2
自社株移転対策
自社株について、その承継対策を検討する場合、1つは上記1で述べた評価額の引下げという株式評価引下対策の側面から検討され、もう1つは直接オーナーが所有している株数を減らすという株式移転対策の側面から検討されます。以下に具体例を交えて記述を行います。
(1)
同族関係者への移転
(イ)
他の株式の譲渡損との通算を活用した売買による移転
(a)
対策の内容
自社株を売却すると、その含み益について譲渡所得税等が生じますが、含み損のある上場有価証券がある場合には、同時に売却することにより、自社株の譲渡益と上場有価証券の譲渡損が損益通算され、譲渡所得税等の負担が減少します。この方法により自社株の売買による移転が容易となります。
(b)
具体例
自社株 取得価額 500円 時価 1万円 所有株数 20万株
上場株の損失 5,000万円
自社株 1万株を売却する場合
上場株の損失 5,000万円
自社株 1万株を売却する場合
イ.
上場株の売却損と損益通算しない場合の譲渡所得税等
(1万円×1万株-500円×1万株)×20.315%=1,930万円
ロ.
上場株の売却損と損益通算する場合の譲渡所得税等
{(1万円×1万株-500円×1万株)-5,000万円}×20.315%=914万円
(c)
留意点
1)
購入する側に買取り資金が必要となります。
2)
株の売買だけでは相続税の軽減となりません。売買により取得する現金を使って、相続税軽減対策をすすめる必要があります。
(ロ)
配当還元価額による移転
(a)
対策の内容
同族関係者が取得する自社株については、通常原則的評価方式により評価されますが、同族関係者であっても相続・贈与又は譲渡の仕方を工夫して、配当還元価額方式によって評価し、自社株の移転を図ることができます。
評価対象者が同族株主である場合でも、1)他に中心的な同族株主がいて評価対象者が中心的な同族株主でなく、2)相続・贈与又は譲渡により株式を取得した後の議決権割合が5%未満で、かつ、3)役員でなければ、原則的評価方式ではなく、配当還元価額方式を適用することができます。
評価対象者が同族株主である場合でも、1)他に中心的な同族株主がいて評価対象者が中心的な同族株主でなく、2)相続・贈与又は譲渡により株式を取得した後の議決権割合が5%未満で、かつ、3)役員でなければ、原則的評価方式ではなく、配当還元価額方式を適用することができます。
(b)
具体例
1)
親族関係
2)
会社の状況
社長及びG、Hのみが役員
株式は社長が100%を所有
株式は社長が100%を所有
発行済株式総数
2万株(額面 500円)
原則的評価額
1万円
配当還元価額
500円
3)
対策
イ.
贈与税
∴贈与税の基礎控除以下のため贈与税の課税はなし
ロ.
相続税
(c)
留意点
1)
同族株主等に該当するかどうかの判定は、相続・贈与又は譲渡があった後の株主の状況により判定します。
2)
株式の分散による弊害についての配慮も必要です。
(d)
その他
上記同族株式等への新株の発行によっても、同じ効果が生じます。
(ハ)
持株会社への移転
(a)
対策の内容
1)
概要
自社株を持株会社へ移転する方法としては、売買又は現物出資による方法があります。
売買、現物出資ともに、所得税法においては譲渡として取り扱われるため、譲渡益に対して課税されます。
売主が同族株主、買主が同族会社の場合、法人税上の妥当な金額(時価)が問題となります。
法人税上の時価は、課税上の弊害がない限り、以下の3つの条件を満たした相続税上の評価方法によっても良いこととなっています。
売買、現物出資ともに、所得税法においては譲渡として取り扱われるため、譲渡益に対して課税されます。
売主が同族株主、買主が同族会社の場合、法人税上の妥当な金額(時価)が問題となります。
法人税上の時価は、課税上の弊害がない限り、以下の3つの条件を満たした相続税上の評価方法によっても良いこととなっています。
条件1
その法人が発行法人の「中心的な同族株主」に該当する場合
たとえその法人が大会社・中会社であっても小会社として評価します。
すなわち、次のうちいずれか低い価額となります。
すなわち、次のうちいずれか低い価額となります。
① 純資産価額
② 類似業種比準価額 × 0.5 + 純資産価額 × 0.5
なお、「中心的同族株主」に該当する場合とは、発行済み株式数の25%以上の持株比率を有する場合をいいます。
② 類似業種比準価額 × 0.5 + 純資産価額 × 0.5
条件2
純資産価額算定に際し土地と上場株式は実勢価額による
土地に関して財産評価通達による路線価または固定資産税倍率方式の適用はできません。
上場株式に関しても同様に財産評価通達の方式は適用できません。
上場株式に関しても同様に財産評価通達の方式は適用できません。
条件3
含み益に対する法人税相当額は控除しない
含み益に対する法人税額控除は清算価値算定を前提としていますが、譲渡価額は継続企業の評価を前提としていますから37%の法人税相当額は控除しません。
(b)
留意点
1)
低額譲渡の場合の個人に対する課税
持株会社に対して、譲渡資産の譲渡の時における時価の2分の1未満の金額で譲渡した場合には、所得税法第59条の規定によりその時の時価によってその資産を譲渡したものとみなされて、譲渡所得税が課税されます。
2)
時価以下の金額で譲り受けた場合の法人に対する課税
イ.
