言と難船危急時遺言)及び隔絶地遺言(一般隔絶地遺言と在船者遺言) があります
事業承継プランに利用する遺言は普通方式であることが多いとみられますので、以下、 普通方式の遺言について、その方法等述べていきます。
(1)
自筆証書遺言
(イ)
作成方法
遺言者が、遺言の全文、日付、氏名をすべて自署し、これに押印することで成立 するものです。加除その他の変更は、遺言者がその場所を指示し、これを変更した 旨を付記して特にこれに署名し、かつその変更場所に押印しなければならないことになっています。
自筆証書遺言は書面で作成しなければならず、ビデオテープやカセットテープに 記録する方法等、書面を用いない方法では作成できません。また、全文を自署する とは、遺言者自らの筆記によるということを意味し、ワープロ・パソコン等を用い 印字して作成した場合には、自署でないという理由で無効となってしまいます。
また、日付がなかったり、「吉日」とする等、日付の特定のできないものは無効です。
氏名については、戸籍上の氏名と同一である必要はありませんが、通称等の場合 には、遺言者を間違いなく特定できるものでなければなりません。
また、全文自筆したうえで押印することが必要です。押印のない遺言書は、押印 の習慣のない外国人が遺言者であったケースのように非常に限定された事案でしか 認められていません。押印に使用する印章は、実印である必要はなく、認め印でも 有効であり、遺言者自身の指印も有効とされています(ただ、指印の場合、実務上 は遺言者本人のものであるという証明をする際に困難があります)。
加除訂正については、具体的には、(a)訂正個所を2本の線で消し、変更する文字 を記入する、(b)訂正個所に押印する(遺言書本文に押印するものと同一の印であることが望ましい)、(c)訂正個所の欄外に「この行何字削除何字加入」と記入するか、 遺言書の末尾に「何行目『××』とあるを『○○』と訂正した」と記入する、(d)訂 正の後に署名する、というやりかたを踏まなければなりません。
(ロ)
メリット・デメリット
メリットとしては、文字の書ける人であれば誰でも作成でき、特段の費用もかからないこと、作成の事実を誰にも知られないこと等があります。
デメリットとしては、上記のとおりの方式を本人自筆で履践しなければならない ため、方式不備で無効とされる可能性が高く、専門家が介在しないために内容の解 釈について争いが生じる可能性も少なくないこと、公正な保管が確保されないために偽造・変造・紛失・滅失のおそれがあるということ、等が挙げられます。
(2)
公正証書遺言
(イ)
作成方法
公正証書遺言は、普通の公正証書の作成と異なり、必ずしも公証役場で作成される必要はありません。公証人に出張してもらい、自宅や病院で作成することもでき ます。作成の要件は、以下のとおりです。
(a)
証人2人以上を立ち会わせる。
証人は、遺言の作成手続の最初から最後まで立ち会っている必要があります。また、この証人は、誰でもなれるものではなく、1)未成年者、2)推定相続人・受 遺者及びその配偶者ならびに直系血族、3)公証人の配偶者・4親等内の親族、書 記及び雇人は、その資格がありません。
(b)
遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授する。
遺言の趣旨とは、遺言の内容のことです。口授とは、口頭で言語をもって述べることをいいます。したがって、手話や身振り手振り、質問に対してうなずく等の行 為は口授でなく、このような行為をもって遺言書を作成することはできません。
口授に用いる言語は外国語でも構いませんが、公正証書は日本語で作成しなけれ ばならないため、通訳を立ち会わせる必要があります。なお、平成11年改正によ り、聴覚・言語機能に障害がある方は、手話通訳または筆談により公正証書遺言を 利用できるようになっています。
(c)
公証人がその遺言者の口授した内容を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせる。
実務上は、公証人が遺言者と面接し、遺言者が「遺言書の趣旨は先に交付した 遺言作成の書面のとおり」とか「あらかじめ遺言者の依頼した弁護士が作成して 公証人に交付してある原稿と同じ趣旨」ということを述べたときには、この要件 をみたす扱いがとられています。なお、聴覚に障害のある方が手話通訳または筆 談により公正証書遺言を利用できることは、前項と同じです。
(d)
遺言者及び証人が筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名・押印する。
遺言者については、公証人が遺言者と面識がない場合、本人確認のために、公 証人が遺言者に対し、「印鑑登録証明書の提出、その他これに準ずべき確実な方法」を要求することが定められています。証人に関してはこのような規定がなく、 押印は実印を用いなくても構いません。
また、病気等で遺言者が署名することができないとき、民法は、公証人はその 事由を付記して、署名に代えることができるとしています。
(e)
公証人がその証書が適式な手続にしたがって作成されたものであることを付 記して、これに署名する。
(ロ)
メリット・デメリット
公正証書遺言の原本は公証人役場に20年間保存され、紛失・滅失等のおそれはありません。また、専門家である公証人が関与するため、方式の違背等によって遺 言が無効とされる可能性も低いといえます。
デメリットとしては、証人に遺言の内容が知れるために、遺言書の内容を秘密に 保つ保証がないということが挙げられます。しかし、手続に関しては、上記のとお り、煩雑そうに見えても実務上は簡易に行われています。そして、無効となること が少なく改変のおそれも少ないというメリットは、遺言者の意思を相続に忠実に反 映させることを目的とする遺言において、非常に重要です。このようなことから、 遺言は、できれば公正証書遺言の方式によることが望ましいといえます。
(3)
秘密証書遺言
(イ)
作成方法
秘密証書遺言は、遺言の内容を秘密にしておける点に特色をもつ方式であり、次のように作成します。
(a)
遺言者がその証書(遺言書)に遺言を書き、署名押印する。
遺言の文章については、自筆、代筆、ワープロ、タイプライター等何でも結構 です。作成年月日を必ず記し、最後に署名、押印をします。署名は自筆しなけれ ばなりません。押印に使用する印章は、実印でなくてもよく、認め印でも構いません。
(b)
遺言者がその証書を封じ、証書に用いた印章でこれに押印する。
(c)
遺言者が、公証人と、2人以上の証人の面前に封書を提出して、それが自己の遺言書であること及び遺言者自身の住所氏名を申述する。
言語を発することができない遺言者の場合は、申述に代えて封書を自署します。
また、証人となることができる者は、前記の公正証書遺言の証人と同じです。
(d)
公証人が、遺言証書の提出された日付及び遺言者の申述を封紙に記載し、遺言者及び証人とともに署名押印する。
公証人は印鑑証明で本人確認をした後、日付、及び遺言者申述の氏名・住所を封紙に記載します。それに遺言者、証人、公証人がそれぞれ署名押印をすれば完 了です。秘密証書遺言の場合、遺言者の署名は必ず遺言者本人がしなければなら ず、公正証書遺言の場合のように、公証人がその事由を付記して署名に代えることはできません。
(ロ)
メリット・デメリット
メリットとしては、遺言書の存在を明らかにしつつ内容を秘密にしておけるというメリットがあります。デメリットとしては、公証人役場に保管させるものでない ために紛失・滅失等の危険があること、手続が面倒な割には公証人が内容や証人の 資格をチェックする義務がないために要件の不備などで後日紛争となる可能性があ ること、等が挙げられます。

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