売買の場合
持株会社が時価以下の金額で資産を譲受けた場合には、時価との差額が受贈益として認識され、法人税法第22条の規定により課税所得に計上されます。
ロ.
現物出資の場合
現物出資の場合には、その法人にとって資本等取引に該当するため、課税関係は生じません。
(ニ)
金庫株を活用した移転
(a)
金庫株制度とは
金庫株制度とは、法人が自己の会社の株式を買い取る制度で、平成13年の商法改正で、従前の自己株式の取得に関する要件が大幅に緩和されました。
「自己株式の取得」に関する1)目的、2)手続、3)財源、4)数量、5)保有期間という5つの観点からの従前の制限のうち、1)目的、4)数量、5)保有期間の3つについてその規制が廃止され、会社は原則自由に自己株式を取得し、期間制限なく保有できることとなりました。ただし、2)手続き、3)財源については、以下のとおり引き続き規制があります。
「自己株式の取得」に関する1)目的、2)手続、3)財源、4)数量、5)保有期間という5つの観点からの従前の制限のうち、1)目的、4)数量、5)保有期間の3つについてその規制が廃止され、会社は原則自由に自己株式を取得し、期間制限なく保有できることとなりました。ただし、2)手続き、3)財源については、以下のとおり引き続き規制があります。
2)
手続き:
会社が自己株式を買受けるためには、一定の場合を除いて、定時株主総会の特別決議(相対取引の場合。なお、公開会社が市場から自己株式を買取る場合には普通決議となります。)が必要となります。その決議内容については、次期の定時株主総会終結の時までに買受ける株式の種類、株数、取得価額の総額等です。
3)
財源:
自己株式の取得財源は、「配当可能利益」の範囲内となっております。「配当可能利益」とは、一定の場合(開業準備費、開発費及び試験研究費が計上されている場合)を除き、貸借対照表上の純資産額から資本金、資本準備金及び利益準備金(その決算期に積立てることを要するものを含む)の合計額を控除したものとなります。また、今回の改正で、合わせて法定準備金の積立限度に関する規制も緩和されたことにより、資本金の4分の1を超える法定準備金(資本準備金・利益準備金)を取崩し、自己株式の取得財源に加えることが可能となりました。
一方、「金庫株」として自己株式を売却した株主に対しては、その売却価額が当該株式に対応する資本等の金額(資本金+資本積立金)を超える部分の金額について「みなし配当」として課税されることとなりました。あわせて、その対応する資本等の金額が当該株式の取得価額を超える場合には、その差額を譲渡益として譲渡所得税等(税率20.315%)が課税され、また満たない場合においては、譲渡損として他の所得と通算(個人の場合には、有価証券の譲渡益とのみ通算可能)されます。
売却した株主が個人の場合、「みなし配当」は配当所得に該当し、所得税等の総合課税として最高税率が48.6%(所得税45%-配当控除5%+住民税10%-配当控除1.4%)となることから、所得金額が大きくなると第三者に譲渡し換金する場合と比べて課税上不利になります。
また、売却した株主が会社である場合には、「みなし配当」について「受取配当等の益金不算入制度」を適用することにより課税所得が軽減され、第三者に譲渡し換金する場合と比べて課税上有利となります。
なお、平成16年税制改正において、平成16年4月1日以降に相続が発生して、相続人が相続財産に係る非上場株式を発行会社に譲渡した場合は、
一方、「金庫株」として自己株式を売却した株主に対しては、その売却価額が当該株式に対応する資本等の金額(資本金+資本積立金)を超える部分の金額について「みなし配当」として課税されることとなりました。あわせて、その対応する資本等の金額が当該株式の取得価額を超える場合には、その差額を譲渡益として譲渡所得税等(税率20.315%)が課税され、また満たない場合においては、譲渡損として他の所得と通算(個人の場合には、有価証券の譲渡益とのみ通算可能)されます。
売却した株主が個人の場合、「みなし配当」は配当所得に該当し、所得税等の総合課税として最高税率が48.6%(所得税45%-配当控除5%+住民税10%-配当控除1.4%)となることから、所得金額が大きくなると第三者に譲渡し換金する場合と比べて課税上不利になります。
また、売却した株主が会社である場合には、「みなし配当」について「受取配当等の益金不算入制度」を適用することにより課税所得が軽減され、第三者に譲渡し換金する場合と比べて課税上有利となります。
なお、平成16年税制改正において、平成16年4月1日以降に相続が発生して、相続人が相続財産に係る非上場株式を発行会社に譲渡した場合は、
・
みなし配当課税は行わず、譲渡所得として扱う。
という特例が創設されました(詳細は納税対策で詳述)。
(b)
金庫株制度の活用方法
「金庫株制度」は、以下の2つの側面から事業承継対策に活用できます。
1)
株価引き下げ対策
会社が自己株式を取得した場合に、その購入価額が当該株式に対応する資本等の金額を超える場合には、その超える部分の金額について利益積立金を減少させる処理を行いますので、1株あたりの純資産価額を引き下げる効果があります。ただし、当事者間の売買価額の決定の仕方によって課税上の問題が発生するおそれがあるので慎重に行わなければなりません。
2)
株主対策
・
同族企業などにおいて、株主の中にオーナーの意向に反対する株主が存在する場合に、その反対する株主から「金庫株制度」を利用して自己株式の買取を行うことによりオーナーの支配力強化を図るケース
・
後継者以外の株主から「金庫株制度」を利用して自己株式の買取を行い、後継者の持株比率向上を図るケース
・
多数の株主に分散している株式を「金庫株制度」を利用して整理しようというケース
・
「金庫株制度」を利用して社員持株会、役員持株会等の解消を図るケース
・
「金庫株制度」を利用して名義株等の整理をしようとするケース
・
企業買収やM&A、株式交換などの準備のため「金庫株制度」を利用して自己株式を取得するケース
(2)
会社支配権維持を考慮に入れた同族関係者外への移転
(イ)
議決権制限株式の新株発行で、第三者割当増資を行う。
(a)
対策の内容
1)
議決権制限株式
平成14年の商法以降、優先株ではない普通株式についても議決権制限株式の発行が認められました。
なお、会社法上の公開会社においては、議決権制限株式の総数は、発行済株式総数の2分の1を超えることができないと規定されています(会社法115条)。
なお、会社法上の公開会社においては、議決権制限株式の総数は、発行済株式総数の2分の1を超えることができないと規定されています(会社法115条)。
2)
手法
イ.
発行済株式総数の2分の1以下の範囲内で議決権制限株式の第三者割当増資を行います。
ロ.
引受者は、従業員持株会、取引先等の同族関係者以外で配当還元価額で引受けられる者を対象とします。
(b)
具体例
1)
前提条件
資本金
1,000万円
発行済株式総数
2万株
原則的評価方法により1株当りの評価額
1万円
配当還元価額による1株当りの評価額
500円
2)
発行済株式総数の50%相当の1万株の第三者割当も実行します。
新株発行額 500万円(=500円×1万株)
3)
割当後の1株当りの価額
4)
対策の効果
5)
留意点
割当先について、同族関係者等の場合、原則評価が適用される場合もありますので、配当還元適用の要件を検討する必要があります。
(ロ)
従業員持株会へ譲渡
(a)
対策の内容
1)
設立のメリット
節税効果の他、下記のメリットがあります。
2)
手法
イ.
従業員持株会を活用して自社株を持株会へ譲渡します。
ロ.
税務上妥当な譲渡価額
従業員持株会は同族株主以外に該当するため、配当還元価額により譲渡、第三者割当をしても課税上問題はありません。
(b)
具体例
1)
前提条件
資本金 1,000万円
発行済株式総数 2万株
オーナー株主の持株数 2万株
配当還元方式による1株当たりの評価額 500円
発行済株式総数 2万株
オーナー株主の持株数 2万株
配当還元方式による1株当たりの評価額 500円
2)
オーナー所有株式の持株会への放出の場合
オーナー所有株式の30%を持株会へ放出するものとします。
(ハ)
財団法人を設立して株式を寄付する
公益財団法人へ自社株を寄付した場合には、一定の要件を満たすと、寄付をした個人及び寄付を受けた法人ともに、非課税となります。
また、寄付をする自社株を議決権制限株式とすることにより、自社の支配権を維持しつづけることが可能となります。
また、寄付をする自社株を議決権制限株式とすることにより、自社の支配権を維持しつづけることが可能となります。